井手英策のレビュー一覧
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井手先生の著作を何冊か読んでみたが、一般向けにはちょっと読みづらいと感じた。そもそも日本社会のネガティブな現状を直視した分析であるため、読んで楽しくなる本ではない。
その中では、本書は対談書であるせいか読みやすく、主張する内容が理解しやすい。日本社会の現状がリアルに実感できる本だと思った。
前原誠司氏は「不運な政治家」と思っていたが、本書を読みその感をさらに深めた。本書で語る前原誠司は光ってる政治家である。
そもそも民主党政権時代に世界経済が不振を極め、安倍政権になってから世界経済が回復するとは「運」としか言いようがない。
ともあれ、本書は井手英策氏の思想を理解するのに良い本であると思った。 -
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面白い。本書は消費税を大幅に上げることにより再分配を果たし、日本社会の破綻しかけた社会保障を再構築するそんな本である。感じる事が多すぎてまだ整理できていないがレビューする。また読み返したい。
ポイントは3点。
1、消費税の増税は公平な徴税感がある。
2、弱者ではなくすべての人へのサービスの提供により、すべての階層の人に受けいられる。
3、資本主義を突き詰めたために、社会は人間らしさを失ってしまっている。そんな社会を見つめ直すのは今しかない。
筆者の主義主張は相容れない部分はいくつかある。さらに本書での対談形式は正直お人形遊び感が非常に強い。しかしそれらを差し引いたとしても本書は非常に優れた良書である。一般的に増税や社会保障と言うと非常につまらないテーマではあるが、本書では非常にわかりやすくかつドラマティックに表現している。
良いと思った筆者の発言。
「エリートになるための競争ならいいです。でも普通に生きるための競争強いられる社会。その競争から降りたくても降りられない人たちがいる。」
感じた疑問
「ヨーロッパの国々では付加価値税率が高く、社会保障が強い。との論調で語られているが、20年1月現在のブレグジットに代表されるようなヨーロッパの混迷はどのように説明すれば良いのか。」 -
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本書ははどん詰まりに落ち込んでいる日本の政治と経済への処方箋となるのではないかとの感想を抱いた。
本書の「勤労国家」という概念は実に秀逸な認識である。そう捉えるとここ数十年の日本社会の変化の多くの不可解な分析データの理由が納得できる。
「消費税を上げて等しく配ると格差は縮小する」。少し考えると当然のことだが、やはり普通は富裕層にも配るモヤモヤ感の方に意識は向かってしまう。社会の分断線をつくらせないとの視点は目からウロコだった。
本書では著者の少年時代の家庭事情や貧困にも言及しているが、それを原点とした論理には説得力と共に何としても実現したいとの政治性をも感じる。
小生は政治的にはリベラルを自称しているが、現在の安倍政権の、言葉は「右」だが実施する政策は「左」の現状に「持続可能性への不満を語る」以外のアンチを打ち出せずにフラストレーションを高めていた。本書を読んで「次の社会への希望」が見えてきた思いをもつ。共感とともに本書を高く評価したい。 -
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格差社会の現代日本において、多様性と包摂が求められている。「一人ひとりのおかれた状況を理解し、家族や地域も含めた関係者たちの作った環境を受け止め、変えていく、自らの意思を十分に表現できない人たちの暮らし、そして権利を徹底して保証する、そんな仕組みづくりがいま求められている」。その中で大きな役割を果たすのがソーシャルワーカーである。本書はソーシャルワーカーとは何か、日本の資格制度で歪んできたソーシャルワーカーの理論や教育、特に「社会変革」の観点が欠如してしまったことが大きな問題あることを指摘する。社会福祉士や精神保健福祉士と国家資格はできたが、その事によって本来のソーシャルワーカーの働きが見失われている現在、あらためて本来求められる役割を取り戻すには、理解・包摂などにもとづく関係性をとり、連帯して変えていくことが必要であることを一貫して述べられている。様々な現場でソーシャルワークを行っている人達をつないだのが経済学者の井手英策氏というのも興味深かった。
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これまでの日本社会モデルは、勤労と倹約による自己責任で将来不安にそなえる社会を維持することを目標にしてきた.これからは税をつうじて「社会の蓄え」をつくり たがいに命やくらしのニーズをみたしあっていくのがベストチョイスだ.これが本書の要点だと感じた.それぞれに税金について次のような指標も参考になる.消費税1%=1.1兆円、法人税1%=5000億円、相続税5%=5~6000億円.ベーシック・サービスによる再配分のモデル図(p87)は分かりやすい.オランダの経済政策科学局(CPB,p166)は導入したい組織だ.政府から独立して経済分析を行う由.
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数多くの社会学や経済学の本を読む中でも、説得力抜群の書である。
実もふたもなくバッサリと切るような本書の言説は快い。現在の日本の姿を否応なくクッキリと見せつけてくれる書と高く評価したい。
「自分は中の下と信じたい人」というカテゴリー認定は実にリアルである。なるほどそう分析すると格差拡大の中でも安倍政権の支持率が下がらない理由が理解できる。
初めて説得力のある日本の処方箋を見たようにも思えたが、果たして実現性はどうだろうか。
終盤のシナリオは詰めが甘い気がするが、大きな方向性には賛同できる。「戦後の勤労国家は行き詰まった」との認識は誰も否定できないものと思われるからだ。 -
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もしかしたらこれからの日本を変える本なのかもしれない?すくなくとも著者は本気で日本を新自由主義の国から脱却させたいと思って書いていると思いました。熱意と気迫が書名がタイトルである最終章で溢れかえります。今まで数字の問題としてしか見えていなかった財政というテーマが人間という存在の哲学として語られる体験にショックを受けました。もちろんそこに至るための日本の財政の歴史の物語、私たちはどのように新自由主義に飲み込まれたのか?なぜ私たちの賃金は下落するのか?グローバリゼーションはどのように世界経済を揺るがしたのか?という第一章、第二章、第三章の流れも論理的でそういうことだったのか、と引き込まれます。この本の出版はちょうど2年前ですがその後起こったBrexitやトランプ大統領のようなバラバラになっていく世界が現出している現実を予言していると思いました。再分配と互酬の新しい同盟がその現実を前にした時に単なる理念ではなくシステムに落とし込むためには何が必要なのか?今後の著者から目を離せません。
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大佛次郎論壇賞で名前を知り、NHKスペシャルのマネーワールドの格差の回で顔を知り、いよいよ「経済の時代の終焉」を開く前に井手英策という財政学者を軽く知ろうと思って開いた新書です。でも全然軽くなくて財政という学問の重さに衝撃を受けました。ついついお金の問題としてしか受け止めて来なかった負担と受益の関係ですが著者は一貫して人間の尊厳の問題として捉えています。もはや機能不全となった土建国家、日本の税金の再配分の問題を垂直的公平性と水平的公平性、矯正的正義と配分的正義、国と地方自治体、ターゲッティズムとユニバーサリズム、二項対立でわかりやすく説明しながら、どちらにも与せず論点を提示していく語り口に強さと優しさを感じたのですが、それは財政学を「人間の学」と考える著者ならではのものでした。彼のアンセムである「あとがき」が実は本書のクライマックス?ルソーの『社会契約論』の中で説いた「人間とは新しい力を生み出すことのできない存在であり、だからこそ、すでにある力を結びつけ、方向づけることで、生存を妨げる障害に打ち勝つ力の総和を作り出すことが必要」という最終行に心動きました。
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自分は財政学の門外漢であり、基本的なこともわからず、著者が財政学上では主流派の考えなのかわからない。しかし、戦後の歴史の中の社会や生活の分析、政治の分析、小さな政府vs大きな政府の対立などの社会の進むべき方向の示し方など共感することが多く、非常に好感が持てた。
他書のような数学的な手法を使った説明や、著者の一方的な主張だけを繰り返すのではなく、新書の枠の中で、目指す方向性、歴史的な経緯、今後の提言等がうまくまとめられていると思う。財政に興味のある人にとって、1冊目として良いと思う。
内容は全6章。
1章は、財政の基本的な方向性の説明として、受益と痛税感の違い、配分的正義と調整的正義の違い、財政の再分配の意義、ターゲッティズムとユニバーサリズムなど、2つの異なる概念から、財政の基本的な哲学についてまとめている。
2章は、日本の財政を「土建国家の成立と凋落」として、社会保障を掲げた革新政党の対抗として、保守政党は公共事業として農村に仕事を与え、減税をする発想が、結果的に貯蓄等を通して高度経済成長を支えるという好循環になっていたことを示している。そして、その好循環がとぎれたときに、良い政策を出せなかったことをまとめている。
3章は、男性が賃金保障されて外で働き、女性が家庭を支える高度経済時の「家」のモデルが崩壊した時に都市と農村の対立などが起きたことを説明している。税収増が見込めない時代に、企業・家の変化に土建国家のシステムが追いついていないことに問題があったとしている。
4章では、新しいモデルを構築するための準備段階として、アメリやスェーデンのような財政再建に成功した国や苦しんだドイツやフランスを例にしながら、就労させるワークファーストモデルと就労可能性を高めるサービス・インテンシブルモデル等のワークフェアモデルを紹介している。その上で、日本型の総枠締め付けモデル(シーリング)は日本の気質にはあっているが、個々の支出を精査し、受益者負担を政策でワンパッケージ化することが重要であるとしている。
5章では新しいグラウンドデザインとして、世代間、都市と地方などの対立の中での社会保障、地域のための公共事業、住民参加の意思決定などが必要であるとしている。
最終章の6章では、税の公平性として、配分的正義と矯正的正義に当たる、水平的公平性と垂直的公平性の概念を解説し、法人税、富裕層への課税、最後に社会保障についても含めて、財政における正義論を展開している。
財政用語の漢語の専門用語(テクニカル・ターム)が多いが、わかると財政の全体像がわかってよい本だと思う。 -
Posted by ブクログ
確かに財政学の本ではあるが、財政学にありがちな技術的な話から出発していない。人間社会にとって財政はなぜ必要で何を目指すべきか、何に価値を置くべきかの議論を踏まえている。この点に非常に共感できた。標準的な財政学の教科書からすると、一段上がったメタレベルの議論を踏まえている印象を受けた。
そもそも、日本は先進国の中で「小さな政府」であるのにもかかわらず空前の財政赤字に陥っている。公共事業、企業による福利厚生の肩代わり、そして女性のシャドウ・ワークによる福祉代替が小さな政府を支えてきた。しかし土建国家として経済成長を与件としながら、公共投資と減税により利益配分をはかるシステムは限界を迎えている。企業も労働分配率を低下させてきた。
財政再建策には細かい技術的な政策一つ一つよりも、それらをパッケージングして負担と受益を包括的に議論することが必要であると筆者は主張する。
いかに削っていくのかの政治、財政破綻の喧伝に恫喝される政治ではない。人間の尊厳に対する配慮、社会的な信頼をいかに醸成するか、こうした社会の必要から出発して税収を構成しなおす財政、政治こそが目指されるべきと主張している。
この筆者はBSなどでもたまに見かけるが、精力的でわかりやすい語り口に好感が持てる。メッセージは「人間の学」だとする「あとがき」にもその人となりがにじみ出ている。財政の言葉に馴染みのない読者には理解に少し時間がかかる部分もあるかもしれないが、これだけの内容を新書によくぞまとめたものだと感服する。