グレゴリー・ケズナジャットのレビュー一覧
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Posted by ブクログ
多分に実体験をベースに構築された物語であろうことは、容易に推察できる。
外国人が母語ではない日本語でしたためた小説、ということで、それを念頭に置いて意地悪な読み方をすればツッコミどころは皆無ではないが、そういった環境がまったく気にならずに内容に没入できるほど、文章力のレヴェルは高く、まず素直に敬服する。
そして中身それ自体が、日本で暮らす日本人である我々読者に投げ掛けてくるボールもまた、ずっしりと重く、キレ味鋭い。
日本に滞在するアメリカ人は、例えば欧米における一部のアジア人や黒人のように、可視化しやすい典型的な差別の対象となることはあまりないだろうが、当人にとっては、違和感や疎外感を抱くこと -
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表題の芥川賞候補作と、「汽水」という短編の、二編。
どちらも根底としてあるのは、自らの「居場所」への問いかけのような気がするが、「トラジェクトリー」は淡々と進み、淡々と終わる。
アポロ11号を鍵に、定年した日本人とアメリカ人英会話講師が交錯……というよりすれ違った感じで。
古き良きアメリカのイメージと、混沌としたここ10年ほどのアメリカが交錯するとも読めそうだが、どうも私の読解力の無さのせいか、あっさりと終わりすぎて。
「汽水」の方が、個人的には好みだ。
たくさんの現代の小ハーンの1人として、何をどう感じるのかが明確に感じられた。
イランにルーツを持つアメリカ人作家が、日本語で書いたとい -
Posted by ブクログ
タイトルに惹かれて著者プロフィールを覗いてみたら、この方小説家だったのね。それも母語(英語)ではなく日本語で書かれていて、デビュー作は京都文学賞を受賞されているという…!
帰化こそされてはいないけど、長年日本に在住され、(講義ができるほどの)日本語を駆使されている外国人と接触する機会がないから、新鮮かつ貴重な読書体験となった。
ジャンルはエッセイ集。
各エピソードの題材は様々だが、基本的には初来日前後の出来事が克明に綴られていた。
タイトルにも見られる通り、言語(主に日本語や英語)に関わるエピソードも多い。ただこの方の書き方は、私にはちょっぴり理屈っぽくて、そんな気楽には読めなかったな…
だ -
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母語が日本語でない作者が書いて芥川賞候補というのに興味を覚えて読んだ。
英会話学校のネイティブ講師ってたしかにこんな感じ。日本の若者がもはや英語を勉強することにさしてモチベーションないのもこんな感じかもしれない。都市郊外のショッピングセンターがじわじわ寂れていくかんじとか、ひとり暮らしの中高年男性のたたずまいが身近で。
他所から来てまた帰っていく者、滞在して別の土地に通過していく者、突然プツリと行方不明になってしまう者、全く別のルートをたどる同級生、みんなそれぞれ理由があったりなんとなくだったり軌跡を描いている途中。
2篇ともグローバルという言葉が背景に出てくるけど、いまやすっかりイメージが変 -
Posted by ブクログ
ネタバレ日本で働いている米国人、米国で働いている日本人、世界中を転々としながら働いている人・・・。主人公のブランドンは特に日本に魅力を持って来日したわけではない。知らない心の底では日本の何かに魅せられたのかもしれにが、本人でさえそんなことは分からない。ブランドンが移動した軌跡は地理的には長い。でも、心の軌跡はどうだろうか。あまり移動していないような感じである。というのが表題作の感想。もう1つの「汽水」も似たような感じの作品だ。インターナショナルといったって米国とその他の関係でしかない。日本を忘れること、米国に染まることがグローバル化ではないと思っているので、そこに違和を感じた。
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Posted by ブクログ
外国の人から見た日本、特に閉鎖的な京都(南丹市、京都市内)の人間関係がつぶさに書かれててとても興味深い。外国から来て日本に馴染もうとする方と、周りと外見が違う人への畏怖と、乏しい語学力のため意思疎通を放棄してしまう日本人のどちらの気持ちもわかる。そして筆者の公正な書き方でその日本人に対してもそこまで嫌悪感を感じない。
とにかく筆者の日本語、古典文学への造詣が深く凄みを感じる。最初は「きみは〜」から始まる文体がラスト近くになると極端に少なくなるので、あえてこの文章表現を選び日本語の上達していく様子を暗に伝えているのがわかる。
短編ニ編のうち、後編異口でも日本語と外国語の表現に極限まで悩まされた