ファン・ジョンウンのレビュー一覧
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Posted by ブクログ
ハン・ガン作品から韓国文学に入り、こちらの作家も読むべしと聞いて読んだ。
どの短編も、大小様々の不幸に見舞われた人々の懸命に生きた物語が、淡々とした語り口で進んでいく。
ハン・ガン作品と比較することが適切かはわからないが、ハン・ガンさんが逃げようのない大きな不幸を描くのに対して、ファン・ジョンウンさんの不幸は直視を避けたり逃げたりできるくらいの大きさの不幸なだけに登場人物に選択肢があり、動けちゃうだけにその人間のありかたが湿度を持って立ち現れる感じがする。
淡々とした語り口の中に、どうしても胸に刺さる言葉が多く混ざってくる。共感できない主人公もたくさんいたが、どれも嫌いにはなれない痛さがある。
「上流には猛禽類」主人公の若さゆえの残酷さに、彼女の言葉には冷たい手で心が掴まれた気持ちになる。
「誰も行ったことがない」実子の死に疲弊した夫婦がそれぞれの傷つきを持ち出して知らない国を心許なく旅をしている姿には、一触即発の危うさがありずっと目が離せなかった。
物語の見せ方のうまい作家だと感じた。すごい感性。 -
Posted by ブクログ
「無理してがんばったって、人生はある日突然断ち切られて、それでおしまい。」
人生なんて、「どうでもいいことと、どうでもいいもの」
子供の頃から母親に繰り返し聞かされて、どこかでその言葉に縛られているソラとナナ。
姉妹と壁一枚を隔てた半地下で育った幼馴染のナギ。
生きるということは、思い通りにならないクソの繰り返しで、自分も大した人間ではないけれど、3人で肩寄せ合って笑ったり悲しんだりして、毎日は続いていくし、そういうのってそう悪いものでもない。
「続けてみます。」って続けていってみるしかないよね。
ナギが不良の男の子を愛してしまって、絶対に報われないし非常に軽く扱われる中で、ボコボコに殴られて、それを享受(初めて真っ直ぐに自分に向けられた行為だから)して、彼が折ってくれた歯(彼の痕跡)も治さないの、そういう恋愛もあるのかと、驚いた。 -
Posted by ブクログ
ネタバレあっさりと日々を暮らしているように見えるウンギョと、不思議な柔らかい雰囲気を纏ったムジェさんの、そのどちらにも孤独の影は確実に忍び寄っていることを、「影法師」の存在で思い知らされた。自身について多くを語らない2人だけれど、それがかえって、それぞれが抱えているものの大きさを表していると思う。
本人さえきっと気づかないうちに絶望の深みに入り込んでしまって、自力では抜け出せなくなっているような状態のときに「影法師」が立ち上がってくるのかなと思った。
冒頭に戻ると、ウンギョを助けにきたムジェさんというたった一人の存在の有り難さが身に沁みる。予備知識なく読み始めても、ページを進めていくうちにだんだんと、何をテーマとしているのかが分かってくる。彷徨ったときに寄り添ってくれる、手を差し伸べてくれる誰かの存在が大きな救いとなったりすることを、無理なく描いている作品だった。
考えることと伝えていくこと、想像力を働かせて他者と接することが重要であり、それが少しずつでも人々の間に広がっていけば、誰もが生きやすい世の中になるのではないか。
あとがきも素晴らしかった。 -
Posted by ブクログ
「「有事の際」という言葉は、非常なことが起きるときという意味だが、非常なことはいつも、日常の中に兆しを見せているんだとパク・チョベは言った。突然‥というものは、本当はそんなに突然ではないという話」d
登場人物や物語の流れが独特なリズムがあって油断していると見失いそうになってしまうのだが、註釈や時代背景として語られるキーワードに気が付くとバラバラだった記憶が一気にいろいろ繋がりだし、現実のニュース映像で見た場面が蘇ってくるような感覚がおもしろい。
『韓国文学の中心にあるもの』で紹介されていつか読もうと“積んで”おいた本なのだが、(衆議院選挙は終わったけれど米国の大統領選挙直前の)今、読むべきタイミングだった。
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Posted by ブクログ
ネタバレ晴眼者という言葉も、墨字という言葉も、私は知らずに今まで生きてこられた。
「墨字の状態が常識だから、それをそうと呼ぶ必要もなく、それがあまりに当然だから、私たちはそうと自称することさえしない。」
人生において、知っている事よりも知らない事が遥かに多く、知らないことを知りたいという意思が無ければ、それは永遠に知らないまま。
「私たちが常識について語るとき、それは何らかの考えを述べるというより、まさにそれを考えていない状態に近い」「常識的にはね、と言う瞬間、それは何てしょっちゅう、なんにも考えていない状態」「それは固まってしまった思い込み」
これまで生きてきた社会と時間に育てられた考え方や物の見方は全身に染み付いていて、それに逆らわずに流されるほうが楽だけれど、そうすることで誰も苦しめず傷つけず生きているとは言えない。
人は、誰にも踏みつけられたくないくせに、他の誰かが目の前で踏みつけられている時、知らないと傍観したり関係ないと簡単に沈黙し拒絶する。
なぜか。
自分は小さく取るに足らない存在だと考えているから。
でも、
人はひとりではないし、取るに足らない存在でもないと信じている人がもっと増えたらいいなと思います。
自分の意思とは関係なくとも、今までもこれからも一生、社会の中で他者と共に生きるのだから。
隣に立つ人が、雨に濡れないようにと気遣うことは難しいことじゃないから。
「私たちが常識について語るとき、それは何らかの考えを述べるというより、まさにそれを考えていない状態に近い」
同性婚で『社会が変わってしまう』のか。
「ある人の言う常識は、その人が考えている面よりも、考えてない面を表すことの方が多く、その人が考えていないことはその人がどういう人間であるかをかなり赤裸々に示す」
「埃を払ったり、カビの生えたものは拭いたり、壊れたものは捨てたり片付けて、新しい秩序を築いたりは…できないのだろうか、そうそうは。」
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Posted by ブクログ
「野蛮なアリスさん」「誰でもない」が大っ好きで今か今かと邦訳を待ち続けていた本作。読んでみると、これまでの作品と明らかにテイストが違う。テイスト?って言うのは適当じゃないか。例えば短編集の「誰でもない」は物語が太巻きだとすると最も米と具が詰まってておいしいところを、痛烈で切実なセンスで盛り付けてくれていたような作品だった。だが、本作は米粒一つぶ一つぶを確かめ疑いながら海苔に乗せてゆく様子を、読者もともに苦しみながら見守るようなそんな作品だ。ともに苦しむといっても、この作品は韓国の情勢、社会事情、街の様子、生活について実体験している人とそうでない人とでは入り込み方が違う。私にはその辺りに詳しくなくて、実感を伴って読むことが出来なくて残念だった。人としてぎりぎりの状態でいる前半戦はマイケル・kみたい。韓国の小説はテーマがあって、社会的正義とか使命を感じる点がすごく面白いし、そのうえで普遍性を感じさせるからファン・ジョンウンはすごいな。「生きてるものの生活がぐちゃぐちゃなのはどうしようもないことだろ、恥じゃない」っていうキム・グィジャの言葉が好き。ファン・ジョンウンがあとがきで「いまだに読むことと書くことを愛しているし、人が好き」って言ってくれてて、ありがとうって感じでした。めちゃくちゃなレビューですみません。LOVE
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Posted by ブクログ
短編集の題名「誰でもない」という短編は収録されていません。冒頭に「誰でもない、をなんでもない、と読み違える」と書かれています。「誰でもないから、みんなのことでもある」って意味合いでしょうか。
『上京』
語り手の女性は、恋人のオジェとその母といっしょに田舎の唐辛子畑に行った。値上がりする都会の生活費、何でも安いけれど人がいない田舎。韓国経済の悪循環。
オジェはソウル暮らしに疲れ、田舎に移住しようかと考えていたが、田舎でしっかり根を下ろすほどの確固たる決意もない。
『ヤンの未来』
語り手の女性は、就職難から契約職員として何度か転職し、その時はビルの地下の書店で働いていた。ある時店に来た女子高生と男たちが一緒にいる姿に嫌な感じを受けるが、何の対策もしなかった。そのままその女子高生は失踪した。
語り手は「行方不明者最後の目撃者で、何もしなかった人」として人目に晒されるようになり、女子高生の母親は一日中書店の前の階段で娘の写真を広げるホームレスのようになる。
語り手はそこから去った。
この話は誰にもしたことがない。
『上流には猛禽類』
語り手の女性が、ずいぶん前に別れた恋人チェヒとのことを思い出している。
チェヒの両親は北朝鮮からの避難民だったようだ。友人に騙されて巨額の借金を背負い、それでも逃げず、だがずっと貧乏ぐらし。子供たちは早く働き、チェヒの父はがんを患う。
そんな家庭だが、語り手は自分もこの家族の一員になるのだろうと思っていた。貧しく進学もできないが支え合っている家族。
だがチェヒの母は父への不満と怒りをずっと持ち続けていた。それが森林公園でのハイキングで露わになる。あまりにも人目を気にしない恥ずかしいふるまいをする両親、それを虚無の目で見つめるチェヒ。
そんなチェヒとはずっと前に別れた。
『ミョンシル』
老婦人ミョンシルは亡くなった恋人(なのかな?)シリーの遺品を引き継いでいる。出版されたことのない作家のシリーが何万冊もの本を遺したのだ。シリー語ってくれた物語。
ミョンシルは、万年筆を手に取りノートに向かう。
==登場人物の性別が分かりづらかった。シリーは男性ですか?ミョンシルがちょっと痴呆症も感じられるので、彼女が思い出すことがいつのことなのかも曖昧な感じ。原文もそうなのか、私の理解力なのか(-_-;) 終盤の、哀しさを越えて静かな感じが良かったです。
『誰が』
ヒロインは静かな家を欲していてやっと手に入れた。それまでのつらい勤務、うるさい住居環境。無理したけれど、念願の静かなマンションに入ったのだ。
しかしドアを叩き理由のわからないことを喚く隣の中年女性がいる。夜になると上野回では女たちが大音響で大騒ぎする。ヒロインは爆発して天井に物を投げつけ続ける。
ヒロインは「クソ女」と呼ばれる。彼女自身が「迷惑おばさん」扱いになったのだ。
『誰も行ったことがない』
初めてのヨーロッパ旅行に出かけた中年夫婦。
かつて子供がいたが亡くしてしまった。それでも日々を送ってきたのだが、旅行の最中に少しずつズレが生じる。
そして韓国政府が経済主権を喪失したというニュースが入る(1997年通貨危機を迎え、経済主権をIMFに委ねた)。彼らはそのまま旅行を続けるしかない。そして決定的な出来事。
『笑う男』
一人暮らしする男性がいる。なんか不思議な間取りで、リビングと台所と浴室と寝室が一列になっているんだって。寝室が一番奥なの?浴室じゃなくて?寝室から浴室・台所・リビングを通り抜けて玄関に向かう?
実家の母親は病気になり、父親は節約のため家を改築してとても汚く臭く醜くさせた。
男性は「なにもしない・無関心」で生きてきた。倒れた老人を見かけても素通りした。共に乗ったバスの事故でも恋人を抱き寄せなかった。今この住居で自分を単純化させて生きているのは、後悔を抱えているからなのか。
『わらわい』
冒頭の「私は笑いたくないんですが笑っています、しょっちゅう笑います毎日笑います、いまも笑ってるでしょ」という書き出しでなんかすごいの来たなーって感じです。
彼女はデパートの店員で、貧乏な暮らし、おとなしかった幼少期、死んだ母のこと、就職難、客からの強烈なクレームを語っていく。
その合間に「あなたは笑っていますか?どんなふうに笑うか詳しく教えてくださいよ、ねえ」というつぶやきが差し込まれます。
自分を大切なものだと思えないから、人からバカにされるのか。そんな仕打ちをされても困ったことに笑うのが止まらないんです。これが笑いなのでしょうか?こんなのを笑いというからおかしくなるんじゃないでしょうか。
ほら、私笑ってるでしょ。笑ってるのに。笑ってんだよ。
笑ってんだよ。