車谷長吉のレビュー一覧
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心が近鉄電車の中にまだ自分もいるような感じで動けない。
夏目漱石もゆうとったらしいけど、やっぱり「書くということ」は“命の交換”なんやと。
命を削りながら、描くというよりは、命と交換するくらいの気持ちでないとあかんということやとおもう。
この小説では「池に沈んだ月を掬い取る」という表現をしているけど、そんなどうなるかわからんようなもんに命をかけるとは、恐れ入るしかない。そして文学とはそうなんやと。
この小説は、書くということで作者が命を差し出す迫力に圧倒される。読後、しばらく心が痺れて動けないでいる。
2022/1/29 再読(コロナ罹患のため療養中に)
人や出来事を丁寧に彫り起こ -
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小説家を目指しつつ、東京で仕事をしていたが、とあるきっかけですべてを捨てて尼崎の居酒屋の女将に匿ってもらってほそぼそと暮らす男の人生。
何もかも捨て尼崎に降り立った生島は、居酒屋のセイ子に拾われ、ボロアパートでモツの下処理をする仕事を貰う。隣には刺青師、色っぽいその妻アヤコが住み、周辺にはカタギではない人たちが行き交う。
あんまり調べてないけど、作者の私小説的な部分が多いのではないかと思う。ちょうどゴールデンウィークに、吾妻ひでお『失踪日記』『うつうつひでお日記』を読んだところだったことや、もともとつげ義春なんかを愛読していたので、こういう世界は大歓迎。
読み始めから「併し(しかし)」な -
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2015年に69歳で逝去した車谷長吉が、朝日新聞で連載していた人生相談をまとめた一冊。
とはいうものの極めてアクの強い作風を持ち、「人生が破綻していく最中でも人間は甘美を感じることができる」という人生観を持つ著者のことであり、一般的な人生相談からはあまりにかけ離れている。
例えば夫の浮気を知りながら世間体を気にする余りに身動きが取れなくなっている女性に対する助言はこのように語られる。これが真理だとしても、なかなかここまでストレートにアドバイスをできる人間はこの世にはいないだろう。
「自分の世間体など捨ててしまえばよいのです。恥をかいて、醜態をさらせばいいのです。道の真ん中で、夫とその女に -
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三重県の赤目四十八瀧を、わけあり男女が死ぬ場所を探してさすらう話かと思って読んだのですが、全然違いました。
主人公の生島与一は、もともと東京の会社員だったのだが、彼女と別れたことをきっかけに会社を辞め、流れ流れて今は尼崎のぼろアパートで、モツを串に指して日銭を稼ぐ暮らしをしている。
やけになっているわけではない。
何かが決定的に欠落してしまったのだろう。
同じアパートに暮らすわけありの人々に、心ならずも関わり合いになりながら、やはり主体性なく流されていく主人公。
テレビも電話もなく、所持品と言えば風呂敷に包んだ2冊のノオトと万年筆にインク壺くらい。
鍵のかからないアパートの部屋で、日がな -
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新聞に連載されていたらしい、人生相談の文庫化。
最近は新聞を取っていないので、そのようなコーナーがまだあることにまず驚く。
昔は興味深く読んだものだけど。
しかし、ふと思った…
本当に一般人の投稿なのか?
それにしては文体が統一されすぎている気がしないでもないが、本当だと信じるとして。
車谷氏は、それぞれのお悩みにつき、ある時は毒舌でもって切り捨て、ある時は真摯に相談に乗っているように見せかけながらも、韜晦しているのでは?と思わせる。
その回答は一見、「言ってること違うじゃない!」という感じなのだが、実は「言いたい事」は全部同じなのかもしれない。
「あなたより救われない人がいます」
「人 -
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2015年最後に読んだ本。著者の車谷長吉さんが2015年に亡くなったから年内に、と思って。(誤嚥性の窒息が死因だったとかでけっこうショッキングだった)
直木賞受賞作。この映画で寺島しのぶが賞を総なめしたイメージが強い。
33歳の生島は、歩んでいたエリート街道を外れて底辺の生活へと身を落とす。尼崎にあるアパートの一室で、病気で死んだ牛や豚の臓物を串に刺し続けるという仕事にありつく。
向かいの部屋からは彫眉という男が女たちに刺青を彫る苦痛の声が漏れてくる。
階下の部屋には彫眉の情婦で妙に艶かしい女・アヤ子が住み、生島は密かに心惹かれていたのだが、ある日アヤ子が突然部屋を訪れたことから、事態は動き -
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ひりひりするような文章を、もっと読みたくなる。
かつて読んだことがありましたが、また私の年齢環境想いも違って、新鮮に楽しめました。
最後まで読み進め、瀧での放浪、その後の泥まみれの映像だけ、自分の脳裏に当時しっかりと焼き付けていたようで、そのシーンにあたるところでそうだーそうだ、これだとぴたりとあてはまりました。
見てはいないのだけれど、どうしても、映画、寺島しのぶ、というイメージに引っ張られてしまう面は否めない。
あれ、アヤちゃんだったのか、いやそれともこの赫毛の女なのか?と思い読み進め、ああアヤちゃんなのか、と合点の行く始末。
ちなみに他の出演者は誰だったのさと気になって調べてみ