リチャード・セイラーのレビュー一覧
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Posted by ブクログ
こんなノンフィクション書籍は好きだ。それを思い出させてくれた一冊。
行動経済学の成り立ちが、その学問を成立させた著者の視点から語られる。
これまでの経済学と異なる「行動経済学」という分野がどのように形作られていったのか、そして、みずから立てた仮説がどれほど現実世界を予測するのに有効かを、著者がさまざまな実験的手法で客観的に調べる様が描かれている。
考え方を変えるきっかけとなったのは、これまで経済学的に考えて意思決定とは無関係だと考えられてきたことだった。
たとえば、NBAの試合のチケットを高額で手に入れた人は、たとえ会場が車で1時間半かかり、さらには当日吹雪であっても、損をしないように試合を見に行こうとするかもしれない。
しかし、経済学者の考える消費者モデルは、そのような非合理的選択はしない。チケットを手に入れるために支払った対価は、試合を見に行くか行かないかという選択に影響を及ぼさないはずなのだ。なぜなら、試合を見に行こうが行くまいが、支払ってしまった対価は増えたり減ったりすることはないからである。
経済理論に基づく予測の精度を高めるため、著者は似たような事例を「おかしな行動リスト」としてまとめ、それはやがて「行動経済学」として世に出る理論の最初の礎となったのであった。 -
Posted by ブクログ
ノーベル賞獲得者は考えることがやはりすごいなと思った。経済学をこうもわかりやすく、センスの良いユーモアを交えながら楽しみながら学ぶことができた。訳者もすごいと思った。久しぶりに経済ジャンルの読書で良書に出会えた。
人は自分にとって最適な行動をする、常にそうありたいの願っていながら、数時間後には目の前の誘惑に負けて頭の中の計画者が立てた計画を無視して、目の前の効用を獲得してしまう。なるほど、ほぼ毎日心当たりがあるなと感じた。著者が行動経済学における観察・研究を行っていく時間の流れに伴走するかのごとく読めて、楽しかった。後知恵バイアス、限定合理性、保有効果、ハウスマネー効果、確証バイアスなど、理想とかけはなれた思考や行動を取ることは人間らしさであり、経済理論の中でのみ登場する人間(エコン)とはかけ離れているんだな、ということに納得するし、そういった人間性に基づいて、現代でのネット通販やサブスクへの惹きつけが裏付けされているんだなと思った。
組織の目標を遂行するうえで、富や欲求に対する人間くさい行動を前提にしてマネジメントすること、特に組織のマネジメントに関するこのフレーズ「管理職がリスクをとりにいくようにするには、事前に価値を最大化していた意思決定に報いる環境を整える必要がある。事後に損失を出すことになったとしても、管理職が意思決定した時点で入手可能な情報に基づいて評価するということだ」、この実践こそが今、世界に遅れを取った日本の組織人が取るべきことなのでは、と思った。
再読して、また楽しみ、より理解を深めてみたい。 -
Posted by ブクログ
本書は、経済学のさなざまな法則が書かれていて、経済学の発展を説明する。経済学を知らない私にとって、経済学入門書となる。
リチャード・セイラーのテーマは、経済学における「命の価値」である。本書は、時代ごとに、セイラーがどんな課題に取り組んでいたかということが整理されているので、行動経済学の学問の変遷がよくわかっていい。
セイラーは著書『逆襲の行動経済学』において、経済学の前提となっている「人間は常に合理的である」という考え、すなわち標準的な経済学の理論に疑問を投げかけた。
セイラーがダニエル・カーネマンとおよびエイモス・トヴェルスキーの理論に驚愕したのは、その理論が人間の不合理な判断のパターンを体系的に説明し、セイラーの抱えていた疑問を裏付けるものであったからである。
疑問を持った点について、セイラーは従来の標準的な経済学(新古典派経済学)が仮定する「ホモ・エコノミクス(経済人)」という概念に疑念を抱いていた。
ホモ・エコノミクスは、完全な情報に基づき、一貫した選好に従い、常に自己の利益を最大化するために合理的に行動するとされる。しかし、セイラーは現実の人間が貯蓄を怠る、目先の利益に飛びつく、不合理な買い物をするなど、この前提から逸脱した行動を頻繁にとることに気づいていた。セイラーは、実際に観察される人間の行動と経済学の理論との間に大きなギャップがあると認識していたのである。
カーネマンの理論への驚きについては、プロスペクト理論(展望理論)がもたらした影響が大きい。 カーネマンとトヴェルスキーは、「損失回避」(人は、利益から得られる喜びよりも、同額の損失から感じる痛み(不快感)を強く感じる)や「参照点依存性」(人は、利益や損失の絶対的な金額ではなく、ある基準点つまり参照点からの変化によって、結果を評価する)、「確率加重関数 (人は、客観的な確率をそのまま受け入れるのではなく、主観的に歪めて評価する傾向がある)といった心理学的洞察に基づき、人間が不確実性のもとでどのように判断をするのを数理モデルとして記述した点において、新たな局面を切り開いた。
プロスペクト理論は、金融市場、マーケティング、公共政策など、様々な分野で人間の行動を予測し、より良い意思決定を促すための「ナッジ」の設計に活用されている。さらに、この理論は、セイラーが日常的に観察してきた人間の「不合理な」判断傾向を単なるエラーとして片付けるのではなく、予測可能な系統的エラーとして明確に説明し、セイラーの抱えていた経済学の前提への疑問を裏付けるものとなった。
つまり、セイラーにとってカーネマンの理論は、「合理的でない人間の行動」を経済学に取り込むための強力なツールおよび理論的基盤を提供し、セイラーの長年の疑問に答えるものとなった。そして、セイラーは、人間がどのように行動するか正確に記述する経済モデルを構築しようと考えた。
セイラーは、カーネマンらの心理学的知見を従来の 経済学の枠組みに本格的に取り込み、現実世界への応用を推進した。
心理学の洞察を「ホモ・エコノミクス」の仮定を修正する形で経済学の理論に組み込み、行動ファイナンスなど新たな分野の発展に寄与した。
キャス・サンスティーンとの共著を通じて、人々の意思決定をそっと後押しする「ナッジ」の概念を提唱し、政策や企業経営への応用を一気に普及させた。
ナッジは、個人の選択の自由を奪わないことを前提とし、その行動が本人や社会にとって望ましい方向へ向かうように誘導するものである。セイラーらは、この考え方を「リバタリアン・パターナリズム(自由主義的温情主義)」と呼んでいる。
罰則や義務付けによって行動を強制することなく、最終的な選択はあくまで個人に委ねられる。人々がお金を、その出所や使い道によって無意識に異なる「勘定」に分類し、「こころの会計」として不合理な消費行動を引き起こす現象を明らかにした。
ナッジ理論の身近な具体例
1. デフォルト(初期設定)の利用
人は、特にこだわりがない場合、手間を避けて初期設定のまま選択する傾向がある(現状維持バイアス)。
事例:企業の退職金制度において、「自動的に加入する(オプトアウト)」をデフォルトに設定し、加入したくない者だけが手続きを行う仕組みにすれば、加入率が大幅に向上し、人々の貯蓄を促進する。
2. 環境の構造化(選択アーキテクチャ)
目立つように配置したり、簡単に選べるようにしたりするなど、環境を工夫することによって無意識の判断に働きかける。
事例:スキポール空港の男性用トイレの小便器の底に「ハエの絵」を描いたところ、清掃費用が大きく削減された。男性は無意識に「狙う」対象ができ、清掃が楽になるという望ましい行動を自然に選ぶ。
事例:階段の段差に「ここまで登ると〇〇キロカロリー消費」と表示し、運動不足の解消を促す。
3. 社会規範の利用
人は、「周囲の人々が何をしているか」に影響を受ける。社会の一般的な行動を提示することによって、それに従うよう促す。
事例:「あなたの地域では、90%の住民が節電している」というメッセージを電気の請求書に記載することで、残りの10%の住民に対しても節電を促す。
ナッジ理論は、公衆衛生の向上や貯蓄促進、環境保護などの公共政策やマーケティング、組織運営など、多岐にわたる分野で活用されている。
とにかく、便器にハエの絵を描くと、そこにめざしてシッコをかけるので、便器を洗うのにいいというのが、行動経済学から作られたという話は、とても面白い。 -
Posted by ブクログ
人間の意思決定には バイアスがある
「選択アーキテクト(選択の設計者)」:人々が意思決定する文脈を整理して示す責任を負う
医師も書式やウェブサイトを作る人もセールス担当者も親も選択アーキテクト。
中立的な設計などない あらゆることが重要な影響を与える。
計画の錯誤:必要な時間を過度に楽観的に見積もる
現状維持バイアス:惰性。人はいくつもの理由から、現状維持するかデフォルト(選択する人が何もしなかったら選ぶ選択肢)の選択肢に従う強い傾向
(例 スマホはデフォルト設定のまま)
「アンカリング」 アンカー(自分が知っていることなど)を出発点として 影響を受け、調整して考える
「リアクタンス」 指示されると反発して逆の行動をとること
「楽観と自信過剰」
自分は「平均以上」だとみな思う
将来を楽観視
「損失回避的」失う惨めさは、得る喜びの2倍
「現状維持バイアス」
ナッジする
カーブの手前で白線の間隔を狭くする⇒走行速度が上がっている不安感から減速する
「ホットな状態とコールドな状態」
興奮がおよぼす影響を過小評価するので セルフコントロール問題は起きないと考えて コミットメント戦略(事前に誘惑を取り除くなど)を取らない
「メンタルアカウンティング(心の会計)」
ずっと貯めてきたお金を使うより、思いがけない収入のあった時の方が散財する
「自信ヒューリスティック」人は自信たっぷりに話す人を正しいと思いがち
「社会的影響」他の人に同調する
「私は私のことをいちばん知っている」という勘違い
「刺激反応適合性」受け取る信号(刺激)と望ましい行動が一致していて欲しいと人は考える。
信号と行動が一致していないと、反応が鈍くなり失敗してしまう。
例: ストループテスト (色と色名の不一致はエラー率が上がる 自動システムが熟慮システムに勝つ)
「利潤はまとめるより、ばらした方がお得に感じる」
「仕事はしなければならないことでできているが、遊びはしなくてもよいことでできている」(トウェイン)
人は賞金が当たる確率を高く見積もる
現金をもらうより無料のものに引きつけられる
無料のものは「罪悪感のない喜び」
スラッジ(選択アーキテクチャーの中で、選択する当人の利益を得にくくなるような摩擦や障害)
例; 20ページの書類を書かないと学資援助を受けられない
定期購読の解約手続きを難しくする
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Posted by ブクログ
Nudgeとは、親象が鼻で小象をそっと触れる様子。表紙がズバリそれ。複雑で選択が多い世の中に、仕掛けをして人々が賢い選択をできるようにする。逆がスラッジ。物事を複雑化、ステップを多くすることで人々の選択する行動を止めさせる。携帯電話のキャリア変更が正にそれだった。
著者はNudgeを人々が良い選択をする手助けをするためであるということは一貫していて、サブリミナル効果と何が違うのか?や、選択の自由を奪うのでは?と言った反論にもきちんと対応している。
カフェテリアのメニュの並べ方も、人々の行動を促しているということが新しい気づきだった。だとしたら、Nudgeは特に権力者や持てるものだけが行っていることじゃない。あらゆるところであるんだなーという気づきが新しかった。
良いNudgeは目的(何を成し遂げたいか)と、透明性と自由度、これらどれもが欠けてはならないと著者は言っている。何百ある投信の中から最適な確定拠出のプラン選択するとなると、たいていの人はしない。それをデフォルトがあることで、将来の蓄えができるようになる。もちろんそれを選ばないという選択肢も残しておく。なるほど。
これからは、Nudgeを受ける側の人間として、あらゆる事象に「あ、これは行動経済学を効かしているな?」「このスラッジに負けてたまるか」という目線で対峙していく楽しみが増えた。そして、正しい判断をするための選択アーキテクチャであるか?この選択肢を設定する目的は何だろう?と問う目線をもっていたい。仕事では、利害のためでなく、世の中のために有効な選択的アーキテクチャを作り出せるような姿勢を持っていたい。
また、アメリカのクレジットカード事情、世界の臓器提供のルール事情等、行動経済学の前に、世界の事象を知るだけでも面白い。
ただ、400p強あるので、読むには根気が必要。 -
Posted by ブクログ
2008年に初版が刊行された、行動経済学の実践的概念の一つである「ナッジ」のメカニズムと活用手法を解説した一冊の増補改訂版。
人々が日々行う意思決定において直感に頼った場合に陥り易いバイアスや誤謬、他人からの誤った影響に起因するミスを回避し、より良い選択を”そっと後押しする仕掛け”がナッジであり、最も望ましい選択肢をデフォルトにする、多過ぎる選択肢を適切にキュレーションする、さりげなくインセンティブを設定するなどの”仕掛け”により、カフェテリアのメニューの配置から確定拠出型年金や臓器提供といった公共性の高い政策を含めた幅広い分野において、最終的には自らが選択する自由を確保しつつ、「より良い選択を簡単にできる」ようにすることが可能であると説く。
本改訂版で追加されたナッジ批判への反論では、ナッジが悪用され、消費者が知らないうちに誘導されてしまうのではないかとの懸念に対し、ナッジする側が守るべき透明性や公知性といった基本原則をまとめた「ナッジの権利章典」の策定を提案しており、結局のところ企業や政策担当者がナッジで目指す目標を明らかにした上で、選択肢を適切にデザインする”良心頼み”となる感は否めないが、ナッジする側・される側両面の立場から多くを学べる行動経済学の入門書として読む価値がある。 -
Posted by ブクログ
恐らく行動経済学について論じた内容をまとめた最初の書籍の日本語版。
後半の金融部分はあまり馴染みがないためよく理解はできなかったが、前半部分は非常に面白かった。
例えば、人々が損失に敏感な例として
インフレ率が13%で給料5%ダウン か
インフレ率が0%で給料5%アップ かを選ばせるような選択をさせる場合、実質的な賃金は前者の方がアップしているのだが、額面上減っているため後者の方が好まれるという結果になったらしい。(具体的な数値はあやふやだが)
また、オークション形式で得たもの(油田用の土地など)は実際の評価額の最高額で買い取らざるを得ないことの裏返しであり、決まって損をするという勝者の呪い(Winner's curse)については、本書の英題にもある通りで詳しく書かれていたように思う。
前半部分は我々が選択をするときにどんな不合理性を持っているかを教えてくれるので日常生活でも生きてきそうな予感。 -
Posted by ブクログ
それまでの経済学の概念ではありえない現実を解き明かすために生み出された行動経済学。生みの親である著者が、その挑戦の人生を面白おかしく語られた自伝とも言えるものです。他の経済学者と違いぐうたらと語る著者は、最初に疑問に感じた学会の常識に、あきらめず愚直に挑戦する芯の強さを発揮されます。その信念が、同じようなことをしている仲間を見つけ出し、一つの成果を形作っていくところまでが上巻の内容になっています。ある程度の権威を得たところで、この世界の常識と向き合うことになるのですが、、、というところまで。
人間が行うことなので、シナリオ通りに功利のみ追求する結果にはならない。それは何故なのか。どうすれば分析できるのか。ヒントは心理学なのか。シミュレーションされた人間は「お金」のみに功利的に振舞いますが、「お金」がすべてではない私たちには当てはまらないものがあるということについて気付かされた部分がありました。