西岡文彦のレビュー一覧
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この本を読むことができて良かったと本当に思いました。こんな気持ちになることなんて滅多にないのですが、ゴッホ展の前にこの本を読んでなかったらその感動が全く違うと思います。
ゴッホは27歳から37歳までわずか10年で約2000枚の作品を遺すのですが、生前に売れた作品はわずか1枚のみだったというのは驚きです。芸術とは普遍的なものではなく流行や教育に依存するものであるということがわかります。わたしは19世紀の末になぜゴッホの作品がこれほどまでに嫌悪されたのかよくわかりませんでしたが、タッチの荒々しさが理解されなかったということなのだと思います。
この本を読むまで、わがままな兄を支え続けた弟テオは立派 -
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19世紀の革命期以降、美術の評価の舞台は王族貴族のアカデミーから市民の世論になった。こうなると作者の声高な主張や作品の衝撃度が勝敗を分け、アトリエは世間に衝撃を与える作品の試作や実験の場所となる。ピカソの『アヴィニョンの娘たち』はその代表ともいえるものでいわば「新理論の論文」である。
更に写真の登場によって写実的な絵画は衰退し近代美術は「反写実」に向かった筆触(タッチ)の強調やさらに個々の画家が独自にそのスタイルを工夫することで自らを主張した。スーラの点点やセザンヌの平筆タッチ(p.123~)
近代以降の写実的でない美術の個々の解説は何度読んでも腑に落ちなかった。というよりはなぜこんな絵を描こ -
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美術を商品としてとらえ、その売り方が
歴史とともに変動する、と教えてくれる本。
宗教が強ければ、宗教画が
教会から注文される。
その場合、教会の権威のプレゼンテーションと
して、絵画が使われる。
王宮が強ければ、王宮画が王宮から注文される。
これも、王族の権威のプレゼンテーションが
求められる機能。
教会や王宮に権威がなくなると、市民に売る
ことになる。
受注生産ではなく、見込み生産。
市民が入り込めるように、民衆や、
風景が描かれる。
成金がでてくると、客をその気にさせるため
金縁の額にかざり、客を貴族かのように
扱い、高値でありものを売る。
美術をこういう観点で理解するのも、
面 -
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写実主義から、前衛主義へ。 作品の風潮と、その背景として、アメリカの経済発展と同調した取り巻く絵画市場環境の増大。 この波はもはや現代に再来せず、それに最大限乗ったピカソと同調の存在もまた不出世のもの。
「女は苦しむ機械だ」と公言し、その激しい感情の力さえも、破壊的な芸術性に変えて描き続けた、まさに怪物。
しかし、自画像として、死期が近い中で自ら描いたその暗澹たる表情は、生涯で手にした成功と同等、それ以上の闇を感じてならない。
まさしく、ピカソ本人、作品、評価された背景が網羅的に読み取れた一冊。
ニューヨークに、MOMAに行く前に読んで置きたかった。 -
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ネタバレひとりひとりの芸術家に焦点を当て、物語が展開してゆくのだが、いつの間にか最初の話は後半に取り上げられた作家の作品の影響を受けていたことが分かり・・・という重層的な構成になっている。
「美」を求めるひとの根源とは何か、という答えを芸術家たちが直面した様々な局面(酷かったり、陽気だったり、業としか言えないような苦いものだったり)を集め合わせ、その重なり合いによってひとつの振動となって読者の胸を打つ。
ルノアールの「初恋の相手」の物語りは本当に素晴らしい。
----僕、この絵好きだ---
その純粋な気持ちの裏にまるで運命としか言いようのない歴史があったなんて!
やはり美神は存在するし、その顕現を目 -
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以下の質問に答えている。
1.ピカソの絵(「アビニョンの娘たち」を中心として)は本当に美しいのか、どこがうまいのか
2.見るものにそういう疑問を持たせる絵がどうして偉大な芸術とされるのか
3.そのようにどうしてこれほどの高値がつくのか?
4.ピカソのような絵は誰でも書けるのではないか
5.そう思わせるような絵を偉大とする美術界はどこかおかしいのではないか
6.そういう絵にこれほどの高値をつける美術市場もどこかおかしいのではないか。
作者はこれにこのように答えている。(以下ネタバレ)
1.ピカソの絵は、それ以前の美術の基準に照らせば美しくない。しかし、ピカソの絵は、超絶なデッサン力に支えられて -
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西洋絵画の裏歴史というべきか、画家や作品ではなく世界史から絵画の道具、さらには政治やビジネス戦略から絵画を見るとこうも切り口が出てくるのか、とワクワクした一冊です。
元々は宗教画など崇高で神聖なものとされた絵画は、宗教改革や偶像崇拝の禁止の影響で大口取引だった教会や聖職者を失い、あらたな消費者として市民へ間口へ広げていった。一方で富豪のメディチ家は自身のもうけによる罪から逃れるために、芸術への支援を行いそれが現在のアートにもつながった。
こうした歴史背景から絵画がどのように利用されていったか、続く章で考察されていきます。
絵を描くためのキャンバスの誕生が芸術に与えた影響。
ナポレオンの芸 -
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絵画、彫刻の「恋愛にまつわる物語」をまとめた一冊。
恋愛を描いた名画の物語もあれば、名画を描いた画家自身の物語も。
著者の西岡文彦さんは、版画家、多摩美術大学の教授でもあり、沢山の美術本を書かれている方。
また、『日曜美術館』、『世界一受けたい授業』、『芸術に恋して』、『誰でもピカソ』、『タモリ倶楽部』等、様々なテレビ番組も手がけているようです。
西岡さんの本を読むのは二冊目。文体としては、中野京子さんに比べると真面目な印象だけど、主観をあまり入れないので、俯瞰で美術の世界を見ることが出来る。
だからといって堅すぎもなく、バランスが絶妙です。
収録作品は、モディリアーニを最後まで献身的