あらすじ
人工頭脳、原子力の開発、人工衛星など自然科学の発展はめざましい。しかし同時にその将来のありかたについて論議がまき起っている。著者は、自然科学の本質と方法を分析し、今日の科学によって解ける問題と解けない問題とを明らかにし、自然の深さと科学の限界を知ってこそ次の新しい分野を開拓できると説く。深い思索の明晰な展開。
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科学の方法
著:中谷 宇吉郎
岩波新書 青313 (G-50)
本書が目指すものは、科学の方法論を説くのではなく、現代の自然科学の本質はどういうものであり、それがどういう方法を用いて、現在の姿に生長してきたかという点について考えて見ようとある。
帯に、松岡正剛氏推薦に絶対名著とある。
科学万能の思想から離れ、科学には限界があること、ひいては、現代ですら、分からないことだらけであることを語ってくれる
気になったのは、以下です
・科学について、何かを論じようとする場合に、まず取り上げるべき問題は、科学の限界の問題である
・このまま、科学が進歩を続けていくと、近い将来、人間のあらゆる問題が科学によって解決されるだろうという錯覚に陥っている人がかなりあるように思える
・同じことをくり返せば、同じ結果ができるという確信がもてることが、再現可能という意味である
・多数の例について全般的にみる場合には、科学は非常に強力なものである。しかし、全体の中の個の問題、あるいわは予期されないことがただ1度起きたというような場合には、案外役に立たない
・真空とは、われわれが実際に住んでいるこの世界の空間から、空気を取り去った残りであって、空気がないという意味での真空で、何もないということとは違っている
・科学は自然の実態を探るとはいうものの、結局、広い意味での人間の利益に役立つように見た自然の姿が、すなわち、科学の見た自然の実態なのである
・測定には必ず誤差がともなっており、我々は自然のほんとうの値を知ることはできない
・自然界自身に、精度の限界があって、六桁の精度のところまでしか、科学は取り扱えないともいえよう
・エネルギーの量は、形が変わっても不変であることと、物質不明の法則との2つが、今までの物理学、科学全般の基礎であり、この基盤の上に、現代の科学がきずかれてきたのである
・自然科学を2つに大きく分類すると、物理学や科学のようないわゆる物質の科学と、動物学や植物学、医学のような生命現象を取り扱う、生命の科学との2つに分類することができる
・繰り返して言えば、科学の限界は、再現可能な問題に限られている
・1つ1つの要素について、いろいろ法則を調べ、各要素について、一通り知識が得られても、それを集めただけでは、全体の性質は分からない場合が多い
・現在の科学では、数学を離れては、物理学も化学も成り立たない
・雷の電気がなぜ発生するか、ということさえ、まだわかっていない
・氷の結晶構造すら、まだほんとうのことはわかっていない。さまざまな気圧下では、氷の結晶は7種類存在する
・人間の腸内にいる細菌について、それが、どういう働きをしているのか、ほとんどわかっていないのである
・科学の研究は、それがどういう性質なのかを十分によく知る必要がある。すなわち、定性的な研究が先行する
・次にその量的な事実を行うことが、定量的な研究である。さらに一歩進んだ研究といえる
・まったく新しい発見というものは、今日のように科学が専門化し、かつ発達した世界になっても、やはり、思いがけないところにあるものである。極端にいえば、偶然に発見されることが多い。
・今日ほど、科学が進歩しても、まだまだわれわれの知らないことが、この自然界には、たくさん隠されているということは、常に頭にいれておいてよいことである
・実験と理論は、車の両輪とよく言われるが、自然科学の正道は、実験と理論とが平行して進んでいくことにある
・学問の定義の中にはいるには、体系ができてはじめて、それが役にたつ。まず、知識を整理することである。そして、それらを1つの統合した知識に組み立てることである
・理論がその価値を発揮する場合、知識を整理することによって普通の人間の考え及ばないところまで、思考が深められ、そしてそれによって新しい知識が得られ、次の発展を促すという場合である
目次
序
一 科学の限界
二 科学の本質
三 測定の精度
四 質量とエネルギー
五 解ける問題と解けない問題
六 物質の科学と生命の科学
七 科学と数学
八 定性的と定量的
九 実験
十 理論
十一 科学における人間的要素
十二 結び
附録 茶碗の曲線
ISBN:9784004160502
。出版社:岩波書店
。判型:新書
。ページ数:212ページ
。定価:880円(本体)
1958年06月17日第1刷発行
2021年03月10日第76刷改版発行
Posted by ブクログ
<方法を語る本ではなく、方法について語る本>
タイトル通りこの本の内容は「科学における方法」である。だがそれは決して方法論ではない。喩えば、この本には「このように科学を行えば万事うまく行く」だとか、「科学者として成功するにはこういうことをやれ」などそういういわゆるHow-toの類いの話はない。この本には、科学とはいかなる方法を用いてどのような問題を解決していく学問であるか。そこでは何が出来て何が出来ないのか。単純な方法論よりも本質的な論の展開がされている。したがってその中で、なんでもできる万能な科学でもない、危険な可能性しか生み出さない科学でもない、より本来的な科学というものに触れることができるだろう。
この小著において私が感嘆したのは、著者が科学に対して驚くべきほどにフラットに接していることだ。聞くところによると今日の科学では実験より理論、定性より定量が好まれ、重んじられる風潮があるらしい。そこにきて著者は、それぞれの性質を語り、それぞれに出来ること・出来ないことを語る。良いか悪いかではない。そしてもちろん著者が科学の限界、すなわち語られている方法に基づく学問であるからこそ出来ることと出来ないことがある、ということを語っていることは、おそらく言うまでもなく予測できるであろう(なにしろ初めに触れるテーマがこの限界についてである)。
もちろん自然科学を軸としているので、数式や多少設定の複雑な実験の話なども語られる。従ってそちらの道へ進んでいない方、とりわけ受験勉強以降数学や理科に触れていない、という方には腰が引ける記述部分もあるだろう。だが、そういった場所はほんの少し目を通すだけで良い。大事なのはその具体例を挙げた理由の方で、こちらはもちろん数式などは振り回していない。そんな本質的でないところを気にしてこの名著に触れないというのは、あまりに哀しく残念なことだと思う。自然科学の道を歩む人にはもはや読まない理由などないと思う。
唯一気になることとしては、著者の中では「科学」すなわち"science"であるから、人文社会科学の場合はおそらく当てはまらないのかなあ、だとすると現代においてこの表題は果たして適切なのかなあという部分だが、それは著者が中谷宇吉郎という偉大な物理学者であることを鑑みれば、自ずと察せられることと思う。
Posted by ブクログ
電車で賢そうな女子高生がすっと鞄から取り出し、さっと頁をめくり、ふいと読み始めた。その一連の動きが流れるように美しかったので、なんの本かと思ったら『科学の方法』だった。
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医療、航空、原発・・・と様々な事故が起こる。科学がどれだけ進歩しても、それを扱うものの心構えは変わらないと改めて思う。わかりやすく名文。高校生くらいで十分わかる内容が多いので文系理系を問わず手に取って欲しい本。科学の本質を知ることで、その力を正しく理解し、過信することなく使えると思う。
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今となっては例として挙げられているものに古いものもあったりするが,そんなことはまったく問題ではない.科学とは本質的にどのようなものか,中谷宇吉郎はあいかわらずとてもわかりやすく書きだしている.
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自然科学が自然と人間の協同作品であるという考え方が面白い。測定とは何か、誤差とは何か、理論や実験の意味とは何か、といった事柄を丁寧に説いてもらえます。読みづらい点があるとすれば、単位系が古かったりするぐらいです。それも本質的な問題ではありませんが、理系の大学生以外が読むと混乱の元になるかもしれません。注釈つけてくれないかな…。
Posted by ブクログ
理科離れというものがある。
実態は詳しく知らないが、うぃきによると
理科離れ(りかばなれ)とは、理科に対する生徒・児童の興味・関心が低くなったり、授業における理解力が低下したり、日常生活において重要と思われる基礎的な科学的知識を持たない人々が増えていたりすると言われる一連の議論である。科学的思考力や計算力の低下により、特に高等教育において授業の内容を理解できない生徒が増え、専門的知識・技能を有する人材の育成が難しくなることが問題として指摘されている。
一般的に科学技術が発展している国ほど市民の科学的思考力が低下しているとの指摘もある。これは科学技術が高度になり複雑化するにつれてブラックボックス化し理解しにくくなっているという側面もある。ただ、日本では、一般市民の科学リテラシーが先進諸国と比較しても極めて低いことが指摘されている。
ということらしい。
理科離れしても生きていける良い時代になった、というところが実態なような気もする(森博嗣風)。
理科離れがあるとして、その主な原因としてというものを考えてみると、上記のような科学技術の高度化によるブラックボックス化と、科学について勉強したってもう良いことなんかない、という幻想の2つが主なものだろうか。科学の全盛期は過ぎた、あるいは自分が勉強しても追いつけないだろうという幻想である。
この二つに対して「科学の方法」はこういう。
p22 “科学が発見したものの実体もまた法則も、こういう意味では、人間と自然との共同作品である。”
p158 “今日ほど科学が進歩しても、まだ我々の知らないことが、この自然界には、たくさん隠されているということは、常に頭に入れておいて良いことである。”
p196 “しかし自然科学は、人間が自然の中から、現在の科学の方法によって、抜き出した自然像である。自然そのものは、もっと複雑でかつ深いものである。従って自然科学の将来は、まだまだ永久に発展していくべき性質のものであろう。”
こういわれるとなんか元気でる。
科学が人間と自然との共同作品と考えると、作品であれば俺でも作れそうなんて単純に思えてくる。
まあ前半は主に科学の限界の話なので科学万歳ってわけでもないんだが。
理科離れに嘆く人、理科離れしたっていいじゃんと開き直る人に読んでほしい一冊。
目次
1.科学の限界
2.科学の本質
3.測定の精度
4.質量とエネルギー
5.解ける問題と解けない問題
6.物質の科学と生命の科学
7.科学と数学
8.定性的と定量的
9.実験
10.理論
11.科学における人間的要素
12.結び
付録
茶碗の曲線
Posted by ブクログ
科学は再現できることが重要だという。
しかし、ビッグバンや、将来起こることの予測は、再現できるとは限らない。
1度しかおきない可能性のあることも、事前に予測し、それがおきれば、
そのための道具として有用だと思う。
道具として数学を使うあたりが、科学の肝ではないか。
抽象的にまとめることによって、常に真でありつづける学問。
Posted by ブクログ
科学がどのようにして進むのか,人間の頭の中で考えられた数学がどうして自然の研究に有効であるのか…。物理学ベースですが,平易な言葉で悠々と書かれています。しばしば「古い」ということを理由に批判する人がいますが,数学も古いわけで…。まともな科学者なら「古いから」なんていう理由はあり得ません。古さ・新しさ,いわゆるfadは科学の本質ではないでしょうが,人間の営為である以上,本質的でない側面が入ることも仕方がないのでしょう。結局のところ,そういう非本質的側面で振り回したり振り回されたりしないように心がけることが肝要ではないでしょうか。
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科学には方法論としての限界がある、ということを教えてくれる。言われてみれば当たり前のことだが、しばしば科学至上主義に陥りがちな文系出身者としては、心に留めておきたいメッセージだ。
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「科学には限界がある」それを知ることの重要性について書かれている。1958年に書かれたとはとても思えない。理系だけでなく、すべての大学生が読むべき本だと思う。
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科学分野が、現在までに、どのようなことを積み上げてきたのかを考察した新書。科学的な思考法を振り返り、基礎的なところを説明をしている。私には難しいものも含まれているが、平易な文章で読みやすかった。
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【星:4.5】
科学とはそもそも何なのか?文系人間の私がそんな疑問をもって手に取った。そして、その疑問にしっかりと答えてくれた1冊であった。
科学とは何か?・再現可能性・科学の限界・定量的と定性的・科学と数学の関係、などなど色々なトピックスを分かりやすく説明している。
なかなかの名著だと思う。
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科学の限界や、数学、経済的な背景との関わり等々の、科学とそれを取り巻く環境のかかわりについて深い考察がまとめられた一冊。とはいえ、この本から学ぶことはあまりない。「物心一如」のみがこころに残った。これだけみれば、科学の本と思えないが仕方ない。
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科学の限界と本質ついて良く書かれている。
単位の精度を決めるところが面白い。
ちり紙の話しなど今ならブラウン運動で解けないのだろうか。
科学が苦手な方向にも科学が手を伸ばしているのがいまの実感だ。
Posted by ブクログ
6桁が限界(200年)
クラベリナー
数学の使える部分で科学を記述
科学のおもしろさ、などと言う人たちの、「考えるな、感じろ!」といった押し付け方に、科学を知らない人はついていけていない。そして科学の荘厳さを万能さにすり替えた理解で、過信と不信を同時に招いているように思う。
本書では科学の方法と限界について筋道立てて議論しているので、科学はどこへ向かって何をしようとしているのかを、現実的に見つめ直すことができたと思う。科学論の入門。
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数学について以下のようなことが書いてあります。
「数学は人間が考えたものだから人間が全然知らなかったことは出てこない。それでも数学はいわば人類の頭脳が作ったものであるため個人の限界を離れてこの頭脳で問題を考えることができる。」
科学は人間が考えやすいように自然を捕らえた姿で、科学に用いられる数学も考えやすいように使っている、ということです。
この主張は科学の限界を明快かつ分かりやすく伝えています。
講義の速記を元に手を加えたとありますが、よって同じ話が何度も繰り返し登場します。それがうるさくなく効果的に用いられています。面白い本でした。
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中谷宇吉郎と言えば『雪』が有名だけど、もしかしたらそれ以上に面白いと思える科学論入門書。中谷さんは科学を人間と自然との共同作業だと考えており、自然科学といえども自然の全てを知るべき学問ではないとその限界をきちんと見定めた上で、解ける問題をいかに観測し、理論化していくかについて話を進めていく。中でも数学についてが興味深く、「数学は人類の共有資産であり、個人の頭脳では到達し得られない所まで人間の思考を導いてくれるもの」という視点は目から鱗だった。こんなにも科学を人間的に感じられた経験は、他にないと言っていい。
Posted by ブクログ
「科学的である」とはどういうことか、についてのエッセイ。
かなり古い本のため、現在分かっていることとどれくらい合っているのか
分からないが、現代物理学の基礎になった重大な発見の周辺の
エピソードは、有名な内容だが、何度読んでも面白い。
本書の大まかなメッセージは、
科学は再現可能であることが必要である、ということで、
再現が難しい事象については適用しにくい。
統計手法によって、全体としての再現性は得られたが、
一つひとつの挙動については今の科学では解明できそうもない。
だが過去にも科学者は制約の中でさまざまな発見をして
知識を深めており、まだまだ未解明で残された領域についても
少しずつ知識を深めていくに違いない。
…という内容。
エッセイなので、科学の方法について厳密に論証しているわけでもなく、
また著者自身も特にこれだという考えがなさそうである。
だがそれが逆に、自分でニュートラルに考えることができてよかった。
Posted by ブクログ
頂いた本。
科学とは自然世界の切り取り方の一つにすぎず、多くの仮定の上に成立した「非現実的」な概念であることや、科学の役目・限界について再認識することができた。
古い本だが、今日の科学に対しても、振舞い方は不変だと思う。
Posted by ブクログ
科学の限界について成り立ちや定義から解説する本。これは面白いです。例えば統計を取る必要性、誤差が存在することの気持ち悪さ。そういった今まで自分の中に溜まっていた科学に関する疑念や不安感をわかりやすい形にして説明されていました。科学は絶対的な存在ではなく、あくまで人間が自然を分析することで考えられた正しいであろうものを集めて、都合のいいものを使っているという説は新鮮でした。知識量は高校の授業+α位なので大学生にオススメ。ただこの本が出版されたのは約50年前。誰か現在の科学に沿った改訂版を書いてくれないかな。
Posted by ブクログ
[ 内容 ]
人工頭脳,原子力の開発、人工衛星など自然科学の発展はめざましい。
しかし同時にその将来のありかたについて論議がまき起っている。
著者は、自然科学の本質と方法を分析し、今日の科学によって解ける問題と解けない問題とを明らかにし、自然の深さと科学の限界を知ってこそ次の新しい分野を開拓できると説く。
深い思索の明晰な展開。
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[ 関連図書 ]
[ 参考となる書評 ]
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科学者でありエッセイの名手として知られる著者が、自然科学がどのような方法にもとついて進められているのか、またその限界はどこにあるのかといった問題について、わかりやすく解説している本です。
われわれの常識にもなっている科学的世界像には、一般に知られていないさまざまな問題が含まれており、自然のなかにはわれわれ人間に知られていない多くのことがあるということを、測定や統計にまつわる具体的な例をあげて解説がなされています。
著者は現在の科学の発展を「菌糸のような発達のしかた」というたとえで説明しています。「非常にうねうねしながら、無数に枝分れして、ずいぶん広い範囲にわたって伸びていっている。それである方向には、非常に深く入っている。それからまた枝分れも非常にたくさんあって、ありとあらゆる分野にまで、それぞれの知識が行きわたっている。しかしその間に、取り残された領域が、まだたくさんある。いわば線の形をとって進歩しているのであって、面積全体をおおう、すなわち自然界全体をおおうという形にはなっていないのである」。こうした卓抜な比喩を用いつつ、自然科学研究の現実のすがたをわかりやすく述べられており、おもしろく読むことができました。