車谷長吉のレビュー一覧
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文庫の帯に加藤シゲアキが推薦文を寄せていたので読んでみた。
著者は2015年に亡くなった直木賞作家の車谷長吉。
朝日新聞土曜版に連載されていたもので、読者からの悩みに車谷氏が答えるというシンプルな人生相談形式なのだが、この回答のぶっ飛び具合がなかなか凄い。
一例を挙げると、定期的に教え子の女子生徒に恋心を抱いてしまうという妻子持ちの高校教師に対して
「生が破綻した時に、はじめて人生が始まるのです。」
「好きになった女生徒と出来てしまえば、それでよいのです。」
「阿呆になるのが一番よいのです。あなたは小利口な人です。」
と唆したと思えば、人の不幸を望んでしまう自身の心を入れ替えたいという主婦に対 -
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素晴らしい本に出会いました。知らないままでいずにすんでよかった!朝日新聞に連載された車谷長吉さんの人生相談。ただ、なんとか悩みにこたえようとする人生相談とはまったく違う。ある悩みへの車谷さんの返答の冒頭が「あなたの相談を読んで、この人は一生救われないなと思いました」…!さらには車谷さん自身が重度の障害者であり、生まれつき鼻で息ができないという。手術のときは「失明してもよい」という同意書にサインをしたという。これではどんな悩みも吹き飛んでしまう。つまりは、人生には悩みがあって当たり前。解決しようなんて虫がいいんじゃないですかと。そんなメッセージを感じます。なにかに悩んだら、駆け込み寺のようにこの
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近鉄の駅に夏になると貼られる赤目四十八瀧の観光ポスター。毎回気になるのだけれど、旅慣れた京都でも奈良でも大阪でもなさそうな場所で、なんとなくふわふわした「いつか…」のままちょっと心の奥にしまってある現実感のないところ。そこがタイトルだったので手にした本。
久しぶりにこれだけ黒いマグマのような力のある小説を読みました。
尼崎・やくざ・刺青といった好みのジャンルではなかったけれど、ドロドロとした臓物までさらけ出すように刹那的に底辺を生きる登場人物たちの描写から感じるものが色々ありました。それは感動とかそういうものではなくて、リアルにこういう世界に生きている人たちもいるのだろう、とにかく自分も今日 -
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赤目四十八瀧というのは、三重県名張市の近くにある有名な観光地である。といっても、近くにいながら僕は一度も訪れたことがない。一度は行ってみたいと思っていたが、この作品を読んだら行く気が失せた。それは何故かと問われても説明がうまくできないのだが、背中からぞくぞくするような寂寥感が迫ってくる描写に、妙に不吉な臭いを連想し困ってしまった。
作品の中に、主人公の生島とアヤちゃんが、死に場所を探しながら滝壷を覗き込むシーンがある。これが何とも切ない。最終のバスに乗り遅れて、バス停で呆然と佇むような感覚とでも言おうか、次に何をしたらいいのか分からないもどかしさを感じるのである。
夕闇が迫るとともに観光客の姿 -
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自由人の人生は、ひやかし人の人生といえよう
生来の自己評価の低さや
それを補うための実存主義的冒険主義
そういったものに根差した鼻つまみ者の悲しみが
自由人にもあるけれど
大学まで出させてもらっておきながら
今は鶏肉を串に刺して生きている、そんな生き方は
単に易きに流れる人のだらしなさとすら見てもらえない
底辺に生きる人々の仲間づらして
その実、精神的には上から覗き見している偽善者、ひやかし者
そう思われても仕方がないのだった
そういう、他人の冷ややかな目線にさらされることが
かえって安らぎに思えるというならば
彼は、そう、マゾヒストである
尼崎でのやくざな生活にだんだんなじんでいく主人公を
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回答者の車谷さんの歩んで来た人生が壮絶過ぎて、相談者の悩みが霞んでしまう。
相談に対し、ご自身の苦悩や人生経験を述べられ、
「人生に救いはないのだから、ありのまま今の自分を受け入れ、阿呆になり黙々と生きなさい」
と諭す、斬新な回答スタイル。
車谷さんの苦悩が桁違いに大きいので、相談者の悩みはちっぽけに思われ、昇華される。
まさに毒をもって毒を制す!
解説で万城目さんがこのことを、「殺す」と表現されていたのが可笑しかった。
「人の不幸を望んでしまいます」という相談には、
「子供が不治の病にかかるとか、夫が事故死するとか、
苦い思いを舐めない限り救われないでしょう。
あなたに待っているのは愚 -
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解説の万城目学が書いているように、悩みを次々と殺していく、車谷長吉さんのお悩み相談。
朝日新聞の連載のときも、車谷さんの当番回が来るのがいつも楽しみでした。
もはや悩みの回答になっていませんが、妙に痛快で、読みながらふっと笑ってしまえる不思議。
中年には絶望的な切り返しがおおいけれど、まだまだ先が長い若者にはあたたかい目線があったりするのも、なんだか和みます。
読んでいるうちに、「私の悩みなんて、たいしたことないのかもしれないなぁ」と思えてきます。
個人的に一番好きなのは、「同僚の女性がむかつきます」の回答。
傑作だと思います。
車谷さんに言われちゃうと、もう山登りして歌うしかないかなと思 -
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この本を読み始めてすぐに、頬を平手で叩かれたような感覚に陥った。
目が覚めるとはこういうことか。
最初の相談についての答えは、自分の不運を嘆くことは考えが甘い、覚悟がないとけんもほろろである。相談者の悩みに寄り添って回答するありがち悩み相談とは一線を画している。
もうぐうの音もでない。
この本は車谷長吉が朝日新聞の悩み相談で回答したものをまとめたものである。
朝日新聞が車谷先生を起用した心意気はあっぱれ。
こんなこと言っちゃっていいの?とハラハラするほどの珍回答(?)続出。
教え子の女性とが恋しいとの相談には、恐れずに仕事も家庭も失ってみたらと説く!!
人生には救いがない。その救いのない人 -
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冥い底辺に蠢く人々を圧倒的な筆力で描いた作品。
内容も文体もまったく違うけど、開高健の「日本三文オペラ」(ちょっとスカッと抜けすぎてるか)や「ロビンソンの末裔」(うん、こっちの方が近い)、中上健二(作品はうろ覚えだけど)などを思わせる雰囲気があります。
虚無でありながら、日も差込まぬ暑い部屋でひたすら串を打ち続ける「私」。無関心のようで気を使ってくれる口の悪い焼き鳥屋の女主人。口もきかず、ただ毎朝夕に肉を配達する男。不気味な恐怖感を奏でる刺青師。そしてその愛人らしき美人。たむろするくすぶり(下っ端ヤクザ)達。登場人物は多彩で、それぞれが見事な造形です。
ただ単に描いたと言うより、重い情念が書か