藤井省三のレビュー一覧
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・当時、中国は皇帝専制体制の下戦争に負け続け、国内に外国の軍隊が駐在する等、危機的な状況にあった。
・当時、上記の危惧から民主化を謳う中国の知識人が、農民への啓蒙運動を開始。これを担ったのが文学であった。
・民主化だけでなく、中国の”悪しき”伝統も啓蒙の対象となった。
Ex.)食人、纒足、科挙(←これは微妙だが、『孔乙己』にて悲惨さが仄めかされている)
・紀元前からの皇帝の専制ゆえ、中国(これはアジア諸地域に共通した性格だが)の従属的な人々は”奴隷根性”を捨てられなかった。(民主化が完璧な措置かどうかは分からないが、魯迅らはこれを正義とみなしている)
以上の前提知識(高校世界史の範囲 -
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待望の現代日本の魯迅研究の第一人者である藤井省三訳の本が出ました。
我が本棚で魯迅の翻訳本を探してみると、丸山昇訳や駒田信二訳や増田渉訳、そして一番よく読んで来た竹内好訳と、5冊程ありました。
今夜、久々に「阿Q正伝」や「狂人日記」など16編の魯迅をじっくり読むために、いつもは存分に腕を振るう料理も端折って、ラゴスティーナにお世話になって15分でカレーです。でも、一昨日から作っていたといっても信用してもらえる味です。
ええっと、そんなことより、7年前に73歳で亡くなった、コミューンに理想を求めたりした特異な中国文学者の新島淳良からも、魯迅と毛沢東を様々に学んだことを思い出したのですが、彼 -
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20世紀初頭、清王朝から中華民国、中華人民共和国へと激しく移り変わっていく時代に、文芸による革命を信条に創作をつづけた魯迅の新訳作品集。魯迅は若い頃、日本へ留学して東京や仙台で7年余り暮らし、漱石や芥川の影響を受けた人です。
最初の短編「孔乙己(コンイーツー)」から心をぎゅっとつかまれました。「孔乙己」は馬鹿にされ舐められきってしまった、貧しい男です。科挙に受かるほどではないのだけど学はあるほう。彼に焦点を当てる意味とはいったい、と考えながら読んでいました。彼がひとときの楽しみのために通う酒屋、そして日々の暮らしのなかで、彼の周囲にいるあまり学のない庶民との対比、そして苦しい境遇に食い殺され -
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”そこで僕は自分に言い聞かせることにした。故郷は本来こんなものなのだ——進歩もないが、さりとて僕が感じているように悲しいとも限らず、悲しいのは僕が心変わりしたからなのであり、そもそも僕にとって今回の帰郷が、楽しいはずはないのだ。—『故郷』より(p.51)”
中国近代文学の父、魯迅の代表作16篇を収録。全体として、心理描写はあっさりしている印象だが、上手くまとまった作品が多い。解説によれば、魯迅には芥川龍之介の短編を集中的に読んでいた時期があるそうで、なるほどと。
中でも、書名にも選ばれている『故郷』と『阿Q正伝』、そして魯迅の自伝的小説『自序』が良かった。
『故郷』は、中学校の国語 -
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魯迅が漢方医学に疑問を感じ日本に留学、医学を目指していたのが、なぜ文学に道を変えたのか、という「自序」に始まり、「自国の窮状を憂え、なんとかしたい」というような短編が、冷静な描写だが叫びの迸るような作品群になっている。
中でも中編「阿Q正伝」の内容は、現代のデストピア小説にも通じるものがあっておもしろい。たしかトルストイの民話風の作品にも、短いのがあった気がする。短絡的かもしれないが両雄とも、小説の気風として大陸的なものを感じる。悲惨だけれどもおかしみがあるようなところが。
わたしが読んだのは、竹内 好訳『吶喊』
(『魯迅作品集 1』 筑摩書房1966年発行より)
「自序」「狂人日記」 -
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ネタバレ科挙試験に落ちて馬鹿にされて死んだ人と肺病の人に血の饅頭食わせる話とか、バッドエンド集?と思ったけどエッセイのような話はかなりよかった 小さな出来事が一番好き ちょっとした事なんだけど素敵な文章で書かれてて良かった
血の饅頭の意味がわからなかったけど前に胎盤を漢方薬にする話とか読んだことあったから血も薬なのかなって思いながら読んだ 肺病の人が亡くなってすぐ清明祭やってた感じだけど、1年やらないんじゃないのかな それとも1年経ってもあんなに嘆き悲しんだのか
子供を叱らないおばさんの話めちゃこわだった ああやって罠にはめる人いるんだよな
阿Q正伝は故事とか有名なセリフを知ってて頭良さそうなのにやっ -
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東京で近代文学を学んだ魯迅は
本国において、ブルジョア生活を満喫しながら共産党を擁護していた
大陸的なおおらかさというか、虫がよすぎるというのか
ポストモダンのはしりと呼べるのかもしれないし
ある意味では戦後日本を先取りする存在なのかもしれない
そういう人物だった
作品には、自虐的な認識も反映されているように思う
この本の解説では、大江健三郎や村上春樹に与えた影響について
論じられている
「孔乙己」
科挙の合格を志しながら、初級試験に受かることすらできぬまま
ホームレスに落ちぶれたアル中おじさんのプライド
「薬」
人血饅頭を万病の薬とする野蛮な風習残りし時代に
奇跡の花が咲き誇る
「故郷 -
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岩波文庫の竹内好訳を読んでから、この本を読んだ。
竹内好の日本語は見事だと思うが、原文の表現を生かし、現在の日本語で書かれた本書も大変良い。
魯迅の文体に近い訳になっているというだけでなく、注釈、解説が素晴らしい。竹内好の注釈も非常に詳しいが、この本の方がわかりやすい。例えば「阿Q正伝」で、阿Qが県城に行ったあと、(竹内訳では「城内」)田舎に帰って、県城で誰でも「麻醤」を打っていると知識を披露する。竹内の注には「ごま味噌の意、麻雀と同音。このころは上層のごく一部でしか麻雀はやらなかった。」と書かれている。藤井注は「半可通の阿Qによる『麻将』すなわち麻雀の言い間違え。」とある。この注で、阿 -
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古本で購入。
魯迅の作品で読んだことのあるものと言えば、中学の教科書に載っていた『故郷』と高校の教科書に載っていた『藤野先生』くらい。
最も有名な『阿Q正伝』を読んだことがないので、いい機会だと思い読んでみた。
『阿Q正伝』について言うと、まぁおもしろくはない。
徹底して描かれるのは、革命前後の中国の民衆の愚かさだ。
阿Qという容姿・教養・財産すべてを持たない男を象徴として、彼自身、また彼を愚弄し嘲笑する街の人々を、魯迅は猛烈に批判している。
物語の最後、略奪行為に加担したと濡れ衣を着せられ阿Qは銃殺される。
しかしそれを見た民衆は言う。
「銃殺はどうもいかん。斬首のようなおもしろみがな