佐伯一麦のレビュー一覧

  • ショート・サーキット 佐伯一麦初期作品集

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    ネタバレ

    本作は初期の短編集が収録されたもので、いずれも私小説。著者は高校中退後、複数の仕事を転々として、その後電気工事士として働き、また20代前半のうちに結婚して子どもをもうける。その為、どの作品も都市部で肉体労働に従事した、また一家の大黒柱としての若者が感じた日常風景を克明に描写されている。

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    2026年05月10日
  • 還れぬ家

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    びわ湖浜大津行の電車に乗った。ここは線路や周りの木々・建物とキョリが近く、駅に近づくと路面電車になった。天気は曇りだったが、琵琶湖の広大な景色は見ていて吸い込まれそうになる魅力にみちていた。
    今朝、「還れぬ家」を読み終えた。佐伯一麦が2008〜11年頃のことを中心に描いた話。そこには東日本大震災のことも綴られている。メインテーマは佐伯の生家に住む父母、父の認知症のことが多くを占めている。文体は硬くなく、父の病状を記すことに注力された平易な文章・描写のされ方で書かれている。要介護認定や介護保険サービスのことなどの記述に詳しい。地域包括支援センター、ケアマネージャーなど、我々の見ている地平から余り

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    2026年05月06日
  • 還れぬ家

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    ネタバレ

    主人公と父親との確執を描いた作品で、父親は心臓病とその後認知症を患い、要介護者となる。そんな父親を、主人公と彼の妻、そして母親は対応していくことになるが、持病で苦しむ主人公、父の介護に疲労困憊する妻、父の妻として長年過ごした母親の苦労と、日常会話の様子を本作では描かれている。著者の体験をもとにしたこともあって、リアリティに富んだもので、介護人を持った家族の大変さがこの作品から伝わる。また、本作の途中で巨大地震の描写もあり、当時、震災に見舞われた人たちの、地震に対する恐怖心とその影響についても当事者だからこそ説得力のあるものとなっている。

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    2026年04月19日
  • ノルゲ Norge

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    ☆4.5 静かな生活
     といっても実際はそんなに静かではないものの、雰囲気は穏やかで心やすまる。

     妻の留学について行ったノルウェー生活。そこでさまざまなエピソードが起る。
     1997年、主人公の〈おれ〉はノートパソコンからインターネットで仕事のEメールを送る必要があり、公衆電話の差し込み口を探すが、なかなか見つからない。ノルウェー最大の電話ショップ・テレノルで見つけても、店員に叫ばれてやってきた警備員に追い出される始末……
     また、こんなこともある。路面電車に乗ってあてどなく行った先の魚屋で、その親父と懇意になる。魚は鱈、鯖、サーモン。ある日、勧められて食べた魚はおいしく、しかし正体は不明

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    2025年08月13日
  • ミチノオク

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    震災後、老境、アスベストという背景がミックスされて日常と絡み合いながら、しみじみとした味わいを堪能。笹まくらのように今と過去がスルッと入れ替わるのが良い

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    2024年10月16日
  • アスベストス

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    アスベストの被害に苦しむ人、不安を抱える人の生活の一コマを描くことで、アスベストの問題が普段の生活の中にあったことが浮かび上がってくる。誰もが建築の現場や電気工事などその利点を享受してきて、苦しみは現場の人たちだけに負わせてしまっていることは原発の問題にも通じている。
    「うなぎ」は数十ページの話ながら、鰻屋の大将になれずに逝ってしまった男性、クボタの隣の団地を選んでしまったその母親、彼らを取材した語り手それぞれの人生が立ち上がってきて圧倒的。

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    2022年02月01日
  • 山海記

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    主人公と一緒に旅をした気になった。主人公と一緒に過去の出来事や旧友を偲んだ気になった。
    とても大きな喪失の後、旅に出ずにはいられない気持ちはとてもよくわかる。

    愛読していた著者が被災され、どのようなことを感じ、どう行動され、どうなっていかれるのか。
    私小説を愛読していた読者は待ち望んでしまう。はしたない感じはするし、人ごとのように作品を読んでしまうのは違う感じはする。
    その反面わかった気になるのも違う感じがする。
    本当の意味で共有できないのに共有しなきゃとプレッシャーがかかる。
    だから、この本の感想もなんか書きにくい。
    お気楽感想しかいつも書いてないから書きにくい。

    日本というのは本当に災

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    2019年05月26日
  • ノルゲ Norge

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    ずっと読みたかった本。佐伯一麦は私小説に興味を持たせてくれた作家です。作家の主人公がノルウェーに留学する妻にくっついて1年間生活する話。で、特になにも事件はない。ないのだけど、小さな出来事はある。それが物語につながる。作品のなかで主人公トオルがノルウェーにいる自分と重ね合わせるマティスという小説の主人公や、妻たちが大学で制作しているものや、おぼつかない英語とノルウェー語を駆使してやりとりすること、トオルの具合が突然悪くなったりするところ。読みごたえは凄いです。また読み返すことになりそうな大切な小説。

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    2015年11月17日
  • 男性作家が選ぶ太宰治

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    さすがは並みいる男性作家が選んだ作品集である。全部面白い。
    「ちょっとちょっと…」と傍で話しかけられるような親しげな語り口と
    抜群のリズム感が心地いい。特に気に入ったものを少し…。

    「道化の華」
    ラスト3行でいきなり視界がぱあっと広がり、ぞくっと怖くなる。
    視点のトリックで読者を驚かせるのが上手い。
    「彼は昔の彼ならず」
    心の本質が似通った人間が近くにいると、お互いに感応してしまうのだろう。
    口先三寸のペテン師のような男を非難している主人公の男もまた、
    親の遺産で遊び暮らす怠け者。
    才能ある芸術家のパトロンになりたいという、
    彼の下心を見透かしたペテン師の作戦勝ち。

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    2015年06月05日
  • 芥川賞を取らなかった名作たち

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    文字通り、芥川賞を取ることの出来なかった作品・作者にスポットライトを当てた書評本。自身にとって知らない作品・作者ばかりだったことに加え、著者の考えなど読み込ませる文章もあり一日足らずで全てを読むことが出来たため読み応え、魅力は十分だと思う。後ろの頁には過去から発売当時に至るまでの芥川賞作品タイトルを載せていることも好感が持てた。

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    2014年11月18日
  • 芥川賞を取らなかった名作たち

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    取り上げられている12作品中、読んだことがあったのは「いのちの初夜」だけ…。ああ、情けなや。
    やはり私自身非常に感銘を受けた作品だったのと、そもそも「いのちの初夜」を読むきっかけになった書評本から北条民雄に関わるいくつかの知識があったので、その章はイメージが湧きやすかった。
    選評や、ここで言われていることなど、受賞には至らなかったものの高く評価されていたこと、また彼の現状に配慮した措置がいろいろとられていたことが、妙にうれしかった。

    それ以外の作品も非常に興味深く、読んでみたくなったものがたくさんあった。選評にも、選考した作家の文学的傾向とか背景とか、いろいろなものが見え隠れする、というのが

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    2011年08月17日
  • マイ シーズンズ

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    ネタバレ

    今は亡き人に手紙を書いていく、という独特の構成で話が進む。著者がノルウェーで過ごした時代に体験したことをベースに描いた小説で、ノルウェーの日常を写実的に、鮮やかに描写する。また日本人にとって馴染みのないノルウェーの歴史、宗教、文化を本作で触れており、ノルウェーに関する知識が深まる。

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    2026年05月17日
  • 芥川賞を取らなかった名作たち

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    芥川賞という社会的な作家の名誉ある評価により、その後作家人生に大きな影響を与える賞である。
    しかし、この作品は、その賞を受けられなかった作品の中にも多くの名作がある。そこに視点を向けた点を評価したい。なかなか興味深い本でした。

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    2026年05月11日
  • マイ シーズンズ

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    『ノルゲ』と対をなすノルウェー小説
     草木染め作家の妻にノルウェーの旅へついていった主人公。そこでビヨルグの作品に出会ふ。
     水のやうな表現のある布の藝術。じゃがいものお酒・アクアヴィット。青くひかる碍子。

     『ノルゲ』のほうが読み味がよく、しかしこちらも姉妹編として捨てがたい魅力がある。一瞬登場する妻の事故。主人公の境遇。ムンクに重なる風景。
     ときどき顔をのぞかす人生の一瞬こそ、生きてゐることの実感として伝はってくる。生だ。

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    2026年04月17日
  • ミチノオク

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    東北には何度か旅行に行ってるし、少し住んだことがあるのだが、全然行けてない、東北を旅したいと思わせてくれた。
    ちょうどお盆の時期に読んだからかもしれないが、「死」とか「死者」を強く感じた。

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    2025年08月16日
  • ショート・サーキット 佐伯一麦初期作品集

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    作者の電気工時代の、裕福とは言えない時期を丁寧に描写した私小説短編集。家族の経過が時系列に並び、一本の作品のよう。
    妻との諍いやすれ違いが多く、内容は暗いが、話の中でふと顔をみせる救いのようなものがとても暖かい。
    内向チックな表現も好みで、良い作家だった。

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    2024年03月23日
  • 山海記

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    天災、人災(歴史)、自殺、病気を通して死を見つめ、そして個人にとっては災害よりも身近な生死が最大の事件であり、その積み上げが世界である事を認識させてくれる良書だと思う。

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    2023年02月02日
  • 男性作家が選ぶ太宰治

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    中村文則さんのエッセイを最近読んだので、その繋がりで読みました。

    太宰治の人となりについてはほとんど何も知らないので、読む前の勝手なイメージでは「気難しく人嫌い」な人かと思っていましたが、作品を読むと「ユーモアの感覚もあって、実際に話せばあんがい話好きな人だったんじゃないか」という印象を受けました。

    個人的に良かったのは富嶽百景の一場面で、天下茶屋の2階に寄宿している主人公が店の人間とも親しくなってきた頃、店の若い女性店員が1人で客の相手をしている時に、わざわざ1階に降りて隅でお茶を飲みながら遠巻きに見守ってあげているところです。

    そんなにあからさまな優しさを出す感じの主人公じゃないんで

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    2022年10月02日
  • アスベストス

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    静かな時限爆弾のアスベスト。身近な建材に健康被害が認知されたにも関わらず30年以上使用された。今後それが使用された家やマンションが解体された時の管理が不安。また、震災や水害で被害を受けた家やマンションからもアスベスト飛散が考えられる。過去の問題がまだまだ未来へも。

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    2022年02月06日
  • 日和山 佐伯一麦自選短篇集

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    落ち着いていて美しい文章。
    この文庫と字体の雰囲気もぴったり。
    阿部公彦氏の解説に天晴~となったので、抜粋します。

    「あからさまに悲劇を演出しようとするのではない。情緒の不安定さを押しつけようとするのでもない。さまざまな危機を横目で見やり、自身の中にも重たいものをかかえながら、細心の注意をはらって呼吸しつづけること。言葉を紡ぎつづけること。そして、上手に力を抜きながら他者の言葉を導きこむこと。(中略)このような小説的呼吸法を通して彼が読む者の呼吸を助け、ひいては生きるのを助けるような作用を生み出しているからではないかと思う。」

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    2022年01月05日