本や帯の装丁が好みで、あらすじが面白そうだったため購入
全体的な感想としては非常に読みやすい文章で面白い内容ではあった
作者の出身地ということもあってか、舞台となった栃木県の風景描写がとても丁寧で、没入感と臨場感を味わえた
怪異のモチーフだけでなく、時代背景や人物描写をよりリアルに見せるためのアイテムも丁寧に描写されており、しっかりとした取材や調査をされて書かれたのだなと感じた(商業向けの小説を書く上では当たり前のことだとは思うが)
ただ、個人的には最終的に真相解明の時点では怪異はただの装飾となって、もっと現実味のある科学的な解答が用意されているのかと思っていたため、最後の最後まで怪異要素をしっかり混ぜ込まれたシナリオになっていた事に驚かされた
椰子尾署にかけられた呪いの正体は、私の推測では大地が木札や人体模型などに特殊な成分が検出されにくい、人体に悪影響を及ぼす何らかの漢方などが仕込まれているのかと考えていたら、正真正銘の呪詛であったり、また大地の死因も船井の呪詛であったり、恐らく作中で起こった心霊現象も全て本当に起きた事なのだろうと思わせる書かれ方であったり、その辺りは予想と大きく異なる展開だった
個人的に少々消化不良だと思ってしまったのは、まず真犯人である林原の船井に対する真の感情の描写
「何故だかは分からないけれど恋愛感情とは違う感情で入れ込んでしまった」という大まかな設定は、八木沢にとって彼女を「こちら側では無い存在」として描くのにとてもいい役割をしていたとは思うのだが、林原が語った台詞に何だかえもいわれぬ違和感を感じてしまった
また、林原の異常性を示唆するキーワードとして「人を殺すのは初めてじゃなかった」という発言から考察するに、恐らく両親の事も交通事故に見せかけて殺したのではないかと思われるのだが、彼女がそうやって必要に応じて殺人を繰り返す事が出来る人格である描写に、もう少し深く掘り下げがあれば良かったのではないかと個人的には思ってしまった
それと同様に、船井が大地にかけた呪いに関しての説明があまりなされなかった事も少々残念に思ってしまった
もしかしたら私が深く読み込めていない部分もあるかもしれないので、他の読者の感想や考察にも目を通してみたいとは思っているが、取り敢えず一読して感じた私のマイナスポイントである
しかし、要所に挟まれた船井が蒐集した怪談話や、椰子尾署内で起きた怪異の体験談などは、まるで耳袋のようでとても面白かったし、怪異のメカニズムや伝承の流布に触れるような内容であったのも面白かった
妖怪研究家である作者の怪異愛が伝わる作品であったと思う