赤根洋子のレビュー一覧
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面白く、また知的好奇心を刺激してくれるいい本です。
“人体実験”というと、新薬の開発であったり、戦時中の非人道的なものをイメージしていたのですが、それだけでなく人体実験にはその目的や動機によって様々なケースがあることに気づかされました。
その目的には医療、医学的なもの以外にも、人間がどこまでの高さ、深さ、速さに耐えられるのか、などといったものも含まれ、一口に被験者といっても実験者が自ら被験者となる自己実験もあれば、被験者がなんの実験か知らされぬままの悲惨なケースもあり。自己実験者の動機も単純な好奇心や、自説を立証するための探究心であったり、人類の進歩への使命感だったり様々です。
とはいえ、実験の失敗も含めそのほとんど全てが今の世の中に役立っているという事実に驚かされます。
そしてその業績に比べ、死にかけたり、時には死に至ってしまった被験者たちの苦痛が、さほど深く広く知られていないことにも複雑な気持ちに。
どのエピソードも興味深いものばかりですが中でも、それまで外科手術では手のつけられない臓器とされた心臓へのアクセス方法として、血管を通すカテーテルを実際に自分で試したフォルスマンや、「深さ」と「高さ」の両方にチャレンジした天才科学者ピカール博士のエピソードにはより感動させられました。
著者はイギリスの海洋生物学者で、いかにもイギリス的な皮肉の効いた文章が、読書中の興奮をいい具合に冷ましてくれ、クセになります。中には皮肉が効きすぎて笑えないくだりもありますが。
本書原書の副題訳「自己実験という危険な行為を成し遂げた、偉大なる奇人に捧げるウイットに富んだ賞賛」がもっと世の中に知られることを強く望みます。 -
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日本海、西太平洋で以前より一層過激な行動に出ている中国軍。その最前線で対峙するアメリカ海軍がどのような状況にあるのかを、過去に発生した事件(艦艇のニアミスや、航空機の異常接近など)の詳細な内容と、軍高官へのインタビューから描く本。
かつてソ連と対峙した時には「冷戦」と呼ばれていましたが、その当時はアメリカ、ソ連ともに最前線での小さなトラブルや事件が本格的な戦闘へ拡大しないようにお互いが守るべき暗黙のルールがありました。
ところが昨今の中国軍の振る舞いには、そのような暗黙のルールは存在せず、アメリカ軍からみると「何をしでかすかわからない」という危機感があり、アメリカ軍がそのように考えざるを得なくなった事例を詳しく紹介しています。
オバマ政権時代の「中国を対話のステージに引き込み、対話によって御する」という考え方は完全に誤りであったと現職アメリカ軍高官が断言していて、「中国相手には決して弱腰を見せてはならない」という方針に変わりつつあります。
かつてのソ連より過激な行動をとる中国軍ですが、アメリカ軍相手にはまだ本格的な威圧には至らない一方で、日本やフィリピンなど太平洋沿岸で中国よりも国力の劣る(と中国が認識している)国相手には、艦艇の体当たりなど容赦ない威圧を加えてきています。
中国相手に主張を通すには、中国が本格的な軍事衝突を躊躇する程度の軍事力が必要ということなのかもしれません。 -
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アメリカ人軍事ジャーナリストが、主にオバマ政権下の太平洋艦隊周辺の取材を基に、太平洋を舞台に繰り広げられている、冷たい戦争でも熱い戦争でもない「暖かい戦争」を書く。
海南島事件、カウペンス事件、インペッカブル事件など、陸から遠く離れた太平洋上で起きている米中の危険な摩擦の実態がよくわかる。
原題"Buckrush"は、中国との衝突を避けようとするオバマ政権下で米海軍が強いられてきた「後進」のことだが、これまでみてきた中国の振る舞いから見える彼らの本質を知った以上、次に衝突しそうな事案が生起した際、後進するのは米海軍ではないだろうとする。
海自の艦艇や空自の戦闘機も、中国軍による異常接近などのハラスメントを受けており、詳細はわからないものの、本書で紹介されている事件と似たような状況であることが推察され、日本としても他人事ではない。
艦艇は情報収集の際、相手に気付かれぬように電波管制(Emission control:エムコン)を行うことが書かれているが、もしかすると最近の米海軍絡みの海事事故にはこれが絡んでるのもあったりして。 -
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民間での実用が先行して規制が後追いしているドローン。これだって
首相官邸屋上のヘリポートに誰も気づかないうちにドローンが停まって
いた事件がなければ、誰かが怪我をするまで考えなかったのだろうな。
アメリカでもホワイトハウスの敷地内に落下し、警戒態勢が敷かれた
のは記憶に新しい。
無人機ドローン。現在は民間での活用やそれに伴う規制がニュースに
なることが多いが、元を辿れば軍事技術の民間転用だ。
戦争はイノベーションの母である。こうして毎日のように利用している
インターネットも、害虫を退治する殺虫剤も、ドローン同様に軍事技術
の研究からの産物だものね。
搭乗するパイロットを必要としない航空機があれば兵士の犠牲を出さ
なくて済む。そんな無人機が作れないものだろうか。始まりはイスラエル
での開発だった。天才的なプランを持っていたイスラエル人の航空技術
者が新天地を求めてアメリカへ渡った。
当初は諜報機関も軍も「玩具じゃないか」とバカにしていた。特に偵察機
や爆撃機を操縦するパイロットたちは自分たちの腕を上回る無人機が
出来るはずがないと、鼻で笑った。
しかし、ボスニア紛争で無人偵察機が実用化されたから開発に拍車が
かかる。そして、アメリカの陸海空軍の間で始まる主導権争い。
偵察機としての役割を満足に果たすことの出来た無人機に、次に期待
されたのは攻撃機としての機能だった。そう、9.11アメリカ同時多発テロ
の後に一躍脚光を浴びた「プレデター」の誕生である。
本書はドローン開発の歴史を詳細に綴っているので、いかに戦争が
様々な技術開発の土壌になっているのかが分かる。
それにしても「プレデター」とはよく名付けたものだ。「捕食者」。それは
ターゲットを発見し、地球の裏側からの遠隔操作でターゲットの命を
奪うことが出来るのだもの。
ただ、これがアメリカ大統領令で禁止されている「暗殺にあたるのでは
ないかとも思うんだよね。CIAがキューバのフィデル・カストロ暗殺計画
を実行しようとしていたことが表沙汰になって、「暗殺はいけません」と
なったはずなのだけれど、テロを未然に防止する為ならば暗殺も単なる
「殺害」と言い換えられるのか?
アメリカの無人機が殺害したうちの9割が誤爆だったとの報道もあった。
開発者にとっては夢の平気だったのだろうが、誤爆された方は堪らない
よね。
アメリカはこの無人攻撃機の輸出に力を入れるらしい。買わされるの
かしらね、日本の自衛隊は。そんな懸念を持ちながら読み終わった。
この無人機の登場で戦争の在り様さえも変化したことまでフォローして
おり、情報量も豊富なのだが翻訳がとことどころ日本語の文章として
おかしいとことがあるのが残念だった。 -
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詩的な自然哲学者たちに何より欠けていると思われるのは、必ず実証を求めるというこの態度なのである。
現代の科学者の考え方とはむしろ、「超自然的な存在の介入を想定せずにどこまで行けるか考えてみよう」というものである。科学はこのような方法でしか研究できない。
キリスト教徒が迫害されたのは、ローマの宗教を公然と否定したからだった。
もう一つの要因は、キリスト教が教会での立身出世の機会を、知的な若者に提供したことだった。
歴史的に見れば、この(測定結果の)不確実性に注意が払われるようになったのはつい最近のことである。
自然哲学者たちはもはや、自然がその原理を偶然明かしてくれるのを待ってはいなかった。母なる自然からその秘密を力尽くで奪い取るために、彼らは人工的な環境を巧みに構築するようになったのてある。
ニュートンは、過去の自然哲学と現代科学の始まりとの境界を越えた人だった。 -
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本屋さんで欲しい本を見つけた後、他になんか面白そうなものないかなあ、とあてもなく棚を見ているときに見つけた。タイトルを見て、面白そうとタイトル買い。
こういう予定にない本に出会えるから本屋さんはやめられない。
性病、麻酔、薬、食物、寄生虫、病原菌など全17章にわたって様々な人体実験の歴史について書かれている。
科学者が自分の予想の確認や新しく創り出す際において、人体実験は欠かせない。勿論、人間に行う前に動物などを用いて実験するだろうが、最終的に人間に使うものなどの確認のためには人体実験せざるを得ない。
本書ではその人体実験の被験者に果敢にも自らなるという科学者がたくさん載っている。
実験が上手くいって自らの仮説を裏付けることの出来た幸運なひともいれば、生命を落としてしまうひとや、危うく生命を落としかけたひともいる。
こういう科学者を、マッドサイエンティストと呼ぶのかもしれない。わたしに言わせてもらえば、自分が厭なものや効果の不確かなものを他人に使えるひとのほうが余程狂っていると思う。
わたしは科学者でないので、自分に明らかに害になるものを試したり、他人試す機会もないけれど、それを行うということは、一体どれくらい強い信念と使命があるのだろう。
この本に出てくる実験は、どれもこれも凄まじく、どれか選んで実験台になれると言われたら、どれもお断りなのだが、科学者でなくても実験台に志願するひともいる。
科学の発展のためという崇高な理由のひともいたかもしれないけれど、多くは報償金や、自らが罹患し放っておいても死んでしまうといった場合が多い。
それしか手段がなければ、実験台になるより他ない。これは辛い。
どれも厭な中でも容易に気持ち悪さの想像出来る、寄生虫を体内に入れるだとか、病原菌を打つは耐えられない。
他にも、患者の嘔吐物を摂取したり、自ら漂流してみたり、どう決意したのかわからない多くの科学者たち。
これならイケるな、とか、これだけはムリ、と単純に楽しんで読んでもいいだろうと思うし、様々な歴史のひとつと真面目に読んでもいいだろう。たとえば、コカインは初期のコカ・コーラ原材料のひとつだった。だから、コカ・コーラなのか?だからコーラは中毒になるのか?(わたしの夫はコーラ大好き、わたしは飲まないので何故あんなに飲みたがるのか不思議だった)
ただ、忘れてはならないことがある。
わたしたちが今、当たり前に飲む薬にも、危ないとわかっている行為にも、それを裏付けするために多くのひとの苦労がある。
薬が間に合わず病によって亡くなるひとたち、実験によって失われた多くの生命、人間の都合によって殺されていった多くの動物たち、数え切れない犠牲の上にわたしたちの生活は成り立っているのだ。 -
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ネタバレちなみに表紙はルーブル所蔵の「天文学者」by フェルメール。センス良過ぎ。
「はじめに」から、ホイッグ史観上等と社会構成主義者に啖呵切り。あーらら、面白くなりそう。後出しジャンケン並に卑怯者扱いされる(コトもある)ホイッグ史観だけど、分かっちゃってる私らが自分の手足を縛るマネしても限界あると思うんですけどね、ってことでワインバーグに一票。
「科学に影響を与えてきた5つの分野ー詩、数学、哲学、テクノロジー、宗教」と打ち上げた割にはあまり絡まないトコもあるのはご愛嬌。ベーコンやデカルトまでは頑張ってみたけど、現代哲学は手に余るよなあ。ダーウィンとかひとかすりだしw
無神論者でない科学者達が己の宗教観と研究をどう折り合いつけるかなんて、考えたことなかった。宗教が世界を支配してた時代、神様出すと話が進まないんで、取り敢えず置いといて自分の研究に取り組んでたのね… あ、言うても一神教限定か⁇ -
Posted by ブクログ
祖国のために無人機の開発を始めたが国有企業イスラエル航空産業と利害が一致せず新たな拠点をアメリカに求めた天才エンジニアのエイブ・カレム。エール大学出身で自ら飛行機を操縦する冒険野郎にして逆張りで財をなした投資家のニール兄弟。ドローンの開発は米軍が主導したというよりも彼らイノベーターが推し進めたものだった。インターネットやGPSを開発したことでも知られる国防高等研究計画局DARPAが資金提供したとは言え、空軍はパイロットのいない航空機を重視せず、海軍と陸軍がバラバラに開発をしていた。
1989年冷戦の終結とともにブッシュ大統領は5年以内に640億ドルの軍事費削減を承認した。オスプレイなどの計画も廃止され無人機の市場はなきに等しく、それでもカレムの会社を買収したニール兄弟は「麦わら帽子は必ず冬に買え」と言う自分の投資の黄金律を信じていた。
転機が訪れたのはボスニア戦争で、今では当たり前になった映像のストリーミング技術は当時はまだ手品のような技術だった。1995年当時でも画像解析者は白黒写真を好み、ライブ映像ではなく静止画の解析を重視していた。このような風土のため偵察ビデオを潜在的利用者に送信するためのインフラはまだ存在しなかったのだ。プレデターのサラエボ上空の映像は500マイル離れたイタリアのNATO司令センターCAOCで見られるようにするため衛星を通じてヴァージニア州のハブに送られ、海底の光ケーブルを通じてナポリの南部司令部と司令センターに送られた。プレデター作戦センターの電話が鳴りっぱなしになり、司令官らは様々な目標の映像を要求した。
プレデターが偵察機から殺傷兵器へと変わる第一歩はレーザー照準器の搭載からだった。1998年アルカイダによるアフリカの大使館の爆弾テロをきっかけにCIA長官チャールズ・アレンはビンラディンを逮捕または殺害することを生涯の目標とした。クリントンは報復措置として巡航ミサイルを使用したが、標的とされたのはただの薬品工場だった。これ以後CIAはコラテラル・ダメージ=民間人の犠牲を出さないことに苦慮するようになる。2000年9月、アフガン上空のプレデターのカメラがビンラディンらしき人物を発見した。しかしクリントンにミサイル発射を説得するにはただ見つけただけではなく、ミサイルが届くまで標的がそこにいることを示さなければならない。これを解決するのがドローンが"撃つ"ことだ。技術的な課題は次々解決され、法的な課題も解決されていった。
最後まで残った課題は誰がプレデターの運用に責任を持ち、ミサイルを発射するかだ。レーガン大統領による「暗殺の禁止」命令は生きていたがビンラディンに対する攻撃は自衛行為として決議された。2001年9月4日ブッシュ政権初めてのアルカイダに対するNSC閣僚級委員会が開かれCIAも軍も引き金を引くことに対する責任を負おうとしないし、どちらも、プレデター武装化計画の資金を出そうとしないというのが議論の内容で当面プレデターによる暗殺は見合わせ、CIAは偵察活動にのみプレデターを運用することになった。
9月11日の朝11ヶ月前に自爆テロ攻撃で部下17名を殺された戦艦コールの元艦長リッポルドはアレンに誘われCIA本部を訪れた。アレンにCIAのアルカイダ対策を聞かされたリッポルドは「アメリカがあの男と戦争をしているのだということを、アメリカ人は理解しないでしょう。アメリカ国内で重大な事件が起き、何千人とは言わないまでも何百人もが死ななければならなくなるまでは」と語った。CIA秘録によるとCIAにはアルカイダによる飛行機テロの断片的な情報はかなり上がってきていたので、問題はプレデターではなく集められた情報を分析するCIAの能力だったようなのだが。
9月17日ブッシュは暗殺禁止令を緩和し、CIAに武装プレデターを使用する権限をCIAに与えた。しかし、中程度以上のコラテラル・ダメージのリスクのある目標を攻撃するには大統領の承認が必要で、CIAに変わりプレデターを操縦する空軍がビンラディンを発見した場合には大統領の承認は必要が無い。さらに米軍や同盟国軍が関わっている場合にはCIAは事前にトミー・フランクス陸軍大将と協議しなければならない。
オマルを標的にしたプレデターの最初のミサイル発射の様子は臨場感に溢れるが一方で指揮系統の混乱を示している。CAOCにいる連合軍航空司令官ウォルドは当初プレデターの映像を見ることすらできず、オマルを建物から追い出すために発射された最初のミサイルについて事前に知らされず激怒した。フランクスとCIAは標的の近くにあるのがモスクに近すぎるとミサイル発射を見合わせた。当初の混乱の中ウォルドには誰がミサイル発射を命令したかもわからなかった。プレデターの映像には熱心な視聴者が1人いた。ブッシュ大統領その人だ。
この本は基本的には武装ドローンを評価しており、コラテラル・ダメージについても評判の悪化を怖れるCIAがいかに気を使っているかのように書かれている。誤爆された側はたまったものじゃないのだが。