あらすじ
死者の乗る船が渡来する港町・ラポネルでの騒動を後にして、コルとミューリは再びラウズボーンへの帰路につく。
教会の不正を糺し、王国との争いを収める決意を新たにするコル。賢狼の娘ミューリはというと、理想の騎士冒険譚を執筆するのに大忙しな様子で。
そして、ラウズボーンへと戻った二人を待っていたのは、ハイランドと教皇庁の書庫管理を務めるカナンだった。カナンは“薄明の枢機卿”コルによる聖典俗語翻訳をさらに世に広めるため、教会が禁じた印刷術の復活を持ち掛ける。
さっそく職人を探すこととなったコルとミューリ。だが、教会から追われる身の職人は協力する代わりに、『心を震わせる物語』を要求してきて――!?
感情タグBEST3
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コルとミューリは港町ラポネルの幽霊船騒動からラウズボーンへ。
ハイランドのもとで教皇庁の書庫管理を務めるカナンと会い、教会が禁じた印刷術をもつ職人を探し、聖典俗語訳版を印刷する計画をもちかけられる。
シャロンとクラークは新しい修道院建設で忙しく働き、ハイランドは聖典を書き写すのに金策に苦労し、カナンはほとんどあてがない職人を探すために王国にわたってきていた。
酒場で歌われる詩などの書籍を扱うところで、印刷っぽい本を見つけたミューリ、神の特徴から、サレントンの街に向かう。
自分の才能のなさに絶望しかけてる職人のジャンと出会い、印刷するに足る話をすることに。そのさなか、ハイランドと対立する第二王子のクリーベントの手下にコルは誘拐され。
八方丸くおさめるために、馬上槍試合をミューリに捧げる形で開催することに。
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ミューリとコルのシリーズ第7巻。
ここのところずっと刊行間隔が長期化し過ぎ、と書いてきましたが、「羊皮紙」6巻から9ヶ月、「SpringLogVI」から3ヶ月後とようやく正常化した間隔での刊行となり、一安心です。
もう一点これまで通りに戻ったと感じられたところがあります。6巻ではミューリが元気にモフモフしている場面が控えめでちょっと寂しかったのですが、7巻ではパワーが戻ってきました。兄様を甘噛みする場面もたっぷり。6巻後書きで作者自ら反省の弁を述べていましたので、意図的なものに違いありません。
さて、手に取ってその厚さが心地よかった(かなり厚めです)この7巻、一読してこれまでになく明るい…というか素軽く、軽快な感じがして、素直に面白いと感じられました。
どの辺が、と思い起こせば、まずミューリが創作にハマってしまっていること。お母さんが日記にハマっていることを思えば、親がインスタかブログ、娘が「なろう」系にハマっている一家(そう言えばコルはプロのライターですよね)が連想されます。母は夫亡き後の思い出に、娘はせっかく叙任された騎士なのに剣を振るって敵を倒すことができないことの代償として、それぞれペンを執っているわけですが、まあ娘の執筆意欲の源泉は母のそれほど深刻ではありません(作者は結構深刻ぶっていますが、そもそもコルに危機が迫ればミューリは躊躇せずに剣を(というか、牙を)振るうでしょう)。
一生懸命書きつけた紙束が、黒歴史として10年後にニョッヒラの机の引き出しから発掘される展開があったりしたらこれ以上楽しいことはありませんw。
続いて、活版印刷を体得した職人の世を拗ねるその理由が軽いこと。結構陰惨で既得権益との凄惨な争いに結びつきそうな話であるはずなのに、そのあたりはさらっと流されて、いざ流されてみるとそれでよかったんだろうと思えるのですから、このプロットは作者が上手です。
ちなみに先日「本好きの下剋上〜司書になるためには手段を選んでいられません〜」を斜め読みしたばかりなので、紙もインクもペンも金さえ出せば買えるコルたちがとても恵まれているように思えてしまえます…。1巻で触れられていた筆写職人の実情や、ル・ロワの言動なんかを考えると、それほど軽い話ではないはずなのにね。
そして、クリーベント第二王子の登場で、終盤からオチにかけての展開が「壮大な兄弟ケンカの仲裁」を「馬上槍試合」でストレス発散させて成し遂げた、展開となったこと。
そもそもクリーベントがコルにちょっかいを出した理由も「ノリ」のようですし、当のクリーベント王子と一緒になって考えた言い訳が「馬上槍試合」です。正直、馬鹿馬鹿しいと言ってもよさそうな展開ですが、第二王子のクリーベントはこういうオチになったとしても不思議でない描かれ方をこれまでしていたのがよく効いていて、やや軽薄なプロットがはまっています。
できれば、外伝で馬上槍試合の様子なんかも読んでみたいなあ。
そして、この巻のプロット、ミューリとコルの関係性、そして世界の成り立ちの3要素のうち、今回は世界の成り立ちに新要素が出てこなかったことも大きいと思います。新大陸があると言っては考え込み、地球は丸いと聞いて熱を出すコルがいるので、世界の成り立ちに新事実が出てくるたびに刊行は遅れ、トーンは深刻になります。今回は活版印刷が扱われているものの、世界の成り立ちというほど深刻な要素ではなく、その分の余力をすべてミューリの魅力に突っ込んだ感じになっています。プロットが早めに固まって余裕があったのでしょうか、本当にミューリ関係はこれを書けば読者が喜ぶだろう、というところがきちんと押さえられています。
ということで、久々にライトノベルを満喫した感がある7巻でした。
新大陸を目指す船を手に入れ、教会と戦うための武器もk確保し、教会との対立の構図を書き換えかねなかった第二王子すら篭絡したのに加え教会内に有力な協力者もできました。
そろそろ物語が大きく動く、というか大きく動かざるを得ない予感がします。作者があとがきに「果たして自分の力量でこの大きな風呂敷をまとめられるのだろうか」と書いていますので、どこまで話が広がるのか、歴史を下敷きにして新大陸に移住して終わるのにとどまらず、世界観を共有しているらしい「マグダラで眠れ」のキャラクターまで登場する大団円を見据えているのかわかりませんが、途中でシリーズが放置されることも打ち切られることもなさそうですので、お話の続きを楽しみに、そして「マグダラで眠れ」を読まなければならなくなる可能性に戦慄しながら待つことにします。
「次の巻は九か月以内、できれば半年以内……」だそうです。「Spring Log」のほうの続きも考えると、3ヶ月毎ぐらいのペースでシリーズが読めるのでしょうか…。だったらいいなあ。
Posted by ブクログ
元々は『狼と香辛料』のスピンオフとして企画された『狼と羊皮紙』もどうやら、この辺りで折り返しに入ったらしい。このVII巻では前巻で少しずつ明確に見え始めた「コルが世界をどのように変えていくのか」という本作のメインテーマの一つをより深める巻になっている。
前の巻ではコルとミューリは異端の疑いを晴らすために赴いた場所で、本作を動かす要素の一つである「西の果ての新大陸」についてより深い知識を得ることになった。そしてその過程において、コルは教会の教理の根幹をなしていると思われる一つに対して疑いを持つようになる。すなわちそれは、「この世界は本当は月のように丸いのではないか?」といった、現実世界でも中世において大きな議論となった問題だ。
本作におけるコルは、この「もしかすると大地は丸いのではないか」という考えを、どうしても頭から離すことができない。21世紀に生きる読者である我々からすれば、地球が丸いというのは当たり前の知識である。しかし、この世界ではかつて歴史上でそうであったように、地球は平でなければならず、その考えを権威づけているのは、教会そのものであるらしい。歴史上ではガリレオが異端審問にかけられて「それでも地球は動いている」といった逸話がよく知られているが、同じような関係がこの小説世界でも成立しているようだ。
そもそもコルの旅立ちの理由は「正しい神の教えを伝えることができていない教会組織をたてなおす」ことが目的だった。言い換えてみると、コルは教会という組織の在り方については批判的であったわけだが、教理そのものに対して批判をしていたわけではない。
ところが大地が丸いかもしれないという疑問は、その考え方の枠組みに対する疑問を揺るがしてしまう。
神学に対してかなり柔軟な解釈をしているコルであっても、神の教えとして語られている世界と現実世界が異なっているとなった時に、どのような反応をするのかというのはまだちょっと予想がつかない。なんとなく地球が世界が丸かろうと平らであろうと、神の意思は変わらないと言いそうな気もするけど。
さらにこの巻では、現実の歴史と同じように、宗教改革を導く一つの要素として活版印刷の可能性も示される。すでに現実の歴史を通り過ぎてきた自分たちは、印刷技術によって聖書や宗教文書が広まり、宗教改革を後押しすることになったことを知っている。
この世界でも同じように、印刷技術が知識の独占を崩し、教会の権威を揺さぶることになるということをコルやル・ロワたちはすでに気がついているし、教会側も間違いなく気づいているだろう。どのような組織においても情報の秘匿性は常に権力の源泉となるからだ。正し本作ではライトノベルということもあり、結構あっさり技術者が見つかってしまったりもする。
全体として、本作はこういった物語を大きく変えていく要素を提示するという位置付けになっているようで、あまり大きな冒険は起こらない。一応コルがクリーベント王子に誘拐されるという事件は起きるのだが、読んでいる感覚としては、国家を揺るがす大事件というより、王家の内輪の問題をどう収めるかという話に近く、アニメ作品だったら第一話あたりにきそうな話だな・・という感じがする。むしろ読者としては(そして劇中のコルが心配しているように)、「これは後でミューリが怒り狂うだろうな」というところに意識が向いてしまう。そのあたりはぼやかして書いているのだが、実際には間違いなく狼になったんだろうな・・とか想像してしまう。
おそらくそういった「物語を展開させる要素」の一つとして先に処理をしておかないといけなかったのであろう、ハイランドとクリーベントの関係もこれまでの因縁はなかったのようにきれいにまとまる。王宮を舞台にした骨肉の争いや、こじれた姉弟の感情のぶつかり合いを期待していると、少し物足りないかもしれない。考えてみると、このシリーズで最も緊迫感が高かったのは、エイブがロレンスを殺そうとした時だった。あの時は実際にロレンスは怪我をしているし、一歩間違えたら死んでいた。
ミューリとコルの組み合わせでは、なかなかああいった緊迫感を生むようなシーンは出てこないかもしれないが、これだけ大きな戦いになるのであれば、一回ぐらいはアクションシーンがあってもいいのではないだろうか。とはいえ、本来は神学の話なので、むしろ公開問答とかで話が終わってしまう可能性もある。
Posted by ブクログ
おもしろかった。以前は、香辛料に比べて、羊皮紙は、、なんて思うてましたが、そんなことはないです。面白い。コルとミューリの旅もどんどんと大ごとになってきて、なんとなく大団円的絵面が見えてきたような気がする。祈ハッピエンド。特にハイランドとクリーベントのところが盛り上がった。新約聖典も形になってきたし。今回は新しい人外は出てこなかったが、魅力的な人間キャラが出てきたし、既存キャラもええ感じで活躍していて良い。続きが楽しみ。
Posted by ブクログ
いやあ、なんというか、物語がすごく広がってきたなあという印象。
もとより、教会と王国の対立、聖典の俗語翻訳、新大陸と、中世ヨーロッパで実際に起こった出来事が散りばめられてきたわけだけど、今回は活版印刷が重要なモチーフ。
しかも、禁断の技術として。
こういう、さもありなんという設定がいつもながらすごいなあと思う。
現代人の感覚では見落としがちなことも当時ではほんとにすごいことだったんだよね。
それにしても今回はミューリの出番はほとんどなくて、コルが自分でなんとかしていく展開で、いやあ、彼もホントに成長したんだと感心した。
それでも、ラスト、彼がミューリのことを自分にとってどんな存在だと思っているか、ハッキリ分かるくだりは胸熱だよね。
いつか、コルたちに相応しい戦場が訪れるかもしれない。
その時、きっと彼と彼女は共に真っ直ぐその戦場を駆けていくのだろう。
それが教会との宗教的な戦いなのか、新大陸なのかは分からないけれど。
ふたりの冒険をこれからも追っていきたい。
途中、ミューリが夢物語の自分たちの騎士物語を書いているけれど、一度読んで見たいものだ。
そして、彼らの旅はすでに十分、伝記作家が後世に伝える冒険譚だと思うな。
Posted by ブクログ
前巻に比べると落ち着いた話で結構淡々としていた。今回においてはミューリが少し大人に見え、コルがミューリの存在を意識しているように思え、良い意味で逆転していていいなと思いました。話の落とし所はまずまずだったけど、全体のストーリーがやや不穏な雰囲気のまま進んでいきそうで先がどんどん気になります。
夢を追う事と現実と折り合いをつけることとの葛藤がうまく物語の中に組み込まれていると思う。
プロットの複雑さとデティールの描写が諸刃の剣となっている感がなきにしもあらず。