あらすじ
南町奉行所で内勤30年。勤務中でも居眠りをする奇病を持つ藤木紋蔵。だが、奇病ゆえ、人生の真実が見える時がある。義父が下女に手を出し、妊娠させる騒動が起きた。義母は「男は穢らわしい」とご立腹だ。人間の欲深さを描く「浮気の後始末」ほか7編。“窓際族”同心が活躍する捕物帳!連作時代小説。
...続きを読む感情タグBEST3
このページにはネタバレを含むレビューが表示されています
「例繰方」なる役職の妙。
昔からず~っと読んでいます。著者は、これ以外では人物伝など結構硬派な作品が多いですが、この作品は日溜まりの縁側の様なぽかぽかとした、尚且つ人の世の厳しさや難しさをサラリと描く、素晴らしい時代小説です。
最近は、「エラく腕の立つ剣客」や「○○屋に身を窶しながらも、世の悪を暴く」と言った類よりも、多少の緊張感は持たせつつも、のほほんとした温かい人情系や「日常の謎」を解き明かす様な穏やかな時代小説が主流に成ってきましたが、その源流に当たるのが本作なのではと常々思っています。
「ナルコレプシー」と云う現代でも厄介な病の上、とても「実入りの良い八丁堀」とは言えない、有る意味気の毒さも感じる主人公が、あくまでもマイペースで自分の出来る範囲の仕事をキチンとこなし、世間の噂など気にもせず飄々と生きている姿が、シリーズを読み進める内に本当に「カッコ良く」見えてくるから不思議です。まぁもっと辿れば池波正太郎さん等の御大が居られますが、アレは草創期のお話。
著者と同様の作風で知られた北原亞以子さん亡き今、作品を読んでいる間中、日溜まり中に居る様な心地好さを味会わせてくれる作家さんは本当に希少です。いつまでも末永く…と思っていましたが、数年前に著者もお亡くなりに成られました。
主人公は、別に実家が大金持ちじゃなくても、実は高貴な血筋の末裔でなくとも良いですし、「日常の謎」でもなく「幕府転覆の大陰謀」を見事解決などしなくても良いですから、人生の機微の奥深さを知り、市井の人々の悲喜交々を同じ目の高さで優しく見つめてくれる様な主人公の、心の温まる様な時代小説が今後現れてくれることを、今後とも期待しています。
それから、両さんみたいにダラダラと唯々只管長く、同じ作品を書き続けない作家さんもね…w。
Posted by ブクログ
面白かったです。
『この作家、この10冊』で紹介されていた(と思う^^;)初読み作家さん、佐藤雅美氏。まずはお薦めのこのシリーズを読んでみました。
所かまわず居眠りするという奇病を持っている藤木紋蔵。彼は物書同心で現代でいう“窓際族”。そんな彼が関わり、解決していく市井の事件は、捕物帳としては地味な事件ばかりですが、それだけに知らなかった江戸の暮らしぶりが書かれていたりして、とても面白かったです。そもそも物書同心自体知らなかったです…。
『お奉行さま』『浜爺の水茶屋』が貧しさ故起きた事件でしんみりとします。
窓際族だからもっと駄目駄目なのかと思ったのですが、紋蔵さんは意外に出来る人という気がしました。紋蔵の周囲の人も情があっていい人が多く、読んでいてほっとします。