車谷長吉のレビュー一覧

  • 漂流物・武蔵丸

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    帯に「私小説の極北」とあるが、この短編集に収められているのは必ずしも私小説だけではない。母親の語りが続く「抜髪」、料理人時代の同僚が語る「漂流物」、直木賞受賞時の日記など、バラエティに富んだ構成で著者の作品の幅が楽しめる。
    「漂流物」として世捨て人を目指して生きてきた著者ではあるが、本書で語られる様々な文学賞(非)受賞の顛末などを知ると、あえて俗物性を全開に自身を戯画化していて、そうした所こそ自分の肉を切ってこその小説であるとの持論が徹底されている。まさに「最後の文士」とも呼ぶべき作家である。

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    2024年11月09日
  • 車谷長吉の人生相談 人生の救い

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    文庫の帯に加藤シゲアキが推薦文を寄せていたので読んでみた。
    著者は2015年に亡くなった直木賞作家の車谷長吉。
    朝日新聞土曜版に連載されていたもので、読者からの悩みに車谷氏が答えるというシンプルな人生相談形式なのだが、この回答のぶっ飛び具合がなかなか凄い。
    一例を挙げると、定期的に教え子の女子生徒に恋心を抱いてしまうという妻子持ちの高校教師に対して
    「生が破綻した時に、はじめて人生が始まるのです。」
    「好きになった女生徒と出来てしまえば、それでよいのです。」
    「阿呆になるのが一番よいのです。あなたは小利口な人です。」
    と唆したと思えば、人の不幸を望んでしまう自身の心を入れ替えたいという主婦に対

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    2023年08月06日
  • 車谷長吉の人生相談 人生の救い

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    素晴らしい本に出会いました。知らないままでいずにすんでよかった!朝日新聞に連載された車谷長吉さんの人生相談。ただ、なんとか悩みにこたえようとする人生相談とはまったく違う。ある悩みへの車谷さんの返答の冒頭が「あなたの相談を読んで、この人は一生救われないなと思いました」…!さらには車谷さん自身が重度の障害者であり、生まれつき鼻で息ができないという。手術のときは「失明してもよい」という同意書にサインをしたという。これではどんな悩みも吹き飛んでしまう。つまりは、人生には悩みがあって当たり前。解決しようなんて虫がいいんじゃないですかと。そんなメッセージを感じます。なにかに悩んだら、駆け込み寺のようにこの

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    2023年07月24日
  • 赤目四十八瀧心中未遂

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    異質な作品。
    作者は暗くある種陰惨な私小説をキャリアとしていて、本作品もベースは世捨て人の作者自身を投影した様な一人称視点。
    にも関わらず、本作品の直木賞受賞には納得をしてしまう寓話性があり、作品が締まった瞬間物語の世界から弾き出された様な寂しさを感じた。
    特に女性とのさもしい縺れた恋情を描くのが巧すぎる。

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    2023年06月28日
  • 赤目四十八瀧心中未遂

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    日常を虚で湿った目線でかすめる言葉たちとなにかの起きていることはわかるがなにが起きているのかはわからない感覚とがまじりあって神話的な雰囲気を醸成している。ただ二十四節で終わってほしかった。釣れない釣りを続けるひとたち好きだった。

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    2022年12月25日
  • 赤目四十八瀧心中未遂

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    社会の底辺で生きる人達と、そこに身を置かざるを得なくなった主人公の話。
    文章が面白過ぎて、全然好きな題材じゃないのに怖い物見たさもあり一気に読んでしまった。
    主人公が「生きる世界が違う」と体良く追い出され更に女の後を追いかけて彼の地を離れるまでの冒険譚のような話だった。

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    2022年10月03日
  • 雲雀の巣を捜した日

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    私小説よりも私小説的な。エッセイ・俳句その他雑文集ではあるが、様々なトラブルへの身の処し方やものの考え方に著者らしさが溢れ出ている。白洲正子に見出されたというのも本書で初めて知った。

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    2022年04月13日
  • 赤目四十八瀧心中未遂

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    上手い。文章が、ストーリーが、人間描写が驚くほど上手い。地下鉄神楽坂駅の伝言板に始まるあっち側とこっち側を意識させる世界観。会社を辞めてアパートの一室でモツを串に刺し続ける「私」。背中に迦陵頻伽の刺青のある隣室の女がある日「うちを連れて逃げてッ」ーこの目に見えない境界線は何なんだろう。そして本当にそこに境界線はあるのだろうか。何がそれを作るのだろう。さらにあっち側にも魅力が垣間見える。近所の焼鳥屋が肉を串に刺し続ける仕事、時給1200円と聞いて、それは違うと思った。

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    2021年11月19日
  • 赤目四十八瀧心中未遂

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    近鉄の駅に夏になると貼られる赤目四十八瀧の観光ポスター。毎回気になるのだけれど、旅慣れた京都でも奈良でも大阪でもなさそうな場所で、なんとなくふわふわした「いつか…」のままちょっと心の奥にしまってある現実感のないところ。そこがタイトルだったので手にした本。

    久しぶりにこれだけ黒いマグマのような力のある小説を読みました。
    尼崎・やくざ・刺青といった好みのジャンルではなかったけれど、ドロドロとした臓物までさらけ出すように刹那的に底辺を生きる登場人物たちの描写から感じるものが色々ありました。それは感動とかそういうものではなくて、リアルにこういう世界に生きている人たちもいるのだろう、とにかく自分も今日

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    2021年02月06日
  • 赤目四十八瀧心中未遂

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    赤目四十八瀧というのは、三重県名張市の近くにある有名な観光地である。といっても、近くにいながら僕は一度も訪れたことがない。一度は行ってみたいと思っていたが、この作品を読んだら行く気が失せた。それは何故かと問われても説明がうまくできないのだが、背中からぞくぞくするような寂寥感が迫ってくる描写に、妙に不吉な臭いを連想し困ってしまった。
    作品の中に、主人公の生島とアヤちゃんが、死に場所を探しながら滝壷を覗き込むシーンがある。これが何とも切ない。最終のバスに乗り遅れて、バス停で呆然と佇むような感覚とでも言おうか、次に何をしたらいいのか分からないもどかしさを感じるのである。
    夕闇が迫るとともに観光客の姿

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    2021年01月25日
  • 車谷長吉の人生相談 人生の救い

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    大半を通勤バスの中で読んでいたので、
    声を出して笑い出しそうなところを、
    堪えるのが大変だった。

    読みすすめるにつれて、
    車谷長吉という魂から紡がれた言葉が、
    いつだって柱となり、
    普遍性を生み出していることに慄き、
    心の底からため息が出た。

    身も蓋もないような言葉の連なりなのだが、
    それが一貫していると、
    究極的な真理とおもいやりを体現するようだった。
    特に10代、もしくは20代前半の相談者への、
    優しさたるや。

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    2020年12月12日
  • 車谷長吉の人生相談 人生の救い

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    先天的な障害と貧乏と…色々薪炭を舐めて仏の道に明るい作者の前にあっては、どんな質問も薄っぺらで、どう一蹴されるのか心配になってしまう。それでいて爽快。

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    2019年10月14日
  • 赤目四十八瀧心中未遂

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    文体が古臭くて湿っぽくてクセがあって、読みやすいわけではないけど、何となく引き込まれる。主人公やアヤちゃんがどういういきさつで今の生活に至っているのか、あまり触れていないことが興味を引き立たせる。主人公が最終的には普通の生活に戻ったということにさらにびっくり。

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    2019年06月30日
  • 赤目四十八瀧心中未遂

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    選んでここにきた主人公と、ここでしか生きられない人との対比が生々しく、歴然としている。そしてそこがこの作品の面白さだと感じます。暗くて救いようがないのに、どこかあっけらかんとしている。映画を見たときは幼くて全く理解できなかったけど、リトライの思いで本作を手に取って良かった!かなり好きな作品です。

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    2018年02月17日
  • 赤目四十八瀧心中未遂

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    自由人の人生は、ひやかし人の人生といえよう
    生来の自己評価の低さや
    それを補うための実存主義的冒険主義
    そういったものに根差した鼻つまみ者の悲しみが
    自由人にもあるけれど
    大学まで出させてもらっておきながら
    今は鶏肉を串に刺して生きている、そんな生き方は
    単に易きに流れる人のだらしなさとすら見てもらえない
    底辺に生きる人々の仲間づらして
    その実、精神的には上から覗き見している偽善者、ひやかし者
    そう思われても仕方がないのだった
    そういう、他人の冷ややかな目線にさらされることが
    かえって安らぎに思えるというならば
    彼は、そう、マゾヒストである
    尼崎でのやくざな生活にだんだんなじんでいく主人公を

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    2015年06月12日
  • 車谷長吉の人生相談 人生の救い

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    回答者の車谷さんの歩んで来た人生が壮絶過ぎて、相談者の悩みが霞んでしまう。
    相談に対し、ご自身の苦悩や人生経験を述べられ、
    「人生に救いはないのだから、ありのまま今の自分を受け入れ、阿呆になり黙々と生きなさい」
    と諭す、斬新な回答スタイル。
    車谷さんの苦悩が桁違いに大きいので、相談者の悩みはちっぽけに思われ、昇華される。
    まさに毒をもって毒を制す!
    解説で万城目さんがこのことを、「殺す」と表現されていたのが可笑しかった。

    「人の不幸を望んでしまいます」という相談には、
    「子供が不治の病にかかるとか、夫が事故死するとか、
     苦い思いを舐めない限り救われないでしょう。
     あなたに待っているのは愚

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    2015年03月01日
  • 車谷長吉の人生相談 人生の救い

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    解説の万城目学が書いているように、悩みを次々と殺していく、車谷長吉さんのお悩み相談。
    朝日新聞の連載のときも、車谷さんの当番回が来るのがいつも楽しみでした。

    もはや悩みの回答になっていませんが、妙に痛快で、読みながらふっと笑ってしまえる不思議。
    中年には絶望的な切り返しがおおいけれど、まだまだ先が長い若者にはあたたかい目線があったりするのも、なんだか和みます。
    読んでいるうちに、「私の悩みなんて、たいしたことないのかもしれないなぁ」と思えてきます。

    個人的に一番好きなのは、「同僚の女性がむかつきます」の回答。
    傑作だと思います。
    車谷さんに言われちゃうと、もう山登りして歌うしかないかなと思

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    2013年04月30日
  • 車谷長吉の人生相談 人生の救い

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    ネタバレ

    回答の意味がよく分からないところがありましたが、悩みを人に解決して貰おうと言うのが無理な相談なのかと思いました。

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    2013年04月30日
  • 車谷長吉の人生相談 人生の救い

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    この本を読み始めてすぐに、頬を平手で叩かれたような感覚に陥った。
    目が覚めるとはこういうことか。
    最初の相談についての答えは、自分の不運を嘆くことは考えが甘い、覚悟がないとけんもほろろである。相談者の悩みに寄り添って回答するありがち悩み相談とは一線を画している。
    もうぐうの音もでない。

    この本は車谷長吉が朝日新聞の悩み相談で回答したものをまとめたものである。
    朝日新聞が車谷先生を起用した心意気はあっぱれ。
    こんなこと言っちゃっていいの?とハラハラするほどの珍回答(?)続出。
    教え子の女性とが恋しいとの相談には、恐れずに仕事も家庭も失ってみたらと説く!!

    人生には救いがない。その救いのない人

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    2013年04月20日
  • 赤目四十八瀧心中未遂

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    冥い底辺に蠢く人々を圧倒的な筆力で描いた作品。
    内容も文体もまったく違うけど、開高健の「日本三文オペラ」(ちょっとスカッと抜けすぎてるか)や「ロビンソンの末裔」(うん、こっちの方が近い)、中上健二(作品はうろ覚えだけど)などを思わせる雰囲気があります。
    虚無でありながら、日も差込まぬ暑い部屋でひたすら串を打ち続ける「私」。無関心のようで気を使ってくれる口の悪い焼き鳥屋の女主人。口もきかず、ただ毎朝夕に肉を配達する男。不気味な恐怖感を奏でる刺青師。そしてその愛人らしき美人。たむろするくすぶり(下っ端ヤクザ)達。登場人物は多彩で、それぞれが見事な造形です。
    ただ単に描いたと言うより、重い情念が書か

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    2016年07月31日