片岡泉。天真爛漫で裏表がない。自己評価は高くないけれど、他人から押しつけられるのもイヤ。そんなマイペースな泉と、泉との交流で不思議と元気をもらった人たちの成長を描くヒューマンドラマ。
『みつばの郵便屋さん』シリーズスピンオフ作品。
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東京都あきる野市。東秋留駅近くの住宅街にアカシヤはある。樹木のアカシヤではなくて「明石家」。うちの名字が明石なのでアカシヤという店名になった。
この田舎町のアカシヤという小さなコンビニが私のアルバイト先だ。つまり私は実家の商売を手伝っていることになる。
時給は 700円。安いけど仕方ない。駅の向こう側にスーパーがあるため、お客さんがあまり来ないからだ。
午後4時過ぎ。やっとお客さんが来た。
ドアを開けて入ってきたのは顔見知りの女の子。片岡泉ちゃん。小学3年生。おばあちゃんと2人で暮らしている。
泉ちゃんは、いつものようにパンの棚に行く。でも今日は並んだパンを見てからレジにいる私のところに来て言った。
「弓乃ちゃん。モサッとしたパン、ある?」
( 第1話「一九九五年 明石弓乃 二十二歳」) ※全9話。
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『みつばの郵便屋さん』シリーズを読んだことがないのですが、表紙のイラストが気に入って、このスピンオフ作品を読むことにしました。
中心となるのは9歳だった片岡泉が結婚するまでの20年間で、泉と関わった人たちの目を通して泉の為人も描かれます。
また、エピローグとして結婚後出産までの4年間についてが、泉自身の述懐で語られます。
この泉という女性。なかなか興味深い。多くのヒューマンドラマの女性主人公が持つヒロイン的なところは少しもない。大雑把だし健気とも言い難い。なのに不思議な魅力があります。
なんと言っても天真爛漫とも言える明るさが大きい。そしてポジティブで切り替えが早く、絶望しない強さもある。
だから、ついうじうじ考えてしまうところのある人 ( こちらの方が主人公っぽい ) は泉に惹かれ、関わることで気持ちが前向きになっていくのです。
泉という人物を語るのに欠かせない2つのエピソードがあります。1つは第4話「二〇一一年 杉野大成 三十四歳」、もう1つは第5話「二〇一二年 井田歌男 二十六歳」で、泉の持つ美点と欠点が象徴的に描かれています。
特に欠点を爆発させる第5話では、その矢面に立つのが平本秋宏さん。みつばの郵便屋さんです。余計に緊張感が増しました。
泉の述懐で語られるエピローグ部分 ( にしては4話もあるのですが …… ) 。それまでのエピソードの後日談が描かれていて、泉が、自分の欠点をきちんと弁えており、失敗したことにはそれなりの手当てをしていることがわかります。
人間には長所も短所もあり、人生には上手くいくときも停滞するときもある。大切なのは、その後をどう生きていくかなのですね。
小野寺さんらしい味わいのある、ほのぼのしたいい終幕でした。