佐伯一麦のレビュー一覧
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東北の震災の年、東京の古井由吉と仙台の佐伯一麦のあいだでやり取りされた手紙。際立ったことが語られているわけではない。でも、今読むと、もう一度心の中の、ことばにならない何かを失いたくないと思う。1995年阪神大震災という、自然の、想像を絶する破壊の、刻み込まれた、経験に戻っていく自分を見つける。
家族を失い、自宅は倒壊した少年や、少女たちが、倒れなかった学校の、薄暗い職員室にやってきて、笑いころげ、経験の奇異を自慢しあうかのようにおしゃべりしていた。そんな顔が浮かんでくる。25年も昔のことだ。
二人の作家が、そんな少年たちの心の奥にあったもののことを語ろうとしている。
誠実な本だ。 -
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『渡良瀬』にすっかりはまって、続きのような(私)小説を読む。
前作は冷え冷えとした夫婦関係が印象的で、小説を彩っていたと同時に圧倒された。
ところがこの『還れぬ家』によると、その後、主人公は離婚したのだった。
新しい妻を迎えて、この度はなかなかいい関係なのである。
(私小説だから前作の続きすると)
「えっ!」
しかも、
若いときに家出した生家は父親が心臓病と認知症がからみ、母親が困窮している。
それをこの夫婦は助けているのである。妻にとっては苦労と思いきや、
妻は賢く、和気あいあいと、協力しているのである。
「ええっ!こういう展開?」
と考え込んでしまうが、人間味にあ -
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自分の好きなブックガイドシリーズ。でも予想してたのとは違って、これはちょっと違った目線で楽しませてくれた。芥川賞の候補に挙がった作品をつらつら並べて、それに関する簡単な紹介が羅列されてるのかなと思ったけど、そうではなかった。筆者が特に優れていると思った作品をピックアップして、なぜ取れなかったのか、そのときの評者の意見などをうまく交えながら考察していく、っていう寸法。この本を読むと、むしろ芥川賞を取っていないこれらの作品群をこそ読みたくなってくる。巻末に候補作の一覧が載ってるけど、殆ど未読の作品ばっかで、まずそっちを読めよ、って感じだけど(苦笑)
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ネタバレ[ 内容 ]
第一回芥川賞選評で、「生活の乱れ」を指摘された太宰治。
受賞の連絡を受け、到着した会場で落選を知らされた吉村昭。
実名モデル小説を「興味本位で不純」と評された萩原葉子…。
「私小説を生きる作家」として良質な文学を世に問い続ける著者が、芥川賞を逃した名作について、その魅力を解き明かす。
[ 目次 ]
太宰治「逆行」
北條民雄「いのちの初夜」
木山捷平「河骨」と小山清「をぢさんの話」
洲之内徹「棗の木の下」
小沼丹「村のエトランジェ」
山川方夫「海岸公園」
吉村昭「透明標本」
萩原葉子「天上の花―三好達治抄―」
森内俊雄「幼き者は驢馬に乗って」
島田雅彦「優しいサヨクのための嬉遊曲 -
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ネタバレ山海記(せんがいき)
佐伯一麦著
2019年3月20日
講談社
奈良県橿原市の大和八木駅から和歌山県の新宮駅まで、高速道路を通らない路線バスとしては日本一長いバス路線がある。距離166.9キロ、停留所数167、所要時間6時間30分、乗車料金は5250円。私も最初に大阪から車で十津川村~新宮へ取材に行った時、十津川沿いの、車がすれ違えないような細い国道168号で、反対側から「大和八木」行の奈良交通バスがきて、八木まで行くの?とスタッフと一緒に目を丸くした覚えがある。
この小説は、東北に住む主人公の「彼」が、東日本大震災の数年後の3月11日に、奈良県を訪れ、八木から新宮までのバス旅を試みる話 -
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著者自身をモデルとする、東北に暮らす作家の早瀬と、その妻で染色作家の柚子の、震災から三年が経った日々の暮らしを綴った作品です。
植物や野鳥など生活に身近な自然の営みをていねいに観察し、近所に暮らす人びとと交流するありさまを通して、静かな日常がえがかれていますが、これらの出来事が「震災以後」というエポックにおいて作品世界が構築されていることに読者は注意を向けざるをえません。こうした何気ない日常がいつ何時うしなわれてしまうかもしれないということを知ってしまった者の視線を通して見られた日常の風景であり、同時に、そのような危機に直面しても完全に壊れてしまうことのない、自然と人びととのつながりに対する -
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10年前、2009年に豊橋を出発して伊勢に亘理、吉野から山に入り十津川を新宮まで抜け、串本を回って和歌山まで自転車で走った。
十津川は北海道以上に何もなく、100km走ってコンビニもない。
昼飯どうしようかと、当時はつるんで走る二人で困り、十津川の河川敷にテントを張って野宿したりと、五日間走った。
日本で最長の路線バスは大和八木駅から新宮へ至る、166.9km、6時間半のバス旅だ。
その途中、天辻峠を越えてからは十津川沿いを走る。
十津川は明治に大水害があり、そして近年2011年にも水害に見舞われた。
かつての水害、近年の水害とを東日本大震災の津波被害と重ね、そして自身の過去を