第1章 できる人こそゲームを楽しんでいる
ここでのキーワードは「シリアス・ゲーム」(serious game)。
ゲームといえば、もともとエンターテインメントが主たる目的なわけですが、ゲームのいい側面に注目して、エンターテインメント以外、つまり、教育やビジネスを目的として作られたゲームのことを「シリアス・ゲーム」といいます。
もともとエンタメだったものを、エンタメでない「真剣」(シリアス)な目的のために作ったゲームということです。
第1章まとめ
・ゲームをすることで、短期記憶の役割を果たす海馬の灰白質が増大したり、ワーキングメモリーを支える前頭葉(背外側前頭前野)が拡大、活性化するなど...続きを読む 、脳自体が変化します。
・ゲームをすることで手先などの筋肉を動かす小脳も拡大し、活性化します。
・「ゲームの悪影響」を実証する研究は、主に「ゲーム依存症」と言っていいほどゲームをやりすぎてしまった場合に限定されています。
・今、急速に広がっているシリアス・ゲームは、ゲーム自体で授業や仕事の目的を達成しようとするもの。授業や仕事にゲームのエッセンスを取り入れるゲーミフィケーションとは異なります。
第2章 もはや科学の常識! ゲームで頭が良くなる
第2章まとめ
・シューティングゲームやアクションゲームは、空間認識能力と注意力を高めてくれます。
・ゲームをやることで、ワーキングメモリーや短期記憶の能力も上がります。
・空間認識能力やワーキングメモリー、短期記憶を良くすることは、理系の力を伸ばすことに直結します。
・ゲームプレーヤーは、マルチタスク時のタスク切り替えコストが格段に短いという研究結果があります。
・歳をとってからゲームをプレーしても、空間認識能力のアップや、ワーキングメモリー、短期記憶の向上、マルチタスク能力の向上が期待できます。
・RPG、パズルゲームや「三國志」などのストラテジーゲームで、問題解決能力がアップします。
・ ゲームをプレーすると、「固定マインドセット」から抜け出すことができ、より私たちが持つべきである「成長マインドセット」を身につけることができます。
・マインクラフトなどのサンドボックスゲームやパズルゲームで、クリエイティビティを高めることができます。
第3章 ゲームが犯罪者を生む?都市伝説を科学が論破
第3章まとめ
・ゲームが暴力の原因になるという仮説に対する、信頼性の高いエビデンスはありません。少なくとも、「ゲームが暴力の原因だ!」、あるいは「ゲームと暴力は全く関係ない!」といえるほど、ゲームと暴力の関係は単純ではありません。
・ゲームは、やりすぎてしまうと成績に悪影響が出てしまうものの、適度にやる分には影響はありません。むしろ、成績アップにつながる可能性も報告されています。
・うつや不安などのメンタル要因や、家庭内暴力などの環境要因を取り除くと、 ゲームと集中力の相関に有意な差は認められません。
第4章 ゲームにハマりすぎる人の特徴って?
第4章まとめ
・20分ほどバズルゲームをやるだけで、気分がポジティブになったり、リラックスした状態になることが確認されています。
・ゲームには、自分のメンタルだけでなく、周りとの関係性も改善する効果があります。
・ゲームの中でのつながりは、リアルでの人間関係や社交性にもいい影響をもたらします。
・ゲームを適度にやっている人(A)、やりすぎている人(B)、全くやらない人 (C)に分けた場合、メンタルやパフォーマンス、人間関係について調査すると、Aが最も良好、次いでB、Cとなりました。
・私たちが強くゲームに惹きつけられる理由は、ゲームが心の根本的な欲求である「つながり」「できる感」「自分から感」を満たしてくれるから。
・ゲーム依存症になりやすい人の特徴は、孤独を感じていること、自己肯定感が低いこと、成績が低いこと。
第5章 こうやって付き合うべき!科学的ゲームの攻略法
0歳~5歳は要注意
目安としての「1日2時間まで」ですが、さらに例外があります。それは小さな子どものゲーム時間に関するものです。
「我々の子どもが家でテクノロジーを使う時間は制限しています」
Appleの共同創業者であるスティーブ・ジョブズが、2010年の New York Times のインタビューの中で、そう答えたのはなかなか有名な話です。
そしてやはり、これまでの研究でも、ゲームを含めたデジタル機器の影響に関して、特に0~5歳の子どもたちの場合は注意しなくてはいけないということが明らかにされてきました。
たとえば、アメリカの小児科学会のガイドラインによれば、2歳未満の子どもたちには、タブレットやゲームなどのスクリーンの使用は極力限定すべきで、使用する場合でも、テレビ電話や大人が一緒に見るなどに限るべきとしています。
また、2~5歳でも1日あたりのスクリーンの使用は1時間以下に抑えて、なるべくインタラクティブなゲームなどを選んで、大人と一緒に見たりやったりするようにと推奨されています。
こうしたガイドラインは、最近になって普及し始めましたが、子ども向けのスクリーン時間のガイドラインが登場するよりもだいぶ前に、「子どもの早期教育にいい!」という触れ込みで、有名なキャラクターの幼児向けテレビ教材が売り出されていたことがありました。
ところが、このテレビ教材を子どもに見せ続けることによって、子どもの認知能力は上がるどころか、大幅に下がってしまったのでした。
それもそのはずで、子どもたちには平面の画像を立体空間に解釈する能力が備わっておらず、平面のTV画面を見ても、大人に想定できるようなレベルで子どもの学びを促すことができないからです。
たとえば、大人であれば、テレビの画面に出てきた影の色のついた丸い図形を見て、「これは球体を表している」とわかります。それはこれまでの学習で、2次元の図形を3次元の立体に解釈するスキルを身につけてきたからです。
ところが小さな子どもは、まだその認知スキルを身につけていません。そうした認知スキルはまさに、おもちゃで遊んだりして、五感で3次元の世界を体験することで身についていくものです。
だから、テレビやゲームばかりで子どもをスクリーン漬けにしてしまうと、必要な認知スキルを身につける体験を十分に与えることができなくなってしまうのです。
言葉の習得についても、学ぶべき言葉がスクリーンやスピーカーから、ただ聞こえていればいいわけではありません。テレビやタブレットから流れる音声よりも、親や子どもをサポートしている人が目を見ながら話しかけたほうが、子どもの記憶に残りやすく、言語スキルの習得に効果が高いこともわかってきています。
そうしたエビデンスをもとに、やむを得ず小さな子どもにスクリーンを見せるときは、大人と一緒にインタラクティブな形をとるべきだと先ほどのガイドラインなどで推奨されています。
小さな子どもの場合にはスクリーンは極力避けて、小学校に入るくらいまでは大人と一緒にやるようにするなど、制限をかけるようにしましょう。
だから、「ゲーム禁止」の声かけだけではなく、「生活バランス」の声かけに変えていく必要があるのです。
たとえば、
「ゲームばっかりやっていると運動できないから、外に遊びに行こう」
「ゲームもいいけど、やりすぎるとバランスが悪いから、違うことをやろう。何をやろうかな?」
など、子どもがやるべきことや、できそうなことを提案したり、何をするとバランスのいい生活になるのかを子どもと一緒に考えていくことが大切です。
ゲームの代わりの見つけ方
それではゲームの代わりにどんなことをしたらいいのか?
「ゲーム禁止」がダメな理由の2つ目は、この問いに深く関係しています。
「ゲーム禁止」のアプローチがダメな2つ目の理由は、ズバリ、ゲームが私たちの心の3大欲求を満たしてくれるからです。
前述したように、ゲームは「つながり」「できる感」「自分から感」をたっぷりと満たしてくれます。
それだけに、私たちの心の3大欲求は、ゲームに向いてしまっており、シンプルに 「ゲームはダメ」と言ったり、自分自身で潔くやめようとしても、それだけではなかなかゲームから目を逸らすのは難しいのです。 そ
さらに、ゲームを無理やりなくしてしまえば、それまでゲームをやることで満たされていた心の3大欲求を満たすことができなくなってしまいかねず、心にぽっかり穴が空いてしまうかもしれません。
日常の中で満たすことができない心の3大欲求を、唯一ゲームが満たしてくれている状態だとしたら、そのゲームを突然やめてしまったり、取り上げてしまえば、心のリスクにさらされてしまう危険性だってあるのです。
それでは、どうしたら良いのか? ゲーム時間を減らそうとするときに、考えるべき重要なことは、ゲームの代わりに、心の3大欲求を満たしてくれるような活動を、 新たに自分の生活のリズムに足していくこと。
「つながり」「できる感」「自分から感」をなるべく多く、深く満たせるような活動とゲームの時間を入れ替えていくのが大切です。
どんな活動がいいかは十人十色ですが、いくつか代表的な例を挙げておきましょう。
第5章まとめ
・ゲームプレーは1日平均1時間~2時間くらいまでがベスト。
・ゲーム時間をいきなり大幅に減らそうとしたり、禁止したりするのは逆効果。
・ゲームの代わりに何をやるかについて、考えたり話し合ったりしなければなりません。
・ゲームの時間を減らそうとするときは、ゲームの代わりに心の3大欲求を満たしてくれるような活動を、新たに自分の生活のリズムに足していくことが大事。
・ゲーム時間を科学的に減らすポイント: ①2週間で15分ずつ減らす ②心の3 大欲求を満たす代替物を加える ③トリガーを考える ④スケジュールに組み込む。
・リアルの友達と「コラボ型」のゲームをやることで、暴力的な感情が抑えられ、周りと共感したり、信頼し合ったり、初めて会った人とでもポジティブなやり取りができるようになったりします。
・対戦ゲームによる「フロー体験」で、ストレスが解消できます。
第6章 「ゲームは遊び」は古すぎる! シリアス・ゲームが世界を変える
自己決定理論によれば、私たちのやる気、モチベーションには大きく分けて2種類があります。「内発的モチベーション」と「外発的モチベーション」の区別です。
まず、「内発的モチベーション」を持っているとは、何かをやること、それ自体に動機づけられている状態のことです。
たとえば、ギフトの中に入っている「ブチブチ」(緩衝材)。一つひとつのブチブチを潰したい。そのことで、何かもらえたり、やらないと何か悪いことが起きるわけでもない。でも、ブチブチを潰すとなんだかそれ自体で満足してしまう。それを求めてプチプチを潰すことに動機づけられている。
そうであれば、ブチブチ潰しは、内発的なモチベーションになっているわけです。
それに対して、「外発的モチベーション」は、何かをやること自体に動機づけられているのではなく、それをやることによって得られるお金や地位、その他の報酬や、それをやることによって避けられる罰則などによる動機づけのことです。
たとえば、部屋の掃除は絶対やりたくないけれども、やらないと叱られるからやる。これは、掃除をやらないことによって発生する「叱られる」という罰が怖くてやっているので、外発的モチベーションに動機づけられているということになります。
つまり、内発的モチベーションは報酬や罰がなくても「やりたいからやる」。外発的モチベーションは「ご褒美目当て」や「罰逃れ」の動機づけのイメージです。
そして、内発的モチベーションと外発的モチベーションの2種類のやる気には、超重要な事実が2つあります。
まず第1の事実は、外発的モチベーションは内発的モチベーションを壊してしまうということです。
以下のような場面を想像してみてください。
9歳で4年生のけんとくん。この前買ってもらったノートパソコンで、タイピングの練習ゲームをして遊んでいます。タイピングは始めたばかりで、楽しくて楽しくて、それだけをいくらでもやってしまう。
この場合、タイピング・ゲームをやること自体に動機づけられているので、けんとくんは内発的に動機づけられているといえます。
さて、ここで少し変化球を加えていきます。
「次のタイピング・ステージをクリアできたら、100円あげるよ」
つまり、けんとくんが内発的なやる気を持っているところに、あえて「お小遣い」という外発的報酬を与えるのです。
すると、けんとくんは、お小遣いがもらえないとタイピング・ゲームをやらなくなってしまう。
これは、けんとくんがもともと持っていたタイピング・ゲームへの内発的なやる気が、お小遣いの報酬による動機づけに乗っ取られてしまったことを意味しています。
一度そうなると、こんどは外発的モチベーションのお小遣いをもらわないと、 ピングをやる気にならなくなってしまうのです。
これが、外発的モチベーションが、内発的モチベーションを根絶やしにしてしまう仕組みです。
この現象は20世紀末に発見され、自己決定理論という心理学理論のブームのきっかけとなりました。
厄介なやる気と持つべきやる気
なるほど、外発的な報酬が内発的なやる気を打ち消してしまう。それはわかったが、それでは何か都合が悪いのか?
かえって、外発的な報酬を得ることで、やる気が上がったり、ポジティブな気分になり、自分を肯定する気持ちが高まるのではないか?
ボーナスや役職が上がるとわかっていれば、仕事のやる気も上がるもの。目指している大学への入学という目標があるからこそ、きつい勉強も頑張れる。
仕事でも勉強でも、結果に追われながら世知辛い毎日を過ごす私たちにとっては、 外発的報酬にさらされながら、モチベーションが上下するのは避けがたい現実!
そう、こうした指摘は実に的を射ています。しかし、だからこそ要注意なのです。
なぜならば、外発的な報酬に基づく自己肯定感は短期的に強いものの、長期的に依存していると、心にも体にも、悪影響を及ぼします。これが157ページで述べた、 もう1つの超重要な事実です。
たとえば、お金による経済的な動機づけを求め続ける人は、総合的な自己肯定感が低くネガティブ思考に陥りがちで、うつや不安を抱えやすい。
ステータスや見た目の良さなどを求める場合も同様。精神面以外にも頭痛や肩こりなどの身体的健康にも影響が出たり、友人、恋愛、家族など、人間関係にも問題がでてくることが報告されています。
ことに高校生や大学生では、外発的報酬を求め続けることで、タバコや酒、ドラッグなどに依存してしまうリスクが高まるので要注意です。
つまり、外発的な報酬で気分が良くなり、一時的にやる気が上がったように見えても、それでよしとしてはいけないわけです。
ですから、私たちが持つべきやる気は、外発的な報酬からではなく、内発的なやる気なのです。
ゲームが世界を変える理由
しかし、これは非常に厄介です。内発的なやる気を維持したくても、この世の中は外発的な動機づけに溢れています。
ステータス、給与、学歴、知名度。学びや仕事での実際のやりがいや達成感のその先にある、報酬や数値目標による動機づけがこの世の中には溢れかえっています。そうした仕組みなしには社会が回ってはいきません。
それでは、その現実を受け止めた上で、私たちが内発的なやる気を維持するためにはどうしたら良いのか? その鍵となるのが前述の心の3大欲求です。
「つながり」(関係性)、「できる感」(有能感)、「自分から感」(自律性)を感じている状態だと、私たちは心の健全を保つことができる。また、そうやって心が満たされるような事柄に対して私たちは内発的に動機づけられるのです(第4章「DNAがゲームを求めている」55ページ)。
つまり、「つながり」「できる感」「自分から感」を満たせるような活動をすることが私たちの内発的やる気を維持することにつながり、継続的なモチベーションにつながるのです。
ここにきて重要なのがゲームです。何度も書いてきたように、ゲームは心の3大欲求を満たすのに非常に優れています。つまり、内発的やる気を掻き立てて、サポートしてくれるのです。
ゲームで目的を達成したり、難しいステージをクリアすることで「できる感」が掻き立てられ、自分から進んでやるので「自分から感」も得られ、さらに、コラボ型やネットゲームでは他の人たちとの「つながり」も感じることができます。
ゲームのそうした内発的なモチベーションをサポートする効用こそが、外発的モチベーションに偏った現代社会に必要とされているのです。
現代の経済、社会システムは、より明確化された数値目標を立てて、それに見合った報酬を与えることで、急速な成長を遂げてきました。
私たち人間の社会的営みに、数値化や報酬を与えることで外発的な動機づけを付与するプロセス。その意味で、現代社会の発展はモチベーションの外発化の歴史でもあったわけです。
しかし、そうした外発化の傾きは、私たちの心を疲弊させてしまいます。まさに前述のような外発的モチベーションの厄介な性質が顕わになってしまったのです。
実際、老若男女にわたり、メンタルヘルスは全ての先進国で深刻なグローバル問題になってきています。
モチベーションの外発化の行きすぎた社会で、私たちの内発性に立ち返って、社会のシステムを改善していくことはできないか?
テスト、偏差値、学歴で外発化された教育プロセスに、楽しくて子どもたちがやりたくなるような学習の仕方を導入できないか?
数値目標に追われて心をすり減らす仕事場ではなくて、従業員みんなが内発的なや気を燃やせる職場を作りたい!
心の3大欲求を満たすことで、すり減った心を医療的にサポートする新しい方法は?
教育、ビジネス、医療など、さまざまな分野で、内発的なモチベーションを取り戻す。私たちが持つべきやる気を取り戻すための社会変革への叫びが、急速に広がりつつあるゲームの応用の背景にあるのだと私は考えます。
それだけに、ゲームの良さとリスクをしっかりと理解して、ゲームとうまく付き合っていくことが、これから私たちが持つべき生き抜く力となるのです。
第6章まとめ
・現在私は、マインクラフトのメタバース空間を用いて、教育と医療を融合させるプロジェクトをすすめています。
・ゲームやソフトウェアをベースにした治療法を「デジタルセラピューティクス」(DTX)と呼びます。2025年1月の時点で、20のDT×がFDAに認可されています。
・今後、Deep Well の技術を用いて、面白さも医療効果も両方兼ね備えたゲームの治療薬が急速に広がっていくことが期待されます。
・シリアス・ゲームで学習すると、通常の授業や講義よりも、学習効果が高く、 記憶の定着にも効果を発揮することがわかっています。
・消費者がゲームをプレーすることで、商品のブランドイメージを高めたり、販促効果が生まれることを狙う「アドバーゲーム」が広がりを見せています。
・モチベーションには、行動自体に動機づけられている「内発的モチベーション」と、行動を行うことで得られる報酬などに動機づけられている「外発的モチベーション」があります。外発的モチベーションは内発的モチベーションを壊してしまいます。
・外発的モチベーションは短期的には強いが長続きせず、無理して長期間さらされていると、心や体のリスクがアップします。
・ゲームの内発的なモチベーションをサポートする効用こそが、外発的モチベーションに偏った現代社会に必要とされています。