ファン・ジョンウンのレビュー一覧
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Posted by ブクログ
ネタバレあっさりと日々を暮らしているように見えるウンギョと、不思議な柔らかい雰囲気を纏ったムジェさんの、そのどちらにも孤独の影は確実に忍び寄っていることを、「影法師」の存在で思い知らされた。自身について多くを語らない2人だけれど、それがかえって、それぞれが抱えているものの大きさを表していると思う。
本人さえきっと気づかないうちに絶望の深みに入り込んでしまって、自力では抜け出せなくなっているような状態のときに「影法師」が立ち上がってくるのかなと思った。
冒頭に戻ると、ウンギョを助けにきたムジェさんというたった一人の存在の有り難さが身に沁みる。予備知識なく読み始めても、ページを進めていくうちにだんだんと、 -
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「「有事の際」という言葉は、非常なことが起きるときという意味だが、非常なことはいつも、日常の中に兆しを見せているんだとパク・チョベは言った。突然‥というものは、本当はそんなに突然ではないという話」d
登場人物や物語の流れが独特なリズムがあって油断していると見失いそうになってしまうのだが、註釈や時代背景として語られるキーワードに気が付くとバラバラだった記憶が一気にいろいろ繋がりだし、現実のニュース映像で見た場面が蘇ってくるような感覚がおもしろい。
『韓国文学の中心にあるもの』で紹介されていつか読もうと“積んで”おいた本なのだが、(衆議院選挙は終わったけれど米国の大統領選挙直前の)今、読むべきタ -
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ネタバレ晴眼者という言葉も、墨字という言葉も、私は知らずに今まで生きてこられた。
「墨字の状態が常識だから、それをそうと呼ぶ必要もなく、それがあまりに当然だから、私たちはそうと自称することさえしない。」
人生において、知っている事よりも知らない事が遥かに多く、知らないことを知りたいという意思が無ければ、それは永遠に知らないまま。
「私たちが常識について語るとき、それは何らかの考えを述べるというより、まさにそれを考えていない状態に近い」「常識的にはね、と言う瞬間、それは何てしょっちゅう、なんにも考えていない状態」「それは固まってしまった思い込み」
これまで生きてきた社会と時間に育てられた考え方や物 -
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「野蛮なアリスさん」「誰でもない」が大っ好きで今か今かと邦訳を待ち続けていた本作。読んでみると、これまでの作品と明らかにテイストが違う。テイスト?って言うのは適当じゃないか。例えば短編集の「誰でもない」は物語が太巻きだとすると最も米と具が詰まってておいしいところを、痛烈で切実なセンスで盛り付けてくれていたような作品だった。だが、本作は米粒一つぶ一つぶを確かめ疑いながら海苔に乗せてゆく様子を、読者もともに苦しみながら見守るようなそんな作品だ。ともに苦しむといっても、この作品は韓国の情勢、社会事情、街の様子、生活について実体験している人とそうでない人とでは入り込み方が違う。私にはその辺りに詳しくな
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短編集の題名「誰でもない」という短編は収録されていません。冒頭に「誰でもない、をなんでもない、と読み違える」と書かれています。「誰でもないから、みんなのことでもある」って意味合いでしょうか。
『上京』
語り手の女性は、恋人のオジェとその母といっしょに田舎の唐辛子畑に行った。値上がりする都会の生活費、何でも安いけれど人がいない田舎。韓国経済の悪循環。
オジェはソウル暮らしに疲れ、田舎に移住しようかと考えていたが、田舎でしっかり根を下ろすほどの確固たる決意もない。
『ヤンの未来』
語り手の女性は、就職難から契約職員として何度か転職し、その時はビルの地下の書店で働いていた。ある時店に来た女子高生 -
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喪失や絶望、苦悩を抱えて生きている現代の人々の姿を、寄り添うように、逆に突き放すようにも鋭い視点で描いた短編集。独特だけれど読みやすい展開や表現が癖になりそうな、面白く読めた短編集でした。
「ヤンの未来」での突然目にした不幸を気に病みつづける女性の姿、「上流には猛禽類」の好きだけでは埋められない溝、「誰が」のユーモアとホラーテイストが両面となった畳みかけるような描き方、「誰も行ったことがない」で夫婦の辿る旅路の果てに待つ膨大な絶望の姿。
どれもが幸せな物語とは言い難いけれど、やたらと重く悲劇的に描くのではなく、冷静な俯瞰的な視線と明快なテーマが描かれていて、すらっとした読みやすさがあるのも -
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8つの短篇集。
韓国文学の、社会問題を描くのに深刻に重くなりすぎないタッチが好きなのですが、この作品は重苦しくなりそうなギリギリの読後感。
淡々と語る後の不穏な余韻。
老い、家族、雇用、労働者‥向き合って、描き出しているのがぐっと響きます。
特によかったのが、
『笑う男』。
心にずしんと響きます。
誰にでもある一瞬の選択、
とっさの行動が導く結果。
それが予期せぬ不幸を招いた時、ずっとその後悔を抱えて生きていくことになる怖さ。
その選択を一瞬で正しいものを選んだり、とっさに正しい行動ができるようにするためには、日々正しい行動や思考をを積み重ねて、心に余裕がないとできないような気がします。
す -
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登場人物すべてが、ずっとフルネームで書かれていたので、家族の物語が個人の物語のように思えました。最後の作者の言葉で、家族の物語としては書いていないことがわかり、納得しました。
韓国は夫婦別姓で、子どもは父親の名字を継ぐのがほとんどです。登場人物を把握するのにとまどいましたが、人物図があったので助かりました。私は、一人一人が胸に秘めた思いを吐露する文章を読み進めていくうちに、だんだんこの物語に惹かれていきました。
まだ数多くの韓国の小説を読んでいないし、歴史も詳しくないので、訳者のあとがきで理解が深まりました。現代の韓国人の典型的な人生や朝鮮戦争前後のことを知ることもできました。『年年歳歳』