小野正嗣のレビュー一覧
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ネタバレ父が外傷により一夜にして脳障害を負った身として、「他人事ではない」という心持ちで手に取った本。読んでみると純粋に主人公の体験を追っていた。分かりやすく公正な文章で、瞬間ごとの主人公の心の動きを丁寧に描写している。ドラマに酔うこともないが冷淡でもない、冷静なわけでもない、主観にも客観にも偏らない作者の描写における距離が、この小説に親しみと好感を抱かせた。
私小説、ということで書くのに相当な年月がかかったということだが、この短さにまとめた技術は凄い。
主人公のガールフレンドへの想いが印象的だった。どんなに他を圧するような出来事が起ころうとも、私たちの人生の「他の部分」は引き続きあり続ける。それが大 -
購入済み
世界文学への軽妙な案内
普段読まない世界文学の案内書として購入しました。NHKラジオでの講座を書籍化したものなので、語り口も柔らかく、とても読みやすい一冊です。世界文学と言っても欧米ばかりでなく、アジア系の現代文学も取り上げています。
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読み終えて、「え・・なんで?」って思う。そして何とも表現しがたい何色ともわからない渦がもやもやと広がってくる。そのもやもやの広がりに抵抗したくて、何かを掴みたい思いで後戻りしページをめくる。
外の世界と遮断されてしまったかのような小さな小さな集落で、そこに居るのは村最後の生き残りとも言える校長先生、村でただ一人の子ども かおる、肌の色が違う兄 純、兄妹の父であるトビタカ先生、そしてかおるを教えている杏奈先生。
みんな血が繋がっていないし年代もバラバラで、肌の色さえ違っていたりするのだけれど、それぞれ心に何か暗いものを抱えていて、それ故に善良で優しく明るい。
かおるが連れてきたガイコツジン -
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読書開始日:2021年8月29日
読書終了日:2021年9月1日
所感
内容や構成は、視点が頻繁に変わるためかなり難解ではあったが、
怒哀表現が完璧だと感じた。
自分が感じたことのある心情が、包み隠さず詳細に描かれていた。
本書は題別で話が進行していくと思っていたが、全てがつながっていくという自分好みの構成。
ただやはり純文学ということもあり複雑で、しっかりとした繋がりは見せてくれない。
ただ人間関係なんてそんなもので、実はつながっていても知らない、気づかない、思い出さないなんてざらだ。
リアルに即していると思う。
ここからは個人的な解釈だが、
さなえは、過去のみっちゃん姉に救いを求めた。
さ -
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小野正嗣さんは、『水に埋もれる墓』『にぎやかな湾に背負われた船』と読んで、興味のある作家となった。どの作品も郷里である大分県のリアス式海岸にある小さな集落に根ざした物語だ。一方で小野さん自身はフランスに長く住んでいてインテリのイメージがある。そのギャップに興味がわく。いまの時代はグローバル化とローカルの再発見が同時進行していると思うのだが、小野さんの小説はローカルに徹底し、血の繋がりならぬ地の繋がりを見据えた先に、人間の悲しさや愛しさが描かれている。特にこの小説は、他界したお兄さんに捧げられている。付録に収録された芥川賞のスピーチが心を打った。
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同じようなありふれた不幸を経験したものとしては、心から共感できるものだった。
子どもに突然訪れた不幸は、もちろん人生を変えるが、その変わり方は親ときょうだいでは違う。親はとことん悲しみ、必死に状況を良くしようと努力する。生きることの中心が不幸な子どものことになる。が、きょうだいはどこか客観的に見てしまう。学校に行ってその不幸を一瞬忘れ、楽しく感じたりもする。親がすがるまじない師を滑稽だと思ってしまう。しかし、いつも100%楽しめるということはないし、自分が普通に生きることについての違和感を抱えながら生きることになる。
そのあたりが、本当にリアルに描かれている。
物語にカタルシスを求める人に -
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胸が苦しくなった。著者の実体験に基くとわかっているからなおさら。後書きを読んで、著者も翻訳者も私と同い年であることを知り、さらに苦しくなった。ここに描かれていることが、私が生きてきたのと同じ時に起こった真実の出来事であるということ。何の前触れもなく、その日、その時が来てしまい、そこから一家の人生が暗転してしまったこと。毎朝、新たな一日を迎えても、絶望的な状況が変わらないこと。それを負っているのは、特別ではない一家だということ。この作品を書き起こすこと自体にも、どれほどの心の痛みが伴ったのだろうと思う。今年一番心に響く本に出会ってしまったかもしれない。
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映画「誰も知らない」を彷彿とさせる都会の子捨ての話を背景に、だが作家は人と社会の温かさを信じている人だ。
何があったか、詳細はわからぬまま、厳しい経験を経た10歳の尊はいま、消息の知れない母の故郷、南の小さな漁村にいる。
いつまでも続くかのような夏休み、掃き清められてしんと静かな神社、老人が毎日参る墓、縁側で食べるスイカ、遠慮なく出入りする近所の人たち。
都会に暮らし外国でも暮らした作者が故郷を思う時の風景はこういうものなのだろうか。
そして、母がつぶやいていた「こんなところ、早く出て行きたかった」という言葉もまた作者の言葉か。
幻を見る尊の目から彼らが消える日はくるのか。
なまなましい暗さを