スペースXはなぜあれだけ急成長できたのか、その裏で日本は何をしていたのか、これからの日本の発展の鍵になるのは何か、詳細に記されている。特にスペースXについては1章まるまるを割いており、同社が「狂気」と「合理性」によって急成長してきたことがよくわかる。一方で、日本の宇宙計画の中でも大規模な「みちびき」と「情報収集衛星」についてその成立と現在についても解説されている。情報収集衛星については、春原 剛著「誕生国産スパイ衛星」にも詳しいが、「みちびき」について筆者の推測もありながらもここまで日本の闇を詳細に記したものはないのではないだろうか。本書では、宇宙戦略基金についても触れられており、日本の宇宙開発史と最新の情報に触れたい方には非常におすすめである。
以下、気になった箇所
・通常、失敗が容易にできないロケット開発では一度出来上がった部分は変えないように開発するが、スペースXは「失敗」を許容しタブーとされている「改良」を高速で繰り返すことで技術成長している
・同社の現在までの開発は「火星に人類を移民する」というイーロンマスクの狂気が源泉であり、全ての事業はその布石でしかない。そのための判断を合理的にし続けている。
・スターリンクは自社で作ったロケットの需要を満たすために生み出した事業であり、自社のロケットに最適化した衛星を作ることで大幅にコストダウンするという垂直統合開発の強みを最大限に活かしている。
・スターリングは地上からのコマンドがなくとも一定の軌道を維持する機能を持つ。また宇宙ゴミとの交差が予見される場合、自らが軌道変更をする。この辺、詳しく調べてみたい。
・日本が技術開発に偏った宇宙開発をしていたのは、スーパー301条により自動車業界を守るために非研究衛星の国際調達を米国と合意したから。科技庁はこれに抵触しないように気を遣って技術職を押し出した開発をせざるを得なかった。つまり政治の判断である。
・測位衛星を配備する場合、世界システムとするか地域システムとするかで配備する軌道と機数が異なる。地域システムであるNavICなどは静止衛星と対地同期衛星の組み合わせで常に3機以上の衛星が見えるように配備する。しかし準天頂軌道は基本的には日本だけをカバーし、オセアニア等も見ることもできる程度。測位衛星は衛星も大型で非常にコストがかかるにも関わらず、地域衛星を組むのに最適ではない軌道で配備されている。
・これは経産省が日本の宇宙政策で存在感を出すための省庁間の争いの道具にされた結果生まれたシステムだから。なんなら準天頂衛星は当初は通信衛星として開発されていた。それがコスパが悪いため、「測位衛星としても使える」ということで途中でその役割が変わっている。システムとして最適かどうか二の次の構成の代物だが、非常に大きな予算がついている。
・情報収集衛星は目的に「外交・防衛等の安全保障及び大規模災害等への対応等」と記されているにも関わらず災害対策はおざなりである。2024年1月1日能登半島地震の衛星撮像データが公開されたのは1月11日であった。大規模災害では衛星データを役立てるにはどんなに遅くても24時間以内に公開する必要がある。自分もこれはいつ公開するんだろうと思っていたが、いつまで経っても公開されないので呆れた記憶がある。技術開発においてあまり税金がとは言いたくないが、開発の目的にあった運用を行っているかどうかは国民として厳しくチェックしないといけないと感じた。