中澤務のレビュー一覧
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文学・哲学の両面において、門外漢でもこの本一冊で充分に楽しめた。ここまでリーダブルな古典作品も珍しい。
有名なアリストファネスのアンドロギュノスの話、ソクラテスとアガトンの対話あたりは特に面白く、解説書ではなく原典で読めてよかったと思える満足度。
プラトン対話篇の中でも特に複雑な枠構造が取られているのも興味深かった。
「ソクラテスが以前にディオティマから聞いた話を饗宴で語り、参加者のアリストデモスから十数年後にその様子を聞いたアポロドロスが、改めて友人(=読者)に向けてその内容を語る」といった具合だが、わざわざこんな回りくどい形式で物語を「創作」する理由がきちんとあるのが凄い。
前半の4人 -
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プラトン著『ゴルギアス』。舞台は古代ギリシャ。哲人ソクラテスと雄弁家たちとの対話。賢人の論理が、弁士たちの誤った説得至上主義を打ち砕く。
ソクラテスによれば、最高の人生とは、純粋さと誠実さを備えた人生だ。雄弁な人間は一見偉そうに見えるが、実際のところその言説は悪人を改心させたりすることはない。説教とは人々の社会に変革をもたらし、民衆の命を救って初めて私たちに大きく資するものだ。
すべての人間は死ぬ運命にある。彼自身自らの人生を以て、理想の人生とは何かを示した。21世紀に生きる私たちは一度きりの人生をどのように生きていくのか。彼は、読者の心にそう問いかけている。 -
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名著。
古典で哲学書というと,複雑で難解なイメージばかりが先行しがちだが,プラトンの対話篇は物語のように読めるので非常に読みやすいのだなということを知れた。
また本書は新訳ということで,21世紀の現代に生きる私たち読者のために,なるべく平易で分かりやすい文章になるよう努められていることが感じられた。
脚注や解説などで,この書を書くに至った背景や当時の歴史的な事情などに対する理解を補助してくれているので,内容を掴み取るのに苦労することは殆ど無かったと言って良いと思う。
もちろん,一般教養としてある程度の世界史(古代ギリシア史)に対する理解や,哲学に対する予備知識はあった方が,理解が容易く -
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著者・プラトンの師匠である哲学者ソクラテスが活躍を綴った、対話型の哲学書です。タイトルになっているゴルギアスは人名で、当時著名だった弁論家です。著作も残っているほどで、弁論術の大家として広く知られ、弟子も多かったようです。また、余談ですが、100歳を超えて天寿を全うしたという説もあるそうです。BC400年前後の古代ギリシャ世界時代って、どんなふうだったのかあまり想像できないのですが、ソクラテスが刑死したのが70歳ですし、プラトンが病死したのが80歳です。なかなか豊かな時代だったのでしょうか?
さて、本書は弁論術を批判する本です。それも、ソクラテスが屁理屈に近いような論駁を激しく繰り返されなが -
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ネタバレアンドロギュノスの話の原典が気になって購入してみた。
小難しい哲学書なのかもしれない…と少し身構えていたのだが、平易な文章で非常に読みやすく、登場人物それぞれの語り口も個性的で、文学作品として楽しむことができた。巻末の丁寧な解説のおかげで時代背景や文化の理解もしやすい。
「子孫を残すこと(体に宿す子を産む)・知恵や思想を遺すこと(心に宿す子を生む)、これらは不死性への欲求であり、エロスとは美しいものを永遠のものにしようとする欲求である。」という主張は、クリエイターである自分にとってかなり腑に落ちる考え方だ。
私は美のイデアに触れることができるのだろうか。私は美しいものを永遠に残すことができ -
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もっと早くこの本を読んでおけばよかったと後悔するくらいに、素晴らしい本だった。これから先の人生で折に触れて読んでいきたい本になった。
「人生の短さについて」を始めに3編の作品が収録されているが、どれもどう生きていくか、困難に直面したときどう対処すれば良いかという実践的な知についてのエッセンスが散りばめられていると思った。
どの作品からも読み取れるセネカの考えは は、2000年経っても色褪せることはないと感じた。比喩や例え話こそ当時のものだが、その主張自体は現代でも十分に通用するものだと思う。どれも古典として読み継がれてきた所以をはっきりと見せつけられる作品だった。現代の自己啓発本もセ -
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説得を真髄とする古代ギリシャの技術である弁論術について、それを実践し広めるゴルギアス一派とソクラテスによる論駁の一冊。
ある分野において専門家よりも大衆を信用させることのできる弁論術が何事にも優って善であるとされる点から、彼らの熾烈な討論が始まります。
相手を信じ込ませるその技術に対して、それが持つ善の力を信じているゴルギアス一派と使用する人間によって異なると疑っているソクラテスは最初から対立しています。
今まさに目の前で言い合っているような彼らの息遣いが感じられる訳と筆致によって、夢中になって読み進めることができました。
弁論術の心得があると私生活でも仕事でも間違いなく役に立ちますが、他者へ -
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人と人とをつなげる方法として、文書や資本などの技法が発展していない時代、
顔の見える範囲で言葉をかわすことは、今とは比べ物にならないほど大きな役割を果たしていた。
その言葉をうまく使って人々を説得し、自分が望むように人々を動かす力である弁論術が、
劇中のソクラテスたちの会話の素材として取り上げられる。
弁論術は説得によって何を目的として求めるのか。
その目的を選ばせる価値観はどのようなものか。
その価値観をいだくような人の生き方はどのようなものか。
弁論術から始まり政治や人の生き方にまで話が及ぶ本書は、プラトンの中編著作の中では手頃なものだと思う。
(ただし、劇中のソクラテスの議論や主張 -
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一言でいうと
【人生が短いのではなく、自分の行いが人生を短くしてると分かる本】
本書は2000年前、皇帝ネロを育て上げる役として仕事に就いたセネカが晩年に書いた本であり、内容は仕事に埋もれる若い一人の男性に当てて書かれた手紙だ。
古代のアリストテレスから、現在その辺にいる見知らぬオジちゃんまで誰もが「人生はあっという間で短い」と嘆く。
しかし、セネカによれば「人生は本当は長いもので、短くしてるのは自分のしょうもない行いに費やしてるからでしよ?」と迫ってくる。
私が本書からセネカのいう、しょうもない時間を現在にあてると下記リストが浮かぶ。
・自分以外でも出来る仕事時間
・惰眠時間
・性 -
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2011年5月23日(月)に阪大生協書籍部豊中店にて科研費で購入。同日読み始め、25日(水)に読み終える。
訳文も読みやすいし解説もすばらしい。これは訳者というよりも光文社翻訳編集部に対する意見だが、たしかに訳者もあとがきで書いているようにプラトンの『プロタゴラス』は藤沢令夫訳が出てからすでに50年以上経っており、「光文社古典新訳文庫」が謳う「いま、息をしている言葉」ではなくなってきているのかもしれない。だとしても、誰でも手軽に読める文庫で新訳を出すのなら、『ニコマコス倫理学』とかもっと優先度が高いものがほかにもあるような気がする。
今度から藤沢訳と交互に読みたい。 -
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[高橋一生が演じているかのような生き生きとした鼻持ちならないアリストテレス]
ソクラテスの対話編を読むのははじめて。それ以上に古代ギリシャ哲学について書かれた本を読むのもはじめて。
しかし神業のような翻訳によって、まるで脚本 宮藤官九郎、ソクラテス 高橋一生というようなイメージで一気に読んだ。
いきなり冒頭から、最近自分が入れあげている美少年についてのろけるソクラテス(35歳)に大笑いする。
とにかくうざい高橋一生版ソクラテス。
・揚げ足とり
・はい、論破ー
新進気鋭のネット番長、ソクラテス35歳が著名作家プロタゴラス(60歳)に粘着リプライを繰り返す話。
物語のコアは、人間の徳(プ