あらすじ
散りたくない。無形の情報に還(かえ)るにはまだ、わたしというものへの未練が濃い。病気や障害などの事情で生身の体で生きることが難しくなった人々が、〈情報人格〉として仮想世界で暮らせるようになった近未来。情報人格の小春は、大学時代の同級生が集うパーティに出席するために「一日だけ体を貸し出してくれる」サービスを利用する。体を貸してくれたのは年の離れた大学生だった。ひとつの体を共有して、ふたりは特別な一日を過ごす。第13回創元SF短編賞受賞作を含む瑞々しいデビュー作品集。/【目次】風になるにはまだ/手のなかに花なんて/限りある夜だとしても/その自由な瞳で/本当は空に住むことさえ/君の名残の訪れを
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Posted by ブクログ
繊細で優しく、美しい、人が人を想う気持ちに満ちた物語。
・地の文が図抜けて上手い。作者の観察眼がすごい。
・嫌なやつに固執しない。殊更に書き立てないのがいい。
・単身赴任でフルリモートっていう働き方の人は、情報人格の人の気持ちがよく分かるかもと思った。
・情緒も風情もなく言うと、片道切符の異世界転移モノ(前の世界と通信はできる)。
Posted by ブクログ
散りたくない。
無形の情報に還(かえ)るにはまだ、わたしというものへの未練が濃い。
病気や障害などの事情で生身の体で生きることが難しくなった人々が、〈情報人格〉として仮想世界で暮らせるようになった近未来。情報人格の小春は、大学時代の同級生が集うパーティに出席するために「一日だけ体を貸し出してくれる」サービスを利用する。体を貸してくれたのは年の離れた大学生だった。ひとつの体を共有して、ふたりは特別な一日を過ごす。
第13回創元SF短編賞受賞作を含む瑞々しいデビュー作品集。
あたしには何もない、と彼女は言ったけれど、それはまっさらな布のように、糸のように、幾通りもの未来があるということじゃないかと思う。彼女はまさにこれから肉体を通じて、経験を通じて彼女になっていくところなのだ。「風になるにはまだ」
他者に物語を求めないっていうのはとっても得がたい性質なんだけど、わかってくれるひとは少ないんだよね「手のなかに花なんて」
死とは孤独なものなのだろう、と榛原は思う。得てきたすべてに別れを告げなくてはいけないから。三森の苦しみは愛し愛された証であって、善く生きるべく努めた証であって、榛原には少し眩しい。「限りある夜だとしても」
前半3作が印象的。文章も柔らかく丁寧で魅力的。SFというカテゴリを超えてます。
「その自由な瞳で」
「本当は空に住むことさえ」
「君の名残の訪れを」
後半3作もあわせ、全てが少しずつリンクして、ひとつの世界を作り上げてます。
情報人格として仮想世界に意識を移すか、現実世界に留まるか。
どちらを選ぶにせよ、その人その人の生き方に誰も口を挟まないのがよかったな。
人と人の間にあるものが、人を人間たらしめているんじゃないかと思っているので、感覚を共有できなかったりする微妙なずれが、散逸を生み出すのかな?と考えたりしました。
周りみんなデータなんだって感じてしまうと、私も自我を保てなくなりそう。
ただ、散逸が恐ろしいものとも思えなくて。
誰かをふと振り向かせる、そんな風になるのも悪くはないんじゃないかな。
Posted by ブクログ
SF作品と思って読み始めたが、
読み心地や読後感はむしろ純文学に近いものだった。
電脳世界に意識を移して生き続ける、という設定はありふれたものだが、
そこで永遠の命を生きるのではなく、
「散逸」という概念を取り入れているのが新しい。
SF的世界観を背景に、純文学的に人の心の営みを描く、
という潮流は今後もますます強くなりそう。
Posted by ブクログ
【収録作品】
風になるにはまだ
手のなかに花なんて
限りある夜だとしても
その自由な瞳で
本当は空に住むことさえ
君の名残の訪れを
生身の身体で生きることが難しい事情を抱えた人々が、〈情報人格〉として仮想世界で暮らせるようになった近未来を描く。
そちらを選択する人としない人、当事者と周囲の人、散逸の恐れと非現実的な行動の可能性、それぞれについて描きながら、近未来への希望をつなぐ物語。
死とは何か。
仮想空間で生き延びるというのは、優秀な第三者の善意による管理あってのこと。その前提が危うく思われてしまう。