笹原千波のレビュー一覧
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SF短編アンソロジー
今回が最後のGenesis、以後は紙魚の手帖に移行するそうです
海外作品ばかり読み耽っていた時期に、日本SFを読みたいと創刊号を手に取りました
以来ここで何人もの推し作家様と出会い、珠玉の作品の数々を拝読いたしております
自分の人生の一部であるこのアンソロジーが終了するのは少し寂しい気持ちです
深く感謝申し上げます
『風になるにはまだ』
第13回創元SF短編賞受賞作品
肉体を持たない“情報”として生きている女性が、現実の身体を1日借りるお話です
情報化の女性視点で久しぶりに生身を持った感覚は、まるで自分が体現しているように冴え、没入します
是非皆さま体感なさって下さい
タイトルの意味を知ったとき、切なさが込み上げました…新感覚の近未来SF
『応信せよ尊勝寺』
宇宙の森羅万象、物理ならぬ“佛理”により成り立ち、このエネルギーを超能力者の如く操る五百羅漢たちを描く未来SFスペースオペラ長編の序章
佛(ほとけ)の道に沿った独特な名称やアイテムに、背筋がゾクゾクするような期待感がとまりません(こういうのを待ってた)
長編が楽しみです!
『さよならも言えない』
地球から他星系へ植民し遥かなる時が過ぎ、環境に適した進化を辿った人類を描いた未来SF
外見、思想が大きく隔たった人間の社会を円滑に運営するため導入された“スコア”とは…?
真実を知った主人公のとった行動は、現実社会と重なって見え、やるせない
空木先生の世界観に魅了される作品です
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散りたくない。
無形の情報に還(かえ)るにはまだ、わたしというものへの未練が濃い。
病気や障害などの事情で生身の体で生きることが難しくなった人々が、〈情報人格〉として仮想世界で暮らせるようになった近未来。情報人格の小春は、大学時代の同級生が集うパーティに出席するために「一日だけ体を貸し出してくれる」サービスを利用する。体を貸してくれたのは年の離れた大学生だった。ひとつの体を共有して、ふたりは特別な一日を過ごす。
第13回創元SF短編賞受賞作を含む瑞々しいデビュー作品集。
あたしには何もない、と彼女は言ったけれど、それはまっさらな布のように、糸のように、幾通りもの未来があるということじゃないかと思う。彼女はまさにこれから肉体を通じて、経験を通じて彼女になっていくところなのだ。「風になるにはまだ」
他者に物語を求めないっていうのはとっても得がたい性質なんだけど、わかってくれるひとは少ないんだよね「手のなかに花なんて」
死とは孤独なものなのだろう、と榛原は思う。得てきたすべてに別れを告げなくてはいけないから。三森の苦しみは愛し愛された証であって、善く生きるべく努めた証であって、榛原には少し眩しい。「限りある夜だとしても」
前半3作が印象的。文章も柔らかく丁寧で魅力的。SFというカテゴリを超えてます。
「その自由な瞳で」
「本当は空に住むことさえ」
「君の名残の訪れを」
後半3作もあわせ、全てが少しずつリンクして、ひとつの世界を作り上げてます。
情報人格として仮想世界に意識を移すか、現実世界に留まるか。
どちらを選ぶにせよ、その人その人の生き方に誰も口を挟まないのがよかったな。
人と人の間にあるものが、人を人間たらしめているんじゃないかと思っているので、感覚を共有できなかったりする微妙なずれが、散逸を生み出すのかな?と考えたりしました。
周りみんなデータなんだって感じてしまうと、私も自我を保てなくなりそう。
ただ、散逸が恐ろしいものとも思えなくて。
誰かをふと振り向かせる、そんな風になるのも悪くはないんじゃないかな。 -
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【日常の中にいる、クララとドロッセルマイヤー】
ミュージカル、2.5次元、バレエ、ストレート・プレイ……様々な舞台を題材に描かれた5編が収録された短編集である。
ただ、「華やかで遠く感じる『舞台』というその空間は、自分という役を生き、誰かの人生に思いを馳せる私たちにとって、意外に身近な場所なのかもしれません。」という扉に書いてある触れ込みって、読んでみたら結局、3編目の白尾悠「おかえり牛魔王」だけの話なんとちゃうのん?と感じた。
毎日定時で退社する、社内の人付き合いも忖度もへったくれもない後輩の派遣社員、桐ヶ谷を探るうちにその演劇の指導者しての並々ならぬ実力に触れ、自らも演劇に助けられた過去を思い起こす岩間。ガチの会社世界とガチの稽古場面がサンドウィッチで描かれた作品にこそ、「意外に身近な場所云々」という表現が似合う。この作品では、僕自身が数年前にバレエで演ったことがある「くるみ割り人形」が演劇として扱われているので、ちょっと気持ちが入ったし。
全体的には、「稽古」も「舞台」も華やかでも遠くもなく、日常の中にある(意外に、かどうかは知らんが)僕にとって、興味深い一冊だった。 -
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舞台をテーマにした5作の短編。
舞台を見る人なら、いろいろとわかる!と思うことあって楽しく読めると思う。
『ここにいるぼくら』
2.5次元舞台に出演することになった主人公。しかし、その役はシリーズもので、彼はいわゆるキャス変だった。
いやー、2.5のキャス変は私も経験あるからわかるなー。(見る側だよ、もちろん)演者側からの立場として読んでて面白かった。
『宝石さがし』
バレリーナと衣装デザイナーの話。
舞台の衣装って、いろいろなことを考えて作られているのと同時に、演者にとってはその役になるために、舞台に立つ上ですごく大切なんだなって感じた。2人の関係性がとても素敵だった。
『おかえり牛魔王』
本音を我慢している派遣社員の主人公と新しくやってきた空気を読まない派遣社員。新しく来た派遣社員はアマチュア劇団で指導をしていた。
その劇団にいる女の子がよかったなー。普段は大人しいけど舞台ではガラッと変わる感じ。演劇を通して本音で生きることの大切さを感じた。
『ダンス・デッサン』
役者の主人公はいつもアンサンブルで出演していた。ある日名のある役に抜擢されるが、自分でいいのかと葛藤する。
舞台は非日常。私も舞台を見て明日からも頑張ろうっていつも思う。
『モコさんというひと』
舞台を見る人なら一度は経験あるんじゃないかと思う、チケット譲渡。このお話はチケット譲渡で出会ったモコさんが最近SNSで推しについて投稿しないのを不思議に思っていた主人公が、再びモコさんからチケット譲渡してもらうことになった。
チケット譲渡って、基本はその一度きりの関係のことが多い。そんななかでモコさんのような人と出会えるって素敵だなと思った。 -
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ネタバレどの話も設定が面白く、ワクワクしながら読めた。
◆天駆せよ法勝寺
最初から世界観に驚愕させられ、そのままの勢いで最後まで読み切ってしまった。最後、大人が大人であるがため苦渋の選択し、それでも前へ進まないといけないのに対して、主人公の意識が子供から大人へと変わる様子が危うげながらも、頼もしく清々し感じられた。世界観は奇抜だけど、共感できる。
◆家の外なくしてみた
扉や窓の外が家の中と繋がっている設定は四畳半神話大系と似ているかと思ったが、こちらはだいぶポップ。2人の会話が丁寧なのにテンポが良くて読みやすかった。
◆この光が落ちないように
これも世界観がすごい。
「感情は火と同じ。」と、感情の否定に向かい、すべて焼き払い必要なバックパックだけを持ってサクラに会いにいく様子は今までのウトウ博士との思い出も否定しているようで悲しい。この話が一番印象に残っている。
◆星から来た宴
主人公達が受け取ったものは、消えた文明が最後に放った音楽で、老師の「滅びた生物の遺言」という言葉が残る。文明はいつかは滅びるものなのかもしれないけれど、最後の声を受け取る人がいることはせめてもの救いになっていて欲しいと思った。
◆さよならも言えない
これは最後、悲しい。結局、ミドリと少女は真逆の人生を歩む。少女が去った後、今まで幸せで美しかった思い出と、残って冷めてしまったコーヒーの味が重なる。最後、ミドリが猫のブローチを自分でつけることで、自分の中で少女にさよならを言っている気がした。
◆風になるには
最後、ハコの「消えたくないな」という、心の底から無意識にふと漏れたようなセリフにどんな思いがあるのか考えると切なくなる。「死にたくないな」と私たちが思うのとは、違う何か複雑なものがあるのだと思う。
体の貸主と借主の分かりあおうとする気遣いがすれ違ったり、かみ合ったりするところも面白い。ハコの、「あたしの目」をとおして見た物の表現も活き活きしており、目に浮かぶようだった。 -
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ネタバレ【収録作品】近藤史恵 「ここにいるぼくら」/笹原千波 「宝石さがし」/白尾悠 「おかえり牛魔王」/雛倉さりえ「ダンス・デッサン」/乾ルカ 「モコさんというひと」
どれも舞台に引きつけられる人たちの話で悪意を持つ人が直接的には出てこないのがよかった。
演じるほうの覚悟も描かれていて、トップスターでないからこその葛藤と矜持がいい。トップスター側も、互いへのリスペクトと舞台への愛情が感じられる話ばかりで、これが現実ならいいのにね…… でも、舞台を見る側としては、そういう人間性を信じたいところもある。
「ここにいるぼくら」【2.5次元×俳優】メインキャラの一人が病気で無期限療養に入ることになり、代わりに2.5次元の舞台にでることになった琴平。2.5次元を知らなかったため、“キャス変”が、いかに大きな波紋を呼ぶか、気づかず引き受けたが、いつもと勝手が違い、なかなか舞台を自分のものにできないでいた。
「宝石さがし」【バレエダンサー×デザイナー】国際結婚し、義母の会社でデザイナーとして働く恵、その友人でバレエ教師のゆり、その娘で海外のバレエ団で挫折を経験したバレエダンサー美玖。美玖の日本での公演のため、恵が衣装をデザインすることになる。
「おかえり牛魔王」【派遣社員×アマチュア劇団】空気を読まず、定時で颯爽と職場から消える美しい派遣社員・桐ヶ谷。派遣社員のとりまとめ役となっている岩間は彼女の事情を知る。
「ダンス・デッサン」【ミュージカル×劇団員】劇団に所属し、日々ミュージカルの舞台に立つ瀬木。アンサンブルに満足していたが、名前のある役をすることになり、葛藤する。
「モコさんというひと」【2.5次元×観客】2.5次元の観劇を生きがいにする真美。モコさんという人とSNSで知り合ったが、コロナ禍を経て変わってしまったように感じる。
本筋とは関係ないが、「宝石さがし」で、美玖が選んだ曲が、ファニー・メンデルスゾーンのMelodie Op.4 No.2とあるのを見て、先日たまたまファニー・メンデルスゾーンの名前を耳にしたばかりだったので、不思議な感じを受けた。 -
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GENESIS(創元日本アンソロジー)シリーズが今回の五集目で最後になるという。いや~、実にもったいない、このシリーズとても気に入っていたのになぁ~。特に、表紙の絵(カシワイ作)が好きで毎回楽しみにしていた。まあ、社の方針だからしょうがないのかもしれないけど。私以外の人にはあまり好評ではなかったのだろうか。売り上げも伸びなかったのかな。
最近、帯の呼び込み文句が派手なものが多く、ちょっとこの傾向を懸念していたのだが、この本も首を傾げた。「日本SFを牽引する注目の書き手による最新作6編」って、ちょっと誇大広告でしょう。この6人のうち3人(宮澤・水見・空木)しか知らない。私も最近のSFを勉強してきたつもりだが、それでも勉強し足りないという事なのだろうか。他の3人は実際に牽引した、しているのだろうか、疑問です。しかも、水見稜なんてだいぶ古い世代だし、最近作品を執筆していたのだろうか。そして、裏の帯を見たら「ベテランから日本SFの未来を担う新鋭まで、6人の作家が集結!」だって。ベテランは水見稜のことだが、他の5人は日本SFの未来を担ってくれるのでしょうか?もし本当だったら今後も頑張って欲しいです。
6作品の中で一番高評価だったのが、空木春宵「さよならも言えない」だ。服飾局という設定が話の中核をなし、服装が物事の価値判断の中心となる設定。少々偏った設定というのがSFや伝奇小説にとっては都合が良い。近未来社会と言ってしまえば何でももっともらしく話を展開できる。つまりアイディアが一つありさえすれば、文章構成力がある作家であれば素晴らしい作品を大量生産できるという訳だ。作家と読者のwin-win関係は長く続くだろう。今後も空木春宵には期待している。
その次、二番目の評価は、水見稜「星から来た宴」。懐メロみたいな作品で、すんなり体の中に染み入っていった。昔だったら、幼稚な作品だなと思っていたかもしれなかったが、久々に読んだタイプの作品でもあるためが新鮮に感じた。逆に、この様な作品は現代の若者、現代のSFファンに受け入れられるのか少々疑問である。Z世代とか令和時代の意見を聞いてみたいものだ。もしかしたらコメントすら出ないのではないか。
三番目の評価は、笹原千波「風になるにはまだ」。さすが第13回創元SF短編賞を受賞されるだけのことはある。体の共有化という設定は目新しいものではないが、共有感覚が妙に生々しい、感覚を表現する言葉のセンスも小気味よいのには将来性を感じる。また作品を出すなら是非読んでみたい。