石沢麻依のレビュー一覧

  • 月の三相

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    とんでもなく美しい小説。
    満月、半月、新月。それぞれが私たちに見せる面もあれば見せない裏側の面もある。そこに存在するはずなのに私たちには見えない。それは人の顔にも言え、他者に見せる顔を表の顔とするならば、自分ですらはっきりと見えない裏の顔も存在する。しかし表の顔とは他人を自分の言葉や印象、都合に合わせる時に切り取って被ったり被らせたりする面のようである。表の顔である面は、他者に判断され勝手に被らされる面であり、自らの本当の顔である裏の顔を見る必要がないと判断される為の「顔のパスポート」である。
    面に惹かれて移り住んだ三人の女性の二人ーー望とグエットは表の顔によって、他者からアジア人という面を貼り付けられる。貼り付けられた面を剥がすこともできず、アジアというレッテルを貼り付けられ、裏の顔を見られることはなくなる。
    もう一人の女性であり面作家であるディアナは、通常、表しか描かれない面の裏に顔を刻む。彼女が描く裏顔は、表と一体でありながら、境界を超えて交わることのないものである。表と違い、緻密に刻まれる線は、密かに顔立ちを浮き上がらせ、被った本人に、面を被らされている鏡像よりもずっと正直に自分を裏切る。

    著者のデビュー作である「貝に続く場所にて」でも感じたけれど、人の感情を、当人が処理する情景と緻密に組み合わせて、読者に突き付けてくる文章が凄い。

    年々変化していく自らの顔を肖像面として保存する文化のある南マインロケートに、面に惹かれた三人の女性が移り住む。面に刻まれる時間の変化。面に留まる歴史。面が指し示す現実と幻想。
    全てを超えて交わるいくつもの次元が、面を通して描かれるーーー

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    2026年01月26日
  • 饒舌な名画たち 西洋絵画を読み解く11の視点

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    とても良くまとめられた本でした。
    掲載されている絵画もそうですが書かれている内容もとても興味深く、著者の石沢麻依氏にも興味を持ちました。
    11の視点でまとめられた絵画たちは、それぞれが思いもしない視点だったりしてそれだけでも成る程と思う物でした。
    リアルを描いたものでもどこか遊び心のような隠しアイテムが描かれてあったり、ゲームのクエストのようなものを攻略本を追って楽しんでいるかのようでした。
    画家もこれだけ丁寧に解説されていたら工夫した甲斐がある…と感激なんじゃないかな。

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    2025年08月31日
  • 水都眩光 幻想短篇アンソロジー

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    ネタバレ

    •『ラサンドーハ手稿』高原英里
    この作品が最初で良かった。退廃的な世界観、暗い路地裏から話しかけてくる仮面たち、ひょっとして私たちの世界でも起きているかもしれないよと錯覚させるような精神が入れ替わるストーリー。百点満点です。

    •『串』マーサ•ナカムラ
    奇妙なお役目がグロい!
    連綿と続いていくんだなと主人公の微笑みで感じます。なんだか鬱りたくなるのに爽やかで奇妙な読後感。

    •『うなぎ』大木芙沙子
    あーっ、純文学!うなぎが臍から出てくる超自然的現象はさておき、不良と仲良くしているところをいい子ちゃんの家族(になりかけの人と母親)に見られたくないっと顔を背けてしまった…小さなしこりが今も残り続けていた様がいいですね。

    •『マルギット•Kの鏡像』石沢麻衣
    とっても好き。退廃的なのにどこか美しさを感じさせる世界観が好きなんでしょうね。

    •『茶会』沼田晋佑
    僕の理解力がなかったら申し訳ないけど、体入れ替わっちゃってますよね?

    •『いぬ』坂崎かおる
    精神が侵食されるような短編。本当にいるのかいないのか、いると思えばいるんでしょう。

    •『開花』
    •『ニトロシンドローム』
    •『天岩戸ごっこ』

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    2024年02月18日
  • 月の三相

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    月の三相とは、"新月""半月""満月"。月の光が変容を受け入れてくれる。面に惹かれて旧東ドイツの南マインケロートという街にやってきた3人の女性の名にも月が含まれている。面は、欺瞞を表し針鼠にも変貌する。髑髏もまた面である。抽象的な印象だが細かな描写であり想像力が掻き立てられ瞼に映像が映し出される。エーミールとクララ…フランク、フローラ、歴史に引き裂かれる。フランクの拘りの蝶に結びつく物。トマスの蝶へのトラウマ。奇妙な『眠り病』という流行病。人魚姫や茨姫に例えられたり、いくつもの次元が交差するような肖像面の物語。

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    2022年11月16日
  • 貝に続く場所にて

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    3.11で亡くなった後輩とのゲッティンゲンでの再会は、周りの人にも認知される薄っすらとした存在感を伴っている。
    練られた文章が心地よく、鎮魂と生き残ったことへの後ろめたさと受け止めきれない想いの巡礼に導いてくれる。物が残っているのならまだ良い方で、全てを流されてしまった者もいる。
    乾いた表層の奥に深い喪失を感じた。

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    2026年04月25日
  • 水都眩光 幻想短篇アンソロジー

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    作品紹介・あらすじ

    仰げば彼方は鏡のようにある。記憶になかったことばかり思われる。――「ラサンドーハ手稿」
    蜃気楼のように現れる塔。ざぶんざぶんと波の音。へそから出てくるうなぎたち。母がクリーニング店に預けたもの。画家が描く瓜二つの妹たち。ある日、人類に備わった特殊能力……
    九人の実力派作家が紡ぐ幻想アンソロジー。
    【目次】
    ラサンドーハ手稿   高原英理 
    串          マーサ・ナカムラ
    うなぎ        大木芙沙子
    マルギット・Kの鏡像 石沢麻依
    茶会         沼田真佑
    いぬ         坂崎かおる
    開花         大濱普美子
    ニトロシンドローム  吉村萬壱
    天の岩戸ごっこ    谷崎由依

    *****

    全9編からなる短編集。タイトルの通り幻想的な内容の作品を集めている。
    本書の刊行が2023年9月25日。本書の元となった雑誌「文學界」の発売が2023年4月7日。この「文學界」には12編の短編が掲載されており、そのうちの9編が本書に収録された。ただし坂崎かおるの「いぬ」は「文學界」では「母の散歩」となっていた。
    本書に収録されなかった残りの3編は山尾悠子「メランコリア」、諏訪哲史「昏色の都」、川野芽生「奇病庭園(抄)」。なぜこの3編が除外されたのかは分からないけれど、内容的なものなのかもしれないと推測される。

    幻想的な内容を集めたとされているけれど、僕の考える“幻想的”とは少し違う方向性の作品が多かった。ただしそれでつまらなかったかというと、そんなことはなく、かなり面白く読み進めることができた。「うなぎ」や「いぬ」などは幻想的な内容、というよりもかなり現実的な主題に傾いているように思えるし、「天の岩戸ごっこ」などは可愛らしくもある。「茶会」や「開花」は少し分かりづらい印象もあったけれど、それでも作品の持つ雰囲気に十分に没入することができた。「ラサンドーハ手稿」や「マルギット・Kの鏡像」は映像が目に浮かんでくるようだし、「ニトロシンドローム」はちょっとスラップスティック的な要素も感じられた。

    そんな中にあってマーサ・ナカムラの「串」は僕にとって出色の作品。僕がイメージしていた幻想的なものに最もマッチしており、此岸と彼岸の行き来に無理がなく、不気味な中に暖かみや優しさ、そして哀愁すら感じることができた。この作品を機に彼女の詩集を読み始めることとなった。

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    2026年04月13日
  • 饒舌な名画たち 西洋絵画を読み解く11の視点

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    美術館の展示会場をゆっくりと回っている気分になる。筆者による絵画の説明は丁寧で美しく、批評としても興味深いものだった。

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    2026年02月13日
  • 貝に続く場所にて

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    かなり幻想的な設定で初めのうちは何が何だかわからなかった。ただ、各所に散りばめられた魅力的な表現がとても好みであることも作用し、何度か繰り返し読む事で食らいついていけた。解釈が正しいかどうかわからないが、誰しもが抱える思い出したくない記憶に対して、目を背ける弱さと立ち向かう強さの両方を持ちうる人間の面白さが素敵に描かれていると感じた。

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    2025年10月31日
  • 饒舌な名画たち 西洋絵画を読み解く11の視点

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    面白く読みました。絵画の解説書的なものは基本好きですが、この方の文章もまた素敵でした。絵画はアトリビュートがわかるとさらに面白いです。知らなかった作品もあって楽しめたし、改めてヒエロニムス・ボスの「快楽の園」ちゃんと見てみたいなーとと思いました。両翼を閉じた状態の外パネルを見たのは初めてでそれも良かった。大昔に何も知らずにプラド美術館行った自分にこれを見て来いって行ってあげたい。

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    2025年05月31日
  • かりそめの星巡り

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    不在、記憶、透明。それらがひとつながりのモチーフとなり、いくつもの硬質な呟きが紡がれていく。2021年秋から2024年夏にかけて月一で新聞に連載されたという第Ⅰ部がよかった。連載の続きをリアルタイムで読みたいものだと思った。

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    2025年04月29日
  • かりそめの星巡り

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    1年ほど前に書評を見ていつか読みたいと思っていた。とても美しく透明で精緻な文章。なのに息苦しくて半分でやめてしまった。

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    2026年03月11日
  • 饒舌な名画たち 西洋絵画を読み解く11の視点

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    ネタバレ

     著者、石沢麻依に、美術について語らせようと考えた編集者の勝利!?
     実に、面白い一冊だった。

     前著、エッセイの『かりそめの星巡り』にも収録されていた日経新聞の連載「美の十選」でも、その芸術への造詣ぶりを遺憾なく発揮していた。

    「その色は白に半ば杭を打つように鮮やかで、私はその色彩を頼りに立っていた。」

     こんな、芥川賞受賞作内での、変にこねくり回した表現も、実際の絵画というモチーフの説明としては、妙にハマっている気もした。とはいえ、まだまだ、もっと普通に書けばよいのに、と思う記述も多い。

    「失われた顔は時間の回廊を通り抜け、思いがけず誰かの中にこだますることもあるのだろう。」

     これは肖像画で描かれた半世紀前の顔が、街歩きの中で、現実世界でも他人のそら似で見かけることがある、ということを言いたいものだが、なんなんだ、失われた顔って(笑)

     その受賞作の中でも
    「持物(アトリビュート)が彼らを匿名から守り、名前を浮き彫りにしている。」
     と、そういえば、西洋絵画を学ぶときのキーワードが散りばめられていたが、もっと、アート寄りの目線で、読んでいれば読後感も変わったのかもしれない。

     いずれにせよ、本書は、己の知識と芸術の感性を、独特な言葉遣いに載せて縦横無尽に語っているところが良かった。

     出版側の都合だろうが、途中、6章から8章まで(全部で11章ある)、引用されている絵画作品がモノクロになるのは如何なものか。全頁、フルカラーで統一してもらいたかったところだ。

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    2025年04月22日
  • 貝に続く場所にて

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    久しぶりの純文学ということに加え、石沢さんの文章がとても難解なので、これは久々に頭が沸騰しました。
    たぶん、石沢さんが描写せんとされていたことの半分も理解出来ていたか怪しい…
    それがとても残念で申し訳ない気持ちでいっぱいな読書になってしまいました。
    あああ、わいに読解力があれば…!

    しかし読み進めるうちに、この難解さはわざとなのではないか、震災や震災被害者を描くに辺りあえてなのではないか、とも思ったり。
    このアプローチでなければ、恐らく石沢さんの半径の中で起こった震災という人知を超えた物事を受け入れ、納得し、自分の中のあるべき場所にしまうということができなかったのではないか、とそんな風に思ったりもしました。

    そしてわたしはあの巨大な震災の直接的な被災者ではなかったけれど、この文章の難解さを紐解いていこうと四苦八苦する様は「あの3月」の中心に自ら足を踏み入れ、出来る限り「あの3月」が人々につけた傷を理解し、忘れないでいたいと願う行為に近い気がしました。

    数々のアトリビュートを持つ神のいる町、ゲッティンゲン。
    長い歴史の中で人々が耐えられないような出来事に遭遇するたびに神を生み出し、再生を試みてきてきた跡なのだとしたら、「あの3月」も本書をもっていつかゲッティンゲンの町のように時間や空間の隔たりを超えて存在し続けることができるのではないか。
    例え人々が忘れてしまっても残り続ける神々の像のように。

    やはり思い返してみても少しも読み取れた気がしない…多くの書評を読みたいです。

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    2025年02月01日
  • かりそめの星巡り

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    遠く離れた場所と言葉が響きあう、記憶への旅。
    ドイツでの暮らしに故郷仙台の風景を重ね、愛する文学世界と過去からの声に耳を澄ませる――。
    デビュー作『貝に続く場所にて』で芥川賞を受賞した注目作家が、静謐にして豊饒な文章で綴る初めてのエッセイ集。
    新年最初の1冊目。すごく静謐とした文を書かれる作家さんだなと思った。初めて読んだけど、しんとした寒さの中で冷静に、丁寧な目線で物事を観察しているような感じ。3.11のことなど災害の記憶が深く根を下ろしているのを感じました。表紙とタイトルがとても素敵でジャケ買いしたんだけど当たりだったなあ。

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    2025年01月25日
  • 貝に続く場所にて

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    疲れた。
    設定は斬新で好き嫌いで言えば個人的には好きなのだが、主人公が向き合う記憶が登場人物の人数分以上に重なってしまい、淡々とした言葉の連なりにさらに混迷させられてしまう
    読解力不足と言われればそれまでだが、選び抜かれた言葉とその配置の中に、分かる人だけ分かれば良い的な不親切さを感じなくもない。
    と言うのはひねくれているし、そもそも言い過ぎだし、重くて深いテーマに対する静かな扱い方は好感が持てる。
    他の作品も読んでみたい。

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    2024年11月07日
  • 貝に続く場所にて

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    そんなに長くない小説なのだが読み進めるのに時間がかかった。緩急というものはなく、こちらの小休憩を許してくれない地続きの文だからだ。
    とはいえ、この作者の感性と小説内にちりばめられた技法みたいなものが凄いなと思いながら読んだ。
    9番目の準惑星となりさがった冥王星と、9年前の東日本大震災。冥王星はずっと外周を回っているわけではなく、海王星の内側にも入ってくる。そんな軌道に呼応するように震災時の記憶を思い起こしたり避けてみたり。各々の人々や土地がもつ記憶と持物(アトリビュート)。惑星の小径になぞって様々な記憶もなぞっていく。何度も出てくる主人公の歯(の疼き)は彼女のアトリビュートで、野宮のは帆立貝の殻だったりと、色々ともりもりな感じで一回で噛み砕くことは難しいかもしれないけど良い読書体験になったと思う。

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    2024年05月15日