【感想・ネタバレ】ピカソは本当に偉いのか?のレビュー

あらすじ

「なぜ『あんな絵』に高い値段がつくのか?」「これって本当に『美しい』のか?」。ピカソの絵を目にして、そんな疑問がノド元まで出かかった人も少なくないだろう。その疑問を呑み込んでしまう必要はない。ピカソをめぐる素朴な疑問に答えれば、素人を煙に巻く「現代美術」の摩訶不思議なからくりもすっきりと読み解けるのだから――。ピカソの人と作品に「常識」の側から切り込んだ、まったく新しい芸術論。

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19世紀の革命期以降、美術の評価の舞台は王族貴族のアカデミーから市民の世論になった。こうなると作者の声高な主張や作品の衝撃度が勝敗を分け、アトリエは世間に衝撃を与える作品の試作や実験の場所となる。ピカソの『アヴィニョンの娘たち』はその代表ともいえるものでいわば「新理論の論文」である。
更に写真の登場によって写実的な絵画は衰退し近代美術は「反写実」に向かった筆触(タッチ)の強調やさらに個々の画家が独自にそのスタイルを工夫することで自らを主張した。スーラの点点やセザンヌの平筆タッチ(p.123~)
近代以降の写実的でない美術の個々の解説は何度読んでも腑に落ちなかった。というよりはなぜこんな絵を描こうと思ったのかが理解できなかった。このようなマーケティングの視点(どの層をターゲットにしたか)ともいえる解説によりやっと腑に落ちた。

絵画が高額で取引されるのも需要と供給という市場原理に則っただけで画商の勝利であっても画家の勝利ではない(p.178)も頷けた。一度できたスター(ピカソほか)の名に乗っかったほうが価値を高められると。

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2022年09月05日

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写実主義から、前衛主義へ。 作品の風潮と、その背景として、アメリカの経済発展と同調した取り巻く絵画市場環境の増大。 この波はもはや現代に再来せず、それに最大限乗ったピカソと同調の存在もまた不出世のもの。

「女は苦しむ機械だ」と公言し、その激しい感情の力さえも、破壊的な芸術性に変えて描き続けた、まさに怪物。

しかし、自画像として、死期が近い中で自ら描いたその暗澹たる表情は、生涯で手にした成功と同等、それ以上の闇を感じてならない。

まさしく、ピカソ本人、作品、評価された背景が網羅的に読み取れた一冊。

ニューヨークに、MOMAに行く前に読んで置きたかった。

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2012年11月26日

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疑問を通して美術とは何たるか、を知れてよかった。
徐々に勉強していて、大塚国際美術館で歴史ごとに作品を見た後だからタイミングドンピシャでマッチしていてよかった。

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2025年10月28日

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以下の質問に答えている。
1.ピカソの絵(「アビニョンの娘たち」を中心として)は本当に美しいのか、どこがうまいのか
2.見るものにそういう疑問を持たせる絵がどうして偉大な芸術とされるのか
3.そのようにどうしてこれほどの高値がつくのか?
4.ピカソのような絵は誰でも書けるのではないか
5.そう思わせるような絵を偉大とする美術界はどこかおかしいのではないか
6.そういう絵にこれほどの高値をつける美術市場もどこかおかしいのではないか。

作者はこれにこのように答えている。(以下ネタバレ)
1.ピカソの絵は、それ以前の美術の基準に照らせば美しくない。しかし、ピカソの絵は、超絶なデッサン力に支えられており、非常にうまい。
2.ピカソの絵は当時求められていた前衛芸術であり、衝撃によって人々に従来の基準への疑問を抱かせることを狙っていた。
3.ピカソが現れた時代、それ以前の教会を飾ったり貴族の家を飾るという実用性のある美術と異なり、美術館に入れるための絵が求められており、美術品自体の主張が必要とされていた。ピカソの絵はその需要に応えていたから、高値がついた。
4、ピカソの作品は、高い技術と巧妙な市場戦略に支えてられており、亜流の作家では真似ができない。
5.ピカソの絵は、絵がもっぱら美術館に飾られるものになったと言う文化の変化に対応するものであり、その方向をうまく追求しているために偉大とされている。
6.美術が儲かるとする投資家、画商、オークショニアの力により美術市場が支配されているため、高値がついている。また、新しい作家を育てるよりも、既に定評のある作家の作品の値を上げる方が、投資として効率的であると言う戦略に基づいて、ピカソの絵の価格が上がっている。

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2024年04月02日

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色々勉強になりました。
絵については神童で、若くして名声を得て、
その富も名誉も落ちないまま、
女をとっかえひっかえしながら、
長寿をまっとうした、という
ゴッホやゴーギャンとかと全く違い
芸術家的な破滅ストーリーが全く無いピカソ。
それはそれで偉大すぎます。

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2023年07月22日

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 先日、西岡 文彦 氏 による「ピカソは本当に偉いのか?」を読み終えました。
 「ピカソの絵って、どこがスゴイの?」、初めてピカソを観た多くの人が抱く疑問です。私もその一人でした。
 著者の西岡氏は、本書で、「ピカソとその作品にまつわる素朴な疑問」に答えていきます。
 著者によると、ピカソの絵はピカソ以前の審美的基準でみると「美しくない」、しかし、誰も真似することができないほど、ピカソの画力は「驚異的に上手い」のだそうです。ともかく、ピカソはもとより、美術界にの歴史についての興味深い論考が山盛りの著作です。

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2015年08月01日

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絵画ビジネスのバブルという背景。ピカソの英才教育でのデッサン力、破壊性、異常な人格、そこから出来上がる前衛作品。いろんなことがその時代にマッチして大成功したという感じか。

あまり興味がなかった美術の歴史やピカソについていろいろわかって面白かった。

ピカソの絵を自分でも描けると思う人がいるって驚き。私は美術に詳しくないし、わからないけど、あれを見たことのない時に描けるのかと言われたら描けるわけない。
でも、この絵がなんでこんな高価なの?とか、中にはどこがいいんだろう?と思う絵もある。
自分は飾りたい?いや飾りたいとは思わない。

今日でいう芸術家は工事と同じで安い給料で働いていた。19世紀末から20世紀初頭に絵の市場のバブル。ちょうどピカソの時代。
ピカソはビジネスに乗って描いていた。画商の好みを把握して。画商の好みに合わせて画商の肖像を描く。個性というより本当にビジネスに徹してサービスをしている。英才教育による絵画技術があってこそ。そしてロックイン状態で儲けたおす。
“妻を替えるたびに、前の妻を焼いてしまわなければならない”女性を卑下し絵画の材料にしていた酷い男だ。

キュビスム、ドラ・マールの肖像、魔除けとしての絵、母親の溺愛、父親の期待、破壊ピカソの絵は審美的審査にすれば美しくない、ピカソはすごく上手い デッサン力がすごい。

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2015年07月06日

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いかにしてピカソが芸術家として富と名声を獲得したか。
説得力があって面白かった。
しかし、この本を読んで、ピカソの作品を「あんなヘタクソな絵が・・・」と思っている人も少なからずいることを知り、逆に驚いた。
個人的にはピカソの卓越した造形能力を疑ったことが全くなかったからだ。
しかし・・。
ピカソという人は自分の描いたモチーフが何であれ親密な暖かい愛情関係を持つことはなかったかもしれない。
ピカソは果して画家として幸せだったのかな?

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2014年05月28日

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伝統的基準では美しくないが、驚異的に上手い。美術館に入ることを目的に制作された近代以降の絵画では、価値は「自分語り」「前衛」に変わり、圧倒的なまでに突出した存在だった。

ピカソの読み解き方がよく理解できました。役に立たない、美術館がゴール、というのもなるほどです。

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2014年03月17日

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ほとんどの人が思ったことがあるだろう「ピカソの絵は本当に凄いのか?」をうまく説明してくれている。
狂人ピカソ、絶対に共感できない。
でもピカソは素晴らしい。「パイプを持つ少年」は恐ろしいほどにリアル。これだけでも初心者の私にもピカソの絵画の才能が分かった。

その絵が描かれた時代の時代背景も密接に関係していることが分かった。
時代背景以外にも、ピカソ以外の画家も一緒に紹介してくれ、初心者の僕にとっては勉強になる本になった。

個人的には、モネの絵が好き

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2013年10月12日

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芸術家、美術大学教授の筆者が、誰もが思うであろう、ピカソの絵の法外な価格や、その芸術的評価の理由について、ピカソの天才性や、芸術というものの成り立ちなどの観点から教えてくれる。

美術になど全く興味がない自分には、ピカソを始めとした現代芸術の絵というのに、100億という値が付くというのがまず驚き。
そして、ピカソ自身生涯で14万点という作品を制作しており、総資産は7000億を超えるとか。
まさに王。
ピカソがそんな圧倒的な存在だとは、ちょっと想像を絶していた。

現代の美術というものは実用性を徹底的に排し、絵そのものに絵を語らせることに主眼をおいており、革新的な理論を乗せた学者の論文のようなものだという。
とすると、現代の美術というのは、多分に見る者を選ぶのだ。
本書の最後の方で、その実用性を排した、作品を通した思想の探求に共感を得られるかどうかで、ピカソや現代芸術の個々人の価値が決まるのではという部分があった。
自分は、物の背後に機能美や人の営みが感じられないと、楽しめない方だ。
そこらにある、芸術的なオブジェ的なものに、根源的な違和感を感じる理由が分かった気がする。

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2013年10月10日

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美術の基本的なことから、ピカソの人柄まで分かる、易しい本だった。
美術史についても、ピカソを軸に学べるので分かりやすく、いい勉強になった。
美術について殆ど何も知らない人を想定して書かれているので、入門書としてもおすすめ。
ピカソ晩年の自画像、芸術と人生を考えさせられる。

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2013年10月02日

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題に魅かれて軽い気持ちで読んだが、美術史を俯瞰する視点でピカソを捉えた油断できない評論だった。フランス革命の後、印象派が出てくるあたりの絵画が新興勢力の市民に支えられた芸術になっていく過程からピカソに至るまでを簡潔に論述している。印象や感情による解説を極力排除し、当時の世相や風俗、個々の画家の手法などを中心にした解説は絵画の門外漢にはとてもわかりやすい。コードチェンジとかモード奏法とかを具体的に説明する菊地成孔のジャズ評論と同様に感心し、ピカソの革新性と商業性にマイルス・デイビスを思い浮かべた。

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2013年09月24日

Posted by ブクログ

芸術って、どこか不思議な世界。数学や物理のように明確に説明できるわけじゃないだけに、理解出来ないことも多い。かといって「わかんない」とも言い難いシーンもあったりするので、つい「天才のすることは私のような凡人には理解不能」と、自分を卑下して終わりにしてしまうという経験をしたことのある人も、少なくないだろうと思う。

ピカソのキュビスムも、その際たるもののひとつ。しかもその理解し難い作品に途轍もない高値がつけられているのだから、余計にわけがわからなくなる。

正直、私にとってピカソやブラックのキュビスムは、中学の頃にはトラウマでもあった。セザンヌやゴッホは私に安らぎをくれるのに、ピカソのキュビスムは心をかき乱すだけだったから…しかしながらそれらが世界的に高い評価を受けていることで、自分だけがそれを理解出来ないのだと思うこともしばしばだった。それで、どんどんとトラウマが大きく育ってしまったのだと思う。


そんな、私のような美術体験を多かれ少なかれ経験したことのある者には、覚醒感を与えてくれる一冊だと思う。
少なくとも私はこの本を読んだことで目から鱗が落ちたし、大袈裟に言うなら、日常が生きやすくなったように感じる。

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2013年07月23日

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先日、著者がラジオで話しているのを聴いてとても感銘を受けたので。ピカソの絵を前にして「よくわからない」「こんなのは自分でも描けるよ」とやり取りを交わし揶揄する反面、これが理解できない自分はおかしいのか?と思うこともあった。でも自分が感じた「美しい」が美しいでいいという事。フッと軽くなった。ピカソは写実の絵ももの凄く上手いということ。そして破天荒な生涯。そういう人物だからこそあのような爆発した絵が評価されるのだと。破壊の創造、ピカソの見方が変わった。読後にピカソの絵を観ても「なんじゃこりゃ」なんだけど。

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2013年04月08日

Posted by ブクログ

自分がピカソの絵を見ても、美しいとも、感じるものが何もなかったのは、ごく普通人の感覚として問題なかったようです。
誰にも真似できない、驚異的な上手さはあるようですが、普通人からすれば、猫に小判、豚に真珠のお話でした。


現代美術の摩訶不思議なからくり。要するに、ピカソは「絵画バブルの父」だった、ということらしい。

やはり、自分には、ダ・ヴィンチやミケランジェロのような、芸術以前の時代に作られた作品が合っているようだ。


(2013/2/9)

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2013年02月23日

Posted by ブクログ

「安住紳一郎の日曜天国」に著者がゲスト出演していたのがきっかけで手に取った一冊。
教会や王侯貴族のためのものだった絵画が、市民革命と美術館の登場によって「芸術」となっていった過程をわかりやすく説明している。
その結果、ピカソの「アヴィニョンの娘たち」のような「訳の分からない」作品が成立するに至ったか、時代背景やピカソの人生に沿って論じられている。
新書だから仕方がないのかもしれないが、図版があるともっとイメージがつかみやすいと思う。それにしてもピカソの私生活はヒドすぎる。。。

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2013年01月29日

Posted by ブクログ

ピカソの人となりと、ピカソが評価されるに至るまでの美術史についても書かれている。読み物としても、美術史や現代美術入門書としてもいい本だった。
印象は→キュビスムと来てピカソがあるということは美術史で習っていて基礎知識は多少あるけど、交友関係とか画商とのことも含めて書いてあるから、理解が進む気がする。

ピカソは時代を捉えた前衛的なカリスマだけど、やっぱり天才ってどっか狂ってるんだなあと。

美術関係のことを考えるといつも行き着くのは、美術館の高尚な美よりも、用途や使いやすさ、日常の中の美しさを求めるデザインや工芸のほうが私には合ってるわ。

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2013年01月28日

Posted by ブクログ

いわゆる「前衛」芸術を前にした時、何でこれが芸術?、という疑問を感じる人は多いのではないだろうか。

このような疑問を抱く人の多さに対して、答えを見つけられる人はごく一部に限られていた。

誰でもピカソのキュビズム絵画のような作品を前にして、こんなのが○億円!?、だとか、こんなのだったらうちの六歳の娘の方がずっとうまいよ、というようなやり取りを目にしたり耳にした事があると思う。

本書を読めばこの答えが(もしくは自分が前衛芸術を前にした時に抱く疑問が芸術史においてどのように論じられて来たのか)が明らかになる。

本書では芸術家の地位向上、絵画ビジネスの隆盛、「美」の解釈の変遷という三つのテーマを論じ、それらの現代における結節点としてピカソ芸術を取り上げている。

それから多少芸術に興味がある人ならば知っているであろう、ピカソの女性問題についてもオマケとして言及している。

ただ見るだけの物になぜこれだけ破格の値がつくのか?

この問いに答えるためにルネッサンスからの芸術家の地位向上や、宗教改革による美の需要の変化などを追っての解説には、値段の裏にこんな歴史があったのか、と驚いた。

果てにはアメリカ建国とその経済的発展の裏で働いた絵画の投機的側面など、この手の問題に関心のある読者なら快刀乱麻を断つようなスッキリした気持ちで読む事ができる。

そしてそれらを巧みに操って成功したピカソは芸術だけでなく人心操作術の天才でもあった。

そしてそのような人間関係における駆け引きの才覚と歴史的なタイミングが合わさってピカソの空前絶後の経済的成功が生まれた事がわかる。

どうやらピカソほどの経済的成功に恵まれた芸術家は他にいないらしい。

それ以前の芸術家は職人としての意味合いが強かったようだ。

現在、我々が芸術家に対して抱く、気難しくてアトリエにこもって作品を作り、よくわからない作品をありがたがって億の値段で取り引きする、というイメージはどうもピカソが発端らしい。

だが、それにも歴史的な意味があったということが本書を読んでわかった。

また、芸術に対して素人が感じる疑問にこれほど正面から向き合った本も珍しい。

次に行く美術展では値段の事なども頭の隅においてもっと素直に鑑賞できるようになるだろう。

芸術におけるトリビアも満載で楽しく、それでいて長年の疑問にスッキリとした筋道を示してくれる一冊だった。

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2013年01月04日

Posted by ブクログ

「どこがすごいの?」、「なんであんなに高い値段で?」という素朴な疑問に答えてくれる一冊。
純粋なその技術の高さ以外に、その絵を受け入れる時代背景やピカソの戦略のうまさなど、複合的な要因をひとつづつ書かれていて納得。
しかし芸術ってムズカシイ(^^;

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2012年11月23日

Posted by ブクログ

あの有名なピカソである。誰でも知っているようで知らないピカソだ。

画家は貧乏、と云うのがある意味で定説になっているし、ゴッホのように今や如何に高額で取引される絵画であろうとも生前は貧乏でなければ物語性が失われるという感じだ。そしてピカソですら若い頃は貧しくてさまざまな色の絵の具を買うお金が無いことから「青の時代」は生まれたと、貧乏物語が一人歩きしている。

だが、本書によるとピカソは貧乏だったことは無いと断言する。強いて言えばスペインからパリに出てきた最初の2年間がそうとも言えるが実家からの仕送りも加えスポンサーも付いていたので必ずしも食うに困っていたわけではないのだという。へっ?伝説ってそんなものか?という感じだ。

そして驚くなかれピカソが死んだ際、手元に残された数万点の作品の価値はナント5700億円!で、その計算を行っていた三年間に更に市場価値は三倍程度にも値上がりしていたというのだ。そしてフランス政府はピカソのために準備したわけでは無かろうが相続税の現物納付を認める策によりピカソの作品のかなりの部分を税金代わりに受け取り国庫財産とし、更には市場への大量放出による価値下落を防いだというのだ。流石に世界一の芸術家のスケールは凄い。

そもそもピカソの作品があれ程の価値を持つのは何故か?本当にあの抽象画に見られる顔がひん曲がった絵とは上手いのか?という素朴な疑問があるが、本書によるとピカソのデッサン力はめちゃくちゃ上手いのだそうだ。画家を目指していた父親から子供の頃からデッサンを仕込まれており、その基礎画力は比肩のないものだったという。ふうん、それがあの抽象画のベースにあるとは思いもしなかった。やはりあのキュービズムの陰には確かなる技術があるということで単なるヘタウマでは無いらしい。

また、あの高額な作品の価格は如何にして付けられたのかとの疑問については丁度、戦後の国力を背景に大量に欧州美術を買いあさった米国という需要家とピカソを売り出そうと努力した美術商の企画力であるというのだから、これもまたビックリだ。音楽界では例え敏腕プロヂューサーが売り出そうとしてもその歌手やバンドが見込みどおりに売れることは少ないし、それが数十年の長きに亘り継続することも有り得ない訳で、絵画市場の特殊事情が伺える。

それで行くと常々、日本画壇では美術価値以前に作者の美術界ランクに従い号数(大きさ)で取引される不可思議な世界と言われており、例えば政治人脈を最大限に活用しその絵画価値を上げてきた平山郁夫などと揶揄されるのだが、ある意味では其れも「世界基準」だったのだろうか?

とにかく何事においてもスケールの違うピカソ、恐るべしだ。

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2012年11月12日

Posted by ブクログ

ネタバレ

『ピカソは本当に偉いのか?』

★★★★★★★☆☆☆

本書は、以下の疑問を投げかけている。

1. ピカソの絵(「アビニョンの娘たち」を中心として)は本当に美しいのか、どこがうまいのか

2. 見るものにそういう疑問を持たせる絵がどうして偉大な芸術とされるのか

3. どうしてこれほどの高値がつくのか

4. ピカソのような絵は誰でも書けるのではないか

5. そう思わせるような絵を偉大とする美術界はどこかおかしいのではないか

6. そういう絵にこれほどの高値をつける美術市場もどこかおかしいのではないか。

それらに対する返答。

1. ピカソの絵は、それ以前の美術の基準に照らせば美しくない。 しかし、ピカソの絵は、超絶なデッサン力に支えられており、非常にうまい。

2. ピカソの絵は当時求められていた前衛芸術であり、衝撃によって人々に従来の基準への疑問を抱かせることを狙っていた。

3. ピカソが現れた時代、それ以前の教会を飾ったり貴族の家を飾 るという実用性のある美術と異なり、美術館に入れるための絵が求 められており、美術品自体の主張が必要とされていた。 はその需要に応えていたから、高値がついた。

4、ピカソの作品は、高い技術と巧妙な市場戦略に支えてられており、亜流の作家では真似ができない。

5. ピカソの絵は、絵がもっぱら美術館に飾られるものになったと言う文化の変化に対応するものであり、その方向をうまく追求しているために偉大とされている。

6. 美術が儲かるとする投資家、画商、オークショニアの力により美術市場が支配されているため、高値がついている。また、新しい作家を育てるよりも、既に定評のある作家の作品の値を上げる方が、投資として効率的であると言う戦略に基づいて、ピカソの絵の価格が上がっている。

まあ、特に今の日本に生まれ育っていて、わざわざ現代アートなんかにハマる人ってのは相当変だし、ぶっちゃけ物の善し悪しをよく分かってないと思いますねー。

#読書 #読書メモ #読書感想 #ピカソは本当に偉いのか #現代アート #現代芸術

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2024年08月26日

Posted by ブクログ

著者は、版画家で多摩美大の教授である。『絵画の読み方』など、多数の本を出している。ピカソについて知りたかったので、読んだ。
ピータードラッガーはいう「問題が解決できないのは、正しいに問いに間違った答えを出すからではなく、問違った問いに、正しい答えを出そうとするからである」
この題名の作り方が、明らかに失敗している。「正しい問い」を作れなかった。ピカソが偉いのかどうかを問うても、ピカソに対する正しい答えを見出すことができない。
「偉い」とは、①普通よりもすぐれている。②人間としてりっぱですぐれている。③偉大でである。
ということなので、この3つ項目で、4人の愛人と2人の妻がいたことを著者は問題としていて、人間的に立派と言えないと断罪している。ピカソは、芸術において大きく変化を与えたので優れていると言える。このことから、題名の問いからみると偉いと言えないが、偉大ではある。
さらに著者は、3つの問いをする。
①ピカソの絵は本当に美しいのか?どこがうまいのか?②どうして偉大な芸術とされるのか?③ピカソの絵にどうしてあれほどの高値がつくのか?
相変わらず、設問のレベルが低い。この先生の視点の「常識」さに呆れてしまう。
著者は言う『美術という「美しさ」を追求するはずの世界において、この「わからなさ」を特色とする画家に破格の評価が与えられる理由は、あまり説明されていない』とって、結局うまく説明できていない。『美術といえば、その名の通り「美しさ」というものの結晶ないしは高度な「技術」の結実したものである』絵を美術という言葉で限定することによって、狭窄視している。
芸術の先生ではなく、美術の先生となって、「ピカソの絵は美しいとは言えない」と主張する。
ふーむ。1907年の『アヴィニオンの娘たち』をどう評価するのか。ピカソが『青の時代』(1901−1904)『桃の時代』(1904~1907)から、『アヴィニオンの娘たち』を描いたのか?
この絵が生まれたのは、文脈が重要だ。ピカソは、ギリシャ生まれのエル・グレコを尊敬しており、1614年の『第5の封印の扉』の構図に似ている。また、ポールセザンヌの1906年『水浴者』の構図にも似ている。また、その当時名声を浴びていたアンリマチスの1906年『生きる喜び』にも対抗している。『アヴィニオンの娘たち』は、バルセロナのアヴィニオン通りの娼婦の5人。左にエジプト人もしくは南アジアのような顔と衣装、真ん中の二人がスペインイベリア風の風貌、右の二人がアフリカの仮面をしている。プリミティズムであり、官能性とセクチュアリティーを持っている。ピカソは、『破壊の集積』と語っている。説得力のある野蛮な力で、独創的である。
評論家のアドレ・サルモンは『アヴィニオンの娘たち』のことを 「爆弾のような衝撃」と言った。
ピカソは絵画の伝統や常識を破壊した。この絵には、従来の常識である美しいということを目的としていない破壊性を持っている。また、『アヴィニオンの娘たち』の習作が600枚もあったという。ピカソのこの絵にかける執念もすごかった。
イギリスの美術史家、『キュビズムのエポック』の著者ダグラス・クーパーはいう。
「《アヴィニョンの娘たち》は、一般的に最初のキュビスムの絵と呼ばれている。これは誇張ですが、それはキュビスムへの主要な最初のステップだったが、それはまだキュビスムではない。この作品の破壊的で表現主義的な要素は、離散的で現実的な精神で世界を見ていたキュビスムの精神にさえ反しています。それにもかかわらず、この作品は、新しい絵画的形式の誕生を記録している。ピカソは暴力的に既成の慣習を覆し、その後に続くすべてのものは、この作品から派生したため、キュビスムの出発点として語るにおいて合理的な作品でもある」という評価をしている。
さて、著者の美術という枠組みを破壊したもの、ルールを変えたものをルールで論じても仕方がないのである。
また、高額という視点から見れば、ピカソの絵だけが高額ではないアートの世界が生まれている。
ピカソの生涯作品数は、油絵で、13,000点、版画、素描、陶芸で130,000点。実に膨大な数に上る。
1973年にピカソが91歳で死んだ時に、ピカソの手元にあったものが70,000点あったという。
その時の遺産の評価総額が約7500億円 (その当時)。現在では、10倍以上の価値がある。
1932年の「ヌード、観葉植物と胸像」は百号(160cmx130CM)で、100億円。1号あたり1億円。
画商が誕生することで、絵は教会の飾り物ではなく、ビジネスとして成り立つようになり、画家によって価格が決まり、1900年頃には、アメリカの振興があり、絵画バブルの中に、印象派の絵やゴッホ、そしてピカソの絵が高額で取引されるようになった。
ピカソは、「瞬時に人を魅了する力、大きくて黒い瞳を持つ魔術的な力」があった。ピカソは衝撃的な作品で世間の耳目を集め、声高にその芸術性を主張しながら、理論面と経済面で有力な援護者を探す。作品を展示することができるアトリエを持ち、そこで実験的、先鋭的だった作品を見せる。
ピカソの絵は投機目的で買われた。ピカソの絵は「交換価値」が高い絵とされた。多くは貧乏な画家だったが、ピカソは若い時から絵が売れた。またピカソをほめる有名人も多かった。アトリエは、画商の隣のところにあった。
ピカソは、絵を描くアーティストと絵を売るマーケッターの両方の才能をもち、カリスマ的存在となることで、ブランド化に成功したのだ。ゴッホは、マーケッターになるほどのコミュニケーション力がなかったと言っていい。ピカソは、「執拗に相手の嫉妬を喚起するような撹乱的な人間操作の名手」とも言われ、6人の女性を間を、渡り歩くことで活力を得ていた。愛した女さえも「芸の肥やし」とした。
ピカソは、一生、そして毎日24時間、芸術に捧げた。

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2021年12月30日

Posted by ブクログ

ピカソを見る前には、歴史を知らないといけない。
ピカソを知らないといけない。
今、絵を見に行きたい。

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2018年04月28日

Posted by ブクログ

ネタバレ

「自分語り性」と「前衛性」
 美術史上、ピカソほど生前に経済的な成功に恵まれた画家はいないらしい。そんな彼の「偉大さ」を問い直すといった内容だ。ピカソファンとしては改めて彼の「偉大さ」に敬服することとなった。ピカソの作品は、油絵だけで1万3千点、版画や素描や陶芸など、油絵以外の作品は13万点を超える
 16世紀の宗教改革を契機として、絵画の買い手が教会から市民となる。主題を失った画家たちが描き始めたのが市民の肖像や市民生活の一場面や静物や都市景観や田園風景といった世俗的な題材で、風景画や静物画といったジャンルはこの時期のオランダで生まれた。画商のおこりもオランダである。(17世紀)そして、18世紀終わりのフランス革命で絵画彫刻が王侯貴族というスポンサーまでをも失い、市民経済(市場)に頼るしかなくなる時期に、印象派という前衛絵画が登場する。印象派絵画が「アメリカ値段」で取引されるなどして絵画バブルが起こる。そこに現れたピカソは、絵画史上初めて登場した「最初から投機目的で買われる絵画」を象徴する存在となった。美術史の流れの中でのピカソの存在を捉えることができた。

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2019年08月16日

Posted by ブクログ

芸術の価値というモノは本当に不可解なものである。
特にピカソをはじめとして、「前衛」的なものはその最たるもの。
それらの作品を前にしたとき思う疑問、「これは、芸術なのだろうか。なぜこんなものに価値があるのだろうか。自分でも造れる、描けるのでは。」
などなど、疑問が浮かびつつも
「やっぱり、いいねぇ」
などと、つい知ったかでのたまってしまう。

この本はピカソをはじめとした前衛芸術について、それらの疑問に対してある程度の納得できる答えをくれる。
特に宗教改革、フランス革命やダヴィンチの進化論などの文化・歴史的背景が芸術に及ぼした影響など、なるほど~と。

ピカソがなぜモテるのかといった人生については(2章、3章)、いまいち興味がないが、まぁ題名がピカソは~なので、しょうがない。

これで、一歩進んだ知ったかぶりをできる笑

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2013年07月29日

Posted by ブクログ

現代美術のよくわかなさについて、ピカソを題材にしながら解説した美術論。
だけど、平易な言葉で、わかりやすく、ピカソってなんでそんなに偉いの?という、庶民の素朴な疑問を解き明かしている。
美術論、などというと、まず言葉の意味が全く分からない。現代美術館に行ったときなんかは、絵も大体意味不明だし、横の解説も競うように意味が分からない、というようなもので、まるで相手にされていないというような淋しい気分で帰ってくることが多い、私のようなど庶民において、この本は非常に痛快であった。

ピカソは父親からの英才教育と天才的な画力、それから時代の波を機敏に感じ取る感性と、ビジネスマン的手腕、そしてなにより本人の傲慢な性質により、後世まで高額で取引のされる芸術家になった。なるほどなるほど。
それから、ルネッサンス期~近代における、「美術」や「芸術家」の移り変わりと、なんで現代美術がかくも「意味不明」なのか、簡単にわかりやすく説明していて、非常に満足。

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2012年11月11日

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