佐伯一麦のレビュー一覧

  • アスベストス
    アスベストの被害に苦しむ人、不安を抱える人の生活の一コマを描くことで、アスベストの問題が普段の生活の中にあったことが浮かび上がってくる。誰もが建築の現場や電気工事などその利点を享受してきて、苦しみは現場の人たちだけに負わせてしまっていることは原発の問題にも通じている。
    「うなぎ」は数十ページの話なが...続きを読む
  • 山海記
    主人公と一緒に旅をした気になった。主人公と一緒に過去の出来事や旧友を偲んだ気になった。
    とても大きな喪失の後、旅に出ずにはいられない気持ちはとてもよくわかる。

    愛読していた著者が被災され、どのようなことを感じ、どう行動され、どうなっていかれるのか。
    私小説を愛読していた読者は待ち望んでしまう。はし...続きを読む
  • ノルゲ Norge
    ずっと読みたかった本。佐伯一麦は私小説に興味を持たせてくれた作家です。作家の主人公がノルウェーに留学する妻にくっついて1年間生活する話。で、特になにも事件はない。ないのだけど、小さな出来事はある。それが物語につながる。作品のなかで主人公トオルがノルウェーにいる自分と重ね合わせるマティスという小説の主...続きを読む
  • 男性作家が選ぶ太宰治
    さすがは並みいる男性作家が選んだ作品集である。全部面白い。
    「ちょっとちょっと…」と傍で話しかけられるような親しげな語り口と
    抜群のリズム感が心地いい。特に気に入ったものを少し…。

    「道化の華」
    ラスト3行でいきなり視界がぱあっと広がり、ぞくっと怖くなる。
    視点のトリックで読者を驚かせるのが上手い...続きを読む
  • 芥川賞を取らなかった名作たち
    文字通り、芥川賞を取ることの出来なかった作品・作者にスポットライトを当てた書評本。自身にとって知らない作品・作者ばかりだったことに加え、著者の考えなど読み込ませる文章もあり一日足らずで全てを読むことが出来たため読み応え、魅力は十分だと思う。後ろの頁には過去から発売当時に至るまでの芥川賞作品タイトルを...続きを読む
  • 芥川賞を取らなかった名作たち
    取り上げられている12作品中、読んだことがあったのは「いのちの初夜」だけ…。ああ、情けなや。
    やはり私自身非常に感銘を受けた作品だったのと、そもそも「いのちの初夜」を読むきっかけになった書評本から北条民雄に関わるいくつかの知識があったので、その章はイメージが湧きやすかった。
    選評や、ここで言われてい...続きを読む
  • ショート・サーキット 佐伯一麦初期作品集

    作者の電気工時代の、裕福とは言えない時期を丁寧に描写した私小説短編集。家族の経過が時系列に並び、一本の作品のよう。
    妻との諍いやすれ違いが多く、内容は暗いが、話の中でふと顔をみせる救いのようなものがとても暖かい。
    内向チックな表現も好みで、良い作家だった。
  • 山海記
    天災、人災(歴史)、自殺、病気を通して死を見つめ、そして個人にとっては災害よりも身近な生死が最大の事件であり、その積み上げが世界である事を認識させてくれる良書だと思う。
  • 男性作家が選ぶ太宰治
    中村文則さんのエッセイを最近読んだので、その繋がりで読みました。

    太宰治の人となりについてはほとんど何も知らないので、読む前の勝手なイメージでは「気難しく人嫌い」な人かと思っていましたが、作品を読むと「ユーモアの感覚もあって、実際に話せばあんがい話好きな人だったんじゃないか」という印象を受けました...続きを読む
  • アスベストス
    静かな時限爆弾のアスベスト。身近な建材に健康被害が認知されたにも関わらず30年以上使用された。今後それが使用された家やマンションが解体された時の管理が不安。また、震災や水害で被害を受けた家やマンションからもアスベスト飛散が考えられる。過去の問題がまだまだ未来へも。
  • 日和山 佐伯一麦自選短篇集
    落ち着いていて美しい文章。
    この文庫と字体の雰囲気もぴったり。
    阿部公彦氏の解説に天晴~となったので、抜粋します。

    「あからさまに悲劇を演出しようとするのではない。情緒の不安定さを押しつけようとするのでもない。さまざまな危機を横目で見やり、自身の中にも重たいものをかかえながら、細心の注意をはらって...続きを読む
  • 往復書簡 言葉の兆し
     東北の震災の年、東京の古井由吉と仙台の佐伯一麦のあいだでやり取りされた手紙。際立ったことが語られているわけではない。でも、今読むと、もう一度心の中の、ことばにならない何かを失いたくないと思う。1995年阪神大震災という、自然の、想像を絶する破壊の、刻み込まれた、経験に戻っていく自分を見つける。
     ...続きを読む
  • 還れぬ家
    少年だった。家族を捨てて家を出た。老いた父と母。震災。「還れぬ家」と題した作家になった少年の現在。生きている人間に時は流れる。読みながら、揺さぶられているのは、ぼくのなんだろう。
  • 還れぬ家
    『渡良瀬』にすっかりはまって、続きのような(私)小説を読む。

    前作は冷え冷えとした夫婦関係が印象的で、小説を彩っていたと同時に圧倒された。

    ところがこの『還れぬ家』によると、その後、主人公は離婚したのだった。
    新しい妻を迎えて、この度はなかなかいい関係なのである。
    (私小説だから前作の続き...続きを読む
  • 男性作家が選ぶ太宰治
    女性作家が選んだものとはまた違う感覚の作品も多く、未読作品が多かったのでとても楽しめた。餐応夫人がすき。この作家さんはこういう作品を選ぶんだなぁ…って部分でも楽しめてなんだかお得。
  • ショート・サーキット 佐伯一麦初期作品集
    電気工事士が命にかかわる職業だということがよくわかった。人生色々という事を、様々な手法で皆小説にしていく。誰だって自分の人生の主人公だし、これが正解だと言える基準などない。なんて事を改めて考えてしまった。
  • 芥川賞を取らなかった名作たち
    太宰治や吉村昭、島田雅彦といった今も売れている作家の作品だけでなく、消えてしまい、読まれなくなった作家の作品にも光を当てている。作品をどうやって読んだらいいのか、大変に勉強になった。芥川賞を取れなかった佐伯さんだからこそ語り口に切迫感があり、なお良かった。

    干刈あがた、森内敏雄の作品をさっそく注文...続きを読む
  • 芥川賞を取らなかった名作たち
    自分の好きなブックガイドシリーズ。でも予想してたのとは違って、これはちょっと違った目線で楽しませてくれた。芥川賞の候補に挙がった作品をつらつら並べて、それに関する簡単な紹介が羅列されてるのかなと思ったけど、そうではなかった。筆者が特に優れていると思った作品をピックアップして、なぜ取れなかったのか、そ...続きを読む
  • 芥川賞を取らなかった名作たち
    私小説作家、佐伯一麦さんの丁寧な解説で、芥川賞を逃した隠れた名作が紹介されている。小山清と木山捷平の二人が取り上げられているのが嬉しい。
  • 光の闇
    欠損感覚を持ちながら生活している人々の記録。
    嗅覚障害の治療をしている知人がいるので、重ね合わせて読んだ。大震災以降の記述も。表紙絵は東北のゆかりの画家のもの。