西岡文彦のレビュー一覧
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以下の質問に答えている。
1.ピカソの絵(「アビニョンの娘たち」を中心として)は本当に美しいのか、どこがうまいのか
2.見るものにそういう疑問を持たせる絵がどうして偉大な芸術とされるのか
3.そのようにどうしてこれほどの高値がつくのか?
4.ピカソのような絵は誰でも書けるのではないか
5.そう思わせるような絵を偉大とする美術界はどこかおかしいのではないか
6.そういう絵にこれほどの高値をつける美術市場もどこかおかしいのではないか。
作者はこれにこのように答えている。(以下ネタバレ)
1.ピカソの絵は、それ以前の美術の基準に照らせば美しくない。しかし、ピカソの絵は、超絶なデッサン力に支えられており、非常にうまい。
2.ピカソの絵は当時求められていた前衛芸術であり、衝撃によって人々に従来の基準への疑問を抱かせることを狙っていた。
3.ピカソが現れた時代、それ以前の教会を飾ったり貴族の家を飾るという実用性のある美術と異なり、美術館に入れるための絵が求められており、美術品自体の主張が必要とされていた。ピカソの絵はその需要に応えていたから、高値がついた。
4、ピカソの作品は、高い技術と巧妙な市場戦略に支えてられており、亜流の作家では真似ができない。
5.ピカソの絵は、絵がもっぱら美術館に飾られるものになったと言う文化の変化に対応するものであり、その方向をうまく追求しているために偉大とされている。
6.美術が儲かるとする投資家、画商、オークショニアの力により美術市場が支配されているため、高値がついている。また、新しい作家を育てるよりも、既に定評のある作家の作品の値を上げる方が、投資として効率的であると言う戦略に基づいて、ピカソの絵の価格が上がっている。 -
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西洋絵画の裏歴史というべきか、画家や作品ではなく世界史から絵画の道具、さらには政治やビジネス戦略から絵画を見るとこうも切り口が出てくるのか、とワクワクした一冊です。
元々は宗教画など崇高で神聖なものとされた絵画は、宗教改革や偶像崇拝の禁止の影響で大口取引だった教会や聖職者を失い、あらたな消費者として市民へ間口へ広げていった。一方で富豪のメディチ家は自身のもうけによる罪から逃れるために、芸術への支援を行いそれが現在のアートにもつながった。
こうした歴史背景から絵画がどのように利用されていったか、続く章で考察されていきます。
絵を描くためのキャンバスの誕生が芸術に与えた影響。
ナポレオンの芸術を利用した政治戦略。
アメリカの台頭と印象派の画家たちの活躍。
そして芸術家たちのブランド化、メディア戦略と権威化。
画家や技法の変遷をたどるだけではみえてこない芸術史が見えてくるのです。
芸術となると画家や作品が前面に押し出されるイメージがあったので、世界史や当時の世相などを交えて芸術史が紐解かれていくのがとても新鮮でした。少しひねくれた視点から西洋美術をみる入り口としてうってつけの一冊だったと思います。 -
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絵画、彫刻の「恋愛にまつわる物語」をまとめた一冊。
恋愛を描いた名画の物語もあれば、名画を描いた画家自身の物語も。
著者の西岡文彦さんは、版画家、多摩美術大学の教授でもあり、沢山の美術本を書かれている方。
また、『日曜美術館』、『世界一受けたい授業』、『芸術に恋して』、『誰でもピカソ』、『タモリ倶楽部』等、様々なテレビ番組も手がけているようです。
西岡さんの本を読むのは二冊目。文体としては、中野京子さんに比べると真面目な印象だけど、主観をあまり入れないので、俯瞰で美術の世界を見ることが出来る。
だからといって堅すぎもなく、バランスが絶妙です。
収録作品は、モディリアーニを最後まで献身的に支え続けた若き妻を描いた「ジャンヌ・エビュテルヌ 」、
恋多き天才画家、ピカソの「抱擁」、
自分の作りだした彫刻に恋をしてしまうギリシャ神話の名場面を描いた、ジェロームの「ピュグマリオンとガラテア」、
印象派の年長者ドガの描いた「アプサント」、
イタリアの詩聖ダンテの運命の女性との出会いを描いた、ヘンリーホリデイの「ダンテとベアトリーチェ」、
印象派の後輩夫妻を描いた、マネの「モネ夫妻」、
華やかな表現で描き続けたルノワールの「ムーランドラギャレット」、
恋愛、飲酒に苦しみ、終盤は孤独に過ごしたムンクの「吸血鬼」、
ロダンとの宿命的な恋愛で知られる彫刻家カミーユの「ヴェルチュムとポモナ」、
素朴な人柄でみんなに愛されたルソーの「詩人に霊感を与えるミューズ」、など。
この前、メトロポリタン美術館展でジェロームの「ピュグマリオンとガラテア」(写真はその時購入したポストカードです)を見てきました!
ジェロームは、印象派に対抗し、アカデミックなテーマ、描き方を続け、「芸術の名に値しない」と当時は酷評されていたとのこと。
この絵は惹かれるものがある。ギリシャ神話が好きというのもあるけど。
ジェロームの他の絵も見たけど、断然この絵に吸い寄せられる。後ろ姿でこんな見入ってしまう絵は他にあまり無い気がする。
(いや、他にももっとあるかもしれない。調べてみます)
切り口も面白く、それぞれのエピソードも断片的ではなく、その時の時代背景も書かれている。
勉強になる一冊でした!
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Posted by ブクログ
【ビジネス戦略から読む美術史】 西岡 文彦 著
編集者が付けたタイトルと思いますが、内容からすれば「西洋史における美術」という感じです。
プロテスタントが偶像崇拝を禁じたことから商業絵画がオランダで開花。当時、「家政は国政の礎」とされて、家政婦の社会的位置づけは高く、フェルメールが「牛乳を注ぐ女(家政婦)」を描いて、パン屋の広告に使われたという話から、ダ・ヴィンチ、ナポレオンなどの史実を踏まえて、19世紀ころまでの西洋史(+米国史)を新書サイズに一気に書き上げた内容になっています。
読んでいるうちに、「これ、歴史の本じゃないの?」と思うときもままあり、金利の話やそれによるユダヤの位置づけなど、美術とはそれますが、とてもわかりやすく書かれています。
歴史と絵画との大きな流れをつかむことができて参考になりました。高尚なウンチクを語るにはお薦めの一冊です。 -
Posted by ブクログ
多摩美術大学教授で、テレビの美術系番組の企画も行う著者による、ビジネスの視点に立った美術史。西洋絵画を主体に、単に画家や美術作品そのものを評価するのではなく、ビジネスの視点から画家やそのオーナーなどが成功を収め、需要に応えることによって宗教画や自画像、印象派の絵画へと移っていったことを説明している。フェルメールもレオナルド・ダ・ヴィンチもレンブラントもビジネス的に上手く時代にはまったからこそ、現在でも高価な値がつく作品を残せたことに納得した。美術には素人である私でも興味深く読み進められた。勉強になった。
「フェルメールのように無名の少女や家政婦を主人公にした絵は、宗教改革が宗教絵画を禁止したことを機に描かれはじめた。モネが得意とした風景画や、ゴッホがひまわりを描いた静物画も、その時期に人気を呼んだ新種の絵画だった。驚くべきことにそれ以前のヨーロッパには風景画も静止画も存在していない。これらの絵画は、教会という大スポンサーを失った画家達が、生活のために市民顧客に売れる絵を描き始めた結果として生まれたのである」p4
「美術の経済的な側面にまつわる話題は芸術性に反するように見なされがちだが、もともと美術というものは、経済的な余剰が存在しないところには決して存在しない」p4
「驚くべきことには、「十戒」の戒めを最も厳格に守ったプロテスタント国のオランダがレンブラントとフェルメールという当時を代表する巨匠を生み出し、近代には印象派を代表する天才ゴッホを生み出し、現代には抽象絵画の開祖にして最高峰の巨匠といわれるモンドリアンをも生み出しているのである」p16
「教会を飾る絵画彫刻やステンドグラスは、神の権威と教会の権力をプレゼンテーションするために製作されたものであり、教会と並ぶ美術のスポンサーであった王室にとっても、宮殿を飾る美術は王の権威と権力をプレゼンテーションするためのものだった」p19
「今日では名画と聞けば誰もが思い浮かべる静物画や風景画は、当時のオランダで確立されたジャンルであり、それ以前のヨーロッパ美術にはこうした絵画は見当たらない。ルネッサンスの巨匠であるボッティチェリやダ・ヴィンチやミケランジェロが描いたとされる静物画や風景画が残されていないのはそのためである」p25
「西洋の風景画といえば風車がつきものとなっているのも、もともと風景画がオランダで誕生したからである」p28
「写真技術が登場する以前に人々が絵画に期待していた手法といえばもっぱら写実描写のみであった。写真のない時代における絵画は、今日の私たちが写真に求める画像による記録という機能を果たし得る唯一の技術であり、したがって写実を拒否した絵画などは絵画と見なされなかったのである」p39
「(ヨーロッパと東方を結ぶイタリア商人)現金で支払わずに決済が可能な為替というシステムや、利益と損失の関係の正確な把握が可能な複式簿記のノウハウを確立して会計実務の技術革新を行ったのがイタリア商人であり、やがてヨーロッパ経済は彼らによって独占的に支配されることになる」p49
「国によっては19世紀までローマ数字を会計帳簿に使っていたのに対して、イタリア商人は12世紀にはアラビア数字を導入、複雑な計算が可能なこの数字システムを活用して、経理技術を飛躍的に発展させることになった」p52
「キャンバスは絵画の代名詞として用いられるほど一般化しているが、この布製の下地材の登場は、絵画というものの存在を根本から変える大事件であった。木の枠に釘で貼るだけですぐに絵を描くことができ、軽量であるために大画面の作品も丸めて運搬できるキャンバスは、絵画という芸術に、描く場所や飾る場所を選ばないという画期的な機動性と流動性をもたらすことになったからである」p68
「ミラノ公に問いただされたダ・ヴィンチは、画家はなにもしていない時にこそ多くの仕事をしているものだと答えている」p74
「デュラン・リュエルが販売に着手した時点では、印象派の作品は人々の理解を超えた前衛芸術でしかなく、当時の新聞「フィガロ」は印象派の絵を評して猿の落書きか猫がピアノの鍵盤の上を歩いて出す音のようなものだと酷評している。市場価値は皆無に等しく、タダ同然の値段でも買い手のつかない絵だったのである」p171
「フランス絵画というアメリカ人が憧れてやまない伝統の象徴であると同時に、新時代の市民生活を賛美するという二重の効用によって、印象派の絵画はまさに新大陸の新興富裕階級にはうってつけのステータス・シンボルとなったのである」p191
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Posted by ブクログ
絵画ビジネスのバブルという背景。ピカソの英才教育でのデッサン力、破壊性、異常な人格、そこから出来上がる前衛作品。いろんなことがその時代にマッチして大成功したという感じか。
あまり興味がなかった美術の歴史やピカソについていろいろわかって面白かった。
ピカソの絵を自分でも描けると思う人がいるって驚き。私は美術に詳しくないし、わからないけど、あれを見たことのない時に描けるのかと言われたら描けるわけない。
でも、この絵がなんでこんな高価なの?とか、中にはどこがいいんだろう?と思う絵もある。
自分は飾りたい?いや飾りたいとは思わない。
今日でいう芸術家は工事と同じで安い給料で働いていた。19世紀末から20世紀初頭に絵の市場のバブル。ちょうどピカソの時代。
ピカソはビジネスに乗って描いていた。画商の好みを把握して。画商の好みに合わせて画商の肖像を描く。個性というより本当にビジネスに徹してサービスをしている。英才教育による絵画技術があってこそ。そしてロックイン状態で儲けたおす。
“妻を替えるたびに、前の妻を焼いてしまわなければならない”女性を卑下し絵画の材料にしていた酷い男だ。
キュビスム、ドラ・マールの肖像、魔除けとしての絵、母親の溺愛、父親の期待、破壊ピカソの絵は審美的審査にすれば美しくない、ピカソはすごく上手い デッサン力がすごい。 -
Posted by ブクログ
芸術家、美術大学教授の筆者が、誰もが思うであろう、ピカソの絵の法外な価格や、その芸術的評価の理由について、ピカソの天才性や、芸術というものの成り立ちなどの観点から教えてくれる。
美術になど全く興味がない自分には、ピカソを始めとした現代芸術の絵というのに、100億という値が付くというのがまず驚き。
そして、ピカソ自身生涯で14万点という作品を制作しており、総資産は7000億を超えるとか。
まさに王。
ピカソがそんな圧倒的な存在だとは、ちょっと想像を絶していた。
現代の美術というものは実用性を徹底的に排し、絵そのものに絵を語らせることに主眼をおいており、革新的な理論を乗せた学者の論文のようなものだという。
とすると、現代の美術というのは、多分に見る者を選ぶのだ。
本書の最後の方で、その実用性を排した、作品を通した思想の探求に共感を得られるかどうかで、ピカソや現代芸術の個々人の価値が決まるのではという部分があった。
自分は、物の背後に機能美や人の営みが感じられないと、楽しめない方だ。
そこらにある、芸術的なオブジェ的なものに、根源的な違和感を感じる理由が分かった気がする。