佐伯一麦のレビュー一覧

  • ノルゲ Norge

    Posted by ブクログ

    ☆4.5 静かな生活
     といっても実際はそんなに静かではないものの、雰囲気は穏やかで心やすまる。

     妻の留学について行ったノルウェー生活。そこでさまざまなエピソードが起る。
     1997年、主人公の〈おれ〉はノートパソコンからインターネットで仕事のEメールを送る必要があり、公衆電話の差し込み口を探すが、なかなか見つからない。ノルウェー最大の電話ショップ・テレノルで見つけても、店員に叫ばれてやってきた警備員に追い出される始末……
     また、こんなこともある。路面電車に乗ってあてどなく行った先の魚屋で、その親父と懇意になる。魚は鱈、鯖、サーモン。ある日、勧められて食べた魚はおいしく、しかし正体は不明

    0
    2025年08月13日
  • ミチノオク

    Posted by ブクログ

    震災後、老境、アスベストという背景がミックスされて日常と絡み合いながら、しみじみとした味わいを堪能。笹まくらのように今と過去がスルッと入れ替わるのが良い

    0
    2024年10月16日
  • アスベストス

    Posted by ブクログ

    アスベストの被害に苦しむ人、不安を抱える人の生活の一コマを描くことで、アスベストの問題が普段の生活の中にあったことが浮かび上がってくる。誰もが建築の現場や電気工事などその利点を享受してきて、苦しみは現場の人たちだけに負わせてしまっていることは原発の問題にも通じている。
    「うなぎ」は数十ページの話ながら、鰻屋の大将になれずに逝ってしまった男性、クボタの隣の団地を選んでしまったその母親、彼らを取材した語り手それぞれの人生が立ち上がってきて圧倒的。

    0
    2022年02月01日
  • 山海記

    Posted by ブクログ

    主人公と一緒に旅をした気になった。主人公と一緒に過去の出来事や旧友を偲んだ気になった。
    とても大きな喪失の後、旅に出ずにはいられない気持ちはとてもよくわかる。

    愛読していた著者が被災され、どのようなことを感じ、どう行動され、どうなっていかれるのか。
    私小説を愛読していた読者は待ち望んでしまう。はしたない感じはするし、人ごとのように作品を読んでしまうのは違う感じはする。
    その反面わかった気になるのも違う感じがする。
    本当の意味で共有できないのに共有しなきゃとプレッシャーがかかる。
    だから、この本の感想もなんか書きにくい。
    お気楽感想しかいつも書いてないから書きにくい。

    日本というのは本当に災

    0
    2019年05月26日
  • ノルゲ Norge

    Posted by ブクログ

    ずっと読みたかった本。佐伯一麦は私小説に興味を持たせてくれた作家です。作家の主人公がノルウェーに留学する妻にくっついて1年間生活する話。で、特になにも事件はない。ないのだけど、小さな出来事はある。それが物語につながる。作品のなかで主人公トオルがノルウェーにいる自分と重ね合わせるマティスという小説の主人公や、妻たちが大学で制作しているものや、おぼつかない英語とノルウェー語を駆使してやりとりすること、トオルの具合が突然悪くなったりするところ。読みごたえは凄いです。また読み返すことになりそうな大切な小説。

    0
    2015年11月17日
  • 男性作家が選ぶ太宰治

    Posted by ブクログ

    さすがは並みいる男性作家が選んだ作品集である。全部面白い。
    「ちょっとちょっと…」と傍で話しかけられるような親しげな語り口と
    抜群のリズム感が心地いい。特に気に入ったものを少し…。

    「道化の華」
    ラスト3行でいきなり視界がぱあっと広がり、ぞくっと怖くなる。
    視点のトリックで読者を驚かせるのが上手い。
    「彼は昔の彼ならず」
    心の本質が似通った人間が近くにいると、お互いに感応してしまうのだろう。
    口先三寸のペテン師のような男を非難している主人公の男もまた、
    親の遺産で遊び暮らす怠け者。
    才能ある芸術家のパトロンになりたいという、
    彼の下心を見透かしたペテン師の作戦勝ち。

    0
    2015年06月05日
  • 芥川賞を取らなかった名作たち

    Posted by ブクログ

    文字通り、芥川賞を取ることの出来なかった作品・作者にスポットライトを当てた書評本。自身にとって知らない作品・作者ばかりだったことに加え、著者の考えなど読み込ませる文章もあり一日足らずで全てを読むことが出来たため読み応え、魅力は十分だと思う。後ろの頁には過去から発売当時に至るまでの芥川賞作品タイトルを載せていることも好感が持てた。

    0
    2014年11月18日
  • 芥川賞を取らなかった名作たち

    Posted by ブクログ

    取り上げられている12作品中、読んだことがあったのは「いのちの初夜」だけ…。ああ、情けなや。
    やはり私自身非常に感銘を受けた作品だったのと、そもそも「いのちの初夜」を読むきっかけになった書評本から北条民雄に関わるいくつかの知識があったので、その章はイメージが湧きやすかった。
    選評や、ここで言われていることなど、受賞には至らなかったものの高く評価されていたこと、また彼の現状に配慮した措置がいろいろとられていたことが、妙にうれしかった。

    それ以外の作品も非常に興味深く、読んでみたくなったものがたくさんあった。選評にも、選考した作家の文学的傾向とか背景とか、いろいろなものが見え隠れする、というのが

    0
    2011年08月17日
  • ミチノオク

    Posted by ブクログ

    東北には何度か旅行に行ってるし、少し住んだことがあるのだが、全然行けてない、東北を旅したいと思わせてくれた。
    ちょうどお盆の時期に読んだからかもしれないが、「死」とか「死者」を強く感じた。

    0
    2025年08月16日
  • ショート・サーキット 佐伯一麦初期作品集

    Posted by ブクログ


    作者の電気工時代の、裕福とは言えない時期を丁寧に描写した私小説短編集。家族の経過が時系列に並び、一本の作品のよう。
    妻との諍いやすれ違いが多く、内容は暗いが、話の中でふと顔をみせる救いのようなものがとても暖かい。
    内向チックな表現も好みで、良い作家だった。

    0
    2024年03月23日
  • 山海記

    Posted by ブクログ

    天災、人災(歴史)、自殺、病気を通して死を見つめ、そして個人にとっては災害よりも身近な生死が最大の事件であり、その積み上げが世界である事を認識させてくれる良書だと思う。

    0
    2023年02月02日
  • 男性作家が選ぶ太宰治

    Posted by ブクログ

    中村文則さんのエッセイを最近読んだので、その繋がりで読みました。

    太宰治の人となりについてはほとんど何も知らないので、読む前の勝手なイメージでは「気難しく人嫌い」な人かと思っていましたが、作品を読むと「ユーモアの感覚もあって、実際に話せばあんがい話好きな人だったんじゃないか」という印象を受けました。

    個人的に良かったのは富嶽百景の一場面で、天下茶屋の2階に寄宿している主人公が店の人間とも親しくなってきた頃、店の若い女性店員が1人で客の相手をしている時に、わざわざ1階に降りて隅でお茶を飲みながら遠巻きに見守ってあげているところです。

    そんなにあからさまな優しさを出す感じの主人公じゃないんで

    0
    2022年10月02日
  • アスベストス

    Posted by ブクログ

    静かな時限爆弾のアスベスト。身近な建材に健康被害が認知されたにも関わらず30年以上使用された。今後それが使用された家やマンションが解体された時の管理が不安。また、震災や水害で被害を受けた家やマンションからもアスベスト飛散が考えられる。過去の問題がまだまだ未来へも。

    0
    2022年02月06日
  • 日和山 佐伯一麦自選短篇集

    Posted by ブクログ

    落ち着いていて美しい文章。
    この文庫と字体の雰囲気もぴったり。
    阿部公彦氏の解説に天晴~となったので、抜粋します。

    「あからさまに悲劇を演出しようとするのではない。情緒の不安定さを押しつけようとするのでもない。さまざまな危機を横目で見やり、自身の中にも重たいものをかかえながら、細心の注意をはらって呼吸しつづけること。言葉を紡ぎつづけること。そして、上手に力を抜きながら他者の言葉を導きこむこと。(中略)このような小説的呼吸法を通して彼が読む者の呼吸を助け、ひいては生きるのを助けるような作用を生み出しているからではないかと思う。」

    0
    2022年01月05日
  • 往復書簡 言葉の兆し

    Posted by ブクログ

     東北の震災の年、東京の古井由吉と仙台の佐伯一麦のあいだでやり取りされた手紙。際立ったことが語られているわけではない。でも、今読むと、もう一度心の中の、ことばにならない何かを失いたくないと思う。1995年阪神大震災という、自然の、想像を絶する破壊の、刻み込まれた、経験に戻っていく自分を見つける。
     家族を失い、自宅は倒壊した少年や、少女たちが、倒れなかった学校の、薄暗い職員室にやってきて、笑いころげ、経験の奇異を自慢しあうかのようにおしゃべりしていた。そんな顔が浮かんでくる。25年も昔のことだ。
     二人の作家が、そんな少年たちの心の奥にあったもののことを語ろうとしている。
     誠実な本だ。

    0
    2019年02月12日
  • 還れぬ家

    Posted by ブクログ

    少年だった。家族を捨てて家を出た。老いた父と母。震災。「還れぬ家」と題した作家になった少年の現在。生きている人間に時は流れる。読みながら、揺さぶられているのは、ぼくのなんだろう。

    0
    2019年02月03日
  • 還れぬ家

    Posted by ブクログ

    『渡良瀬』にすっかりはまって、続きのような(私)小説を読む。

    前作は冷え冷えとした夫婦関係が印象的で、小説を彩っていたと同時に圧倒された。

    ところがこの『還れぬ家』によると、その後、主人公は離婚したのだった。
    新しい妻を迎えて、この度はなかなかいい関係なのである。
    (私小説だから前作の続きすると)

    「えっ!」

    しかも、
    若いときに家出した生家は父親が心臓病と認知症がからみ、母親が困窮している。
    それをこの夫婦は助けているのである。妻にとっては苦労と思いきや、
    妻は賢く、和気あいあいと、協力しているのである。

    「ええっ!こういう展開?」

    と考え込んでしまうが、人間味にあ

    0
    2018年10月10日
  • 男性作家が選ぶ太宰治

    Posted by ブクログ

    女性作家が選んだものとはまた違う感覚の作品も多く、未読作品が多かったのでとても楽しめた。餐応夫人がすき。この作家さんはこういう作品を選ぶんだなぁ…って部分でも楽しめてなんだかお得。

    0
    2018年03月16日
  • ショート・サーキット 佐伯一麦初期作品集

    Posted by ブクログ

    電気工事士が命にかかわる職業だということがよくわかった。人生色々という事を、様々な手法で皆小説にしていく。誰だって自分の人生の主人公だし、これが正解だと言える基準などない。なんて事を改めて考えてしまった。

    0
    2015年12月29日
  • 芥川賞を取らなかった名作たち

    Posted by ブクログ

    太宰治や吉村昭、島田雅彦といった今も売れている作家の作品だけでなく、消えてしまい、読まれなくなった作家の作品にも光を当てている。作品をどうやって読んだらいいのか、大変に勉強になった。芥川賞を取れなかった佐伯さんだからこそ語り口に切迫感があり、なお良かった。

    干刈あがた、森内敏雄の作品をさっそく注文してみた。

    0
    2015年11月03日