東日本大震災で被災した主人公が、野宮という仲間の学生が津波に呑まれて不明だと聞いた。その遺体が8年経った今も見つかっていない。
主人公は自分の研究分野である西洋美術史の論文を書くために、ドイツの学術都市ゲッチンゲンに留学する。そこは太陽系を模して縮尺20億分の1で8個の惑星を配置した風変わりな街で
...続きを読むある。太陽から惑星を巡って散歩が出来る。
この町で主人公は、亡くなっていて実在しないはずの野宮の訪問を受けて、絶えず心に残っていたものつまり震災の傷がぱっくりと開いてしまう。
ゲッチンゲンの留学生活は、その為、おぼつかないものに変わってしまった。今一度震災の記憶を辿り、気持ちの整理をして落ち着いた生活に戻りたいと考えるのだ。
ゲッチンゲンの街の印象も彼女にはいつもとは違い変化して映るようだ。彼女の心の痛みは増すばかりで、いっこうに治まらない。そうした気持ちを鎮めるため、ドイツに留学したことがある科学者の寺田寅彦にも頼ったりする。
アガータという女性と部屋をシェアする生活に、彼女はゲッチンゲンで知り合いも増えていく。パーティーに誘われたり、街の散策に出掛けたりする中、彼女は周りの人に話しを聞いて貰うのだが、同情や共感は得るが気持ちの整理は未だ着かない。そんな中、ドイツ語の先生であるウルスラから食事会の時に、「野宮はいた所に還るべきだ」と聖人が語り掛けるような言葉を聞いて、彼女は少しずつ立ち直っていく。
野宮の不幸な死のことを悲しみつつも、東日本大震災でたくさんの人が亡くなり、原発事故で避難生活をしている大勢の人や津波で家を流されて未だに故郷に戻れない大勢の人がいる。その事実を眼前の課題としなければと改めて認識する。
物語全体は私には大変難しい。なかなか理解できない物語だった。物語で沢田の言葉が面白い。津波で流された家の跡に大きな船が横たわり、自動車の上に自動車が乗る風景、さらに砂浜にあるベッドの風景を見て、「シュールな絵画が観られなくなった」と嘆くのだが、不謹慎とは思うがつい笑ってしまった。
また、アガータのペットのトリュフ犬がホタテ貝の貝殻を掘り出した時、ホタテを好物とする野宮は「これがあれば巡礼に出掛けられる」という話しも面白いと思った。