張愛玲の作品一覧
「張愛玲」の「傾城(けいじょう)の恋/封鎖」「半生【はんせい】の絆」ほか、ユーザーレビューをお届けします!
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小説・文芸
Posted by ブクログ
戦前から戦後にかけて上海と南京を舞台にした一組の男女の恋愛を描く。すれ違いや家の束縛、裏切りから互いに別の道を進むことになった曼楨と世鈞。戦後に再開したシーンは胸を打つものがある。
ヒロインの曼楨は都会的で自立しつつある当時の女性の代表のようだが、時代や旧弊、家族の犠牲者になっている。あまりに酷い仕打ちで読み進めるのが辛い場面もあった。
主人公の世鈞が結婚するのは、そうした自立した女性像とは反対にあるが、彼女もまた旧弊に囚われているに過ぎないのだろう。曼楨を裏切る悪役の姉も時代の犠牲者であり、物語に深みを与えている。
描写は淡々としており心理描写もあっさり目で、現代小説対比で物足りないところもあるが、互いの勘違いや言葉の掛け合いが滑稽でそうした点でも楽しめた。
Posted by ブクログ
1931年から‘45年、日中戦争で混乱した中国で上海を舞台にした男女の話で、お互いのすれ違いから恋愛が成就できなかった物語である。
人間は表に現す行動以上にその内側に何倍もの思考や意識や思惑を秘めている。この作品は心の描写も絶妙で、立場も性格も異なる人が織りなす関係が丁寧に表現されている。翻訳も手伝い、張愛玲の細やかで滑らかな文章は鮮やかで、彼女が類い稀な作家であることを痛感させる。
物語は上海で姉に代わって祖母と母と四人の兄妹を扶養する曼楨と、南京で妾宅生活をする毛皮商の父に置き去りにされた母と義姉と甥の面倒を見なければならない長男世鈞の二人を中心に展開する。曼楨は若いのに強い意志を持ち姉に代わり家族の経済負担を一身に担う。世鈞は今の生活を足がかりにして技術者として大成したいと思い唯一の友である叔恵宅に寄宿している。叔恵と曼楨は工場の事務所で机を並べていたが、
世鈞が同じ工場に務め三人の関係が始まる。やがて世鈞と曼楨が愛し合い結婚を約束するが、曼楨の事情で先延ばしになる。世鈞はルビーの結婚指輪を贈り早く結婚しようとする。
そんな矢先彼女は突然姿を消す。
世鈞はどんなに探しても手掛かりすらつかめない。
曼楨は姉の陰謀にはまる。自堕落で浮気性な亭主の気を引くために仕組んだものだった。彼女は強姦され一年間姉の家に幽閉される。妊娠し子供の誕生時に病院を脱出し隠れて生活をするが、子供や家族のことを考え、心は閉じたまま義兄と結婚する。
やがて母や姉は死に兄弟も自立し、十数年振りに世鈞と逢うことになる。世鈞もすでに親戚の娘と結婚し二人の息子の父親である。妻は叔恵に好意を寄せる。
彼らの再会はお互いの緊張のうちに始まる。
「世鈞、わたしたち、もうもとにもどれないのよ」
曼楨は長い不在を悔み、時の流れを受け入れようと
重い一言を発する。長編の最後のページで、心を揺する清らかで濃密な交情が繰り広げられる。
中国社会の前近代性は四千年の歴史で熟成されている。頑迷固陋、家族主義や外面の取り繕い、女性の地位、旧弊を生きる新世代の若者たちの苦悶は想像を絶する。
張愛玲が魯迅に連想される意味がよくわかる。
彼の短編『祝福』の祥林蒼のことが頭をよぎる。
社会に翻弄され蹂躙される曼楨の生き様が壮絶であればあるほど、読者は力が漲り勇気が喚起される。
後味が爽やかな傑作だ。