清水由貴子の一覧
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ユーザーレビュー
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本作は、ストックホルム警察のエーヴェルト・グレーンス警部が活躍するシリーズで、凄腕の潜入捜査員のピート・ホフマンが登場するようになって「ダブル主人公」というような感じになってから3作目ということになる。
エーヴェルト・グレーンス警部は現役最年長の捜査員という感じで活動している。短気で怒りっぽく頑固で
...続きを読む、押しが強く、執念深く事件を追う、やや付き合い悪い感じの男だ。他方で、妻が事故で動けず、話すことも出来ない状態になって長く施設に収容されていて、その妻を喪ったという経過の在る孤独を抱えているような男でもある。或いは、私生活での孤独の他方に、職務に精励することだけを生き甲斐にしていたような面も在る。こういう設定は、シリーズ各作品で示唆されている。本作でも、早朝の自由な時間に、他界した妻が居た施設が見える辺りに座って、想い巡らせながら過ごしているという冒頭辺りの場面の描写で、設定が示唆されていたと思う。
物語はそのグレーンス警部が連絡を受けたという辺りから起こる。
グレーンス警部が受けた連絡は奇妙な内容だった。大きな病院の遺体安置所で、全く記録の無い遺体が紛れ込み、記録に在る遺体の数よりも1体増えてしまっているという話しだった。遺体安置所の担当者からの通報で調べることになったので、現場に向かって欲しいという連絡を、グレーンス警部は首を傾げながら聴き、現場へ向かうことにした。少し長く警部の補佐役を務めるスヴェン・スンドクヴィスト、やや若い優秀な女性捜査員のマリアナ・ヘルマンソンを伴い、グレーンス警部は現場での捜査に着手する。
真面目で熱心に仕事に取組んでいるという風な、遺体安置所の担当者が言うように、正体不明な遺体が1体紛れ込んでいるという不思議な状況を目の当たりにしたグレーンス警部は、問題の遺体を法医学者の所に運んで検分した。窒息死と見受けられる遺体は、西アフリカ、または内陸部の中央アフリカの出である人種的な特徴が見受けられるということだが、身元を知るための手掛かりは皆無である。
そうしている間に、遺体安置所に更に別な把握していない遺体が紛れ込んでいるという通報が入る。運び込まれた可能性の在る経路を徹底的に探ると、とんでもないモノに行き当たった。港のコンテナの中に夥しい数の遺体が在ったのだった。警察に通報をした遺体安置所、他の遺体安置所でも発見された遺体と合わせると、総数で73体にも上りグレーンス警部達は衝撃を受ける。コンテナに大勢が押し込められていて、呼吸が出来ずに中に居た人達が亡くなったと見受けられる状況である。
アフリカ諸国等から欧州諸国を目指してやって来る人達の問題が在るのだが、金を取って渡航をさせるとでもして、コンテナに限度を超える程度の人数を押し込んで、多数が生命を落すという状態が生じている。グレーンス警部はストックホルムでこのコンテナを迎え入れるということになっていた関係者が必ず在る筈で、それを逮捕しなければならないと強く思った。そうしていれば携帯電話の着信音が聞こえた。発見された遺体の中から、着衣の裏に縫い付けるように、生前に死者が所持していたらしい携帯電話が見付かった。見付かった携帯電話を鑑識で確り調べてみた。そうすると、意外な人物の痕跡が見付かったのだった。
Posted by ブクログ
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スウェーデンの小説の翻訳だが、夢中になった。
上巻は、大量の死者が発生していた件を巡り、グレーンス警部が事件関係者を何としても逮捕すると熱いモノを滾らせ、手段を択ばないと、あのピート・ホフマンに協力を依頼するというようなことになる。
下巻は、ホフマンの活躍でもたらされた情報、スヴェンとヘルマンソンの
...続きを読む調査と分析とで“敵”の様子が見え、緊迫した「戦い」が展開する。そしてグレーンス警部は意外な黒幕に辿り着き、対峙して行くことになる。
執念深く、強い押し出しで関係者に切込むグレーンス警部は、本作では事案に携わる人達と心を開き合うというような場面が在る。そして仕事一筋の老刑事が、「許せん!」と熱いモノを滾らせる、人々の安寧と生命、その生命の尊厳を護るという警察官の矜持を胸に奮戦する様子が実に好い。
色々と経緯が在って、グレーンス警部に協力して闘うことになったピート・ホフマンは今作でも好い感じだ。クールで、何処までも計算して動いているのだが、少し見当がズレても動じずに思惑を遂げてしまう。悪漢達を向こうに回しての大奮戦だが、ストックホルムに残している妻や未だ幼い息子達への思いも熱い。今作では、グレーンス警部がこのホフマンの妻子達と関わることにもなる。
現実にスウェーデンを含む欧州諸国で問題になっている事柄を織り込みながら、劇中人物達の物語が展開するというのが、このグレーンス警部のシリーズの面白さだと思う。今般も何か凄く夢中で作品を読んだ。
Posted by ブクログ
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グレーンス警部シリーズはついに終章を迎えつつあるのだろうか? そんな心配が胸を駆け巡る。それほど、しっかりと主人公の現在の日々、そして彼が過去に残した禍根から響いてくる痛みが、のっけから描かれてゆくからだ。亡き妻と、彼女が胎内に抱きかかえていた生まれなかった娘。グレーンス警部が毎夜、警察署の個室の
...続きを読むコーデュロイのソファの上に身を横たえながら心に彷徨わせる孤独。帰って来ない家族への想い。
本書では、傷つけられる子供たちというテーマが描かれる。聞いたこともないほど残酷な性被害を受ける、少年少女たちの存在が浮き彫りにされる。子供たちを犠牲にして自らの歓びや商売に結びつける鬼畜の如き親たち。彼らを結びつける悪魔のネットワークの存在。グレーンスが亡き妻の墓参りの後で出会ったのは、行方不明のままの娘のための空っぽの墓に花を捧げる女性だった。
そしてその出会いにシンクロするかのように、行方不明の娘を三年間待ったという夫婦が、娘の捜索を諦め、その死を認め葬儀を行うことになったという報道を、グレーンス警部は耳にした。何故? 何故? 何故? グレーンスの頭の中で鳴り響く疑問が、その行方不明の娘の葬儀に、執拗に待ったをかける。行方不明の娘の双子の少年もまた、グレーンスに、彼女は生きていると思うと告げる。双子特有の直感のようなもの?
この物語の導入部は、警察が認めてしまう捜査終了に抗い、個の力で子供たちを性の奴隷として商品化する悪のネットワークを暴こうと決意するグレーンスのある意味、心の物語だ。相変わらずテーマは重く、そして世界レベルでもある。
もう金輪際潜入捜査はやらないはずのピート・ホフマンは、またもグレーンスの訪問を受ける。否、ピート個人ではなく、ホフマン一家がである。敢えて家族をも巻き込んでのグレーンスの説得に、ピートは暴力の形で激しい怒りをぶつけるが、何と妻がピートを説き伏せる。許し難い犯罪ネットワークをぶっ潰すよう要請するグレーンスのためではなく、失踪した娘とその母たちのために。
前半は、この状況の構築だけで、ぐいぐい読まされる。後半は、お馴染みのダブル主人公のうち、ピートの潜入シーンが例によって核心部となるが、彼自体の命も脅かされるほどの敵方の慎重さと疑い深さに、我らが主人公は、シリーズ最大の危機を迎える。
いつも思うのは、この作者の現代的なテーマの確かさと重さ、そして構図のしたたかさである。本書も、スピード感のある描写と共に、心の揺らぎや、状況の不安定感が全編を包むことで、全編、絶え間ない緊張が走り続けるものである。読者側の感情に訴えかけてくる人間性という救いが作品の中に見え隠れしなければ、あまりに過酷な物語として生理的にも受け付けられないテーマですらある。
それでもグレーンス警部に関わる深い人間描写と、ピート・ホフマンという人間の運命性とを梃子のように使い分け、作品全体に強烈な力学を加えてゆくその小説作法は、いつもどの作品でも極めて素晴らしい上に、現代的な情報小説の側面も持ち、なおかつ時代と世界への警鐘を忘れない骨太の作品ともなっている。それがこのシリーズのいつもながらの特徴なのである。
構成はこの上なく素晴らしく、プロローグで偶然に出会う忘れ難き名無しの女性との出会いのシーンが、ラストシーンに置いてグレーンス警部の心の中の状況として奇妙な響きを持つようなエンディングとなってゆく。一種不思議な感覚で終わるこのラストシーンもまた、この手練の作家の持つ魅力なのだ、と言って良い気がする。
一気読み必須の語り口と、作者の健在ぶりを間近に見てしまうと、この先のグレーンス警部やピート・ホフマンとの再会がますます楽しみになる。そんな興奮冷めやらぬ読後を、ぼくはいま、多少の微熱とともに持て余しているのだと思う。
Posted by ブクログ
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グレーンス警部シリーズはついに終章を迎えつつあるのだろうか? そんな心配が胸を駆け巡る。それほど、しっかりと主人公の現在の日々、そして彼が過去に残した禍根から響いてくる痛みが、のっけから描かれてゆくからだ。亡き妻と、彼女が胎内に抱きかかえていた生まれなかった娘。グレーンス警部が毎夜、警察署の個室の
...続きを読むコーデュロイのソファの上に身を横たえながら心に彷徨わせる孤独。帰って来ない家族への想い。
本書では、傷つけられる子供たちというテーマが描かれる。聞いたこともないほど残酷な性被害を受ける、少年少女たちの存在が浮き彫りにされる。子供たちを犠牲にして自らの歓びや商売に結びつける鬼畜の如き親たち。彼らを結びつける悪魔のネットワークの存在。グレーンスが亡き妻の墓参りの後で出会ったのは、行方不明のままの娘のための空っぽの墓に花を捧げる女性だった。
そしてその出会いにシンクロするかのように、行方不明の娘を三年間待ったという夫婦が、娘の捜索を諦め、その死を認め葬儀を行うことになったという報道を、グレーンス警部は耳にした。何故? 何故? 何故? グレーンスの頭の中で鳴り響く疑問が、その行方不明の娘の葬儀に、執拗に待ったをかける。行方不明の娘の双子の少年もまた、グレーンスに、彼女は生きていると思うと告げる。双子特有の直感のようなもの?
この物語の導入部は、警察が認めてしまう捜査終了に抗い、個の力で子供たちを性の奴隷として商品化する悪のネットワークを暴こうと決意するグレーンスのある意味、心の物語だ。相変わらずテーマは重く、そして世界レベルでもある。
もう金輪際潜入捜査はやらないはずのピート・ホフマンは、またもグレーンスの訪問を受ける。否、ピート個人ではなく、ホフマン一家がである。敢えて家族をも巻き込んでのグレーンスの説得に、ピートは暴力の形で激しい怒りをぶつけるが、何と妻がピートを説き伏せる。許し難い犯罪ネットワークをぶっ潰すよう要請するグレーンスのためではなく、失踪した娘とその母たちのために。
前半は、この状況の構築だけで、ぐいぐい読まされる。後半は、お馴染みのダブル主人公のうち、ピートの潜入シーンが例によって核心部となるが、彼自体の命も脅かされるほどの敵方の慎重さと疑い深さに、我らが主人公は、シリーズ最大の危機を迎える。
いつも思うのは、この作者の現代的なテーマの確かさと重さ、そして構図のしたたかさである。本書も、スピード感のある描写と共に、心の揺らぎや、状況の不安定感が全編を包むことで、全編、絶え間ない緊張が走り続けるものである。読者側の感情に訴えかけてくる人間性という救いが作品の中に見え隠れしなければ、あまりに過酷な物語として生理的にも受け付けられないテーマですらある。
それでもグレーンス警部に関わる深い人間描写と、ピート・ホフマンという人間の運命性とを梃子のように使い分け、作品全体に強烈な力学を加えてゆくその小説作法は、いつもどの作品でも極めて素晴らしい上に、現代的な情報小説の側面も持ち、なおかつ時代と世界への警鐘を忘れない骨太の作品ともなっている。それがこのシリーズのいつもながらの特徴なのである。
構成はこの上なく素晴らしく、プロローグで偶然に出会う忘れ難き名無しの女性との出会いのシーンが、ラストシーンに置いてグレーンス警部の心の中の状況として奇妙な響きを持つようなエンディングとなってゆく。一種不思議な感覚で終わるこのラストシーンもまた、この手練の作家の持つ魅力なのだ、と言って良い気がする。
一気読み必須の語り口と、作者の健在ぶりを間近に見てしまうと、この先のグレーンス警部やピート・ホフマンとの再会がますます楽しみになる。そんな興奮冷めやらぬ読後を、ぼくはいま、多少の微熱とともに持て余しているのだと思う。
Posted by ブクログ
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「何やら面白そう…」という小説に出くわし、以前に愉しんでいたシリーズの最近作であることが判れば「是非!」と手にしてみたくなる。
スウェーデンの小説の翻訳だ。ストックホルム警察のグレーンス警部が活躍するシリーズである。
本作は、個人的な色々な事情を抱えながらも、過ぎる程に熱心に仕事に入り込んでいる頑固
...続きを読むな老警部―本作では60歳代に入っていて、ストックホルム警察本部の最年長グループのようになっている…―のエーヴェルト・グレーンスが事件に向き合うのだが、グレーンスが頼みにしている、現場潜入要員のピート・ホフマンの活躍も痛快だ。物語は大まかに、グレーンスの視点で綴られる部分とホフマンの視点で綴られる部分から成っている。
物語の冒頭、グレーンス警部は墓地に在る。他界した妻の墓参りで、色々と想い巡らせている。
シリーズを通してこの妻の件が出て来る。事故で頭を負傷して、意識が無い状態で長く生きていたが、終に心停止で死亡ということになって埋葬されたという経過だった。
墓地の何時も腰を下ろしているベンチで、グレーンス警部は不思議な女性に出くわした。女性は幼い娘を失ったと言う。娘は駐車場で車から連れ去られ、行方不明となり、3年経った頃に“死亡認定”したのだということだった。墓地には「空の棺桶」を埋葬したのだと語った。
グレーンス警部はこの出来事が引っ掛かり、出くわした女性の娘が行方不明になったという日に、別な4歳の幼い少女がショッピングモールで姿を消して行方不明になったという件が在ることを知った。少女が何処かで存命なら7歳になっている筈だ。
やがてグレーンス警部は3年前の事件を担当している警部補に事情を訪ね、娘が行方不明になったという一家を訪ね、間もなく“死亡認定”をするということ、未だ妹が居ると信じ続ける双子の兄のためにもそうして区切りとしたいとする両親の話しを聴く。それでも探すべきではないかと、グレーンス警部は両親と揉める。
こうした一連の様子の中、グレーンス警部の様子が少しおかしいと感じた警部補は上司の部長に進言し、結果として部長はグレーンス警部に長期休暇取得を厳命した。
暫く休暇の日々を過ごすグレース警部だが、オフィスに忍び込んで、帰らずに眠ってしまうことも多いオフィスのソファ―シリーズでは、深夜や早朝にこのオフィスに据えたソファに在るグレーンス警部という場面が多く在る…―で考え事をしていれば、他部署の知り合いの捜査員から情報が寄せられた。行方不明から“死亡認定”となった幼女の件でグレーンス警部が揉めた経過を知っていた捜査員が寄せたのは、ネット上に出ていた、幼女が身に着けていたという「青い蝶の着いた髪留め」が写った写真だった。これは母親の手作りということで、本人の所持品である可能性が非常に高いと見受けられた。行方不明の少女の足跡とも言える。
こうしてグレース警部は、幼い子どもを弄ぶ、虐待をするというような小児性愛という傾向の者達が在って、色々な国々に在る「同好」の者達のグループが色々と在るということを知る。
やがて「青い蝶の着いた髪留め」が写った写真の出処を辿り、グレーンス警部は隣国デンマークのコペンハーゲン近郊に在る警察署に至る。小児性愛グループの問題に懸命に取組む、IT関係担当の女性捜査員が仕事をしている場所を訪ねたのである。
上巻ではグレーンス警部が事案に出くわし、大変な事件で、許されざる罪を犯している者を逮捕してグループを壊滅させなければならないと挑戦を始める。他方で、永年の疲労や、個人的な悩みを余りにも長く抱えて精神状態が好くないかもしれないと、心配する職場関係者に仕事の現場から遠ざけられてしまっている。それでも動かずには居られない訳だ。
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