赤根洋子のレビュー一覧

  • 直立二足歩行の人類史 人間を生き残らせた出来の悪い足

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    直立二本足歩行する動物は、ヒトだけである。

    だが、人の二本足歩行は、最高ではない。遅い。怪我しやすい。出産大変。内臓の位置おかしくなりがち。
    ただ二本足なら、圧倒的大先輩なのは、恐竜の正統な子孫である、鳥。

    確かに。

    人は二本足歩行し出してから脳肥大して道具も使うようになって、とかそういう簡単な話でもなさそうで、実際、数々の類人猿が発生して消えていって、残ってるのが我々だけ。

    チンパンのようなナックルウォークから現在の直立二本足歩行になったのではなく、むしろ直立二本足歩行からナックルウォークが派生した。

    ヒトの二本足歩行の利点は何か。それは、移動における効率の良さ。位置エネルギーを運動エネルギーに変えて前進する省エネ。

    なんか面白くてスイスイ読んでしまって、何書いてあったか断片的にしか記憶に残ってないくらい。

    それで最終章は、二本足歩行によって様々な欠点も抱え込んでしまったヒトが得たものとは。

    他者への共感である。
    協力、社会性である。
    足が遅くなって一人で出産も出来ず、虚弱なヒトは、協力しあうことで生き延びた。

    なんだか面白くて。

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    2026年07月06日
  • 分断と排除の人類史―暴走するトライバリズム―

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    いわゆる身内びいきと外国人排斥の原因を探る大作。その中核をなすトライブとは何かを500ページに渡って解説している。
    決して読みやすい本ではないが、歴史と科学理論をベースにした前半の第一部が良い。理系文系とり混ぜて、さまざまな学問分野の観点から、なぜ人類はウチとソトを分断してしまうのかをていねいに記述している。納得感は高い。

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    2026年06月19日
  • 偽装死で別の人生を生きる

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    死を装って借金や暴力を逃れる。一度は考えることかもしれないが、実際にやるとなると?
    請け負う者、保険金詐欺対策で探す者、実践した者、そしてマイケル・ジャクソンは死んでいないと信じる者。
    マイナンバーで管理される現代に、人生を捨てる覚悟、偽って生き続ける覚悟はできるだろうか?
    いずれにしろ海外との関わりや現実で生きる能力はもっておきたい。

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    2025年12月20日
  • 偽装死で別の人生を生きる

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    ・積読チャンネルで知りました。ありがとう、積読チャンネル。
    ・内容は当然面白い。(面白いって言うとちょっとアレかもしれないけど。)
    知らない場所で起こっている知らない話だからそら面白い。
    ・翻訳者あとがきで、翻訳に際して言い回しが独特というかユニークで面白かった、というような話をしていて、確かにそうかも。私もこの本のそういうところに惹かれたかも、と思った。

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    2025年10月16日
  • 世にも奇妙な人体実験の歴史

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    「医学の歴史は、人類のために自分の健康やときには命までも犠牲にした研究者らの英雄的行為によって飾られている」

    現代当たり前と思っているようなことにも先人たちの涙ぐましい努力や驚くようなドラマがあり、当然ながら試行錯誤を繰り返して初めて実用化されたものだ。19世紀から20世紀にかけて病気やその治療法、毒ガスや爆弾、深海や成層圏などの謎を解明するために、科学者たちは自らの身体で人体実験を試みる。そのエピソードを紹介している。

    本自体は面白おかしく書かれているわけではないが、人体実験の事実自体が凄まじく、笑うと言うより恐怖すら感じる。

    梅毒と淋病の感染経路を把握するために自らの性器に性病患者の膿を塗ったり、黄熱病の研究のために患者の嘔吐物を飲んでみたり。確かに定期的な症状チェックやフェアな実感の確認は自分でやらざるを得ないことだ。しかしそれが常人の思考を飛び越えた想定外の発想なのだ。これがかなり面白く、かなり怖い。

    そしてそこに挑む研究者たちの考えは、高貴な勇気とも言えるが異常な好奇心とも言える。

    「危険だとわかっている実験を行う必要がある場合もある。病気がどのように伝染するかを検証する実験などがそれである。そのために大勢の人間が死んだ。私としては、これは理想的な死に方だと思う」とは言うものの、この言葉を信じきれない自分もいる。

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    2025年04月02日
  • 科学の発見

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    本書の科学史としての面白さへは人それぞれだろう。
    私は、本書の後半、ガリレオ以降でやっと楽しめた。というかやっと読めるものになった。それまでは、いわゆる実証科学の要素が少なかったからだ。
    その上で、トータルとしての科学史としての面白さは、今ひとつ感じられなかった。

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    2025年01月28日
  • 直立二足歩行の人類史 人間を生き残らせた出来の悪い足

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    ネタバレ

    読みやすい訳で良かった…。特に印象深いのは出産のために広い骨盤だと言われていたが実は赤ちゃんを抱いて歩くのに適した骨盤にしたからだ。という説は驚いた。

    通説を覆したり新しい説が出てくるのを知れるのはすごく嬉しいし楽しくてそうだったのか〜!と思えてありがたい。刺激的。
    常に情報はアップデートされていくから追いかけるのは大変だし前読んだ本にはこう書いてあったからそうだろうと思い込むのは良くないなと反省した。

    確かに女性はお産があるから二足歩行が苦手説は言われれば納得しちゃう話だなぁ。
    お産関係や赤ちゃんのハイハイは興味深かった。
    ハイハイせずに立ち上がったりするんだ…産後の成長具合の話は親にとっては心配してしまうことだから何の責任もない適当なネットの記事に踊らされるのは可哀想だと思う。でも忙しいから本読む時間も難しいよね…

    スピードは男性有利だが持久系は女性が有利(筋肉の疲労)な話も面白かったな。

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    2023年01月20日
  • 科学の発見

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    古代ギリシアから量子力学まで、科学の歴史を俯瞰する講義を基にした本。古代ギリシアの哲学者は世界史でも習うが、その詳細が一番興味深かった。実験や事実と照らし合わせて理論を確立していく現在の科学的手法が取られるまで非常に長い年数がかかった。現代の考察を基準に過去の科学者を評価することはウィッグ史観とは別だと思った

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    2022年08月16日
  • 闇の脳科学 「完全な人間」をつくる

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    【感想】
    かつて「マッドサイエンティスト」と糾弾され、医学の表舞台から姿を消した医者がいた。その医者の名は『ロバート・ヒース』であり、彼を主人公として本書は展開していく。

    ヒースが施した治療のもっとも有名なものが、同性愛者を異性愛者に矯正するための電気治療である。被験者の脳の快楽中枢に電極をつなぎ、娼婦にお誘いを受けながら同時に脳内に電流を流していく。これまで女性に欲情を抱かなかった患者は娼婦との「セッション」のあいだに初めてオーガズムに達し、実験は大成功に終わった。

    現代の視点からすれば、こうした治療はまさに「闇の脳科学」に見えるだろう。実際、彼が活躍した1950年代当時でも、こうした「性愛の強引な矯正」は倫理に反するとの声が挙がった。ただし、当時は現代よりももっと過激な治療が行われていたのも事実だ。PTSDを治療するために前頭葉を切除する「ロボトミー手術」が普通に行われ、精神科医による治療も電気ショックを使ったものが一般的だった。また、「同性愛」は病気だと考えられていた。

    その後、ロバート・ヒースは医学界やその他の業界から批判を受けたり、ドラマチックないざこざに巻き込まれたりして、表舞台から姿を消してしまう。50年後の現代では、神経外科医のほとんどの人間はヒースの名前すら聞いたことがないありさまだ。
    しかしながら、本書の筆者であるローン・フランクはこうした「ロバート・ヒース評」を再考しようとしている。というのも、現在の脳治療をめぐる状況は、ロバート・ヒースがやっていたことと似たプロセス、ないしはそれ以上の危険性を帯びているからだ。しかも、今度は倫理観について糾弾する人がいないままに。

    その最たる例が、アメリカ国防総省国防高等研究計画局(DARPA)による脳深部刺激の自動制御装置の開発である。
    イラク戦争やアフガニスタン戦争で外傷性脳損傷(TBI)を負った兵士に対し、DARPAは、小脳に埋め込むことのできる小さな電気系統装置を開発し、装着させようとしている。TBIとは、爆発やその他の打撃によって頭部に繰り返し外傷を負った結果、脳組織が損傷し、攻撃性、鬱状態、不安感、記憶障害、人格変化など、予測不可能なさまざまな症状が現れる病気である。2000年以来、三十万人近いアメリカ兵が外傷性脳損傷を被り、二百万人以上の帰還兵が神経疾患や精神疾患に苦しんでいる。
    そのため、脳の状態を常時読み取ってそれを修正し、特定の感情や特定の種類の行動が最初から起きないようにする装置を開発している、というわけだ。

    これは「ただの治療だ」と言い切ることも可能である。だが、そのテクノロジーが社会に与えることのできるインパクトは計り知れない。ひとたび技術が開発され実用段階に入れば、それはさまざまに転用することができ、例えば兵士をタフな、つまり戦闘に耐えられる人間にしてから戦場に送り出すようなこともできてしまうからだ。

    こうした「マインドコントロール」の類は、突き詰めればロバート・ヒースがやっていた類の実験と何ら変わることがない。それどころか、より危険である。ヒースの行いは「治療」であるが、DARPAの行いは「強化」だ。それは人間にとって神聖で不可侵だと思われている「脳」と「自我」の範囲を平然と超えていく行為であり、その先には「どこまでが人間で、どこからがロボットと言えるのか?」という問題が付きまとう。
    この現状を踏まえて筆者は、「ヒースの時代から何も変わらないまま、倫理的に許される範疇を議論することなく、同じ行動を繰り返しているのは正しいのか?」という問題を提起している。ヒースは叩かれたが、彼は彼なりの倫理観にもとづいて患者を治療していた。しかし世間はヒースを忘れたまま、ヒースと同じことをしようとしている。今の脳科学はもしかしたら、まだ彼に追いついていないのかもしれない。

    「脳にどれだけ変更を加えることが許されるのだろうか」という深淵なテーマを「ロバート・ヒース」という稀代の研究者の実績を交えながら考察していく一冊。科学ノンフィクションとして重厚なテーマでありながら、非常に読みやすく面白い本だった。

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    【まとめ】
    0 まえがき
    脳に電極を差し込んで刺激する脳深部刺激療法は、精神医学界の新たな大いなる希望だと言われている。強迫神経症、トゥレット症候群、鬱病、自閉症、拒食症など、およそ「ペースメーカー」で治療できるとは想像もつかないようなありとあらゆる症状について、実験的に電極治療が試みられ、おびただしい数のレポートが発表されている。ヘロイン中毒やアルコール依存症、過食症までもが電極治療の対象になっている。薬が効かなくなってきた場合や、そもそも効かない場合には必ず、患者も医師も脳深部刺激療法を検討する。
    研究には多額のカネが注ぎ込まれている。市場アナリストは、2019年までには世界の脳深部刺激療法の市場は100億ドルになるだろうと予測している。さらに、アメリカ国防総省国防高等研究計画局(DARPA)もこの分野に参入してきた。

    しかし、脳という人間の根幹をなす部位にどれだけ変更を加えることが許されるのだろうか?そして、テクノロジーが許される「限界」は存在するのだろうか?


    1 ロバート・ヒース
    ヒースは1950年以来、20年以上に渡って数十名の患者の脳深部に電極を埋め込み、統合失調症から鬱病に至るまでの様々な精神疾患の治療を試みてきた。
    彼が最初に注目したのは統合失調症患者だ。かつての医学界は戦場で深刻な心理的ダメージを負った帰還兵にロボトミー手術(前頭葉切除)を行っていたが、脳に深刻なダメージを受ける確率が高かった。
    従来の精神外科手術が脳の特定部分を不可逆的に破壊してしまうのに対して、ヒースは、脳のさまざまな領域を一時的に操作し、その結果を確かめながら治療法を開発していこうと考えた。彼が治療のために利用しようと考えたのは脳自身の原動力、つまり脳の電気活動だった。ポジティプな感情が宿る脳内領域を電気的に刺激することによって、失快感症を起こした統合失調症患者の脳に喜びや快感を呼び覚ますことができるかもしれない、と彼は考えた。

    ヒースがターゲットとしたのは中隔野である。中隔野は、感情を司る脳領域の多くが位置する扁桃体と密接につながっている。さらに、中隔野は視床下部と直接的なつながりがある。視床下部を刺激すると、感情を司る脳領域の多くが活性化し、それと同時にストレスホルモンなどあらゆる種類のホルモンが分泌される。
    ヒースは外科医とともに、22名の患者に手術をおこない、患者の脳を刺激した。結果は「まちまち」といったところだった。2名の患者は治療後顕著に回復し、明るく活発になった。4名は変化がなく、1名は憎悪が見られた。患者によって治療に対する反応が異なる理由は分からなかった。

    彼を一躍有名にしたのは、同性愛者を異性愛者に矯正するための電気治療だ。被験者のB-19は、生まれながらのゲイであり、自分自身に嫌悪感を抱いていた。ヒースは彼の快楽中枢に電極をつなぎ、娼婦をあてがい、電流を流しながらセックスさせるという「実験」を試みた。結果、B-19は産まれて初めて、女性とセックスしてオーガズムに達した。その後も娼婦と楽しげに会話しており、実験は成功に終わった。


    2 50年後、ヒースは忘れられた
    50年後の現在、脳深部刺激療法は神経外科の最先端技術になっている。刺激療法の対象は統合失調症だけではなく、パーキンソン病、過食症、拒食症、ヘロイン依存症にも拡大した。しかしながら、急成長中のこの分野に、なぜか精神科医が参加していないのだ。ヒースの実験と現代の実験を比較してみると、非常に近いアプローチを取っているにもかかわらず、神経外科医のほとんどの人間は、ヒースの名前すら聞いたことがなかった。

    過去数十年の間に「精神」という概念は、漠然としてつかみどころのないものから、脳の灰白質という実体を持った物質的なものへと変化した。以前は環境や生育条件やその他の外的要因のせいだと信じられていた精神疾患は脳内部の問題とされるようになり、それを治すには脳を治療することが必要だと考えられるようになった。
    また、「脳とは、化学物質のスープである」という考え方は捨て去られ、「脳とは、相互接続された電気回路のネットワークである」という考え方が主流となった。以前は、神経疾患や精神疾患はドーパミンやセロトニンといった脳内神経伝達物質のパランスの異常として捉えられていたが、現在では、こうした疾患は「回路の病気」として記述されることのほうが多くなっている。加えて、電極は薬剤よりもはるかに正確に作用することが判明している。

    脳深部刺激療法は、病気の治療以外にもう一つ、脳への重要な変質をもたらす可能性がある。それは「自我の操作」だ。脳の一部分に電極を刺すことで、患者の性格や趣向すら違うものに変えることができる。例えばそれをサイコパス治療に役立てるのは、果たして善なのだろうか、それとも悪なのだろうか?


    3 幸福度に上限を設けるべきか
    精神障害を負った患者への治療について、「治療によって目指すべき幸福度」とはどの程度の幸福度のことなのか、それを超える幸福度を求めることにリスクやデメリットがあるのか、これらを考えてみるべきときが来ている。

    とあるドイツ人の患者は思い強迫性障害と全般性不安障害に長年苦しめられていた。彼は数年前に側坐核に電極を埋め込む手術を受けていたのだが、電池を交換する時期が来ていた。神経科医のマティス・シノフィックは交換のために刺激装置の設定値の調整を行っていく。
    シノフッィクは患者に感想を聞きながら、1ボルトから5ボルトまで段階的に設定値を上げていった。設定値を変更するたび、シノフッィクは患者に幸福感と不安感と緊張感の度合いを尋ねた。患者は1から10までの数字でそれらを表現した。3ボルトまで上げると、幸福度は「3」に上がり、不安度は「6」に下がった。上がったとはいえ、それは取り立てて言うほどの変化ではなかった。ところが、4ボルトまで上げると状況は一変した。幸福度が最大値の「10」に上がり、不安感がまったくなくなったのだ。シノフツィクが実験のために電圧をもう1ボルト上げて5ボルトにしたところ、患者は「すばらしい気分だけど、ちょっとやりすぎな感じ」と言った。患者は自分ではどうしようもないほどのエクスタシーを感じ、そのために不安度が「7」にまで上昇してしまった。
    刺激装置の設定値を「3ボルト」、つまり幸福度も不安度もノーマルな点にすることで合意したのだが、退院する間際になって、患者は「もう少し幸福度を上げたい」気もすると言った。シノフィックは常時この上なく幸福な状態でいることが健康的とは言えない理由を話し、患者の申し出を断った。

    2003年5月13日、アメリカの神経科医ヘレン・メイバーグとカナダの外科医アンドレス・ロザーノは、重篤な慢性的鬱病患者の治療に脳深部刺激療法を試みた。
    彼らはまず、最深部に位置している接点から0.5ミリ浅い位置に6ボルトの電流を流した。患者が突然話し始めた。「今、何かしましたか?」「なぜそう思うのですか?感じたことを話してください」「突然、とても、とても穏やかな感じがしました「隠やかな、というのはどういう意味ですか?」「表現しづらいです。〈微笑む〉と〈笑う〉の違いを表現するような感じです。突然、気分が上向いたような感じがしました。軽くなったような。冬の間ずっと寒い日が続いていて、もう寒いのはたくさんだと思いながら外に出てみたら、新芽が出てきていた。それを見て、ああやっと春が来るくんだと感じたときみたいな、そんな感じです」
    その反応は他の患者たちも同様であり、「気分が上向く」のを感じていた。この効果は、多幸感や幸福感とは別物で、ネガティブな感情を取り除いたような感覚だった。

    メイバーグの意見はロバート・ヒースとは正反対である。ヒースにとっては快感はそれ自体が治療、もしくは治療への鍵だったが、メイバーグは快感の効果に懐疑的であり、治療とは「不幸を無くす」ことと捉えている。


    4 狂っているのは患者じゃない、医者のほうだ
    1972年、人権派の若者たちがニューオーリンズに集まり、学会が開かれているホテルの前でデモを行う。攻撃対象はロバート・ヒースであり、彼が行った同性愛者を異性愛者に矯正するための電気治療計画を糾弾するためだった。
    デモの翌年、ヒースは首都ワシントンに呼び出され、公聴会での証言を求められた。精神医学そのものが全米で厳しい調査の対象となり、ロバート・ヒースが関わっている分野は特に非難の矢面に立たされた。
    公聴会のメンバーの関心事は、ヒースの実験の倫理的側面、つまり彼のやったことが「人間の行動を恣意的にコントロールする」ことに当てはまるのではないかという懸念だった。当時の社会は、ヒースが科学的・倫理的基準を逸脱する実験を繰り返したことに拒否反応を示したのだ。

    ヒース自身は、なぜ批判されるのか理解できず、それがきわめて合理的で優れた実験的治療であると考えていた。事実、ヒースが繰り返し実験を行っていた1950年当時は、ロボトミー手術による前頭葉の切除も当たり前だったし、ゲイを治療するための電気ショック治療も普通に行われていた。彼の患者は苦痛を訴えており、治療のための承認もきちんと取っていた。


    5 DARPAも参戦
    外傷性脳損傷(TBI)は、イラク戦争やアフガニスタン戦争に「特徴的な外傷」だと言われてきた。爆発やその他の打撃によって頭部に繰り返し外傷を負った結果、脳組織が損傷し、攻撃性、鬱状態、不安感、記憶障害、人格変化など、予測不可能なさまざまな症状が現れる。2000年以来、三十万人近いアメリカ兵が外傷性脳損傷を被り、二百万人以上の帰還兵が神経疾患や精神疾患に苦しんでいる。この状況を見てアメリカ軍も脳研究に乗り出さざるを得なくなった。
    DARPAは、小脳に埋め込むことのできる小さな電気系統装置――一種の電子超自我――を開発しようとしていた。DARPAがほしがっているのは、特定の強度で特定の脳細胞を刺激するだけの装置ではなく、脳の状態を常時読み取ってそれを修正し、特定の感情や特定の種類の行動が最初から起きないようにする装置だった。
    例えば、心的外傷後ストレス障害の患者に対して、発作が起きるサインを捉えて千分の一秒以内に反応し、信号が意識に侵入するのを妨害することのできる、埋込式の自動制御装置である。

    ひとたび技術が開発され実用段階に入れば、それはさまざまに転用することができる。脳内に埋め込んだチップが心的外傷後ストレス反応を緩和できるなら、おそらくそれは、戦場での恐ろしい体験が心的外傷を残すことも防げるだろう。さらに、それを使って兵士をタフな、つまり戦闘に耐えられる人間にしてから戦場に送り出すようなことも考えられるだろう。

    しかし、このような状況にありながらも、1970年代に起きたような「マインドコントロール」を危惧する声は、現在あまり聞こえてこない。

    脳深部刺激療法にも、ロボトミーや精神外科一般を襲ったような反動が待っているのだろうか。原則的にはその可能性はあるが筆者としては、脳深部刺激療法が実験的治療法からふつうの治療法になる可能性があると考えている。それは、技術や機器が以前よりも進歩したからだけでなく、時代精神が完全に変化したからでもある。「自分とは何か」という我々の感覚が変化し、自我は、もはや捉えどころのない不可解な現象ではなくなり、脳内の一状態として理解されるようになった。
    現代人は人間を精神医学的見地から捉えるようになった、とも言えるかもしれない。病気と健康の境目が鮮明でなくなり、さまざまな精神疾患が範囲の問題と捉えられるようになった。その結果、病的なあるいは少なくとも不適当とみなされる行動が以前よりも増えた。これは、自分の行動を修正もしくは最適化するための機会が増えたことをも意味する。

    2015年に、「ニューサイエンティスト」誌は「世界を救うためには、人間の倫理観を操作する必要があるのではないだろうか」と問いかけている。また、イェーテボリ大学の哲学者イングマール・ペルソンとオックスフォード大学の哲学者ジュリアン・サビュレスキューは、「世の中がうまくいくためには人間の脳を操作する必要がある」という立場から、生物医学的ドラッグの仕様に賛成している。

    今やあらゆるところで、ロバート・ヒースの声がこだましている。

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    2022年01月28日
  • 米中もし戦わば 戦争の地政学

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    ・アメリカは、持ってるカードを全て見せて、自分達がどれだけ強いかを見せつけて抑止力を行使する、
    ・中国は潜在的敵国に対して自国の能力を隠し、不透明性によって抑止力を実現しようとする。
    ・アメリカは透明性が抑止力につながると信じ、中国は曖昧さと不透明性が抑止力につながると考える。

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    2021年07月21日
  • 世にも奇妙な人体実験の歴史

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    痛みや苦しみや悲惨さに目を伏せたくなる様な人体実験の数々だが、興味深い話ばかりだった。


    医療技術はもちろん医療に関する法律も定められていない時代。イギリスでは当時、死刑囚の死体が解剖に利用することが認められていた。その死体は、度々遺族と解剖をしたい医者との死体の奪い合いが起きて、その奪い合いの激しさから死刑囚が生き返ったこともあったという。
    医学生に必要な遺体が足りないために、メスを入れるのが初めての患者だということも。そのため、遺体が高値で取引され、埋葬屋が医者へ遺体や臓器を横流ししたり、遺体を採掘盗掘する輩がはびこった時代も。

    生きた被験者としては主に、医者自身・死刑囚などの犯罪者・黒人・孤児院の子供(特に障害児)・末期の病床人などが利用されることが多かった。

    自己人体実験
    ・淋病と梅毒を同じ病気が進行したものだということを証明しようと、自身の性器に淋病患者と梅毒患者の膿などを擦りつける。
    ・心臓にカテーテルを自ら通す。
    ・壊血病を証明するため、数ヶ月の間ビタミン無しの同じ食事で過ごす。
    ・炭に解毒作用があることを証明するため毒と一緒に炭を飲む

    麻酔剤が"笑気ガス"と言って40年以上も楽しむためだけの扱いを受けていたとは驚きだ

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    2021年01月13日
  • 科学の発見

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    帯に書かれている文言は大袈裟だが,科学史を俯瞰していて面白い.特に後半に出てくる,ニュートンが自身の力学を導き出すまでの過程は知らなかったことであり,興味深かった.

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    2019年12月23日
  • 科学の発見

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    科学的

    この言葉をつけるだけであらゆる理論は尤もらしくなる。ビジネスの世界でも、特に文系の人を黙らせる、或いは思考停止に持っていくキラーワードだ。

    では科学的とは何か?

    これは科学哲学の問いだが、この本の著者はホンモノの物理学者。しかもノーベル賞受賞者。彼が言う科学的とは、実際に世界を理解することに貢献するかどうかである。科学哲学では、もっと正確に定義しようとするが、著者は物理学者なので、そんなことはどうでも良い。むしろ、科学哲学の議論を小馬鹿にしている。そうではなく、歴史を振り返り、どうやって理解が進んだか?どんな方法、思考が科学の進歩に役立ったのか?を冷静に分析する。そこには、当時だからしょうがない、といった妥協はない。どんなに今の理論に近かろうと、そこに観測・仮説・検証のプロセスがなければ、ただの空想である。

    このような考えのもと、ギリシャ時代からの自然哲学、天文学、数学のさまざまな発見・進歩を丁寧に解説しながら、方法論について辛口コメントを入れる。そして、ついにニュートンによって現代の科学的方法は確立し、そこから科学が大きく発展することになる。

    本書は科学的方法がテーマであるが、科学史としても一級である。天文学がどのように地上の運動とつながったのか、数学の果たした役割、自然を説明できた喜び、などなど当時の知的好奇心の熱が伝わってくる。また巻末にはテクニカルノートとして、当時の理論を数学的に説明しており、こちらも高校数学で理解できる範囲で面白い。

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    2019年09月05日
  • 米中もし戦わば 戦争の地政学

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    ピーターナヴァロはトランプ政権に入ってトランプに助言しているとの事。中国が経済的に繁栄する事が米国の安全保障上最も良くない、彼らを利するだけだと言う立場だから今のトランプの中国への経営面での牽制もこの発想であれば良くわかる。中国はもうアメリカに肩を並べる大国って事だな

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    2019年08月31日
  • 世にも奇妙な人体実験の歴史

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    とんでもない人体実験の数々まさにマッドサイエンティスト。
    現代の医療はこれだけの苦労によって生み出されたものなのかと感心
    画期的かつ一般的な病気に対する新薬が少なくなってきた現在、今後の医療の発展はどこにむかっていくのかなぁ

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    2019年08月19日
  • 米中もし戦わば 戦争の地政学

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    シナの台頭、もしくは拡張と、米国の覇権。
    様々な問題を提起して、それを各々考察する展開で本は進む。

    結果的には、武力衝突の可能性が極めて高く、もしそうなった時には、シナがある意味、覇権を握る可能性が高い。

    憂鬱。

    単に覇権が米国からシナに移るというわけではない。英国から米国に移った、そんなことではない。
    今の世界秩序が、新しいシナのルールに取って代わられるってことだ。それは、全世界が中共のために搾取されるってことと意味するような気がする。
    地理的に近い我が国が、とんでも無い状況に陥ることは間違いない。

    憂鬱。

    シナ製の商品を買うことは、そうした覇権に資金提供するようなもんだってのは、その通りだ。
    経済は大切だが、最優先することは正しいのだろうか。

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    2019年08月15日
  • 世にも奇妙な人体実験の歴史

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    ネタバレ

    とても面白い!
    興味をそそられる内容なのですが、描写がリアルで読んでいると気持ち悪くなってきました…。
    残念ながら、途中でリタイアです。

    序盤に書いてある、遺体もお金になるという部分は初めて知りました。
    墓荒らしが、まだ近い昔の話だったなんて驚きでした。

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    2019年08月03日
  • 世にも奇妙な人体実験の歴史

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    タイトルからマッドサイエンティスト、それも、冷酷に他人の身体を実験に使っている姿を想像する。確かにマッドなサイエンティストと言っていいのだろうが、真面目に、医学、科学の発展に挑んできた人たちだ。
    大半は、人体実験の対象は、自分自身だったりする。
    こうした、危険を顧みない行為があってこそ、今があることは否めない。

    すこし、タイトルが損やな。

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    2019年06月03日
  • 世にも奇妙な人体実験の歴史

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    うーん。この時代に生きてなくて良かったと思ってしまった。
    疫病にかかった患者の体液を飲む医者。スゴイ勇気。
    とろ火に掛けられた嘔吐物という字面だけで吐きそう。

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    2019年03月31日
  • 世にも奇妙な人体実験の歴史

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    昔の人は偉大だ。(^^;
    読む人によっては、気持ちが悪くなるような人体実験(実験者が自分の身体で実験することも多数)が紹介されています。
    病気の原因を探すのに、自分が病気にかかるように実験するなんて無理無理。(^^;
    尊敬はしますが、ちょっとしたおかしみも感じますね。

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    2019年01月19日