明治維新後の驚異的な躍進は、先進国の成功例を積極的に取り入れ、日本人ならではの臨機応変さと起用さで日本仕様にマッチングさせた点にある。現代の日本低迷は、優秀と言われる官僚がちっとも優秀ではなく、さらに縄張り意識と既得権益の死守に全精力を使っている感すら漂う状態。そこには、日本と日本人の未来を展望する理念が存在していないがごとき哀しい状況です。
最近の事例で言えば、コロナ渦での政府の対応方法。マスク購入先や病床数などスマホを駆使して短時間で国民が必要な情報アクセスシステムの構築に成功した台湾という先例があるにもかかわらず、日本は保健所間のファックスでのやりとりを放置するという旧態依然とした唯我独尊さ。さらに、3密を避けるためリモート学習への必然性にもかかわらず、その成功例を積極的に取り入れようとしない教育行政の頑迷固陋さ。なぜ、恥を忍んででも、成功者に教えを乞うことができないのか?それは、官僚たち(利害関係者も)が優秀だという過剰な自己評価と現実との落差を国民に知られまいとする防御反応なのではないかと思ってしまいます。
本書は、オンライン・リモート学習の成功例のノウハウが書かれています。その校長が日本人という点も驚きですが、彼が日本ではなく米国(スタンフォード大学)でしか事業展開できなかったという点にも考えさせられます。
さて、本書を読めば、勉強というのは画一的で受け身ではダメだということがよくわかります。そして、現代に必要とされる能力は、役に立たない細かな知識を詰め込むことではなく、新しいゲーム(仕組み)に適応できる力、さらには、新たなゲームを自身で作り出す「ゲームチェンジの力」だ(P10)というのは慧眼です。
子供を伸ばすのは、成果や知性をほめるのではなく、努力や積極に学ぶ姿勢をほめなければ、持続的なやる気は育たない(P30)という点も大切です。「手取り足取り丁寧に教える」「テストで理解度や能力を測る」などの教育現場で常識とされている見方にも警鐘を鳴らしています。また、無駄な競争を煽らないために、順位付けや偏差値を採用していません。
こうしたスタンフォード大学オンラインハイスクールの特徴を一言でいえば、「少人数制の反転授業」ですが、少人数にすることで生徒の個性を把握し、反転学習(=生徒が予習して授業に臨み、オンラインでは復習を兼ね理解を深め思索するという従来型の授業の逆バージョン)でやる気のある生徒しか残れないという点は注意が必要です。(つまり、勉強をやる気のない子はオンラインでも救い切れないことになります)
もう1点、科学、テクノロジー、工学、数学の各理系分野を総合的に学習できるプログラムがある点です。特定分野の知識だけでは解決できない問題を処理できる優位性があります。(哲学カリキュラムも必須)
こうしたオンライン学校だけの選択肢ではなく、従来の対面型の授業も併用しながら運用していくことで、教育の多様性が生まれ、公立校にはびこる板書先生(同じ板書を繰り返すだけ)を駆逐し、やる気と創意工夫(ゲーム性やエンタメ性)のある先生を活かすことができる環境となります。
教育はその国の未来を担う人材育成の場なのに、受け身主体の授業風景を良しとする日教組や文部科学省の役人たちの優先順位は、永遠に自分たちの既得権益しかなさそうです。(ため息)
作品紹介・あらすじ:
全米屈指の学校を率いるのは、「日本人」校長だった!
米シリコンバレーの中枢にある、スタンフォード大学を知らない人はいない。
しかし、そのスタンフォード100%傘下のオンライン学校が、いま世界で注目されていることを知る人は少ない。それがスタンフォード・オンライン・ハイスクールだ。設立わずか15年ながら、世界33カ国に散らばる生徒たちをスタンフォード大、ハーバード大、MITなど名だたるトップ大学に輩出。オンライン高校であるにもかかわらず、ニューズウィークによる「STEM教育に力を入れる高校ランキング2020」で全米ベスト3、全米高校ランキング「Niche」の進学校で全米ナンバー1に輝き、いまや全米の親たちが最も子どもを入れたい学校になっている。
このオンライン学校を率いているのが、何と「日本人」の星友啓・校長だ。
同氏は、親や教師が当たり前のようにやっていることが逆に子どもの主体性を奪っているとして、以下の8つの誤った常識に警鐘を鳴らしている。
・【誤った常識①】:正しくできたことを褒める。
・【誤った常識②】:手取り足取り丁寧に教える。
・【誤った常識③】:評判の教材や方法にこだわる。
・【誤った常識④】:得意な学習スタイルでとことん学ばせる。
・【誤った常識⑤】:ストレスを避ける。
・【誤った常識⑥】:テストで子どもの能力を知る。
・【誤った常識⑦】:反復練習で早くできるようにする。
・【誤った常識⑧】:勉強は静かに1人でさせる。
同校ではこれら誤った常識による教育を排除することで、才能あふれる子どもたちを次々と世に送り出しているのだ。
既存の枠にとらわれない独自かつ斬新な教育を次々に実施する異色の教育家はこれらの教育のあるべき姿をどう考えるのか。本書で初めて語る。