カート・ヴォネガット・ジュニアのレビュー一覧
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私が必要としていた言葉がたくさん見つかった。
今この瞬間も起きている愚かで不条理で納得のいかないことと、愛おしくて満ち足りた日々の一瞬一瞬を、どう共存させたらよいのか。どう考えれば納得いくのか。それは妥協のようにも聞こえるけれど、戦争体験者がもがき苦しみたどり着いた真理だと思う。決して諦めではなく、この瞬間を生きることに集中するということ。
「美しい瞬間をながめながら、われわれは永遠をついやす」
素晴らしい作品で、私のベスト10に入りました。
もう一度読もう、原書も読もう。
日本に生まれ育った自分としては、ドレスデン爆撃を広島の原爆と比較して語られることにモヤっとするけれど、伊藤典夫さんの後書きでそれはのみこめた。死者数ではなく、そこにあった一人一人の美しい瞬間に目を向けることを忘れないようにしたい。 -
Posted by ブクログ
ネタバレ久しぶりに読むヴォネガット。
だんだんどういう話か分かってきて、後半になるにつれおもしろくなっていく。
ざっくりいうと、「アメリカの超金持ちが、金関係なく他者を愛そうと試みる話」。コメディだけど、すごく悲しみも感じる物語だ。
主人公のエリオット・ローズウォーターは、ローズウォーター一族の資産を管理する財団の代表に就任し、とても使いきれないほどの大金を手にする。彼が何もしなくても金は増えていく。
戦争を経験したエリオットは、ある出来事をきっかけに「キじるし」になってしまったといわれている。敵兵たちが潜んでいる工場を見つけ、先頭を切って手榴弾を投げ込み、煙の中で数人を仕留めた。しかしそれは、ただの民間人だった。消防団が使っている施設だったのだ。
あるときエリオットは、SF作家たちの会合に乱入し、一説宣う。君たちこそが良心だ、こんなくだらないことを考え続けているんだから。
そして、そこにキルゴア・トラウトの姿がないことを残念がる。トラウトは、ヴォネガット作品に頻出する架空のSF作家である。どうもこの作品が初出らしい。本作内でトラウトの小説のタイトルとあらすじが複数紹介されることになるが、そのどれもが、ナンセンスで珍妙なディストピアSFだ。
エリオットは、自分の故郷であるローズウォーター群引越し、自分の事務所を開き、さらに消防団に入る。そこで電話を引き、地域の人々の相談に乗るのだ。もちろん消防団員としての活動もこなす。そして町の役立たずたちのどうしようもない話に耳を傾け、時に金を渡し、彼らの力となる。あるとき、ひとりの男が電話をかけてきた。彼は、金がなく、幸せなことも何もなく、人生に絶望しており、エリオットに罵声を浴びせる。エリオットは「1万ドルくれと言ってみろ」と言い、男がそのようにいうと、「くたばれ。1000ドルくれと言ってみろ」、男がそのようにいうと、「くたばれ、100ドルくれと言ってみろ」。さらに男がそのようにいうと、「やっとまともになってきたな。うちに来ないか?話をしよう」。
エリオットというのは、こういう感じだ。金も使うが、すべてを金で解決しようと思っていない。ただ、話を聞いてやることこそが必要と感じているのだ。
エリオットの父親や、財団の顧問弁護士たちは、エリオットの行いは気が狂った無意味で馬鹿げたものだと断ずる。何も労せず手に入れた使いきれないほどの大金があるなら、それに罪悪感を感じて困っている人のために使うのではなく、ただその幸運を喜ぶべきだと。
ローズウォーター財団のトップに就任するのは、ローズウォーターの血を引くものたちだ。そして、その者が狂人でないことが条件であると、明記されている。
財団の顧問弁護士を務める会社の、ムシャリという若い男が、そこに目をつけた。エリオットが狂人であることを立証し、ローズウォーターの遠縁の子男に相続させ、そのかすりを得ようと。
いずれエリオットが亡くなった際に、次にトップに就任する者に宛てて、エリオットは文章をしたためていた。ムシャリがそれを覗き見るのだが、その文章が泣ける。ローズウォーター一族がどのような歴史を経て大金持ちの一族となり、それを私が受け取り、そしてどれほどの夢想家であるかをユーモアたっぷりに書いているものだ。
その文章は、この一文で締めくくられる。
"親切であれ。芸術と科学は無視してもいい。どちらもだれのためにもならないからだ。それより、貧しい人びとの真剣で親身な友人になりたまえ。"
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テッド・チャンの「あなたの人生の物語」を元にした映画「メッセージ」のヘプタポッドを思い出しながら読みました。
時間を、線形ではなく全体として一望するという感覚は、決定論や運命論的で自由意思の無い冷酷なイメージもありますが、この小説では一枚のペルシア絨毯の模様を、繰り返し愛おしく撫でる様な優しさを感じました。
この小説はSFなのか、妄想か、後遺症か。
過去、現在、未来様々な出来事を断片的につないだ
ユーモラスな雰囲気とコミカルさの奥に、そう書かざるを得なかった悲惨さと、嘘をつかない為に虚実織り交ぜて書かれた真摯さを強く感じました。
戦争や自然災害、病気、別離などの困難に直面した際に感じる「なんで私が」という気持ち
原因を掘り下げても立ち行かないような時、
「So it goes (そういうものだ)」というのもひとつの振る舞い方だと思う。
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『猫のゆりかご』の2年後の作品。どこか風味が似ている。ウィットとユーモアたっぷり、実によくできている。
エリオット・ローズウォーター。大富豪、ヒューマニスト、慈善家、インテリで、歴史好き、そして酒好き。そのハチャメチャな生き方。箴言もたくさんある。一番気に入ったのはこれ。「けちけちするな。親切であれ。芸術と科学は無視してもいい。どちらもだれのためにもならないからだ。」
エリオットの好きなSF作家はキルゴア・トラウト。66歳、現役の倉庫係。87冊のペイパーバックを出しているものの、ほぼ無名。代表作は『2BRO2B』、ツービーアーノーツービー。数ページ出てくるだけなのに、強い印象を残す。 -
Posted by ブクログ
ネタバレ『スローターハウス・ファイブ』、または『子供十字軍』として知られる本作は、村上春樹が多大な影響を受けたことで知られるカート・ヴォネガット・ジュニアの代表作だということで手に取った。
はじめは「スローターハウス」を文字どおり「虐殺の館」と解釈し、大衆性の強いSFホラーを想像していだが、実際には、SF的装置を用いて、諧謔的に、しかし現実的に、戦争における人の死という主題を鮮明に浮かび上がらせていく作品だった。
主人公ビリー・ピルグリムは時系列に反して時空間を行き来するため、場面ごとの関連性は薄いように感じられるが、その脈絡の無さが、本作の主題を考えるうえでの中立的な視点を与えてくれているのだと感じた。
その点で本作は、「多くの人が犠牲になるから戦争はいけない」といった分かりやすい理屈に収斂する反戦作品とは異なり、本質に立ち戻って戦争の実態について深く考えさせられた。
トラルファマドール星人の視点では、戦争は不可避なものであり、当然起こりうる現象として受け入れられている。人の自由意志に希望を見出し、それに抗おうとする試みは放棄されているようにも思える。これが著者自身の立場なのか、それとも反語なのかは、最後まで見極めきれなかった。
絶対的な悪人が存在しないはずの世界で、なお悪が実行されてしまう世界。著者本人が戦場で感じたことを描きたかったのだと思う。
最優先で解決すべき問題であるはずなのに、これほどまでに答えが見えない。ビリー・ピルグリムのように泣きたくなる。間違っていると分かる程度には賢いが、それを正すための賢さまでは与えられなかった。そんな哀れな人間を、さらに憐れんだ。