高橋洋のレビュー一覧
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本書の原題は「The Nocturnal Brain」、"夜行性の脳"とでも訳せようが、眠りといえば、日の出・日の入りと同じように万人に規則正しく訪れ、脳にとっての休息…では全くないことが睡眠医学の専門家によって描かれる。
それは多少の不眠や起床リズムのズレなどとはほど遠く、完全に昼夜逆転することもあれば、寝ている間にオートバイで出掛けて帰って来る人までいるそうだ。
取り上げられているのは、著者が実際に取り組んだ症例だが、計測装置や様々の薬剤の進歩により、症状を把握し、対応できるようになってきたとのこと。
日頃特に意識もしない「眠り」の思いもよらない深層に触れること -
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相手の感情をミラーリングした情動的共感。
一般に「共感」というものは絶対的に善であるとされているが、
本書では冒頭にあげた「情動的共感」が、ある局面、具体的には道徳的判断などにおいては悪しき作用をもたらすというショッキングな主張が展開される。
目の前で困っている子供と、遠くアフリカで生死さえ確かではない何万人もの子供。
論理的・倫理的にはどちらに手を差し伸べるべきか。
感情・共感をもってするとどのように判断するだほうか。
さらに突き詰め、共感が破滅的な悲劇をもたらすこともある。
また、不幸は共感を欠くところからのみ生まれるのか。
サイコパスは共感を欠く点が有害なのか。
共感以外の方法で、道 -
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睡眠障害を専門とする神経科医による、さまざまな症例を紹介する内容。もともとBBCの番組が元で作られたということで、夢遊病や睡眠時無呼吸症候群、不眠症などなじみのあるものから、初めて聞くような奇妙な症例まで紹介されている。
睡眠障害の原因については、まだわからないことが多いようでそれほど詳細な記述は見当たらない。
それでも、睡眠やレム睡眠、ノンレム睡眠に関する脳の部位やホルモンについての簡潔な記述があり、この分野について興味を持つ読者はそれらの情報から知識を深めていくことができると思う。
オリバー・サックスの著作などもそうだが、具体的な症例や患者のありさまは人間の脳についての不思議さを感じさせて -
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『脳の大統一理論』、スティーブン・ジェイ・グールドの本と三冊並行して読んだために時間がかかった。本書も含めていずれも似たような主張に帰結するのが面白い。
本書の表現では、「高度な知能や思考を通じて、秩序を保とうとする人間と、そんな手段は用いずとも、細菌は化学反応によって秩序を保つ」。片やグールドは、ダーウィンの進化論における後発者が常に優れているという主張を批判したが、つまり、高次元の脳機能が生命の頂上に君臨するかのような人類の傲慢さを戒める。そんな風に機能しなくても秩序は保たれるし、寧ろ人類は秩序を乱す。
そして。感情は、脳だけを心の源泉とみなすのではなく、神経系と他の組織の相互作用によ -
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本書はアントニオ・ダマシオの新作である。
ダマシオは、「なぜ、そしていかに情動が生じるのか?私たちはどのようにそれを感じ、感情をもとに自己を築き上げるのか?感情はいかに最善の意図を支援したり阻害したりするのか?なぜ、そしていかに脳は身体と相互作用し、その機能を支援するのか?」という問いの答えを求めて、「多大な時間を費やしてきた」という。そして、「今や、以上の問いをめぐる新たな事実や解釈を手にした」と言う。本書は、その内容を解説するものである。すでに御年75歳となる。これまでの研究や思索の集大成を意識して書かれたものだと言える。
正直に言うと、その内容をきちんと理解できたかという、できていませ -
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刺激的な論考。久しぶりに夜更かしして読み続けた。それぐらい脳を活性化させる内容。
共感は道徳性の中心的要素ではない。それどころか複雑な現実社会においては、共感がネガテイブに作用することが多い。ブルームの議論はなかなか周到で、いくつもの反論を想定しつつ、それに応えて自己の主張を裏付けていく。
共感のネガティブな側面として、スポットライト効果、数的感覚の欠如はお馴染みだが、
「他者の感情を自分も感じること」で他者の苦痛にとらわれてしまい、長期的な援助が困難になることや、収容所の隣に住む人が処刑される囚人を助けるのではなく、どこか遠くで行われることを望む例などは興味深い。
また、共感は怒りなどの情動