直島翔のレビュー一覧
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ドラマが近年稀に見る面白さだったので、その面白さを下回らないことを期待しながら読み始めたが、杞憂だったとすぐに気づいた。やはり映像には映像の、文章には文章の強みがそれぞれある。
やはり一番の見どころは自閉スペクトラム症に関する描写だ。最近は多くのドラマでASDの特性を持った人が描かれているので基本的なことは理解しているつもりになっていた。しかしこの作品を読み、はじめて様々な症状が起きたときに脳内で何が起きている感覚になるのか、どんなことがどんな風に辛いのか、それを制御したり、社会のルールにフィットさせることがどれだけ大変なことなのかを深く想像して、考えた。「安堂裁判官、かわいいな、愛おしいな」と思いながら、あんなに食い入る様に見ていた本作のドラマでも、やはり想像力が追いついていなくて、本人の気持ちが想像できていなかったということは、身近にASDの人がいても、自分は同じように表面を見て分かった気になっていただろうと自覚させられて、その無自覚の自覚が本を読んでの最大の収穫だった。どんなことも分かった気になることが1番怖い。スペクトラムという名前が示す通り、個人差だってきっとたくさんあるだろう。
(※いま自分が患っている病気も、症状が出た時の脳内の状態を言葉にすることはとても難しくて、他人に分かってもらうことをほとんど諦めそうになることもあるけれど、ASDのことも誰かがこうして言葉にする努力をしてくれなかったら自分は一生想像することができなかったんだと思うと、やはり諦めたくないなという気持ちになった。)
そして、ドラマではあまり描かれていなかったが、小説ではそのASDの特性のおかげで、裁判を根本から覆すような真実を安堂が発見していくという過程を丁寧に描いていて、それがとても読み応えがあった。
NHKのドラマ化にあたっては、それぞれの事件の詳細や裁判所内の人間関係、登場人物の男女の設定などがかなり緻密に、それも小説とは別のメッセージを込めて再設定が行われていることにも気付けて、大きな価値のある二次創作だと思ったし、小説、ドラマまとめてテミスシリーズの大ファンになってしまった。続編が楽しみだ。 -
Posted by ブクログ
ネタバレ自分に心はないのか
ASDとADHDの特性を持つ人がこの世界で生きていくことがこんなにも息苦しく大変なんだと改めて気付かされた。
ドラマでは「わからないことがわかっていないとわからないことはわかりません。」と何度も繰り返していて、そこが物語の核にもなっていましたが、小説では自分は土星人だ。自転の早さがゆっくりな地球に住むにはかなり生きづらいということ。そして特性によって脳が支配されている自分に心はあるのかとたびたび悩む姿がとても印象的でした。
と同時にこれは小説の中のお話ではあるが、発達特性を持つ人も工夫してなんとか普通になろうと擬装して生きていくことはとても辛いし大変だけど決してできなくはないのだとある種希望のようなものももらえた気がします。
フィクションだけどノンフィクションのようであり、またそうであって欲しいと感情移入してしまうほどでした。
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ドラマを観ていたので、キャラクターがすぐ頭の中で映像化されて、どんどん読み進めていった。ドラマでは、安堂さんが結城さんとの関係を自ら述べたのに対し、本では数名察していたのはなぜだったのかが前作含めどこか読み落としてるかもしれない。法服のサンタクロース、読む前はどういう意味だろうと思っていたがまさかラストがそういう展開になるとは…。読んでから粋なタイトルだなと感じた。「アイツは発達障害だ!」という偏見の目があること「家族が発達障害だから」と理解する目が両方描かれているのもいい。そして安堂さん自身も変わろうとしているところも良かった。ドラマと本の話が違うので、ドラマはこうだったけど、ここの部分はドラマと似てるなと探しながら読むのも楽しい。
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すごくわかりやすく、地に足のついた検察小説だった!
柚月裕子さんの佐方弁護士(ヤメ検)シリーズを想起させた。ぜひシリーズ化してほしいと思った。
主人公の区検検事、久我も、どこか脱力した雰囲気ながら、被疑者の「割り」に定評があるように熱意があって、思慮深く魅力的な人間。高校生の娘との関係に悩んでいるのも、リアルで面白い。
一方、後輩の新人検事、倉沢も、空回りするほどの熱意と、新人が故のシャープな正義を持っていて、これからの成長を楽しみに感じさせる。
地道な捜査を進める巡査、有村との相性もよく、とてもいいコンビ(カップル?)だった。
警察の捜査では、「思い込み」が大事なのかもしれないとする久我の持論には、納得させられた。冷静さが第一にあるという印象の検察と、警察の違いはそこにあるのか、と腑に落ちた気がする。
しつこくヤメ検弁護士になることを誘われ、その道を選ばなかった久我検事。有村巡査の故郷、鹿児島に異動した倉沢検事。それぞれの物語をまた読みたい! -
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先にテレビドラマを見て面白かったので原作をたまたま見つけて読んでみたら、一話以外はエピソードが全く別物であれ?と思ってまたドラマを見てしまった。
ストーリー、キャラクターはほぼ別物。
ドラマは最終的に巨悪とたたかう裁判官、再審手続きの問題にフォーカスして派手なエンディングだけど結局なんだか救われなかったのに対して小説は最後ハッピーエンドでよかった。
主人公のキャラクターは小説だと説明がとても多いが、ドラマは主に演技で表現されており六法全書の下に手を入れる描写はあるけど特に説明がない?ので初見のときは気づいてなかったかも。(私が説明描写見落としてる可能性もあるが)
小説のエピソードの中では貸金庫の窃盗の話がよかった。巨悪はいなくて田舎の祭りにたまたま出くわして真実に辿り着いたらどこにも悪い人はいなかった。 -
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「ABC、そしてD」の章が強く印象に残った。
刑事裁判を匿名で行う。適用事例としてよくある性犯罪でもない隣家の犬の毒殺事件について、そもそも匿名適用の必要性があるのか主人公は疑問を抱き、匿名要請を容認しない決断を下す。すると被害者に寄り添う姿勢がないとなじられるのだが、自分としても主人公よりの考えだったので得心いかなかった。むしろ公益性を考え、公にすることで命について皆に考えてほしいと考えを吐露した主人公に嬉しく思った。このケースでは被害者側である飼い主が特殊だったが、普通の飼い主なら犯人を許せないだろうし、危険性を声高に叫びたくなるんじゃないだろうか。この件に限らず、刑事裁判で要請すれば匿名がまかり通るというのも何だかびっくりしてしまった。市民としては被害者はともかく加害者まで伏せてほしくはない。
ともあれこの事件は犠牲となった犬、ハヤートが不憫でならない。急展開にこれ以降裁判は開かれなかったと記載されていたが、犯人はどうなったのだろう。ちゃんと裁かれてくれないとハヤートという命という意味が名付けられた犬が浮かばれないし、近所の住民も不安になるのでは…
また第二作となった今作では主人公の両親にもスポットライトが当たっていたのが印象的だった。発達障害の息子を育てながらカサンドラ症候群になった母、離婚して別々に暮していた検事の父。父は父なりに主人公のことを気にしていたようだが、ただもう少し踏み込んで主人公が幼い頃の両親の姿を見てみたかった。 -
Posted by ブクログ
「気忙しい」「気が晴れる」の「気」って何だ?「個人的にお話したい」と言われても、プライベートな話かと思えば全くそうではない。そんな曖昧な言葉にいちいち翻弄され、脳内メモリを消費しながら必死に生きる裁判官・安堂清春の思考回路を辿るのは、やっぱりこのシリーズならではの醍醐味だ。
前作で描かれたあの痛々しいまでの生きづらさ、カサンドラ症候群だった母親の影、そして厳格な父との対峙。不器用で一筋縄ではいかない安堂家がなんとか安寧な日々を送ってほしいと願わずにはいられない、泥臭い人間ドラマに私は強く引き込まれていた。
今作でも、安堂が覚悟を決めて「発達障害」であることを告白する名シーンがある。けれど小野崎から返ってきたのは、「知ってましたよ。弟も自閉スペクトラムだから」というあまりにあっけらかんとした言葉。必死でバグを隠してきたつもりが、とっくに知られ、受容されていたという肩透かしのような安心感。この脱力と救いの描き方は相変わらず秀逸だった。
【追記】
私は、「この作品をうまく読み取れていないのではないか?」と思い、再度「法服のサンタクロース」を読んでみた。結果。
冤罪という切実で重厚なテーマに引き込まれるとともに、人の過ちを突きつけられる傑作でした。
紅林と幼い穂乃花ちゃんを引き離した罪は本当に重い。
それだけに、すべてが明るみになったあとに安堂が投げかけた「ある問いかけ」と、それに応えるやり取りが強く心に残ります。厳しさの中に描かれた静かな救いのようなラストシーンに、心から読んでよかったと思えました。
ソーダ水が飲みたくなった。
『海を見ていた午後』を聴きながら。