ソン・ウォンピョンのレビュー一覧
-
Posted by ブクログ
最後の「作者の言葉」まで読んで、この小説が実は、最初「普通の人」というタイトルだったことを知った。この作品のなかで「普通の人」とは、どういう人たちのことを言うのだろう。
さぁっと読んだだけでは、主人公とその仲間たちは「普通の人」たち以下、或いは未満のように思えた。
半地下、或いは子供と暮らすには絶対適さないような場所でしか住めない人たち。他人にいいように使われたり、調子のいい奴に騙されたり、盗まれたり、それでも黙って何事も無かったように働き、でも陰では泣き、愚痴や陰口を言い、そして自分自身を諦め否定しながら生きていく人たち。
この小説の中で「普通の人」とは、例えばユ・チーム長、キム部長のような人たちかも知れない。下の者には傍若無人、マナー無視のキム部長とか、また雑用、面倒臭い事は全て非正規職インターンに押し付けるユ・チーム長みたいな。でも明らかに分かることは、彼等は少なくとも主人公たちよりは成功しているように見える。少なくとも彼等は正社員、主人公は非正規職インターンで、主人公の仲間たちも同じようなものだ。何より彼等も、そして主人公たちもそう思っているから。
本当はキム部長やユ・チーム長も、彼等なりに非常に重くかつ逃げられない悩みや辛さがあり、そしてやはり世間のしがらみに囚われて生きているのだが。
「虐げられた」人たちであり、そして「騙され、奪われた」人たちである主人公とその仲間たちは、このまま自己を否定しながら生きていくのか?と言うところで同僚のイ・ギュオクの提案にのる。つまり「成功した人」たち、「普通の人」以上の人たちに他愛もないイタズラを仕掛けるというもの。犯罪と言えば犯罪かも知れないが、大物なら、大物でなくとも普通の人なら笑って済ませる程度のイタズラ。社会も人も、何も変わらない、ただ主人公たちの胸がちょっとだけスカッとするそれだけのこと。事実、イタズラされた「普通の人」以上の人たちにとっては笑い話以外の何物でもない。そのイタズラで何か影響があった人はキム部長のような小物くらいなもの。
でも、このイタズラが無かったら主人公たちの人生は「騙され、奪われた」だけの人生で終わったかも知れない。良いか悪いかはいざ知らず、このイタズラが主人公たちの人生を変えたのであれば、少なくとも主人公たちは「特別な人たちではないかもしれないが、でも『普通の人』で収まる人たちでもない」ということだと思う。
自分勝手の感想だが、この小説のタイトルやっぱり「三十の反撃」で良かった思う。少々、他愛のない反撃だが。 -
Posted by ブクログ
冴えない中年男性のキム・ソンゴンは何もかも上手くいかず命を絶とうとするがそれすらも失敗。そんな彼がある日、過去の自分の写真を見て小さなことから自分を変えていこうと奮闘が始まる。
藁プロジェクトという発想は面白かった。
タイトルの意味は読んでいると分かって気持ちが高まるが、盛り上がりがったところでまた落としてくるところや登場人物の人物像にリアリティがある。
帯文に書いてある心温まる物語ではないと思ったが、失敗と成功、喜びと挫折を繰り返すのが人生で一筋縄ではいかないけど僅かな希望も感じ、著者は世知辛さをユーモアを交えて書くのが上手いから軽やかに楽しく読めた。 -
Posted by ブクログ
人間心理のおかしみを悲喜さまざま、細やかに、ジャンルを問わずに描き上げた短編集でした。人の心に踏み込む心理表現の巧みさがほかの作品同様卓越していて、文章を追うだけでしみじみと感じ入るものがありました。
表題作では他人がエゴを滲ませながら厳しい日々をやり過ごさなければならない現実をビターに描き、「四月の雪」ではつかの間触れ合った外国人との交流により仄かな未来がそっと浮かび上がるさまを、「箱の中の男」では「アーモンド」作中の出来事と被らせながら辛い日々を送る青年のささやかな救いを与える。
どれもが単純ではない人の心情を繊細に描き上げ、また、明快ではないけれどそっと未来を指差すような温かさを滲ませていて、そのやさしい著者の眼差しがとても素敵だと思いました。
「アリアドネの楽園」は、超高齢社会を迎えた日本においても充分にリアルに差し迫った。SFの体裁ながらも近い現実を見透かしたような作品に感じました。
どれもが少し毛色が違う趣を持ちながら、どの人物の心情にも寄りそえる。そんな、派手でもインパクトがあるわけでもないけれど、身近に携えたくなる作品集でした。とても良かったです。 -
Posted by ブクログ
8編の短編集。
どれも人間心理を掴んでいるなあと…。
zip〜家庭を築いた女の後悔ばかりのようで、身動きすることなく流されていく生活は膿んでしまっている。「家」から抜け出そうとしながらずっと出ることができない。これからも…。
「このお話の終着点が、おまえだからだよ。」と孫娘に言ったのがこわい。
アリアドネの庭園〜予測したくない未来。
たぶんこれに近い未来かも…と思うとモヤモヤ。
他人の家〜ルームシェアで暮らす部屋の不自由なところと値段に折り合うところ。だがそれも期限がある。どうする、どうなる…。
箱の中の男〜アーモンドの番外編。途轍もない経験をすると他人の存在を行動を過剰に意識してしまうのに気づく。
上記4作が特に心に残った。
深くて濃い、短編なのにずっしりと感じた。
-
Posted by ブクログ
ネタバレ「アーモンド」、「三十の反撃」のソン・ウォンピョンさんの恋愛小説。四人の男女の心を繊細に描写している。イェジン、父親が子牛を売ったお金で買ってくれた大きなプレゼントボックスに入っていたピラミッドの形の三角プリズム、それを一番気に入っていた。光を虹にかえる魔法のおもちゃ。でも棚の上に置き忘れたそれを見つけて取るときに取り落とし、足の甲に落ちた時の痛さと脚についたひっかき傷。美しすぎるものはいつか傷を残すのか…。ランチタイムの休憩に外でコーヒーを飲んでいてよく見かける人がドウォンだった。ただそれだけだったのだが…。ドウォンの携帯にスミンのメッセージがもう九通目。返信がほしいというメッセージだ。ドウォンは映画の音響に関わる仕事をしている。毎日地下のスタジオに籠りきり。ようやく外に出て、いつもの場所でコーヒーを飲むことにしている。その時に出会ったのがイェジンだった。同じビルの玩具メーカーで働いているという…。ジェインのベーカリーで働いているホゲは、オフ会でイェジンと知り合った。偶然四人が出会った時、ドウォンとジェィンは十年ぶりに再会したのだった。四人の出会いでお互いの人間関係が変っていく。相手を思いながら、それでも知らずに相手を傷つけていく。それぞれの心が繊細に描かれていて、何故だか読む自分の心もちょっと痛い。