中谷宇吉郎のレビュー一覧
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雪の研究で有名な著者はまた、恩師寺田寅彦と同じく随筆の書き手としても名高い。
自分の生まれ故郷での想い出を語った、子供時代に上がることを許されて垣間見た「御殿の生活」や、同じく懐かしさに溢れた「真夏の日本海」。
雪の人工結晶を作る工夫や苦労、楽しさを語る「雪を作る話」、「雪雑記」、静養先の伊豆海岸であがる雑魚を油絵で描き、その色や光の具合いを精密に捉えた「雑魚図譜」。
戦前の樺太への旅を書いた「ツンドラへの旅」では、カラフトにおいて、岩波新書をモデルにした樺太叢書というものが刊行されていたことを知った。
また、「天地創造の話」は、昭和19年夏の昭和新山隆起の観測記録である。
そして、「千里眼その他」、「立春の卵」では、科学者として疑似科学に正面から立ち向かう著者の生真面目さが窺える。 -
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角川ソフィア文庫では、『雪と人生』に続く、中谷宇吉郎2冊目の著作。
標題作の「科学と人生」。敗戦後、科学による国家の再建ということが良く言われたが、それが皮相的なものとならないよう、大事なことは科学的なものの見方、考え方であるとして、具体的な例に拠りながらその大切さを説いていく。
そのほか、戦前、天皇の行幸時に、人口雪の結晶を天覧に供したことや、戦後御進講をしたことなどの思い出「雪今昔物語」、師である寺田寅彦への敬愛の念がまざまざと感じられる「寺田研究室の思い出」、幸田露伴が科学に大変な興味関心を持っていたことを記した「露伴先生と科学」など、エピソードとしても興味深い。
終戦の年、厳しい北海道羊蹄山麓の疎開先で冬を過ごした時に、子供たちのためにお話をするために利用したコナン・ドイルの『失われた世界』。特に人気のあったイグアナドン、そのイグアナドンの唄を作って歌っていた下の男の子が、病気で急に亡くなってしまったことを、作者はサラッと書いている。戦争前後の厳しい時代、同じような死を経験した者は少なくなかったであろうが、子どもたちが楽しんでいたこととの落差に、衝撃を受けた一文であった。 -
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中谷宇吉郎(1900~1962年)は、東京帝大理学部卒、理化学研究所勤務(寺田寅彦に師事)、英キングス・カレッジ・ロンドン留学等を経て、北大理学部教授を務めた物理学者、随筆家。世界で初めて人工雪を作ることに成功した。位階は正三位。勲等は勲一等。
本書は、1938年に岩波新書が創刊されたときの(20冊のうちの)1冊として出版された後、新字体、新かな遣いに改められて、1994年に岩波文庫から再刊されたものである。
本書の主な内容は、著者の北大における雪・人工雪の研究の過程や成果であるが、成果に関しては、言うまでもなく、刊行から80年を経た今、最新の知識を得る方法はいくらでもあり、本書をわざわざ読む必要もない。
しかし、本書は、「ある自然現象について如何なる疑問を起し、如何にしてその疑問を学問的の言葉に翻訳し、それをどういう方法で探求して行ったか、そして現在どういう点までが明かになり、どういう点が益々不思議となって残っているかということを、筋だけちゃんと説明する」(中谷宇吉郎「科学と文化」より)、即ち、科学者が自然現象を解明するためにどのように取り組んだかが綴られているという点で、大いに価値のあるものであり、そういう意味では、ファーブルの『昆虫記』やファラデーの『ろうそくの科学』などとも並べられる作品だともいう。
私は文系ながら、科学系のノンフィクションを好んで読む方なのだが、本書については、牡丹雪と粉雪のでき方の違い等、雪の生成の仕方については面白く読めたものの、雪の作り方の部分などは専門的な記述も少なくなく、読み難さを感じざるを得なかった。また、80年前の作品で、新字体、新かな遣いに改訂されているとはいえ、文章のスタイルも必ずしも読み易いとは言えないかも知れない。(最近の科学者が、新書で同じようなコンテンツを扱えば、間違いなくもっと読み易いはず)
そういう意味では、一般の人よりは、研究の道を志す人に強く奨められるべき作品であるように思う。
(2022年1月了) -
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雪の結晶の形成と、人工雪作成の実験についての著者自身の研究成果をわかりやすく解説している科学エッセイです。
1938年に刊行された岩波新書を文庫化したもので、著者の実験の方法などは現在の読者にとは素朴なやりかたに見えますが、著者の師である寺田寅彦と同様に、エッセイの名手と評される滋味のきいた文章は、時代を越えて読者を惹きつける力をもっているように思います。
鈴木牧之の『北越雪譜』の文章を引用し、豪雪地帯の人びとがどのように雪とかかわっているのかということを紹介することからはじめて、科学のまなざしで身近な対象をあらためて見なおすことで、常識とはちがう世界が開かれてくることを説いており、科学のおもしろさに目を見開かされる思いがしました。 -
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科学者でありエッセイの名手として知られる著者が、自然科学がどのような方法にもとついて進められているのか、またその限界はどこにあるのかといった問題について、わかりやすく解説している本です。
われわれの常識にもなっている科学的世界像には、一般に知られていないさまざまな問題が含まれており、自然のなかにはわれわれ人間に知られていない多くのことがあるということを、測定や統計にまつわる具体的な例をあげて解説がなされています。
著者は現在の科学の発展を「菌糸のような発達のしかた」というたとえで説明しています。「非常にうねうねしながら、無数に枝分れして、ずいぶん広い範囲にわたって伸びていっている。それである方向には、非常に深く入っている。それからまた枝分れも非常にたくさんあって、ありとあらゆる分野にまで、それぞれの知識が行きわたっている。しかしその間に、取り残された領域が、まだたくさんある。いわば線の形をとって進歩しているのであって、面積全体をおおう、すなわち自然界全体をおおうという形にはなっていないのである」。こうした卓抜な比喩を用いつつ、自然科学研究の現実のすがたをわかりやすく述べられており、おもしろく読むことができました。 -
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雪の研究者である中谷宇吉郎氏の科学にまつわるエッセイ。雪今昔物語の雪の結晶を天皇に見せる話。雪の結晶をスタッフと徹夜で準備して、身体の不調もなんとかやりきる。終わって、伊東に養生しにいく。ちょうど大雪予報の東京から、出張で伊東へ。こんな偶然あるだろうか。
昔ながらの生活、伝統は計算して、あるロジックで導き出される科学的な解釈ではない。筆者は、それを科学以前として、撲滅するのではなく、優しい眼差しでもって整理しておく。つまりは、すぐ否定せずとも淘汰されていくと考えている。すごいのは、これが昭和16年に書かれたものであることだ。科学を盲信し、戦争、テロ、無差別殺人、環境汚染、原子力。こうした負の部分をある種、導き出した科学、そして科学で説明不能な理論を予言しているかのようだ。AIが台頭し、いまは、きっと科学の次に来るものを探しているのだから。
本統の科学とは、不思議を解決するだけでなく、平凡な世界の中に不思議を感ずることも重要な要素。河童を知らない子供は可哀想だ。科学者として、この言葉は本当に素晴らしい。北海道の自然の中にあって、お寺回りやスキーなど、科学的でない活動にその魅力を感じ、視野だけでなく、行動の幅広さをもっともっと求めて行かなくてはと思わされる。