小野正嗣のレビュー一覧

  • 九年前の祈り

    Posted by ブクログ

    小野正嗣さんは、『水に埋もれる墓』『にぎやかな湾に背負われた船』と読んで、興味のある作家となった。どの作品も郷里である大分県のリアス式海岸にある小さな集落に根ざした物語だ。一方で小野さん自身はフランスに長く住んでいてインテリのイメージがある。そのギャップに興味がわく。いまの時代はグローバル化とローカルの再発見が同時進行していると思うのだが、小野さんの小説はローカルに徹底し、血の繋がりならぬ地の繋がりを見据えた先に、人間の悲しさや愛しさが描かれている。特にこの小説は、他界したお兄さんに捧げられている。付録に収録された芥川賞のスピーチが心を打った。

    0
    2018年07月28日
  • ファミリー・ライフ

    Posted by ブクログ

    同じようなありふれた不幸を経験したものとしては、心から共感できるものだった。

    子どもに突然訪れた不幸は、もちろん人生を変えるが、その変わり方は親ときょうだいでは違う。親はとことん悲しみ、必死に状況を良くしようと努力する。生きることの中心が不幸な子どものことになる。が、きょうだいはどこか客観的に見てしまう。学校に行ってその不幸を一瞬忘れ、楽しく感じたりもする。親がすがるまじない師を滑稽だと思ってしまう。しかし、いつも100%楽しめるということはないし、自分が普通に生きることについての違和感を抱えながら生きることになる。
    そのあたりが、本当にリアルに描かれている。
     物語にカタルシスを求める人に

    0
    2018年06月30日
  • ファミリー・ライフ

    Posted by ブクログ

    たかが3分。されど3分。その3分で少年の生活は
    一変してしまう。

    1970年代に家族でインドからアメリカにわたり
    生活が軌道に乗り兄が有名な高校に合格した後に
    兄は悲劇に見舞われ、一家はその兄の介護に
    奔走することになる。

    異国の地で差別を受けながらきょうだい児として
    育っていく著者、崩壊するギリギリのところで
    踏みとどまる家族、ガールフレンドとのやり取り。
    なぜか一家を訪れるたくさんの人々
    著者を成長させてくれるヘミングウェイの書物。
    淡々と進んでしまう人生。

    私も淡々とした中で強くありたいと思いました。

    0
    2018年05月29日
  • ファミリー・ライフ

    Posted by ブクログ

    胸が苦しくなった。著者の実体験に基くとわかっているからなおさら。後書きを読んで、著者も翻訳者も私と同い年であることを知り、さらに苦しくなった。ここに描かれていることが、私が生きてきたのと同じ時に起こった真実の出来事であるということ。何の前触れもなく、その日、その時が来てしまい、そこから一家の人生が暗転してしまったこと。毎朝、新たな一日を迎えても、絶望的な状況が変わらないこと。それを負っているのは、特別ではない一家だということ。この作品を書き起こすこと自体にも、どれほどの心の痛みが伴ったのだろうと思う。今年一番心に響く本に出会ってしまったかもしれない。

    0
    2018年05月05日
  • 獅子渡り鼻

    Posted by ブクログ

    映画「誰も知らない」を彷彿とさせる都会の子捨ての話を背景に、だが作家は人と社会の温かさを信じている人だ。
    何があったか、詳細はわからぬまま、厳しい経験を経た10歳の尊はいま、消息の知れない母の故郷、南の小さな漁村にいる。
    いつまでも続くかのような夏休み、掃き清められてしんと静かな神社、老人が毎日参る墓、縁側で食べるスイカ、遠慮なく出入りする近所の人たち。
    都会に暮らし外国でも暮らした作者が故郷を思う時の風景はこういうものなのだろうか。
    そして、母がつぶやいていた「こんなところ、早く出て行きたかった」という言葉もまた作者の言葉か。
    幻を見る尊の目から彼らが消える日はくるのか。
    なまなましい暗さを

    0
    2017年12月28日
  • 九年前の祈り

    Posted by ブクログ

    まさかの地元が同じで驚きました。内容的にも苦しいのに、自分の地元の方言で描かれているので余計苦しかったです。

    0
    2025年02月05日
  • 森のはずれで

    Posted by ブクログ

    ネタバレ

    言い回しが独特で難しい。
    ただ、母親をいつまでも想う息子、それに応えたいけれどどうもできない父親の葛藤が不思議な現象とともに描かれているのは感じ取れた。まさか母子が失われてしまうとは。
    近畿などの言葉が出てきているから日本人親子の話だが、 舞台は海外になるのかな。

    0
    2024年11月10日
  • 歓待する文学

    Posted by ブクログ

    小野先生の本初めて読んだ!
    一般の読者向けで読みやすかったのかな?
    文学が歓待してくれる感覚ってのは確かにある。
    ハンガンいい加減読まなくては。

    0
    2024年09月10日
  • アイデンティティが人を殺す

    Posted by ブクログ

    人間のアイデンティティとは、自分の奥底に眠るたった一つの本質的な帰属などではなく、生まれ育った環境から後天的に得られる要素も含めた、複合的な帰属から成る。しかし人は数多くの帰属の内どれか一つが脅威にさらされるだけで自分のアイデンティティが侵されたと感じ、その帰属を共有する者たちでコミュニティを作り、攻撃者に対する反撃を開始する。
    グローバル化、すなわち西洋化は、非西洋の国々にとっては独自の文化が西洋文化に置き換わる運動であった。自らの文化という帰属を侵された者達の拒絶反応が、近年のナショナリズムや人種差別に繋がっているのかもしれない。
    多様性を認めようという本書の主張は、近年ではダイバーシティ

    0
    2023年10月08日
  • 九年前の祈り

    Posted by ブクログ

    ネタバレ

    読みづらかった~。文章にまとまりがなくて読みづらい。キャラクターのバックグラウンドや綿密に描くところは高村薫っぽく、しかし高村女史ほどの文才があるわけじゃないからただただ「読まされている」感じがする。ストーリーにテーマがあるのも、そこを支柱にして進めているのは(真面目に話を練っているんだろうなあと)伝わるんだけど、肝心の言葉が散らかっていて全然入りこめなかった。

    0
    2022年09月10日
  • アイデンティティが人を殺す

    Posted by ブクログ

    このグローバル社会を考えると、人を一つの帰属、一つの象徴とする言葉でアイデンティティを考えることはもうできなくなってきていると思う。日本に住んでいると、様々な異なるバックグラウンドや、混ざり合ったバックグラウンドを持っている人に出くわすことは少ないが、やはり海外に行ってみると、国の中に様々な、いくつかのアイデンティティを持つ人がたくさんいる。異文化を勉強していく中で、日本人としているために、いわゆる日本らしい、日本的考え方、性格やキャラクターの中でおさまろうとしている自分もいた。しかし、世界の人々を見渡してみると、混在するアイデンティティを持つ人がたくさんいて、日本人という単一のアイデンティテ

    0
    2022年08月17日
  • 九年前の祈り

    Posted by ブクログ

    芥川賞受賞作『九年前の祈り』を含む4編を収録した1冊。
    収録作品はどれも大分を舞台にしており、登場人物がほんの僅かずつ繋がっていたりします。田舎の、閉鎖的な息苦しさが特徴的です。
    どこがどう、とは具体的に言えないのですが、何となく言葉選びが印象的でした。

    きっと、人によっては読んでいてすごく息苦しさを覚えるのではないかな、と思います。

    0
    2022年06月18日
  • 九年前の祈り

    Posted by ブクログ

    基本的に、芥川賞受賞というだけで読むことはもうしないんで、本作も、どこか別のところで取り上げられているのを見かけたのかも。で、結構久しぶりに同賞受賞作を読んだ気がするけど、やっぱり合わないす。内容はいかにも取りそう、って感じがするけど、正直、どこが面白いのか理解できず。どれだけ文学的であろうが、物語の内容自体が面白くない以上、魅力を感じろという方が難しい。短編集なんだけど、上記の訳で、表題作以外まではちょっと読む気が起こらず。なんで積読。でもきっと、この先改めて手に取ることもあるまい。

    0
    2021年10月12日
  • アイデンティティが人を殺す

    Posted by ブクログ

    ネタバレ

    帰属は一つではない。グローバル化で進む共通化と個別化。民主主義の名の下に抑圧される少数者。宗教の話はピンと来づらかったが、最終章の言語のところはわかりやすかった。

    0
    2021年05月26日
  • 九年前の祈り

    Posted by ブクログ

    第152回芥川賞受賞作。
    著者が生まれ育った大分県の過疎地や周囲の人々を底流に、着想されたものと推察する。
    過疎地に生まれた主人公(さなえ)が、東京に出て異性との不幸な付き合いを重ねた先に、カナダ人と巡り合い、特異な感受性をもつ子供(希敏:けびん)を授かるが、突然失踪されて破局、シングルマザーとなり故郷に舞い戻ってくる。
    そこで、昔なじみのおばさんの息子の入院を耳にする。9年前にカナダ人の案内で、おばさん達とカナダへ旅行したときの記憶が蘇り、現在の希敏を抱えた状況と、おばさんの不憫な息子に対する想いが交錯しながら進行していくが、互いの終着点がフェードアウトしていく。読者に残る余韻で評価が分かれ

    1
    2021年04月01日
  • 踏み跡にたたずんで

    Posted by ブクログ

    水面に一滴の水を落として生じる水紋のような物語。

    ある場所、土地と人、著者の一時の交わりを写しとったような、その一時を秘密裏に見せてもらったような気持ちになる。

    何か明確な答えがあって終わるのではなく、何か吸い込まれるような形で、一つの話が閉じる。

    スッキリはしない。
    不思議な静けさの中に落ちていく感覚で、一つの物語を読み終える。

    0
    2020年09月12日
  • マイクロバス

    Posted by ブクログ

    マイクロバスの時間軸がぐにゃぐにゃするのに振り回され…腕時計って結局なんだったの?何かのオマージュなのかな。自分の知識と想像力の足らなさで読みこなせなかった。前半のヘルパーの話はすごくいい話でした。映像化したら綺麗な画になるんじゃないかと想像しながら後味すっきりした感じで読み終えました。

    あと、もうひとつ。マイクロバスを読み終わったあとに、表紙を逆さまにして見てみてください。

    0
    2020年09月05日
  • 森のはずれで

    Posted by ブクログ

    時々わかりにくい表現はあったものの、妻と第二子がいなくなってしまうところは意外性があった
    しかし小野さんの作品は毎回おっぱいへのこだわりがすごいのと、糞尿撒き散らす人物が出てくるのとで…最初病んでるのかと思った

    0
    2020年08月30日
  • 水死人の帰還

    Posted by ブクログ

    じいじい、ばあばあばかりが残った、浦を抱く小さな漁村。いたずらものの猿たちや、えびすさんまで登場し、まるで日本昔話の世界。なのにそこは、むせかえるほどに濃厚な血とセックスと汚物の匂いに包まれていて読む者をたじろがせる。
    しかし考えてみれば、かちかち山にせよ猿蟹合戦にせよ、おとぎ話というものは最初から生臭いものであった。それを、せっせと消毒液を吹きかけて無味無臭のものにしてきたのは近代社会の方であったのだ。
    無害な年寄り、のどかな田舎町の表皮の下で、暗く淀んだ隠微な衝動は消えずうごめいているのだが、村の伝説に伝わる娘殺しと、出征したオジイが戦地で犯したレイプと殺害が絡み合い混じり合うように、この

    0
    2020年06月21日
  • 九年前の祈り

    Posted by ブクログ

    大分県、佐伯市を中心にして主人公の心の内の葛藤を表した作品集。それぞれの短編は関係しているようだが、名前が違ったりしていて独立した短編と考えると霊的な次元の違いがあるのか?筆者の兄が直前に亡くなったと言うことなので、それが影響した作品なんだろう。

    0
    2020年06月05日