高橋啓のレビュー一覧

  • 遠近法

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    うーんビネ好き。ビネはノンフィクション風の虚実混濁創作スタイルを確立したなあ。今回の全編お手紙オンリーという手法もすごい。良家の娘がポルノのコラに使われて父親激怒し探偵雇って犯人探し、発端は大御所画家の死で終盤には大洪水まで。ルネサンス時代の史実を扱っていながらなんか個々の要素はすごい現代的なのがおもしろかった。手紙は近視眼的な一面的な主観で書かれるけど、物語としてそれを読んでるこちらは全体を俯瞰出来て、藪の中のような大岡昇平の事件のような面白さがある。タイトルの遠近法は、近視眼的vs俯瞰を表してもいるし、絵画手法なのもセンスいい。

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    2026年09月20日
  • 遠近法

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    フィレンツェで起きた画家殺人事件。

    ミケランジェロが描いたシスティーナ礼拝堂の壁画。裸体を描くのが卑猥だとして、後から別の画家によって布の部分が描き足された。そんな時代の話。

    書簡体歴史ミステリということで、本書はすべて個人的な手紙のやり取りからなる。読者は登場人物たちが交わすすべての手紙を見ることができ、神の視点から少しずつ情報を得ていく。

    文書のやり取りで話が進んでいくからこそ、同じものを見て違う感想を抱くのとは逆に、同じ感想を抱いているのに、実は違うものを見ていたという行き違いが生まれるのが面白かった。
    宗教観や画家としての信条によって、同じ言葉や出来事に異なる意味を見出してしまう。その思い込みが、すれ違いを生むのも興味深い。

    「遠近法以上に確実なものはなく、本質的なもの、永遠なものはない」

    写真の技術などもなかった時代。遠近法を発明することで、神と対等であるかのように現実を創造できる。「地上の無限」。

    芸術家の苦悩や狂気、権力者たちの思惑。
    過去に書かれたはずの手紙の中に生々しく残る痕跡を辿っていく、刺激的な読書体験だった。

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    2026年09月17日
  • 遠近法

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    ★5 16世紀中葉のフィレンツェ、なぜ画家は殺害されてしまったのか? 全て手紙のやり取りだけで物語が進行する書簡体小説

    ■あらすじ
    16世紀中葉のフィレンツェ、サン・ロレンツォ聖堂のフレスコ画の前で、画家が殺害される事件が発生。さらに彼のアトリエには、フィレンツェ公コジモの長女であるマリアを模した猥褻な絵が残されていた。

    コジモは信頼している側近のヴァザーリに事件の解明を依頼、彼は関係者に書簡をおくり助言を求めるのであった…

    ■きっと読みたくなるレビュー
    ★5 全て手紙のやり取りだけで物語が進行する書簡体小説。ルネサンス期のイタリアはフィレンツェを舞台にしており、現実にあった出来事を背景に描かれた歴史ミステリーでもあります。

    最初の目次と人物表だけで強烈です、いきなり引かないように。安心してください、メインの登場人物はそれほど多くありませんし、関係性も比較的シンプルでわかりやすいです。正直自分も理解できるか自信がなかったんですが、ちゃんと読み切ることができましたよ、むしろ熱中しちゃいましたね~

    人物については、とりあえず以下の人たちを理解しましょう。
    依頼人:コジモ
    └妻:エレオノーラ、娘:マリア
    探偵役:ヴァザーリ、ボルギーニ
    被害者:ポントルモ
    政敵:メディシス、ピエロ

    その次は被害者の近くにいる画家、彫刻家で、いわゆるメインの容疑者です。ま、厳密に理解しようとしなくても大丈夫です。
    画家、彫刻家たち:ミケランジェロ、チェッリーニ、アーニョロ、サンドロ、ナルディーニ、マルコ

    まず本書の何がスゴイって、やっぱり書簡体形式でストーリーが展開するところですよね。ひたすらAさんからBさんへの手紙として、その内容が綴られてゆくのです。

    手紙は1対1のやり取りなので、当事者にしか言えない内容だったり、本音だったり、はたまた騙したりと、その人の感情や思惑の密度が濃いのよ。人間性の本質がにじみ出てる感じで、興味深いんだけど独特の気持ち悪さが伝わってくる。

    しかしそんな手紙のやり取りを読み続けていくと、ちゃーんとミステリー小説として生き生きと躍動していくんすよ。本作メインの謎であるポントルモの殺害犯は誰なのか、その動機は? さらにポントルモは何故マリアを模した猥褻な画を書いたのか。

    この時代でなくとも、現代でも同じようなことがあって、なんつーか歴史は繰り返すよなーと思わざるを得ない。もう極端なことするの、やめませんかと言いたい。

    そして本作は歴史小説としても学びが多いです、イタリアの歴史などまったく存じ上げずでした。さらには本作のタイトル『遠近法』ですよね。これは絵画技法のことではなく、きっと中世の変わりゆくヨーロッパ史を暗喩したものなのでしょう。

    ■ぜっさん推しポイント
    ひたすら手紙のやり取りを読んでいく小説なんですが、特に俗っぽくて面白かったやり取りがあります。フィレンツェ公コジモと妻エレオノーラ、そして政敵であるフランス王妃メディシスとコジモの娘マリアとの関係性ですね。

    おまえら公爵なのに、内容がとにかく俗っぽいっところが愛せます。なんかもう現代で言うところの、他人のLINEのメッセージを覗きみてる感覚に近かったなー。

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    2026年07月12日
  • HHhH プラハ、1942年

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    ネタバレ

    あとがきにもあった通り、歴史に明るくなくても問題なく読める。
    僕=作中の人物(作者ではない)なのがフィクションの中のフィクションで面白い。
    目線は俯瞰なのに、一緒にその時代にいるかのよう。
    終盤の襲撃のシーン、そこからの逃亡、攻防戦は畳み掛けるように加速して読む手止まらず!
    小説だからこそできるしめくくりが、めっちゃよかった。

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    2026年03月05日
  • 7

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    最初は7つの独立した短編に見えるが、最後の「第七」で全てが繋がる。哲学者でもある著者らしい、鋭く冷徹な視点で人間の限界を執拗に攻める。
    2025年最後に良い本を読んだ!

    第1話「エリセエンヌ」
    SF風に楽しめるが、過去の自分と今の自分が連続した存在ではなく、ただ積み重なった層の上に今が乗っているだけ——という存在の不連続性。

    第2話「木管」
    元ロックスターの音楽をめぐる物語。他の話に比べて少しエンタメ寄りで異色だが、やはり人間の行動は「人間の枠」から逃れられない。

    第3話「サンギーヌ」
    寓話的で読みやすい。物質と反物質、量子もつれのように、我々の目にはそれぞれ別の物質のように見える世界の諸物は実は深く繋がっているのかもしれない。

    第4話「永久革命」
    いくつもの未来を行き来するSF。世界の無数の可能性を示しつつ、最後の第七につながる。

    第5話「宇宙人の存在」
    個人的に一番強烈だった。「伝統的な宗教は力を失って単なる忠誠心で生きながらえている」と切り捨てながら自分たちの生み出した狂信的な集団から外れたものは消していくという強烈な思想のあり方、それを「素晴らしい人生だったね」と肯定する表現は善悪の彼岸にある。

    第6話「半球」
    分断された宗教・思想・政治の世界で、弱々しくもそれを繋ごうとする人々の姿。そしてそれら全てが、より大きな「人間の思考の半球」に閉じ込められていてそこからは出られない。

    第7話「第七」
    不死の男が何度もこの世を生き直す。記憶が積み重なる中で、無数の人生の可能性を試すが、結局すべては人間の枠内に収まる。

    全体を通して感じたのは、人間はどれだけ可能性を夢見ても、どれだけ信仰を新しく作り替えても、結局「人間という限界」から逃れられないという、静かで残酷な諦観。エンターテイメントとしても哲学書としても成立する稀有な作品。読後感は少し冷たく、重いが、それゆえに忘れられない一冊。

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    2025年12月29日
  • 認知アポカリプス――文明崩壊の社会学

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    圧巻。現代世界を「認知市場」という観点から社会的分析を行うブロネールの筆致に面食らう。
    不安や心配という人間の根源的な感情を取り込みながらソーシャルネットワーク世界は無限に肥大化していく。
    ナチュラルでピュアな失われた黄金時代を求めるルソーを源流するとする一派への批判、トランプを筆頭とするネオポピュリズム的言説をまとう人々への分析など、非常に多角的で鋭い論考を堪能できる。主権を持った政府側の一方的な上からの意図的な支配、それに対する素朴な民主主義を掲げる人々の被害者視点からの下からの反抗、両者の分かりやすい対立では収斂しない短期的な利益へと傾倒してしまう「人間」という種に対する批判的分析。
    構造の中に絡め取られる人々。
    フィクションは累積された人々の願望であり、それゆえ時代の風波に適した作品は神格化され、未来を先取りした傑作と称される。
    スマホを使うことはやめられないがどう上手く使うかは考えることができる。
    大きく自由になった人間の精神は瑣末なことに向かうが、その余剰を活用しなければいけない。

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    2025年06月28日
  • HHhH プラハ、1942年

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    終盤のある章の終わりでしばらく放心状態になって動けなくなり、物語の最後の1文で泣き出しそうになった。
    すごかった……暫定今月の1位。この著者の別の本も絶対読む。最近読んだミア・カンキマキさんの「眠れない夜に思う〜」と同じように史実に著者の考えや生活が挟み込まれる形式だが、当たり前だがそういうエッセイみたいなのとは全くもって別物。事実だけでも読み応えがある上に、ちゃんと全体が「小説を書くこととは何か」という作品になっている。事実のちょっと手前に著者がいて、その著者と一緒に事実を目撃している感じ。書いているうちにその事実と一体化していく作者を見守る読者になる。いや、、すごかった。
    なぜ私たちはナチスを題材にした本や映画にこうも惹かれるのだろう。

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    2025年07月05日
  • HHhH プラハ、1942年

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    ハイドリヒと類人猿作戦、という Lieblingsthema
    2010年代に観た二本の実写化映画のうち、キリアンも出ておらず面白くもなかった方の原作小説。
    これが読んでみるとかなり刺さった。題材があまりにもドラマチックなのは言うまでもないとして、フランス人著者のチェコ・スロヴァキア愛と歴史小説に対する異常なこだわりが好き勝手に書かれていて楽しかった。

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    2025年04月20日
  • HHhH プラハ、1942年

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    ナチ高官ラインハルト・ハイドリヒ暗殺事件を,ドキュメンタリー風に描く.とはいえ,そこには執筆に悩む作者も登場し,1942年当時と作者がいる現代を行き来しつつ,ハイドリヒ暗殺とその後の顛末からなるクライマックスになだれ込む.
    このようになかなか不思議な構成なのだが,「スローターハウス5」のテイストに非常に近い.

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    2024年10月16日
  • HHhH プラハ、1942年

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    20年前、彼らはヒロシマとナガサキを知っていた。


    読み始めてすぐに一旦停止。
    内容が内容なだけに、歴史の勉強のやり直し。

    そうしてから読んでも、読むのに時間がかかった。

    時系列で話が進まないし、作者の感情も入りすぎているように思う。読みにくい。

    本当にこういった作品は好きじゃない!!

    だけど・・・。

    その時の情勢が目に浮かぶ・・・。
    昔の話なのに(1世紀も経っていない。途中で作者が言っていた)その場の臨場感がそのまま伝わる。

    20年前のボクはプラハの街を歩いたのに、そういった歴史を一切知らなかった。

    言いたいことは、天に星、地に石コロの数ほどあるけれど・・・

    ボクは、この英雄達の名を決して忘れない!!


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    2024年05月17日
  • HHhH プラハ、1942年

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    作者は、この作品がデビュー作とのことだが、信じられないクオリティかつ圧倒的な面白さ。
    翻訳も素晴らしい。
    内容は重厚だが、章立てを長短織り混ぜることでリズムを生んでおり、一気に読ませる。
    歴史を「語る」ことを、「僕」の視点から迷いも含め真正面から挑んでいる。
    この逃げない姿勢、逡巡をそのまま吐露できる強さ。

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    2024年03月16日
  • HHhH プラハ、1942年

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    歴史小説はどこまでが史実なのかいつも悩みながら読んでいたが、この書き方はそのボーダーラインが明確だったので悩まず読めた。

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    2023年05月25日
  • 編集者とタブレット

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    「編集者とタブレット」tsogen.co.jp/sp/isbn/978448… くー読んだ本がとても良かったときの喜びたるや。出版業界に押し寄せるデジタルの波vs紙の本。10年前の作品なんだよね。老兵の人生の哀愁もありつつ全体的に品が漂い、重くし過ぎずユーモアや皮肉のバランスも良くて素敵。考えたらフランス物は久々だな

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    2023年05月14日
  • 編集者とタブレット

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    ネタバレ

    『廃れる伝統的出版界 デジタルとの融合の果てに…』

    デジタル出版時代を先取りした2012年の作品。ベテラン編集者の元に、原稿などの入ったタブレットが手渡されるところから物語が始まる。単に紙 vs デジタルの対決と考えず、デジタルの時代に合った編集を見出そうと若者と交流する主人公の柔軟さに先見の明を感じる。

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    2022年07月20日
  • ルーム・オブ・ワンダー

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    一気に読み終わった。読みやすいかつ面白い。東京訪れるシーンもあって外人がどう楽しむのかとフムフム。最後のシーンを読んだとき、先をイメージしてない自分に気づき面白いだけでなく考えさせられた。

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    2019年04月12日
  • ルーム・オブ・ワンダー

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    人生は有限だしいつ終わるか誰にもわからないし、生きていく上でどう優先順位をつけてくか考えさせられました。一気に読んじゃった。すぐ映画化しそう。 #ルームオブワンダー

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    2018年08月31日
  • エディに別れを告げて

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    訳者あとがきに思ったことが全部書いてあった。
    初体験の場面が衝撃。ゲイに幻想を抱いているワタシも立派な差別主義者なのである。

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    2015年05月10日
  • 遠近法

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    ネタバレ

    最初は時代背景も分からずどういう関係性かも分からなかったのでさっぱりだったけど、読み進めるにつれて色々掴めて来て面白かった。芸術の話は難しくて読み飛ばしてしまったところもあった。

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    2026年10月25日
  • 遠近法

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    なんと、あのヴァザーリが大活躍! 
    芸大を出ている私でも読むのに努力が必要だったのですが、好評価が多くてびっくり。
    好きな人しか手に取らないのかも。
    映画になったら大スペクタルになりそうです。

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    2026年10月21日
  • 遠近法

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    ネタバレ

    中世ヨーロッパを舞台とした書簡ミステリ。
    サン・ロレンツォ聖堂の壁画を製作中のヤコポ・ダ・ポントルモがかの壁画の前で殺された。
    時のフィレンツェの公、コジモ・デ・メディチは側近のヴァザーリに犯人調査を命ずる。

    この時代の背景となる芸術家達の世の中での地位や政治との関わりに不慣れなまま、大袈裟で回りくどい言い回しがこれでもかと飛び交う多対多の書簡のやりとりに投げ込まれ、序盤は混乱の方が強い。
    こいつ誰だっけ?あの面々とどういう関係?あれ、さっきは何か別のこと言ってなかった?
    ぶつ切りにされた一方通行の思いのたれ流しというこの形式でこそより強く感じる人間関係の多面性。

    次第に登場人物達の立場や陣営、思惑とその交錯ぶりが見えてきて、その分野に明るくないなりにも中々興味深い物語が見えてくる。

    殺されたポントルモが残していたミケランジェロの下絵を基にしたヴィーナスとキューピッドの絵。
    一糸纏わぬ姿はこの時代のすう勢としては、ただでさえ嫌厭される代物だが、その顔はコジモ公の娘マリアにすげ変えられており、もはや猥褻画扱い。

    この絵画の入手を巡っても、ああでもないこうでもないと右往左往するんだけれど、それと並列に語られるのが国対国同士の戦。
    現代で言うアイコラ的なことに当事者にとっては心痛むのは分かるけど、絵描きが描いた一枚の絵と風評文だけで権威の転覆が狙えるっていう気風が悪意の出処もそうだけど、ゴシップをある意味待ち望んでいる大衆の浅はかさ推して知るべしのところがいつの世も変わらぬ人間性を感じてげんなり。

    書簡の中で殺人事件のあっと驚くようなツイストや解決があることを期待しまっていたが残念ながらその色は弱め。
    でもポントルモを始めとして殆どの人物や大きな時代の流れが史実だということに気付いてから、歴史の隙間をたぐい稀な想像で広げた物語と思えば、また違った楽しみ方をすべし物語ということで納得。

    終盤ちょっとややこしめな芸術論的なものが混じり混んできて素人には辛いところもあったけど、最終信がポントルモ自身の書であり、これがまたぐっと視野を広げる効果を持っていて締まりとしては良かった。

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    2026年09月26日