東京から流れつき、どこに行くあてもない「私」は日の当たらない蒸し暑いアパートの一室でモツを串に刺し続けた。向いの部屋に住む女の背中一面には、極楽の鳥、迦陵頻伽(カリョウビンガ)の刺青があった。ある日、女は私の部屋の戸を開けた。「うちを連れて逃げてッ」──。圧倒的なストーリーの巧みさと見事な文章で、底辺に住む人々の情念を描き切る。直木賞受賞で文壇を騒然とさせた話題作。寺島しのぶ主演の映画化も、日本映画大賞など数々の賞を受賞。
Posted by ブクログ 2021年11月19日
上手い。文章が、ストーリーが、人間描写が驚くほど上手い。地下鉄神楽坂駅の伝言板に始まるあっち側とこっち側を意識させる世界観。会社を辞めてアパートの一室でモツを串に刺し続ける「私」。背中に迦陵頻伽の刺青のある隣室の女がある日「うちを連れて逃げてッ」ーこの目に見えない境界線は何なんだろう。そして本当にそ...続きを読む
Posted by ブクログ 2021年02月06日
近鉄の駅に夏になると貼られる赤目四十八瀧の観光ポスター。毎回気になるのだけれど、旅慣れた京都でも奈良でも大阪でもなさそうな場所で、なんとなくふわふわした「いつか…」のままちょっと心の奥にしまってある現実感のないところ。そこがタイトルだったので手にした本。
久しぶりにこれだけ黒いマグマのような力のあ...続きを読む
Posted by ブクログ 2021年01月25日
赤目四十八瀧というのは、三重県名張市の近くにある有名な観光地である。といっても、近くにいながら僕は一度も訪れたことがない。一度は行ってみたいと思っていたが、この作品を読んだら行く気が失せた。それは何故かと問われても説明がうまくできないのだが、背中からぞくぞくするような寂寥感が迫ってくる描写に、妙に不...続きを読む
Posted by ブクログ 2016年01月24日
すさまじい小説でした。「私」は、あらゆるものを捨て去った底辺で生の、すなわち真の言葉がうまれるところへと流れてきたけれど、自分はそこの人々のように堕ち切れない。それが己の原罪の表れだと思っている(だからセイ子ねえさんは「私」を真面目な人間だと言う)。表題からして「未遂」と言っているから、そのことは最...続きを読む
Posted by ブクログ 2015年06月12日
自由人の人生は、ひやかし人の人生といえよう
生来の自己評価の低さや
それを補うための実存主義的冒険主義
そういったものに根差した鼻つまみ者の悲しみが
自由人にもあるけれど
大学まで出させてもらっておきながら
今は鶏肉を串に刺して生きている、そんな生き方は
単に易きに流れる人のだらしなさとすら見てもら...続きを読む
Posted by ブクログ 2016年07月31日
冥い底辺に蠢く人々を圧倒的な筆力で描いた作品。
内容も文体もまったく違うけど、開高健の「日本三文オペラ」(ちょっとスカッと抜けすぎてるか)や「ロビンソンの末裔」(うん、こっちの方が近い)、中上健二(作品はうろ覚えだけど)などを思わせる雰囲気があります。
虚無でありながら、日も差込まぬ暑い部屋でひたす...続きを読む