あらすじ
天然雪の研究から出発し、やがて世界に先駆けて人工雪の実験に成功して雪の結晶の生成条件を明らかにするまでを懇切に語る。その語り口には、科学の研究とはどんなものかを知って欲しいという「雪博士」中谷の熱い想いがみなぎっている。岩波新書創刊いらいのロングセラーを岩波文庫の一冊としておとどけする。 (解説 樋口敬二)
...続きを読む感情タグBEST3
Posted by ブクログ
中谷宇吉郎さんは、日本における気候学者(雪博士)の先駆けで、気象現象における低音分野を手掛けた偉人です。
自然発生する雪の解明から、そのメカニズムを解明した方で、雪の結晶から上空での気温、水分量の寡多を計測するという、観測から法則を生み出した天才。
歴史上の偉人たち、例えばファラデーやオイラー、コペルニクスといった、観測による自然科学の解明を試みた人たちが、自然現象の再現性に苦しんだのに対し、中谷宇吉郎は自ら発生装置を作って観測を簡易化し、気温差で生まれる結晶の変化の法則性を発見。これによって、現代では全球全天で発生する降雪率と降雪量の予報がほぼ100パーセント予測できることとなった。
その方の自伝でありながら、自身の研究を噛み砕いて教えてくれる本となっています。尊敬します。
Posted by ブクログ
雪は天からの手紙である・・・という有名な言葉が載っている本。
昭和初年。雪と言えばまだせいぜい美的興味かはたまた生活の障害物でしかなかった時代に、筆者・中谷宇吉郎氏は雪の結晶を撮影し、分類・体系化し、さらには種々の条件下で人工の結晶を作って空の大気状態を類推するところまで研究を進め、世界的な評価を得た。その経緯…そもそもの関心の所在や、研究のあらましを伝える本である。
もっともこの本は、一般読者への啓蒙が主眼という通り、学問的なものではない。結晶の撮影のために十勝岳の白銀荘を借り、雪が降らない時には仕方がないから山スキーでもしようとか、北大の低温施設で満州の哨兵のような恰好で実験を進めたとかの軽口を交えながら、さらりと軽妙に書かれている。もちろん、厳寒の中で、しかもコンピュータや上等な光学機器もない時代に、地道な試行と考察の繰り返しは生半可な苦労ではなかったろう。
昭和13年頃に書かれた薄い文庫本というのはそれ自体なんだか味があるし(蛮族とか裏日本とかいう単語にはどきっとするけど)、その文体の香りとともに、まだ日本に自信があった時代の知的好奇心と学究精神を伝えてくれる好著である。
Posted by ブクログ
文章が美しい本。
とりあえず本論に入る前の第1章「雪と人生」。主張のひとつは「雪の降らぬ地に生活しているものに向かって、雪の災害を説き知らせることは至難のこと」というもの(初めに引用する『北越雪譜』という本の主旨らしい)。
そしてもうひとつは、「日本において雪の研究をもっと真剣にしなければならぬ」ということで、こちらがメイン。
但し力ずくで説き伏せるのではなく、むしろ雪(国)に対する人々の生きざま・苦しみざまを丁寧に描写することで、いいたいことを自然に繰り返す構成は、説得力に満ち、心地よくさえある。
もっとも、主張への共感を求めるためにしたたかにそうしたというよりは、そもそも著者中谷自身が研究のモチベーションの底に社会性を抱きかつ保っているのだろうと敬意を抱くのだが。
雪の結晶の形状にもさまざまな姿があるとの話。涙ぐましいほどの努力が含まれていそうな内容で、ミクロな話なのに読んでいて手に汗握る。
それにしても、読んでいて心地よさを覚える。
研究の目的に「雪の本質を知りたい」ということと「雪とは天から送られた手紙であり、その暗号を読み解きたい」ということを併記しているロマンティックなところが好きた。
また、「とにかく、よく観る」という手法を徹底的に重視したり、「研究とは丁度"ねじ"の運行」と言って、その迂回を繰り返す方法論を示していたりするのも印象的。
「おっ」と思うのは、中谷の、研究(成果)への"謙虚さ"。「分かったみたいな書き方だけど、分からないこと(謎)はまだ多い」「ここに示した類型化も不十分("不定形"も案外多い」と言い切る謙虚な姿勢は、中谷の業績への自信の裏返しかもしれない。
ただ私にはそれが「読者へのきめ細やかな配慮」の現れであるように感じられてならない。文中でも度々、"読者への"メッセージを発しているし、述べる内容(レベルと量)の"調節"もしばしばうかがえる。それでいて、研究や観測の面白さ(及びそれを伝えるエピソード)は存分に伝えてくれる。"知識の本"ではない"知恵の本"との解説も見事。学生にうちに、こんな"ロマンティシズム"と"人間味"に満ちた研究の本を、読んでおきたかったものである。
Posted by ブクログ
雪はどう生まれるのか、という疑問に始まった研究の素晴らしさにまず感動する。昔の学者の言葉なので、不思議な文体だが、そこもまた本人の姿勢を感じさせる。本来、学問というのはこうして進むんだよ、という道筋を示した本でもある。学生時代から今回まで、これで4回めの体験。
Posted by ブクログ
「すべての事柄についての一般的の知識の向上は、必ず後日そこから優れた成果が出てくる土台となるものである。」
この言葉を体現しようと書かれた本だと感じた。最初に雪に対する社会的な問題意識や情熱が熱く書かれていてそれだけで胸が熱くなった。その問題意識の解決の為に、自分の信じるよりよい世の中の為に文化レベルで雪に対する国民の知識を向上させてやろうという野心がにじみ出ていて超かっこいい。今年頭に読んで心が震えた一冊。
Posted by ブクログ
今週おすすめする一冊は、中谷宇吉郎の『雪』です。中谷博士は雪
の研究の第一人者で、1936年に世界で初めて人工雪の実験に成功。
本書は、博士が雪の研究に着手してから人工雪の実験に成功するま
での過程を描いた本で、初版は1938年。70年前の、博士38歳の時の
作品ですが、今だに読み継がれている科学書の古典的名著です。
随分と昔に買ったままになっていた本書を突然読みたくなったのは、
博士の「線香の火」という随筆の内容に感銘を受けたからです。
中谷氏は、日本を代表する物理学者である寺田寅彦の下、東大で最
先端の物理学を研究していましたが、その後赴任したのは実験器材
も満足に揃っていない北海道大学。しかし、中谷氏は師匠である寺
田寅彦から言われた「線香の火を消してはいけない」という言葉を
大切にしていました。「とにかく手を着けて、細々となっても必ず
研究を続けていくことが大切」という意味のこの言葉を、寺田氏は
弟子達を送り出す時に贈っていたのだそうです(「線香の火」は岩
波文庫の『中谷宇吉郎随筆集』に納められています)。
「線香の火」を消さないために目をつけたのが、北国に豊富にある
雪でした。本書はこの研究を形にしていく過程を描いているのです
が、これがとにかく面白く示唆に富むのです。難しい問題を前にし
ながら、できるところから手をつけて、観察と実験を繰り返し、よ
り本質的な問いに近づいていく。科学の精神や態度、アプローチ方
法とはこういうものなのか、と目を見開かされる思いがします。そ
れは「何度でもぐるぐる廻り」しながら少しずつ進む「ねじの運行」
のようなやり方ですが、「決して迂遠な道ではなく、むしろ最も正
確な近路を歩いていることになる」ものなのです。
その根底にあるのは自然の工(たくみ)の美への憧憬です。そして、
自然の美の探求は、一人の人間が一生を費やしても完成することで
はなく、「今後の有為な人々が、何十人か何百人かあるいは何千人
かが、更にその上に真剣な努力を積み重ねることによって一歩一歩
と完成に近づく」性質のものです。このような科学の営み。それを
支える科学者の精神と態度。「崇高」とはこういうことを言うので
しょう。
「雪は天から送られた手紙である」という有名な言葉は本書から生
まれました。読み解くことに一生をかけようと思える手紙を見つけ
ることこそが人生の僥倖なのだということを教えてくれる一冊です。
是非、読んでみてください。
=====================================================
▽ 心に残った文章達(本書からの引用文)
=====================================================
今日我が国において最も緊急なことは、何事をするにも、正しい科
学的精神と態度とをもって為すことが必要であるということであろ
う。
雪の結晶は誰が最初にその姿を正しく認識したであろうか。そして、
その後どのような歴史をもって今日に及んでいるか。今その大略を
ここに述べて見よう。そうしてこの歴史を調べることによっても今
更に感ずるのは、如何に自然の秘められたる工(たくみ)は深く、
人智によるその認識が遅々としているかということなのである。
あらゆる問題について、道具や器械が揃っていなければ科学的研究
が出来ないと思うことそれが科学的精神に反する道であると知らな
ければならない。
凡ての事象を自分自身の眼によって見ようとする願望、これがあれ
ば必ずしも専門的に知識や素質がなくともよいのである。しかしこ
のように自然現象を自分の眼で見る人には、やがてその科学的説明
を求める気持が出て来るであろう。
今日学問的のあらゆる研究において、この世界各国の研究者が互に
連絡をとることは最も必要なことなのである。今日世界の情勢が急
迫して、各々の国が鎖国的態度を取ろうとしていることは、科学の
進歩という点からいえば、寒心に堪えぬ次第である。
夜になって風がなく気温が零下十五度位になった時に静かに降り出
す雪は特に美しかった。真暗なヴェランダに出て懐中電燈を空に向
けて見ると、底なしの暗い空の奥から、数知れぬ白い粉が後から後
からと無限に続いて落ちて来る。
十勝岳へ出かける度に、毎日のように顕微鏡で雪を覗き暮している
うちにも、これほど美しいものが文字通り無数にあってしかも殆ど
誰の目にも止らずに消えてゆくのが勿体ないような気が始終してい
た。そして実験室の中で何時でもこのような結晶が自由に出来たな
ら、雪の成因の研究などという問題をはなれても随分楽しいもので
あろうと考えていた。
研究というものは、このように何度でもぐるぐる廻りをしている中
に少しずつ進歩して行くもので、ちょうどねじの運行のようなもの
なのである。
われわれの今問題としているのは、天空高く、飛行機も気球も大凧
も窺い得ない世界の気象状況を知ろうという欲望である。(中略)
雪の結晶形及び模様が如何なる条件で出来たかということがわかれ
ば、結晶の顕微鏡写真を見れば、上層から地表までの大気の構造を
知ることが出来るはずである。
雪の結晶は、天から送られた手紙であるということが出来る。そし
てその中の文句は結晶の形及び模様という暗号で書かれているので
ある。その暗号を読みとく仕事が即ち人工雪の研究であるというこ
とも出来るのである。
われわれが日常眼前に普通に見る事象の悉くが、究めれば必ず深く
尋ねるに値するものであり、究めて初めてそのものを十分に利用す
ることも出来、またもし災害を与えるものであればその災害を防ぐ
ことも出来るのである。それ故に出来るだけ多くの人が、まず自分
の周囲に起っている自然現象に関心を持ち、そしてそこから一歩で
もその真実の姿を見るために努力をすることは無益な事ではない。
結晶の研究などは如何にも迂遠な路を歩ように見えるかも知れない。
しかし或る種の仕事は、何年やってもその効果が蓄積しないもので
あるが、科学的の研究は、本当の事柄を一度知って置けば、その後
の研究はそれから発達することが出来るのであるから、そういう意
味では決して迂遠な道ではなく、むしろ最も正確な近路を歩いてい
ることになると少くとも科学者はそういう風に思っているのである。
「雪を研究する」という仕事は一人の人間が一生を費してやっても
到底かたづくような問題ではない。一石ずつ築いた研究の上に立っ
て、今後の有為な人々が、何十人か何百人かあるいは何千人かが、
更にその上に真剣な努力を積み重ねることによって一歩一歩と完成
に近づくというような性質の問題であろうと思われる。
━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━
●[2]編集後記
━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━
最近、「わらべうた」の魅力にはまっています。わらべうたは各地
で子ども達に受け継がれてきた唄で、「通りゃんせ」のように、そ
の内容は、かなりシュールだったり、怖かったりするものが多いの
ですが、とにかく独特の節回しがいいのです。日本人の身体に馴染
んでいるというか、耳ををついて離れないものが多いですね。
NHKの「にほんごであそぼ」を始め、わらべうたを集めたCDが出回
っていて、我が家では皆で楽しんでいるのですが、最近の娘と私の
お気に入りは「でんでらりゅうば」という不思議な歌です。
でんでらりゅうば (出ようとして出られるならば)
でてくるばってん (出て行くけれど)
でんでられんけん (出ようとしても出られないから)
でーてこんけん (出て行かないからね)
こんこられんけん (行こうとしても行けないから)
こられられんけん (行くことはできないから)
こーんこん (行かない行かない)
何でも長崎に伝わるものだそうですが、節回しも言葉もとても独特
で、一度聞いたら頭の中をぐるぐると回り続ける魔力があります。
娘はこの唄にちょっと前に異常にはまって、ところかまわず「でら
でら」と唄っていたのです。それがこちらにも感染して、一緒に唄
い始めたのですが、一体何と唄っているのかよくわからない。唄お
うにも唄えないので、歌詞を調べて娘にも教えてあげたのですが、
その途端、娘は唄わなくなってしまったのです。
これは反省しました。娘には娘の聞こえ方があって、正確な歌詞や
意味よりも、そちらのほうが大事だったのです。或いは、普通の日
本語ではない、わけのわからない感じがあるからこそ、神秘的で惹
き付けられたのでしょう。娘にとって神秘に満ちていたた世界を大
人の浅知恵で壊してしまった。。。先週の苦い思い出です。
Posted by ブクログ
中谷さんは、1900年生まれの物理学者。世界に先駆けて人工雪を作ってしまった人。
この、岩波文庫の名著『雪』では雪の被害に始まり、生成条件を解き明かし、雪の正体をつかまえるために人工雪を作る過程が描かれています。
科学のお話なので、一般人にわかりやすく書かれたものではあるけれど、わたしには少々難しい箇所もありました。
それでも「へえ~」「へえ~」の連続で面白かった!
こんなことを研究されている方がおられるんだなぁ…。文章もとても読みやすくて、確かに名著。
と思ったら、なんと中谷さんは寺田寅彦のお弟子さんなんだとか。エッセイも山ほど書き残しておられる。
『雪』にはベントレーのことも出てきた。もちろんこの写真集のことも。
彼は科学的素養をもたず、美しい雪の写真を撮ることを楽しみとしていた人だから、倍率や降った時期の記載が全然ないのが惜しまれるとしたうえで、こんなふうに書いている。
雪の結晶について多くの人の人々の関心と興味とを喚起した。この点においてウイルソン・ベントレーなるアメリカの一老人は偉大なる功績を残したということもできる。厳密にいってそれは科学的研究の産物とはいえないかもしれないが、その一生を通じて自然に対する純真な興味を失わず、うまずたゆまず成し遂げた彼の事業に対しては、われわれは尊敬を払わなければならないであろう。
でもね、こう書いたあとで、雪の結晶というのはほんとはベントレーの写真集に並んでいるような美しい結晶ばかりではないので、一般に雪の結晶というものがベントレーの写真集のようなものだと思わせたことは注意する必要がある、とも書いておられます。
Posted by ブクログ
「雪の結晶は、天から送られた手紙であるということが出来る」という本書の締め括りのフレーズが、作者・中谷宇吉郎の科学者だけに収まらない魅力を物語っているように思える。
Posted by ブクログ
怒涛の1930年代に史上初の人工雪を作る科学者が日本にいたのは感慨深い。電子書籍で無料だったので読んだが、雪の形状の説明と写真や図がリンクしなかったのは残念。やはりこの手の本は紙で読むに限る
Posted by ブクログ
実際は学問的な難しいところもありながらも,うつくしく,誰でもわかるように説明する能力はすばらしいものである.この本は実際の研究のほんの一部であるだろう.さらに,あたかも簡単なように書いてあるが,さまざまな工夫や困難のもとになしえた結果であることは少し考えれば想像できる.ともかく,研究をこのような形で発表できる高い技術に感激する.
Posted by ブクログ
「雪の結晶は、天から送られた手紙である」という趣深い一文で有名な本作だが、同時にこれほどまでに科学的誠実さに溢れた本が他にあるだろうか。降り積もる雪のひと欠片を丁寧に観測し、吹きすさぶ冬景色の中、時には氷点下の実験室で根気強く分析を続けていく。やがてその研究は雪の結晶の多様性を明らかにし、世界初の人工雪の作成という偉業に結び付いた。エッセイ風に書かれた文章は理性的でありながらも簡潔な説明の中から気品の良さが滲み出ており、本人曰く「茶漬けのような味」の内容は滑らかに入ってくる。自然科学入門として最良の一冊。
Posted by ブクログ
「千夜千冊」の一冊目に上がっている『雪』。昭和13年に中谷宇吉郎博士によって書かれた作品です。(ちなみに、世界で初めて人工雪の実験に成功した方だとか)
内容は雪の研究の歴史、日常から見た雪(主に災害について)、雪の結晶について、そして初期の人工雪を作る過程。中でも人工雪を研究する箇所については、工夫のほどが分かりやすく書かれているので、臨場感も味わえます。
寒いから雪が降るというだけではなく、空で何かが起こっている結果として雪が降ってくる。雪の結晶はその何かを知るための暗号。
文学的ではなく、科学的に冬を味わうのもいいかもしれない、と思う一冊でした。
Posted by ブクログ
この本の読みやすさの1つは中谷博士の実験がある意味でとても原始的な方法によっていることにもあるような気がします。 とかく最先端の理系の研究を表した書物は「専門家でなければ理解できない複雑な理論や関数」に溢れ、実験装置も高額で技術の粋を極め(≒ 素人にはその装置の構造そのものが理解できない)、実験手法も素人には複雑怪奇に過ぎて完璧にお手上げ状態・・・・となってしまうものが多いのに対し、昭和10年代という時代・・・・ということもあるのでしょうけれど、中谷博士のこの研究はある意味で素人にもイメージしやすいものだと思うんですよね。 考えの進め方(≒ 理論構築)に関しても難しい部分を廃して書かれているということもあるのでしょうけれど、あまり俗世からかけ離れすぎた理屈ではないがために「なるほど、なるほど。 ふんふん♪ へぇ~、そうか! そういう風に考えていくんだ!」とスンナリついていける気にさせてくれちゃっているところがあるように思います。
中谷博士がヨーロッパ留学を終え、現在の北大の助教授として赴任される際に、恩師である寺田博士に
「君、新しい所へ行っても、研究費が足りないから研究ができないということと、雑用が多くて仕事ができないということは決して言わないようにしたまえ。」
と諭され、それまで研究されていたテーマを北大で引き続き追求するのが環境的に困難だったので、ある意味手慰みに始めたのがこの「雪の研究」だったという経緯があるらしいのですが、まさにその研究者にとってはある種のマイナス面だったところが、かえってこの本にとっつきやすさを与えているのは面白いことだなぁ・・・・と思うんですよね。 まあ、往々にしてどんな分野でもそのパイオニアの考えることは案外親しみやすい発想から出ているものだとは思うんですけど・・・・・。
(全文はブログにて)
Posted by ブクログ
「この本は雪の結晶について私が北海道で行った研究の過程およびその結果をなるべくわかりやすく書いたものである。...ただ、自然の色々な現象について正当な理解を持ちたいと思っておられる人々に、すこしでも自然現象に対する興味を喚起する機縁になれば有難いと思って書いたものである。」このまえがきの通り、雪の研究の歴史、雪の種類、雪の生成過程、雪を作る実験について、専門的な内容を、やさしい言葉で書いてある。彼の研究の恩恵を私たちは今も受けているのだろう。
Posted by ブクログ
不思議から科学へ。これを読むと科学の研究とは、なんて楽しそうなんだろうと思う。特にパイオニアの研究は面白いだろう。雪についての基本的な知識も得られる。
Posted by ブクログ
中谷宇吉郎(1900~1962年)は、東京帝大理学部卒、理化学研究所勤務(寺田寅彦に師事)、英キングス・カレッジ・ロンドン留学等を経て、北大理学部教授を務めた物理学者、随筆家。世界で初めて人工雪を作ることに成功した。位階は正三位。勲等は勲一等。
本書は、1938年に岩波新書が創刊されたときの(20冊のうちの)1冊として出版された後、新字体、新かな遣いに改められて、1994年に岩波文庫から再刊されたものである。
本書の主な内容は、著者の北大における雪・人工雪の研究の過程や成果であるが、成果に関しては、言うまでもなく、刊行から80年を経た今、最新の知識を得る方法はいくらでもあり、本書をわざわざ読む必要もない。
しかし、本書は、「ある自然現象について如何なる疑問を起し、如何にしてその疑問を学問的の言葉に翻訳し、それをどういう方法で探求して行ったか、そして現在どういう点までが明かになり、どういう点が益々不思議となって残っているかということを、筋だけちゃんと説明する」(中谷宇吉郎「科学と文化」より)、即ち、科学者が自然現象を解明するためにどのように取り組んだかが綴られているという点で、大いに価値のあるものであり、そういう意味では、ファーブルの『昆虫記』やファラデーの『ろうそくの科学』などとも並べられる作品だともいう。
私は文系ながら、科学系のノンフィクションを好んで読む方なのだが、本書については、牡丹雪と粉雪のでき方の違い等、雪の生成の仕方については面白く読めたものの、雪の作り方の部分などは専門的な記述も少なくなく、読み難さを感じざるを得なかった。また、80年前の作品で、新字体、新かな遣いに改訂されているとはいえ、文章のスタイルも必ずしも読み易いとは言えないかも知れない。(最近の科学者が、新書で同じようなコンテンツを扱えば、間違いなくもっと読み易いはず)
そういう意味では、一般の人よりは、研究の道を志す人に強く奨められるべき作品であるように思う。
(2022年1月了)
Posted by ブクログ
雪の結晶の形成と、人工雪作成の実験についての著者自身の研究成果をわかりやすく解説している科学エッセイです。
1938年に刊行された岩波新書を文庫化したもので、著者の実験の方法などは現在の読者にとは素朴なやりかたに見えますが、著者の師である寺田寅彦と同様に、エッセイの名手と評される滋味のきいた文章は、時代を越えて読者を惹きつける力をもっているように思います。
鈴木牧之の『北越雪譜』の文章を引用し、豪雪地帯の人びとがどのように雪とかかわっているのかということを紹介することからはじめて、科学のまなざしで身近な対象をあらためて見なおすことで、常識とはちがう世界が開かれてくることを説いており、科学のおもしろさに目を見開かされる思いがしました。
Posted by ブクログ
雪の結晶の分類など細かいところまで入り込んでいくと、まさにミクロの話しでちょっとついていけなくなる(じっさいかなり斜め読みしてしまった)。それよりも著者も述べているように、自然科学の研究とはこういう風にして進めていくのだ、ということがわかればよい、というスタンスで読んでいくとおもしろい。自分が好きだと思える者の研究に心から打ち込め、それでご飯が食べられるというのは何ともうらやましいことだ。もちろんそこに行くまでにはいろんな苦労があるわけだが。その苦労や失敗をあえて書いていないという指摘が読書会では出たな。
Posted by ブクログ
高野文子の「どみとりーともきんす」を読んで。
雪の研究者による雪のエッセイ。柔らかい文章の中にも、科学の眼差しがしっかりあるのはやはり学者らしい。