安藤祐介のレビュー一覧
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きた!発掘した!(作者さまごめんなさい)
いくつかサラリーマン作品を読んだ中でも、一気にトップランクにきた。
個人的にかなり無縁といえる大手商社の本部長以上の話。とはいえ主軸はビジネスではなく、あくまで人間関係。それを取り巻く若手社員やビル清掃員の目線をうまくフィルターに使っていて、妙な没入感がある。流行りといえば流行りの、就職氷河期世代がターゲットのせいもある。
諦めの世代のはけ口なんて、ネット以外に大した選択肢はない。どうせ氷河期上がりですよ、なんて心の中で呟いていたのが一気にひっくり返った。
ラスト、楽しい小説あるあるの「あーここで終わる」「あ、終わる」みたいなハードルを何度も飛び越えてくれて、労働者の誰もが勇気づけられるバイブルな一冊になってると思う。
縁、努力、社会貢献。
こう書くと陳腐で難しいキーワードを、正面から現代風アレンジに仕立ててくれた良作です。 -
Posted by ブクログ
ネタバレ「印刷会社はメーカーだ」
著者、出版社、印刷、デザイン、データ制作、製本。本が造られるまでにどのような人たちが関わっているのか、その人たちは何を考えているのか。印刷会社営業の浦本を中心として彼らの仕事と矜持を描くお仕事小説。
40年作家をやっていても自分の本が造られる過程を知らなかった。作中で一条早智子が語った内容だけど、読者である自分にとっても考えてもみなかったことだった。作品名であるところの本のエンドロール:奥付も読んだことなかったし、そこに書かれる会社名の奥にこんなに熱い想いを持った人たちがいるんだと思うと、ますます本が好きになりそう。特に『世界でいちばん透きとおった物語』については読んだ当時は「えーすごい!」くらいの感想だったが、この小説を読んで、そのすごさがより感じられるようになったと思う。これこそ、本を造った人たち全員の作品ということを強く感じる。
最初は本を造りたいという想いが先行する浦本に対して、肯定的な人、否定的な人がいる感じだったが、浦本の気持ちと仕事に対する姿勢が製造の野末や営業の先輩 仲井戸をはじめとした人たちの心に影響を与えていき、出版業界の厳しい情勢は変わらずとも、皆が前を向いて仕事ができるようになっていた。理想論でも綺麗ごとでも、語ってそれを実現しようと足掻く様は周囲の人々に良い影響を与えるということを感じられた。最初は浦本のことを顧客の要求を丸呑みして厄介な仕事を押し付けてくる伝書鳩だと揶揄していた野末が、同じ伝書鳩扱いながら、最後には浦本に想いを託すようになる。浦本がやっていることは同じはずなのにこんなにもストーリーの雰囲気が違って見えるものなんだなあと感心してしまった。
また仕事はお客のため世のためにすることではあるけど、根っこでは自分のためにやっていいんだということもかなり共感した。自分のためにというのはそのままの意味というより、自分が良い影響を与えた周囲のひとたちが自分のためになることをしてくれるという面が強いと思っている。そのほうが自分が自分を幸せにしようとするより何倍も幸せになれる。浦本の様子はそれを体現しているようで、こんなふうに仕事ができれば幸せだなあと思った。 -
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面白かった!
いい本だったなあー
これまで1000冊以上の本を読んできたはずなのに、本を読み終わった後、本当の”最後の1ページ”までじっくり読んだのは初めてだ。
奥付、なんていう呼び名も知らなかったし、本ができるまでの工程に思いを馳せたことはあれど、追求して調べようと思ったこともなかった。
紙の本を愛してお世話になりまくっているのにも関わらず、今までこんな大事なことに気がついていなかったことを恥じるとともに、それを教えてくれた本書には感謝しかない。
一方で、電子書籍に関する話題も出てきた上で、実際に印刷機会が削減されるかどうかという現実的なテーマに向き合う必要も出てくる。これが書かれた時に比べると、生成AIの登場も相まってますます本の世界は先行きが不透明になってきてもいる。
でもどうなろうと、これまで紙の本に救われてきたことは間違いがないし、たとえ絶滅するようなことがあっても、人類が紙の本の上で成長し続けてきて今があるということは揺るぎのない事実だ。
紙であれ電子であれ、私は一生本を読むことを止めない。 -
Posted by ブクログ
印刷会社の営業浦本君が、
業界特有の困難な案件に直面するも、
若さゆえの未熟さ経験不足で周囲を巻き込みながら、本作りへの情熱や理想でチームに一石を投じ、新しい視点での解決策を見出していく
また浦本君自身の社会人としての成長も見届ける事ができました
斜陽の出版業界
紙の本が消えゆく未来
避けられない社会の趨勢に抗いながらも
後ろ向きではない覚悟を持つ業界の人達の思いにも触れることができました
読み手である私たちにも
覚悟が求められているのでしょうか
物語中に出てくる問いかけ
「どうして紙の本を読むのか」
私は本を手にした時の重みや手触りを感じながら
本の世界に入っていくのが好きです
まさにこの手の中に別な世界が広がっている感覚
だから紙の本がなくなる事は考えたくもないなぁ
文庫版の特別掌編を読んだ後
実際に「本のエンドロール」を作り上げたスタッフ達の名前を見つけたときに
この物語はフィクションだったけれど
そこに描かれていた思いや覚悟は全て現実のもので
私たち読み手に向けて真摯に熱く届けようとする思いは本物なのだとわかって
今この手に感じる本の重みをずっと忘れずにいようと思いました
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Posted by ブクログ
タイトルと設定だけ見るとコメディ寄りに見えるのに、実際は「働くこと」と「人と関わること」のしんどさと尊さを、かなり真面目に描いた作品だった。
山田は明るさ、前向きさだけでなく、批判や失敗に向き合う責任感も持っていて、そのギャップがすごく魅力的。見た目の軽さで誤解されがちな立場に置かれながら、それでも人との縁を雑にせず、目の前の相手に誠実であろうとする姿がじわじわ効いてくる。
水嶋は理屈と真面目さで自分を支えるタイプやけど、だからこそ抱え込みやすい繊細さもあって、山田との対比がとても良かった。互いに足りないものを補い合う関係に見えて、実は似た弱さを持っているところが人間くさくて好き。琴平部長も、表向きの厳しさの奥に筋の通った熱さがあって、物語全体に緊張感と説得力を与えてくれていた感じ。
派手な仕掛けで押すというより、人物同士の距離感の変化や、言葉の受け止め方が少しずつ変わっていく積み重ねで読ませるタイプ。読み進めるほど登場人物それぞれの立場が見えてきて、単純な好き嫌いでは片づけられない感情が残った。軽妙な入口から入って、最後にはしっかり心を動かされる、満足度の高い読後感。 -
Posted by ブクログ
人間誰しも自分より下を見て安心する。
被取締役って、現実ならありえない設定だと思うが、日常において、そんな役回りしている奴がいる。あいつよりマシ、勝手にそんな事を思い自尊心を保つ。待てよ、もしかしたら特殊な極秘勤務だったのか!?
それは無いとしても、この作品の面白さは失敗するつもりが上手くいく、思った方向と逆に進んでいくところではないだろうか。
失敗しても良いと思える気持ちだから、上手く行くのか、これは深い。
そして、感動の最後!色んなことがきれいにつながり、面白いというかすごいなと感じました。
「いじめられっ子、世にはばかる」これ、本当に採用してもよいのでは。