出久根達郎のレビュー一覧
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面白い。明治という時代背景に、ほんわかとした面白さが満ち溢れている。
「おばあちゃんが化け猫だというんです」
「襖を手で開けるから気味悪いって」
「おや。確か猫は手で開けるよ。襖も障子も。重くなければ板戸だって横にすべらせるよ。器用に開けて外に出ていくよ。ちっとも変じゃないよ」
「でも」
「そんなことで化け猫は扱いは、そりゃちと、可愛そうだね」
「この猫、開けた戸を閉めて行くって言うんです」
「えっ?開けた戸を閉めて行く?」
「開けっ放しにしていくのではなく、きちんと閉めて行くって」
「猫が?この猫がかい?」
「開けて閉めながら、ニヤリと笑ったんですって」
「ニヤリ -
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前作も、面白く読んだ。
御書物方同心なる役があったこと、紅葉山の德川家の御文庫のこと、そこでどんな仕事があったのか、どれも知らなかったことばかりで興味深かった。
ごく短い短編なのに、古書をめぐる謎とその解決がそれほど不自然でなく展開する手際の良さも、見事だと思った。
ただ、前作は埃やネズミの糞、紙魚、腐った弁当など、何かこ汚い話が多くて、気分的に嫌になったぶぶんもある。
で、続編の本作。
感心するところは前作同様。
ベテラン作家の安心感がある。
一方、眼福満腹会の趣向とか、菊尽くしグルメとか、旗本の蔵書を改めた際にふるまわれる昼食とか、グルメ小説になったのかと思わされた。
作中にも出て来るよ -
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大正12年(1923)、昭和39年(1964)と、関東大震災、東京五輪前後の東京・佃島周辺で織り成す郡司、六司、千加子の三人の若者の本に賭けた情熱。郡司は満州へ去り、六司、千加子は夫婦に。そして約40年ぶりの郡司と千加子の出会いと千加子の娘・澄子と郡司の心の通い合い。現在の新川周辺の隅田川の情景と合わせ、3時点の時空を超えて、江戸情緒の香りにあふれた素晴らしい作品でした。昭和39年の佃大橋の開通により、初めて渡し船が廃止になった意外な近過去も驚きです。古本は命をもっているという登場人物の澄子へのアドバイスなど、本が好きな人には堪えられない楽しい本でもあります。
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それでも、退屈至極な日々はつづく……。将軍家の蔵書番、御書物同心の「退屈至極な日々」を描いた大好きなシリーズの第3弾。
前作に続きこの《虫姫》でも、丈太郎は「本の虫」に似つかわしからぬ勇猛な一面を見せる一方(「虫姫」「州崎」)、恋愛については相変わらずの奥手ぶりが微笑ましい(「鷽替」)。
このシリーズ、けっきょく事件らしい事件はなにひとつ起こらない。事件というよりもそれは、市井のひとびとの日々にポツンとついた「しみ」のような出来事にすぎない。けれども、読み進むにつれて登場人物のひとりひとりがそれぞれ、心の裡になにがしかの《なぞ》を隠したミステリアスな存在に思えてくるのがおもしろい。ひとの心