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第173回芥川賞候補作 英会話教師として日本で就職したブランドンは、アポロ11号の月面着陸計画の記録を教材に、熟年の生徒・カワムラとレッスンを続ける。 やがて、2人のあいだに不思議な交流が生まれていく。 日本に逃げたアメリカ人と、かつてアメリカに憧れた日本人。 2人の人生の軌道<トラジェクトリー>がすれ違う時、何かが起きる―― アメリカ出身の作家が端正な日本語で描く、新世代の「越境文学」 ニューオーリンズにフォークナーと小泉八雲の残影を見る珠玉の短編「汽水」併録
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Posted by ブクログ
表題作。面白いと思ったのは、悪役だったり鼻つまみ者的な扱いをされがちな中高年男性カワムラさんが、その内面に何かを秘めた人間としてミステリアスな性格付けをされ、主人公の英会話講師と対になる存在として描かれているところ。二人がレッスンでなぞるアポロ11号の挿話も、月という目標へ向け放たれた軌道上で営まれ...続きを読むる宇宙飛行士たちの何気ない日常会話に、登場人物の諦めと希望がないまぜになった感情が重ねられる。 故郷に根を張るでもグローバルに飛翔するでもなく、たまたま今ある場所に宙づりにされているような主人公の寂寥感が伝わってくる。
日本で働いている白人男性の物語。表題作は英語学校のネイティブ講師、もう一編の『汽水』は日本の大学の職員が主人公です。両方とも大きな展開もなく、淡々とした内容です。 どちらも外国人が日本で就職して働く違和感といったものを取り上げています。日本人から見ればマイノリティを取り扱っていると思うのですが、な...続きを読むんか違った感じかしました。うーん、上位者からみた孤独感といった感じでしょうか。 ただの中年男性の悩みが書かれていようでもあり、なんか視点が違う、なんとも複雑な読書体験でした。
トラジェクトリー(trajectory)は、一般的に「軌道」「進路」「方向性」を意味する言葉。 作者自身を感じるられる、静かなモノローグが好きだ。まだ40才を越えたばかりの彼はどこを目指すのだろう。
初めは『アメリカ出身作家が端正な日本語で描く、新たな「越境文学」』という話題性に惹かれて、半ば興味本位で手に取りました。 読んでみて圧倒されたのは、やはり第二言語として身に付けたというのが信じられないほどの日本語表現の見事さでした。日本語ネイティブでもこれほどの文章を書ける人はそうそういません。 ...続きを読む 日本人が英語を学ぶより、欧米の出身者がひらがな・カタカナ・漢字が入り混じる日本語を身につける方がよほど難しそうですが、世界規模の話者数で見れば「辺境の言語」ともいえそうな日本語を身につけるためにどれほどの時間と努力を注ぎ込んだのかと考えると、それだけでも尊敬に値します。 物語ももちろん面白かったです。日本という国、とりわけ地方都市の寂れた感じの描き方がとてもリアルだと感じました。これは外からやってきて実際に長年住んだ人にしか書けないと思います。 過去に自分が読んだ作品で言うと、多和田葉子さんの「エクソフォニー 母語の外へ出る旅」に近いものものを感じました。異国に住む人の感覚には通じるものがあるのでしょう。
何かに辿り着くわけではない。これは自国を出て日本で暮らすことを決めた外国人の物語。 寄る辺のない、帰るところもなく、生きる国でどのように生きるべきか、自分は何者なのか、心もとなさをつぶさに観察してその心の移ろいを切に描写する。 外国人ではなくとも、今の時代あらゆる人が「自分は何者なのか」問い続けてる...続きを読むかもしれない。ゆえに共感してしまう。
作者が日本人ではないということは傍に置いて、日本語で書かれた一つの小説として読んだ。 英語学校の描写がリアルだし、登場人物の思いや考えに共感するところもあって全体としてはよかった。少しわかりにくいところ、わざと謎めかせていると思われるところもあり、自分の理解力が十分に至らない感じがして若干消化不良。
初めて開墾地を読んだ時の衝撃は少し薄まってしまいましたが、同じテーマでさまざまな視点でアイデンティティを追求しているところは一貫。結局人は上下や前後じゃなくて横にしか動けないんじゃないかな。と新たな観点の気づき。
作者は、所謂、日本語を母語としない方です。読むと、成程、日本人には気付けない視点で書かれているように感じます…が、そこら辺りが上手く理解されなかったような気がしました。 帯には、端正な日本語とありましたが、自分には蒸溜水のような、綺麗ではあるが魚の棲めない文章に感じました
日本語が母国語ではない人が書いた小説とは思えないほど読みやすかった。 内容的には、?よく分からなかった。 深く読めなかったのかも知れない。 何ということのない英語講師の日常生活というか、こういう業界なんだなあ、いや、創作だから実際は違うのかなあ、という感じだった。
アメリカ人で、これだけの日本語で小説を書くってすごいことだ。実になめらかな文章だ。文章に昭和の香りがする。とりわけ、日比野コレコの難解な文章を読んだ後だったので、余計感じた。 アメリカから、日本に来たアメリカ人が感じたことは、なぜか、私が中国に行って感じたこととよく似ているなと思った。最初は、...続きを読む違いを見つけて、なんだ中国はと日本の優位を見つけることをしていたが、そのうち、中国人のここが優れているということを見つけるようになった。それで、仕事のありようがずいぶん変わり、自分なりの役割を見出したものだった。 主人公ブランドンは、大学を卒業する間際、就職のことを考えていたら、日本で英会話の先生を募集しているのを見て、パンフレットの竹林の写真に関心を持って、いつの間にか応募してしまったブランドンである。そこでの経営者ダイスケ、受付のユカ、教師のスチュアート、レベッカと生徒カワムラたちの交流を通じた物語。その勤務先は名古屋だった。なんの特徴もなく、有名な観光地がなく、アトラクションもなく、建物も伝統的でもなく、コンクリートとガラスでできた建物の都市だった。 1年と思った働く時間が、いつの間にか3年になって、契約更新の時期を迎えていた。 ブランドンの担当する上級クラスグループは、テキストがなく、新聞記事を読んだり、生徒が提出する話題をディスカッションする。カワムラが会話を独占し、日本語と英語で話しかけてくる。そして、マンツーマンの時間は、カワムラと月面着陸のアポロ11号の日誌を読む。カワムラは、市内で飛行機の部品を生産していた精密機械製造メーカーにつとめ、退職したばかりだった。 カワムラは、子供の頃、望遠鏡を買って欲しかったが、父親から街の灯が強くてほとんど見えないと言われて、買ってもらえなかった。それ以来、宇宙に関することに興味を持ち、仕事を辞めたので、アポロ11号の日誌を読むことが楽しみだった。それで、ブランドンにいろいろ質問するが、ブランドンはほとんど知らないし、専門用語が多くて、なかなか答えることができなかった。そんなふうにしていたら、カワムラは、英会話教室に来なくなった。カワムラは、望遠鏡を買って、のぞいたら、なにも見えなかったことに失望したのだ。 英会話学校のダイスケは、教養や娯楽としての英会話の時代が終わり、グローバルな時代に備えて、グローバルで活躍する日本人をサポートする支援の英会話学校を作りたがり、ネイティブの外人を教師にしたのだ。日本のガラパゴス化に危惧をしていた。そういう説明をブラントンは受けても、ガラパゴスっていう意味はよくわからなかった。 ブラントンは、初めて日本、珍しいものに関心を持ったが、なぜかその生活や文化の違いについてもあまり興味が持てなくなっていた。次第に、日本に慣れてしまっていた。 ある時、外人の教師たちで、飲み会をしたら、スチュアートが「アメリカにも居場所がなく、日本にも居場所がない。俺たちにあるのは、あの学校の壁の間の空間だけだ」と言われ、ブラントンは、同じように、居場所がないなぁと感じるのだった。子供の頃に、自分だけのスペースで、勝手にはいられないスペースが自分に必要だと思って、大切なものを隠していたことを思い出した。 高校時代の友人トレヴァーが、兵士となって、現在台湾にいるという連絡があり、夫婦で名古屋に来ることになった。それで、蒲焼きを食べながら、話をした。現在は、台湾で軍隊の命令で中国語の勉強をしている。友人は、軍隊に入り、アフガニスタンに戦争に従事し、そして台湾がある。その時のアフガニスタンでキャンプした時の星空は、建物もなく、遮るものない、まさに崇高美だったと語る。とにかく、兵隊でいることで、自分の居られる場所がわかったという。 ブランドンは、そんな友人を眩しく見るのだった。 また、以前英会話学校で教師していたトーマスにあい、トーマスは日本に関するテーマで、出版の仕事をしていた。日本のミニマリズム、スローライフ、ジャパニーズデザインについて発信。最近は、「セキニン」という日本語について取り組んでいた。日本語のセキニンは、英語のresponsibility とは違うと言っていた。 ブランドンは、英会話学校を辞めて、大阪で働き、日本にいてもう10年になる。そして、日記を見ながら、カワムラのことを思い出すのだ。 ブラントン、なぜか日本の表層をただ眺めている。カワムラが、なぜアポロ11号の日誌を読みたかったのか、その背景、そして、なぜ英会話に来なくなったのか?などはあまり深く考えない。そんなふうな生き方をしながら、自分の居場所がないことを感じている。物語は、唐突に終わる感じだ。ブランドンは、名古屋、東京、京都、大阪で日本を見ているが、やはり、日本の田舎をもっと楽しんでもらいたいと思った。星空の美しさは、田舎に行けば十分に味わえる。日本で、日本語の作家活動をしているのでもっと変化していくと思う。
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