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かみそりの刃
モーム晩年の70歳の作。1944年、米国滞在中に書かれ、第二次大戦中だったため、主人公ラリーの生き方に共感した米国の青年たちに歓迎され、熱狂的に読まれた。物語はモームによって語られる。モームはたまたま立ち寄ったアメリカで旧友エリオットから、姪のイザベルと彼女の婚約者ラリーを紹介される。ラリーは第一次大戦で親友を失い、途方にくれ、道を求めてヨーロッパを放浪する。当然ながら婚約者イザベルはついてゆけず別の男に嫁した。ラリーはさまざまな体験を経て、最後にはインドで自分の人生の目的を悟る。この本筋のなかに、エリオット、シュザンヌ、ソフィらを巡る数々の物語が組み込まれ、全体は周到なエンターテイメントになっている。 -
マーティン・チャズルウィット
恐ろしいほどの利己心がチャズルウィット一家の特徴である。マーティン老は、周囲の人間はみな自分の財産を狙っていると疑う。信頼するのは孤児メアリーだけだ。だが孫のマーティンは、メアリーと密かに婚約し、老人に追い出される。孫も自己中心的で、縁戚にあたる建築家のペックスニフの元に身を寄せる。このペックスニフは徹底した偽善者だった。マーティンを迎えたのも、むろん欲得ずくだ。彼の仕事も、かつての生徒で彼を師と仰ぐトムに任せていた。ある日ペックスニフと2人の娘は、マーティン老から、孫が勝手に婚約したので追い出したと聞きショックを受けるが、老人の希望どおり、青年を体よく追い出す。宿無しとなったマーティンは、アメリカで一旗揚げようと考える。メアリーと最後の逢瀬を楽しんだあと、マーティンはアメリカに向かう。イギリスでは、マーティン老の弟のアンソニーが急死する。アンソニーも利己主義者だったが、その息子ジョーナスも同様で、父親の居場所は棺の中が最適だと考えるような人間だった。葬式の後、ジョーナスは打算からペックスニフの次女マージーと結婚し、濡れ手で粟の詐偽商売に肩入れしはじめる。ペックスニフにはマーティン老の衰えがわかった。彼は遺産を確実に手に入れようと、メアリーに言い寄る……人間の暗部とこっけいさを徹底して描ききったディケンズの代表作のひとつ。長谷部史親氏は「作中における人物造形の巧みさと場面ごとの面白さ、犯罪にかかわる謎の要素が推理小説を思わせる」と述べ、本書を高く評価している。 -
魔術師
モームは、アレスター・クロウリーという特異な人物とパリでめぐりあった経験をもとに、オリヴァ・ハドゥーなる悪魔的怪紳士を創作し、それにふさわしい怪奇な筋をもつ一編の怪奇小説、恐怖小説を造りあげた。それが本書である。「常識」と「迷信」との対決という主題を掘り下げたのであるが、こうしたプロットを効果的に運ぶためには、作者は自身の経験にもなく、知識もなかった《魔術》という奇怪なカルトが、現実のヨーロッパ社会に存在していることについて、同じく無知な読者に納得させなくてはならない。すなわちこの小説は、小説としての意匠から必然的に、魔術とは何か? という問いに対する解明と考察とを含む一種の思想小説、文明批評小説として仕立てあげられることになった。