感情タグBEST3
Posted by ブクログ 2023年06月28日
異質な作品。
作者は暗くある種陰惨な私小説をキャリアとしていて、本作品もベースは世捨て人の作者自身を投影した様な一人称視点。
にも関わらず、本作品の直木賞受賞には納得をしてしまう寓話性があり、作品が締まった瞬間物語の世界から弾き出された様な寂しさを感じた。
特に女性とのさもしい縺れた恋情を描くのが...続きを読む巧すぎる。
Posted by ブクログ 2022年12月25日
日常を虚で湿った目線でかすめる言葉たちとなにかの起きていることはわかるがなにが起きているのかはわからない感覚とがまじりあって神話的な雰囲気を醸成している。ただ二十四節で終わってほしかった。釣れない釣りを続けるひとたち好きだった。
Posted by ブクログ 2022年10月03日
社会の底辺で生きる人達と、そこに身を置かざるを得なくなった主人公の話。
文章が面白過ぎて、全然好きな題材じゃないのに怖い物見たさもあり一気に読んでしまった。
主人公が「生きる世界が違う」と体良く追い出され更に女の後を追いかけて彼の地を離れるまでの冒険譚のような話だった。
Posted by ブクログ 2021年11月19日
上手い。文章が、ストーリーが、人間描写が驚くほど上手い。地下鉄神楽坂駅の伝言板に始まるあっち側とこっち側を意識させる世界観。会社を辞めてアパートの一室でモツを串に刺し続ける「私」。背中に迦陵頻伽の刺青のある隣室の女がある日「うちを連れて逃げてッ」ーこの目に見えない境界線は何なんだろう。そして本当にそ...続きを読むこに境界線はあるのだろうか。何がそれを作るのだろう。さらにあっち側にも魅力が垣間見える。近所の焼鳥屋が肉を串に刺し続ける仕事、時給1200円と聞いて、それは違うと思った。
Posted by ブクログ 2021年02月06日
近鉄の駅に夏になると貼られる赤目四十八瀧の観光ポスター。毎回気になるのだけれど、旅慣れた京都でも奈良でも大阪でもなさそうな場所で、なんとなくふわふわした「いつか…」のままちょっと心の奥にしまってある現実感のないところ。そこがタイトルだったので手にした本。
久しぶりにこれだけ黒いマグマのような力のあ...続きを読むる小説を読みました。
尼崎・やくざ・刺青といった好みのジャンルではなかったけれど、ドロドロとした臓物までさらけ出すように刹那的に底辺を生きる登場人物たちの描写から感じるものが色々ありました。それは感動とかそういうものではなくて、リアルにこういう世界に生きている人たちもいるのだろう、とにかく自分も今日を踏ん張って生きて少しでも今の場所から這い上がらなければ…という生へのリアルさでした。それには自分はここまで落ちていないという安心感もある。そして立ち止まり過ぎていたら、ここに落ちるかも…とう不安でもある。
日常で使う「しかし」という字は「併し」って書くことも知りました。
短めの小説だし、また疲れたら読んでみよう。
Posted by ブクログ 2021年01月25日
赤目四十八瀧というのは、三重県名張市の近くにある有名な観光地である。といっても、近くにいながら僕は一度も訪れたことがない。一度は行ってみたいと思っていたが、この作品を読んだら行く気が失せた。それは何故かと問われても説明がうまくできないのだが、背中からぞくぞくするような寂寥感が迫ってくる描写に、妙に不...続きを読む吉な臭いを連想し困ってしまった。
作品の中に、主人公の生島とアヤちゃんが、死に場所を探しながら滝壷を覗き込むシーンがある。これが何とも切ない。最終のバスに乗り遅れて、バス停で呆然と佇むような感覚とでも言おうか、次に何をしたらいいのか分からないもどかしさを感じるのである。
夕闇が迫るとともに観光客の姿もなくなった連瀑を覗き込み、「死ぬことについての意味など何もない」と思いながら、成り行きに任せて心中を決心していく主人公の姿が悲しい。安定した会社勤めを簡単に辞めて、隠れるように移り住んだ薄暗いアパートの一室で、臓物にひたすら串を刺していく毎日。欲もなく、自分を追いつめるように空気の如く生きる生島の姿は、まるで修験者のようでもある。凡庸と欲望に凝り固まった自分には生島の生き方は到底理解できない。“流される”と表現するのが一番合っているような気がするが、ただひたすら流され続ける生島の生き方は、人間を捨てた仮の姿であり、無欲が成せる崇高な姿ではない。魂を抜かれた“抜け殻”と表現するのが合っている。
作品の中で、生島が姫路に生まれ、小説を書いていたというエピソードが出てくるが、このあたりのあらすじは著者の過去を彷彿とさせるものがあり、自らの体験がベースになっている作品と言えるのかもしれない。関西の下町を舞台に、陰をもった人々の暗さをたっぷりと書き込んでいる筆致は、著者の分身とも言えなくもない主人公の生島の育ちの良さを時折垣間見せながら、まるで梅雨空から抜け出せないような暗い関西弁のイントネーションを使って、隠花植物のように暗さに溶け込まさせる。育ちの良さが発する輝きを無理矢理に封じ込めるという絶妙なバランス感覚をうまく表現し、著者独特のシュールな世界を作り出すことに成功している作品であった。
Posted by ブクログ 2019年06月30日
文体が古臭くて湿っぽくてクセがあって、読みやすいわけではないけど、何となく引き込まれる。主人公やアヤちゃんがどういういきさつで今の生活に至っているのか、あまり触れていないことが興味を引き立たせる。主人公が最終的には普通の生活に戻ったということにさらにびっくり。
Posted by ブクログ 2018年02月17日
選んでここにきた主人公と、ここでしか生きられない人との対比が生々しく、歴然としている。そしてそこがこの作品の面白さだと感じます。暗くて救いようがないのに、どこかあっけらかんとしている。映画を見たときは幼くて全く理解できなかったけど、リトライの思いで本作を手に取って良かった!かなり好きな作品です。
Posted by ブクログ 2016年01月24日
すさまじい小説でした。「私」は、あらゆるものを捨て去った底辺で生の、すなわち真の言葉がうまれるところへと流れてきたけれど、自分はそこの人々のように堕ち切れない。それが己の原罪の表れだと思っている(だからセイ子ねえさんは「私」を真面目な人間だと言う)。表題からして「未遂」と言っているから、そのことは最...続きを読む初からずっと分かってるんですよね。どう転んでも救われないことが分かっている終わりに向かうほど、アヤ子の哀切が刺さるようでした。
Posted by ブクログ 2015年06月12日
自由人の人生は、ひやかし人の人生といえよう
生来の自己評価の低さや
それを補うための実存主義的冒険主義
そういったものに根差した鼻つまみ者の悲しみが
自由人にもあるけれど
大学まで出させてもらっておきながら
今は鶏肉を串に刺して生きている、そんな生き方は
単に易きに流れる人のだらしなさとすら見てもら...続きを読むえない
底辺に生きる人々の仲間づらして
その実、精神的には上から覗き見している偽善者、ひやかし者
そう思われても仕方がないのだった
そういう、他人の冷ややかな目線にさらされることが
かえって安らぎに思えるというならば
彼は、そう、マゾヒストである
尼崎でのやくざな生活にだんだんなじんでいく主人公を
やがて周囲の人々は
心配混じりの親しみで遇するようになるのだが
しかし所詮は、綱渡りで生きている人々の群れであり
その終焉もあっけなくおとずれる
兄の不始末のカタで、人身売買にかけられた女は
自由に一瞬の夢を見たか
主人公を誘ってあてのない逃避行に出るのだった
Posted by ブクログ 2016年07月31日
冥い底辺に蠢く人々を圧倒的な筆力で描いた作品。
内容も文体もまったく違うけど、開高健の「日本三文オペラ」(ちょっとスカッと抜けすぎてるか)や「ロビンソンの末裔」(うん、こっちの方が近い)、中上健二(作品はうろ覚えだけど)などを思わせる雰囲気があります。
虚無でありながら、日も差込まぬ暑い部屋でひたす...続きを読むら串を打ち続ける「私」。無関心のようで気を使ってくれる口の悪い焼き鳥屋の女主人。口もきかず、ただ毎朝夕に肉を配達する男。不気味な恐怖感を奏でる刺青師。そしてその愛人らしき美人。たむろするくすぶり(下っ端ヤクザ)達。登場人物は多彩で、それぞれが見事な造形です。
ただ単に描いたと言うより、重い情念が書かせたという感じがする作品です。
いや、読み応えが有りました。
Posted by ブクログ 2021年08月02日
心が近鉄電車の中にまだ自分もいるような感じで動けない。
夏目漱石もゆうとったらしいけど、やっぱり「書くということ」は“命の交換”なんやと。
命を削りながら、描くというよりは、命と交換するくらいの気持ちでないとあかんということやとおもう。
この小説では「池に沈んだ月を掬い取る」という表現をしてい...続きを読むるけど、そんなどうなるかわからんようなもんに命をかけるとは、恐れ入るしかない。そして文学とはそうなんやと。
この小説は、書くということで作者が命を差し出す迫力に圧倒される。読後、しばらく心が痺れて動けないでいる。
2022/1/29 再読(コロナ罹患のため療養中に)
人や出来事を丁寧に彫り起こしながら、描いているとおもう。
正に彫刻刀で周りを削りながら、一つの仏像をかたどるようにして。
祈るより拝んでしまいたくなるような作品。
穢れの中にこそ、神聖性がこちらを見つめる何かがある。
いわんや、迦陵頻伽は蓮の咲くドブ池から飛び立つ。
素晴らしい作品でした。
Posted by ブクログ 2020年09月04日
主人公は自己評価が低く最初は太宰文学を読んでいるようなつまらない感じでしたが途中から状況が緊迫し一気に読み上げました。
登場人物はそれぞれキャラが立っていて印象的です。
映画ではあやちゃんを寺島しのぶが演じだそうだがかなり印象と違い残念。
Posted by ブクログ 2020年05月22日
小説家を目指しつつ、東京で仕事をしていたが、とあるきっかけですべてを捨てて尼崎の居酒屋の女将に匿ってもらってほそぼそと暮らす男の人生。
何もかも捨て尼崎に降り立った生島は、居酒屋のセイ子に拾われ、ボロアパートでモツの下処理をする仕事を貰う。隣には刺青師、色っぽいその妻アヤコが住み、周辺にはカタギで...続きを読むはない人たちが行き交う。
あんまり調べてないけど、作者の私小説的な部分が多いのではないかと思う。ちょうどゴールデンウィークに、吾妻ひでお『失踪日記』『うつうつひでお日記』を読んだところだったことや、もともとつげ義春なんかを愛読していたので、こういう世界は大歓迎。
読み始めから「併し(しかし)」なんていう言葉遣いなもんだから、これは結構苦手なやつかも、なんて思ったが、読みやすいです。
コテコテの関西弁に、ヤクザの会話など、わけの分からん部分もあろうが、これは主人公もわかっていない。我々が子供の頃に、大人の会話が全く意味をなしていないように聞こえていたものが再現されている。
裏社会と表をいったり来たりする浮遊感と、心中を決意するくらい思いつめたりする割に、具体的に逃げ出さない優柔不断な感じが、おそらく読んでいる人の8割位には理解できるのではないか。
また、純文学的に見たときに、章で小さく区切って、どうでもいいようなことを見つけたり話したりする、そういう感覚もみずみずしい。文章も概ね平易だし、妙な比喩をこねくり回して感情を表現したりもない。直球であるところに好感が持てる。
最後に、顛末後について1ページ、チラッと紹介してくれているのだが、顛末後の小説もあったら読んでみたいものである。
Posted by ブクログ 2019年07月07日
何もしないでいるにはあまりにも長い人生だから、何か意味が見出せないと、生きることの怖さや死ぬことの怖さを受け入れられない。
血なまぐさい湿り気が漂う不快さの中で、人間の芯の部分が常に見え隠れしていた。
捨てた・失ったと言えるのは、それだけのものをはじめは持っていたということであり、その違いは...続きを読む決定的。そして道を分けるのはその奥底に潜んだ僅かな違いかもしれないと思う。
Posted by ブクログ 2018年10月09日
『併し』が多いな、併し。っていうのが読み始めの印象。読み進めるうちにだんだん減ってはくるけど、たまに出てくる度に気になった次第。それによって引っ掛かりを覚えるから、漫然と読み進めてしまうのを防止する効果はあり。心中相手の最期は描かれていないとはいえ、最終的にはあらかたの結論が出てるから、純文学ってよ...続きを読むりエンタメ色の強いものとして、直木賞受賞に至ったのかしら。なぜ今のタイミングで本作かっていうと、今度赤目滝の近くまで行くから。
Posted by ブクログ 2017年12月04日
三重県の赤目四十八瀧を、わけあり男女が死ぬ場所を探してさすらう話かと思って読んだのですが、全然違いました。
主人公の生島与一は、もともと東京の会社員だったのだが、彼女と別れたことをきっかけに会社を辞め、流れ流れて今は尼崎のぼろアパートで、モツを串に指して日銭を稼ぐ暮らしをしている。
やけになって...続きを読むいるわけではない。
何かが決定的に欠落してしまったのだろう。
同じアパートに暮らすわけありの人々に、心ならずも関わり合いになりながら、やはり主体性なく流されていく主人公。
テレビも電話もなく、所持品と言えば風呂敷に包んだ2冊のノオトと万年筆にインク壺くらい。
鍵のかからないアパートの部屋で、日がな一日モツを串に刺し続ける。
そんな日常が淡々とつづられているのだが、これ、舞台は昭和53年のことなのである。
昭和53年と言えば、もうそろそろバブルもやってこようかというこの時期に、ふろしき、ノオト、インク壺。
一瞬パラレルワールドかと思ってしまった。
そしてこれ、直木賞受賞作品なんですよね。
芥川賞ではないんです。
文学、奥が深いなあ。
200ページ以上たってようやく話が動き始める。
大家であり雇用主であるセイ子ねえさんに、出ていくように促され、アヤ子に「一緒に逃げて」と言われ、晋平ちゃんは親戚の家にもらわれていき、彫師の男は不穏な動きを見せ始める。
誰もが思わせぶりで、核が見えない。
250ページを過ぎて、赤目四十八瀧へ向かう主人公とアヤ子。
底辺に生きるというのはどういうことか。
生と死、しがらみと矜持、男の性と女の性。
狭い世界に、むっとするほどの熱と湿度。
270ページほどの短い小説なのに、じっくり時間をかけて読まなきゃ理解できなかったので、大変時間がかかりました。
だからと言って小難しいわけではないのです。
息を詰めるようにひっそりと読み、そして深く鋭く感じ入りました。
Posted by ブクログ 2017年11月26日
社会の底辺から見える情景をここまでビビッドに活写した小説もなかなか無い。この主人公の生き様をヘタレと断ずるのは容易い。しかし底辺だからこそ、死を背中に感じているからこそ、できる恋愛もある。この本は今までで五指に入る恋愛小説だと思っている。
Posted by ブクログ 2016年03月15日
東京でのサラリーマン生活が長続きせず、故郷には帰れない生島は流れ着くように、アマ(尼崎)の狭いアパートで焼肉屋で出される臓物を串に刺しながら、裏社会の入り口に身をおいていた。
飽きもせずに暑いアパートの一室で黙々と臓物を串に刺しながら、同じアパートに住む彫眉さんとその愛人アヤさんと関わりを持ち接近し...続きを読む、いつしかアヤさんと心中に突き進んで行く。
社会の底辺に生きる人々を描き出す車谷長吉の文章を楽しませてもらえた。
Posted by ブクログ 2016年01月15日
2015年最後に読んだ本。著者の車谷長吉さんが2015年に亡くなったから年内に、と思って。(誤嚥性の窒息が死因だったとかでけっこうショッキングだった)
直木賞受賞作。この映画で寺島しのぶが賞を総なめしたイメージが強い。
33歳の生島は、歩んでいたエリート街道を外れて底辺の生活へと身を落とす。尼崎に...続きを読むあるアパートの一室で、病気で死んだ牛や豚の臓物を串に刺し続けるという仕事にありつく。
向かいの部屋からは彫眉という男が女たちに刺青を彫る苦痛の声が漏れてくる。
階下の部屋には彫眉の情婦で妙に艶かしい女・アヤ子が住み、生島は密かに心惹かれていたのだが、ある日アヤ子が突然部屋を訪れたことから、事態は動き出す。
日本が舞台の物語なのに、退廃的すぎてもはや寓話の域とも言うべきか。
日がな一日臓物を串に刺し続ける生島と、雇い主のセイ子。毎日無言で臓物を届けに訪れるさいちゃん。彫眉にアヤ子。元々がエリートである生島以外はいわゆる底辺で生きる人々で、彼らを取り巻く人間たちもまた同じく底辺にいる。
生島も自ら選んで堕ちた道に来たものの、他の道を選ぶことが出来ずに運命的にその場所にいる周りの人間から見ると、生島はやはり異質なものに見えてしまう。みな生島のことは嫌いではないけれど、住むべき世界が違うと感じて、遠回しに元の世界に戻るよう促したりする。その周りの人間の優しさが痛々しくて哀しくて不器用で、そしてとても愛おしく感じた。
ヤクザ、刺青、コンクリ詰め、兄の借金の肩代わりに売られていく女…物騒で個人的には全く縁のない世界が描かれていて、人間臭く、恐ろしく、性の匂いも強く、雑然とした町の匂いとか、アパートの部屋に染み付く臓物の匂いまでが読んでいて感じられるような気がするほどなのに、一本芯に不思議な美しさが消えずに存在するように思えた。
アヤ子の揺れる心情と最後に見せた強さが哀しく、読後の変な空虚間がしばらく消えなかった。
Posted by ブクログ 2015年10月05日
ずっと読みたいと思っていたこの本。
ラストは妙に感動した。アヤちゃんは、主人公は、このあとどういう人生を歩むんだろう。
文章から伝わる退廃的な雰囲気がなんとも言えない良さ。
Posted by ブクログ 2015年09月22日
ひりひりするような文章を、もっと読みたくなる。
かつて読んだことがありましたが、また私の年齢環境想いも違って、新鮮に楽しめました。
最後まで読み進め、瀧での放浪、その後の泥まみれの映像だけ、自分の脳裏に当時しっかりと焼き付けていたようで、そのシーンにあたるところでそうだーそうだ、これだとぴたりと...続きを読むあてはまりました。
見てはいないのだけれど、どうしても、映画、寺島しのぶ、というイメージに引っ張られてしまう面は否めない。
あれ、アヤちゃんだったのか、いやそれともこの赫毛の女なのか?と思い読み進め、ああアヤちゃんなのか、と合点の行く始末。
ちなみに他の出演者は誰だったのさと気になって調べてみると、主演は大西滝次郎改め大西信満さんという方―ああキャタピラー主演でまた寺島さんと共演しているんですね―とセイ子ねえさんは大楠道代さんか。
自分の中の世界と、イメージが違う配役であるのと、そもそも独白だらけのこの作品を映像にすることというのはどうやってこの世界を表現していくのか、言葉をそのまま発信していくのか、この言葉に真正面からぶつかっている物語を映像にどう転換していくのか。
それが映画監督、俳優たちの腕の見せ所なのかな、と思います。
私はそれが映画よりも文字から思念する世界の方がより好み、なのでしょう。
言葉で虐げられ、言葉で傷つけられても、それでも言葉に救いを求め、すがって、支えにする自分が居るんです。
こういうひりひりするような文章が読みたいので、他の作品もメモ。
しかし私に圧倒的に足りないのは花に対する知識だと、改めて。
前回塩壷の匙や、吉屋先生の屋根裏の二処女を読むにつけ痛切に感じ、でも植物辞典はちょっと、趣味じゃないから俳句の季語辞典みたいなのを通読してみようかしら。
なにか、おすすめ、あれば教えてください。
Posted by ブクログ 2022年11月02日
先日、某新聞にこの作家の名前が出ていたので再読。
直木賞ですよね、確か。でも出だしとか芥川賞の間違いですか?と思いました。
その後は多少は直木賞っぽくなりましたが、全体観としては大衆受けは考えず、焦点が極めて小さい、濃厚な心象風景をどうとでも取ってください、的な感じを受けました。
寺島しのぶが映画で...続きを読むやったとか聞きました。本当なのか知りませんが、そう言われるとさもありなんと思います。こっちの方が、感覚は伝わりますかね?
Posted by ブクログ 2021年11月15日
壮絶。圧倒されて読みました。
底辺に堕ちたと主人公の生島は思っていたけど、アマに住む他の人たちは「あんたはここにいる人とちがう」と、最後まで仲間みたいなものには入れなかったな生島のこと…それは希望みたいなものかもしれないと思いました。ここに馴染ませてはいけない、と。中には陥れようとする人もいるし危な...続きを読むい事にも関わってしまうけど、それでも助けてくれる人もいるし。
こんな世界は表からは見えていないだけで、まだあるんだろうなと思わせられる現実感がありました。アヤちゃんみたいになる人もいるんだろう。。迦陵頻伽の入墨って凄い。
晋平ちゃんも幼いながらに(これは言葉にしてはいけない)を弁えてて悲しくなりました。そうしなければ生きていけないんだな。
噎せ返るほどの情念。心中未遂…哀しい。
Posted by ブクログ 2020年07月21日
一風変わった恋愛小説としても十分面白いのですが、それよりも意図的に使われる大正ロマン(大正をよく知りませんがなんとなくそんな雰囲気)の文体を愛でる作品のような気がしました。その意味では、この小説は芥川賞候補でもおかしくなかったのでは。舞台は昭和53年なのに、この文体の効果で尼崎のどんよりとした底辺に...続きを読むうごめく人間模様が一種独特な迫力で描写されます。打算的で利己的だが主体性の薄い主人公が、身を崩し特殊な下位社会の中で流されて生きる、その絶望的な状況でも誰かを信じてみようと思わせる人間のやさしさとはかなさを知る・・
「圧倒的な小説づくりの巧みさと見事な文章で、底辺に住む人々の情念を描き切る」という宣伝文句に嘘、偽りはありません。
ちなみに、本作品は第119回直木賞受賞作ですが、選考では満場一致、特に黒岩重吾、五木寛之、井上ひさしが絶賛しました。
Posted by ブクログ 2019年09月17日
文体が全体的に異臭というかそれでいて狂気と静謐さを帯びている。私とアヤちゃんの関係性と、私とセイ子ねえさんとの関係性。くすぼり、と呼ばれる連中達の中でひりひりとした私の心情がスカタンと自らを呼び、どこまでも世捨て人として落ちていこうとする。けれど、周囲の人間は私にあんたはここで生きていく人間ではない...続きを読むと突き放す。私はどれほどスカタンで落ちていく人間だとしても彼女や彼らにとってはインテリの観察者でしかないのだ。だから最後アヤちゃんは私との心中を未遂にしたのではないか。車谷長吉の言葉は良い意味で古臭く、アマの生活での言葉遣いが理解出来ない場面があったので、これはまたいつか再読するべき本だと思った。
Posted by ブクログ 2019年01月14日
主人公は自身を『漂流物』と表現する。大学を出、東京で就職するも、目的も欲望もなく、周りに流されながら尼崎のドヤ街という社会の底辺へとたどり着く。著者の経歴と重なるところが多く、退廃的私小説とも言えるだろう。
自らの運命を受け入れ腹をくくってるドヤ街の人たちと、どこかインテリ臭さを残して周囲の異物とな...続きを読むり、そんな自分を嫌悪している主人公。どちらも生きる苦しみが表現される対象であるが、どちらが苦しいか、著者は後者だと言いたいように感じた。
Posted by ブクログ 2017年02月21日
いやもう、こら凄い。激重。どヘヴィー。ちょっと、もう、口あんぐり、としか、いいようが、、、ないな。
読んで良かった、という気はするのですが、自分みたいな根性なしは、この世界では、全く生きていかれへんだろうな、と、思うしだいです。喰われる立場になって、それこそこの小説の主人公が、毎日ひたすら作り続け...続きを読むる、病死した鳥や牛や豚の肉の串焼きの具になる立場やな。そう思うたのです。
関西弁?というか大阪言葉?神戸言葉?まあ、一応は、関西弁って言い方になるのか。小説内で、登場人物がしゃべるその言葉が、めちゃんこリアル。まんまそのもの、っていう、うひゃあ、これが生の言葉か、って感じ、でしょうか。読んでて、めっちゃ心地よかったです。
あと、時々、町田康さん的口調の地の文もでてきて、それも好き。町田さん、車谷さんの小説、読まはるんやろか?なんかこう、根っこの部分のすっごく深い暗いところでは、お二人は、似ている気がします。町田さんの小説のほうが、とっつきは良い?気がしますが、、、いや、んなこたあ無いか?
どアングラ、というか、どパンク、というか、まあ、激烈にスゲエものを読んだ。という感は、ありました。でも自分には、とても、この小説を語る力はないな、とも、痛感。なんでこんな世界と向き合って、表現できるんやろうなあ。おっとろしいことですよ、コレは。
Posted by ブクログ 2015年05月31日
今月亡くなられた同県の直木賞作家の作品を手にした。 作品中「人が人であることは、辛いことである。その悲しみに堪えるところから、あるいはそれに堪え得ないところから、それぞれ、人の言ノ葉は生まれてくるのだろうが。」と述べているように一文一文一言一言がギリギリと刻みつけられているような感じがした。私小説と...続きを読むはげに凄まじきものなり。