諸富徹のレビュー一覧
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社会科学、特に経済学には苦手意識を持ってきた。
それを払拭するきっかけを与えてくれたと断言まではできないが、経済の仕組みを税という観点から垣間見せてくれる。
世界と日本の課税制度の歴史を概説しているが、納税という行為を通して、民主主義に参加し積極的に社会を支え、担って行こうという意識を持たせてくれる。
本書の論点は、「納税を義務と考えるのではなく、権利と考えるべきである」というものだ。
納税者がその使途に対して発言を行い、改善を求める「権利」を獲得するプロセスだと理解すべき(p16)
との主張が、個人的には新鮮で引き込まれた。
索引や参考文献表が備わっていないのが、残念である -
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パナマ文書の公開依頼、GAFAを中心としたグローバル企業の露骨な税金対策が話題となり、その対策のために各国がGAFAへの課税方法を検討している。
基本的にこうした企業は、無形資産(システムなど)をタックスヘイブンに安値で売却し、その無形資産が価値を生み出しているように見せることで、利益移転をしている。
無形資産は固定資産などとは違い、正確な価値の算出が難しいため、この戦略に対する対策は現状ない。
そうした状況下で、OECDを中心とした世界各国が個別課税ではなく、グローバルで共通に課税するスキームを検討している。
元々課税権は国ごとに個別に規定されており、まさにこの課税権こそが国家権力の -
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多国籍企業が租税回避を行っていること、およびそのやり方については、日経新聞等から知ってはいたが、本書を読むとその実態がよく分かる。
制度上可能であれば当然やるだろう。本書でも触れている通り、常に収益を上げなければならないし、収益に対する株主のプレッシャーもあるからだ。
しかし税逃れは、税負担の公平性という観点からも決して許されることではない。そこで各国政府または政治経済同盟が、課税の仕組みを作る。それに対し多国籍企業がと、いたちごっこが続いているさまは興味深い。
この問題を解決するための手段が、タイトルにもなっているグローバル・タックスである。しかし、各国の思惑もあり、うまくまとまってい -
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20201204-1230 所得税のフラット化、法人税率の引き下げ、タックスヘイブン利用による租税回避など、現代の税制の抱える問題点を列挙しつつ、旧来の国民国家税制と異なる新し「課税主権」の在り方を展望している。具体的にはEU、国連などの従来の国家の枠組みを超えた国際機関による「グローバルタックス」の現状を紹介している。国際連帯税や金融取引税は自分が税制担当だったころに導入が取り沙汰されていたけど、現在は浸透しつつあるみたいだ。
後、あとがきにあった志賀櫻氏がなくなっていたことを知り、ちょっとショック…よくレファレンスで利用させていただいたなあ。ご冥福をお祈りいたします。 -
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人口減少時代を迎え、都市はどのようなまちづくりを行うべきかを述べた本。都市が自前でエネルギー政策を実施し、その収益で社会政策を進めるシュタットベルケという手法を紹介された。資源がない日本で、原子力の使用も見込めず、自由化されたとはいえ東北電力などの大手がエネルギーを牛耳っている状況の中、自治体が独自にエネルギー政策を進めるのは非常に難しく現実的ではないように思う。ただ、手段はいろいろあるとはいえ、なんらかの形で自治体が稼ぐ手法を身につけなければならないことは事実だと思う。住民の意識を高め自律を促すことは、大きな都市であればあるほど難しい。ただでさえ仕事で手一杯な状況である。働き方改革を進め、住
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イギリス、ドイツ、アメリカの近代以降の租税論通史の本。ホッブス、ロックにはじまり ニューディール政策、現代の国際租税回避まで、わかりやすく説明されている。それぞれに ドラマがある
個人の所得に応じた累進課税による所得税、消費(支払能力)を反映した内国消費税、富の再配分としての相続税、独占企業政策や個人所得税の補完としての法人税 、戦時の異常税率などの導入経緯、根拠、歴史的変遷を記述
次の論述と税金との関係性を整理することから 始まる
*ホッブスやロックの国家論
*アダムスミスの国富論
*ヘーゲルの市民社会の原理
ドイツ租税論(シュタイン、ワグナー)
*個人と国家は運命共同体
*納税=個人 -
Posted by ブクログ
少し堅く言えば、租税を通して見た国家論です。扱っている範囲が近代の欧米、それも英米仏と独が中心なので、そういう意味での限界はあるでしょうが、現在の日本国民が考えなければいけない項目はキチンと提示されていると思います。バランス良く叙述しながら、これからの最大の課題である、国境を超えた金融取引と課税回避行為について、読者が前向きに考える材料を提供しています。
国家の役割と限界、グローバル化してゆく資本主義経済の制御、そのためのトービン税(金融取引税)など新たな税制の可能性、と書くとなんだかとっつきにくそうな印象を受けるでしょうが、大学教養課程程度、かつ、表現も平易で読みやすい本です。 -
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税という社会の仕組み
2027年5月10日 初版第一刷発行
著者:諸富徹
ちくまプリマー新書
税金が政治論争の焦点になる中で、あまり自分自身が税そのものについて知識ないことに気づいた。一度基本的な所を勉強してみたかったので通読。欧米と日本の税金の歴史にさらっと触れたあと、個々の議論。
印象に残るのは、日本の税金システムは明治政府が税金システムを欧州から学び輸入したもので、国民が勝ち取ったものではないということ。自分を含めて納税意識が低いのは、歴史的なもののだと妙に納得してしまった。サラリーマン給料の源泉徴収システムはそれを助長している。
移転価格税制は仕事で時折聞くものの、あまり詳しくな -
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ネタバレ税金は、納税者が改善を求める権利を獲得するプロセス。納税は本来、権利である。
市民革命以降、発言のための権利のために税金を払うもの。
日本では、上から課されるもの=政府を選ぶ、という実感が持てない。
株主主権を徹底すると、タックスヘイブンを利用しない企業は、努力していない、と見なされる。リーマンショックで批判されて、納税を企業の社会的責任とする動きが出てきた。
王権神授説から社会契約説=国家と市民は契約によって国政という仕事を任せ、その対価として税金を払う。
かつては王家の財産で国民の面倒を見ていた。今は無産国家。国家にはなにもない。
税は権利か義務か。公共的仕事をして貰う権利がある。その