グレゴリー・ケズナジャットのレビュー一覧

  • トラジェクトリー

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    ネタバレ

    『トラジェクトリー』
    言語を通して見つめる自分、アイデンティティー。国を飛び越えて宇宙まで及べば、かくも自我とは曖昧なものだと思う。それで良いのだ。

    これまでの作品を越えて、主人公以外、たとえばカワムラさんの来し方も知りたい。
    ホワイトハウスの事件にはっとさせられる。


    『汽水』
    母国と母語、生地と方言、自己を巡る思いはどこまでも終わりがない。「小さなハーン」に凝縮されている。

    ニューオーリンズ
    ウィリアム・フォークナー
    ラフカディオ・ハーン

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    2025年12月05日
  • 言葉のトランジット

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    Audibleで『単語帳』を聴き、筆者に興味を持った。
    それからこの人のインタビュー動画なんかをみたりした。
    観察眼も面白いと思ったし、少し目を伏せながら、物静かに淡々と話すその佇まいもなんか好きだった。
    「俺」という一人称への想いとか、自分の贔屓にしていた観光地に欧米からの陽気な観光客を見た時の感情とか、頑張って英語で話しかけてくる係員に英語で答える気遣いとか、この人の視点から見る日常が面白かった。

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    2025年11月27日
  • 開墾地

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    ネタバレ

    『鴨川ランナー』よりもさらに複雑に、言語と自己の関わりについて常に考える、考えざるをえない状況を描く。

    イラン出身でペルシャ語を母語とし、米国に暮らす父。
    アメリカに生まれ英語を母語とし、父とも英語で会話をしてきた自分は日本へ留学している。一時帰国中。

    父の人生にフォーカスしたくなる。
    自宅の庭に次々に繁茂する葛、日々それと格闘する父。本当は何と格闘しているのか。
    しかし葛がkudzuであったように、「異」であっても重なるところはある。母国を出て、母語でない言葉を使い、必死に人生を開墾してきた彼が、これから誰かとの重なりを感じられますように。


    ・・・・・・・・
    『鴨川ランナー』から続け

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    2025年11月23日
  • 鴨川ランナー

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    ネタバレ

    『鴨川ランナー』
    日本で暮らし仕事をしても、いつまでも周囲からは異質な存在、記号として扱われる「きみ」。日本語を話しても、外国人の話すニホンゴだと受け止められる。苛立ちながら、それでも縁を頼りに日本で生き続け、谷崎を研究し15年。もちろん十分に日本語を操れるようになっている。が、未だ外国人の枠を取り払うことはできず、記号でなく個として生きられているのかという虚しさ。

    日本人の私も同じように、集団で生きる限り、集団に応じて記号を付けかえて生きている。記号だろうがなんだろうが、人生はただ目の前の道を一歩一歩、足を出して進み続ける以外にない。と、鴨川ランナーでもある「きみ」の姿に教えられるし勇気づ

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    2025年11月23日
  • トラジェクトリー

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    何かに辿り着くわけではない。これは自国を出て日本で暮らすことを決めた外国人の物語。
    寄る辺のない、帰るところもなく、生きる国でどのように生きるべきか、自分は何者なのか、心もとなさをつぶさに観察してその心の移ろいを切に描写する。
    外国人ではなくとも、今の時代あらゆる人が「自分は何者なのか」問い続けてるかもしれない。ゆえに共感してしまう。

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    2025年10月24日
  • 鴨川ランナー

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    アメリカ人作家が日本語で書いた、日本に住むアメリカ人を主人公とする小説。2編。
    小説の中で主人公は高校のとき日本を訪れ、なんとなく魅了されて日本に職を求めて再来日する。知り合う日本人はアメリカ人を不特定多数のガイジンの一人として扱うので、日本語を頑張って勉強してきた主人公は戸惑う。そうして日本人と誰とも親密な関係性を築くこともないまま日本の大学院を卒業して大学に教員として職を得るという話である。何が起こったかはそれほど重要ではなく、言語というキモノを纏って人間が触れ合う時の特に異文化同士の場合について起こることをティッシュペーパーで柔らかく包むように表現する。
    作品のテーマは異文化をバックグラ

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    2025年10月04日
  • トラジェクトリー

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    ネタバレ

    すごく不思議な読後感の小説だった。
    海外から移住して来た故に感じる「自分の場所じゃない」感覚。同時に故郷のアメリカも既に「知っている場所」ではなくなってしまっていて、アイデンティティがどこにあるのか定まらない気持ち。
    海外への移住経験どころか旅行経験すらもないのだが、高校進学を機に生まれ育った街を離れた私には少しだけ覚えのある感情だった。
    ふとした瞬間に感じる疎外感と、帰郷するたびに知らない街になっていく故郷。その切なさを少しだけ思い出した。
    他の言語を習得したとしてもその国の一部になれるわけではないし、もしかしたら馴染めば馴染むほど「余所者」の感覚が強くなっていくのかもしれない。
    筆者も日本

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    2025年10月03日
  • トラジェクトリー

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    作者が日本人ではないということは傍に置いて、日本語で書かれた一つの小説として読んだ。
    英語学校の描写がリアルだし、登場人物の思いや考えに共感するところもあって全体としてはよかった。少しわかりにくいところ、わざと謎めかせていると思われるところもあり、自分の理解力が十分に至らない感じがして若干消化不良。

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    2025年09月27日
  • トラジェクトリー

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    初めて開墾地を読んだ時の衝撃は少し薄まってしまいましたが、同じテーマでさまざまな視点でアイデンティティを追求しているところは一貫。結局人は上下や前後じゃなくて横にしか動けないんじゃないかな。と新たな観点の気づき。

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    2025年09月21日
  • トラジェクトリー

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    作者は、所謂、日本語を母語としない方です。読むと、成程、日本人には気付けない視点で書かれているように感じます…が、そこら辺りが上手く理解されなかったような気がしました。
    帯には、端正な日本語とありましたが、自分には蒸溜水のような、綺麗ではあるが魚の棲めない文章に感じました

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    2025年09月16日
  • トラジェクトリー

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    日本語が母国語ではない人が書いた小説とは思えないほど読みやすかった。
    内容的には、?よく分からなかった。
    深く読めなかったのかも知れない。
    何ということのない英語講師の日常生活というか、こういう業界なんだなあ、いや、創作だから実際は違うのかなあ、という感じだった。

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    2025年09月01日
  • トラジェクトリー

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     アメリカ人で、これだけの日本語で小説を書くってすごいことだ。実になめらかな文章だ。文章に昭和の香りがする。とりわけ、日比野コレコの難解な文章を読んだ後だったので、余計感じた。

     アメリカから、日本に来たアメリカ人が感じたことは、なぜか、私が中国に行って感じたこととよく似ているなと思った。最初は、違いを見つけて、なんだ中国はと日本の優位を見つけることをしていたが、そのうち、中国人のここが優れているということを見つけるようになった。それで、仕事のありようがずいぶん変わり、自分なりの役割を見出したものだった。

     主人公ブランドンは、大学を卒業する間際、就職のことを考えていたら、日本で英会話の先

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    2025年07月23日
  • 鴨川ランナー

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    高校時代から学習し始めた外国語(日本語)でここまでの物語が書けるとは…、なんとも稀有な存在の著者と作品に巡り会えた。
    これまで著者が経験したと思われる日本在住外国人特有のエピソードの数々。日本人として日々生きていると意識しないことでも、こうして言葉にされると共感して頷いてしまうことや、恥ずかしながら認めざるを得ないことが多い。エッセイではなく小説という形だからこそ響くものがあった。

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    2024年02月25日
  • 鴨川ランナー

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    二人称で現在形の短めの文章が続いていって、本当にランニングしているようなリズムの文体でした。日本語を母国語としない人が日本語で書いた小説でしたが、美しい日本語で読んでいて気持ちよかったです。

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    2024年01月20日
  • 鴨川ランナー

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    「優しい地獄」に続き、これも済東鉄腸氏の「千葉からほとんど出ない引きこもりの俺が、・・・」で外国人作家の書籍を紹介していたもの。

    表題と「異音」の2編。
    どちらも、外国人として日本の中の微妙な違和感を、二人称と一人称、それぞれに表現している。
    確かに、流暢に話す外国人って、I=「ぼく」ではおかしいといわれる不自然さ、日本人独特の考え方を植え付けられた生きにくさ、それを日本語で表現できる凄さに感服する。

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    2023年09月19日
  • 開墾地

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    言語がテーマ。
    前作の異邦人も少し続いている。
    葛がなんとも言えない圧迫感、切迫感をもたらしている。
    二か国語の間で生きる。そのうちの一つは英語。
    なんと味わい深いのだろう。
    お父さんの昔話がとりわけ。

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    2023年09月02日
  • 鴨川ランナー

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    ネタバレ

    Audibleで聴いた。

    日本に住んでいる外国人(アメリカ人)が日々感じる違和感などが書かれていて面白かった。
    なんとなく、そう感じるだろうなとわかるようなこともあった。例えば、異文化交流会?に参加すると、外国人というだけで特別扱いされるけれど、それは自分個人に興味を持ってくれているわけではなくて、英語を話す外国人として興味を持たれているだけ。というところなど。
    外資系の会社で働いている時、飲み会の席で、少数の外国人の社員は、日本人達に囲まれて、そんな感じだったな〜と思った。
    そういうようなことが、日本に住んでいる外国人の視点で書かれているのが面白い。

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    2023年06月16日
  • 開墾地

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    情景が目に浮かんでくるような描写でとても読みやすかった。
    葛の蔓が繁茂しているのをぼんやりと眺めながらその中から聞こえてくる虫の声を耳を澄ます。
    やがて、多くは語らないけど優しさのある父の声が聞こえてくる。

    ラッセルが2歳の時に母が今の父と結婚したが、7歳で母は出ていく。
    父だけは、それまでと何も変わらず彼と暮らす。
    アメリカ生まれのラッセルとは英語で喋るが、父の言語はペルシャ語だ。
    父が、故郷の家族と話すときは英語を使わない。
    そのことに寂しさを感じるのか、自分だけ家族ではないと思ってしまうのか…。

    国が違えば、ことばも違うという当たり前のことだが、日本から離れたこともなく、身近に日本語

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    2023年05月07日
  • 開墾地

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    短いのに濃厚な90ページだった。故郷、自分のルーツ、居場所。どこにいても落ち着かないフワフワした不安定な気持ちがよく分かる。葛の蔓がどんどん伸びて飲み込んでしまう。故郷って何だろうと思う。

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    2023年03月18日
  • 開墾地

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    芥川賞候補作。

    まず、日本語が母語ではないのに、文学的な文章を書けることがすごいと思う。日本語が母国語の私でもこんな文章書けないと思う。
    「囂(かまびす)しい」とか初めて聞いた。
    読み心地もすごく良かった。

    母語(主人公にとっては英語)を聞いている時、行間が聞き取れてしまうがゆえに不愉快さを感じることがあるというのを、この本を読んで改めて気付いた。

    外資系の会社で働いていた時に、私が英語の行間まで理解できないおかげで、傷ついたりイライラすることなく、コミュニケーションを取れていたことを思い出した。アメリカ人の同僚が、クライアントからの英語のメールにイライラしていて、私がそれを読んでみても

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    2023年02月09日