最初は「あーアサッテとか黒人ミックスのゲイ売春とかと一緒でキワモノ受賞かー。」と思ったけど30ページから急に面白く感じた。
他の方も書いてらっしゃるが93ページはちょうどいい感じ。これより長いと私を含めて読者は耐えられないでしょうね。
乙武氏をして「この人の成し遂げたことは障害者をボロクソに言って
...続きを読むもいいという対象にしたこと、それこそノーマライゼーションだ」と投稿してる人がいましたが、彼女のこの作品も少しそんな感じが。ご本人にとっては望んでもおらず煩わしいだけの達成だろうけど。
読み終えてから芥川賞受賞時のインタビュー記事も読んだ。なるほど。健常者のみ対象とした出版界と自身の小説を落とし続けた出版社への復讐ね。
93ページ、どれも病気の味がする文章だけれど、難病の金持ちが「オリンピック選手になりたい」とか「鳥になって空を飛びたい」とかではなく、貧しい街でネグレクト気味に育ち、環境に馴染んで碌でもないはすっぱな人生を歩みたい、妊娠して堕胎したいと希望する様は、「悪名は無名に勝る(芥川賞インタビュー)」と語った本人ともぴったり重なるし、無料で自身の裸や性行為動画を世界中に垂れ流しデジタルタトゥーの剣山の山に飛び込む人達が多いことも改めて納得出来た。
モナリザと赤いスプレーの表現はそのまんま素敵。
ちょうどフランスの実験動画がTwitterで流れてきた。「顔真似をしてみて」と大人と子供に指示する。最初は様々な変顔を真似るが知的障害者の女性が現れると大人は真似を止める。子供は続行。障害者をどのように見ているか、偏見の実験。
彼女の怒り。「可哀想に」と言いながら足で社会の外にジリジリと押し出される感覚。そうかと思えば直接関わってくる人間はとてつもない悪意で近づいてくる。本の中では彼女の方から男を金で買ったが、障害者施設での性的暴行は他のケースと同じ。もしくは明るみに出にくい分多いかも知れない。彼女の怒りは五体満足でありながら全てを世界の責任としてただ存在しているだけの健常者、自身の不自由な身体、不幸にも持ち合わせた知性、背骨が曲がったまま生きながらえる寿命にも。
「私なら耐えられない。私なら死を選ぶ。」
そう言われても生きていくことに尊厳があるんだと。
その通り。
作者の意図とはおもいっきりズレるけど、そもそもこの言葉を言う人は自分のことを「健常者」で「平均よりマシ」な人間とでも思ってんでしょうけども。「いや、そんなつもりはない、ただ生き地獄だなと。」まぁそうですね。
例えば私は日本人男性ですが、188センチ白人金髪青目マッチョハーバード金持ちアメフト主将外銀勤務25歳からすれば「死んだ方がマシ」な存在なわけで。ここまで恵まれたアルファメールでなくとも、多くの白人や黒人にとって私は「死んだ方がマシなちんちくりんの黄色いサル」なんですよね。
誰かを見て「死んだ方がマシ」と思ったり発言したりするその傲慢さ。まぁ無くなりはしないけど。
人間は傲慢で出来てるから。あとなんか人間の成分ってありましたっけ?
最後に。ネット世界にどっぷり浸かってる155センチの学歴なし金なし介護職員に「ノンケですから」と発言させる作者の意地悪さがごく自然でいい。彼女にとってはこんなの、「元気?」と挨拶するくらいのものだ。10歳の発症時から致死量の悪意に晒され続けたら、それをエネルギーに変えていかないと生きてけない。チューブワームだって酸素の方がいいかも知んないけど深海には硫化水素しかないなら仕方ないじゃん。的な。
あっという間に読めて集中出来る、いい本でした。え?そんなに高評価なのになんで星が4つなんだって?二回読み返す本じゃないから。