香月夕花のレビュー一覧
-
Posted by ブクログ
小説には相性があるのだな。そう思わせてくれた一冊。自分にとっては示唆に富むエンターテイメント性に溢れた読書体験だった。
テレビで紹介されていて興味を持ち、著者の名前を初めて知った。
ストーリーとしては、清掃業を生業にする生真面目な女性が、ひょんなことから開運セミナー講師として有名になり、最後は事業に失敗して…、という栄枯盛衰の物語。
ストーリーにメリハリがあり、登場人物たちの奇妙な選択にも説得力がある。文章も癖が無く、疲れた頭にもスルスルと入って来る。モチーフもオンラインサロンや、自己啓発セミナーといった現代的な材料だ。
一気読みした読後感は、質の高い邦画を観た後のような感覚だった。
なぜこの著者が無名なのだろう。何かのきっかけで一気に人気作家になると思う。例えば映画化、とか。
こういう作品に出逢えるから他人のお勧めは読んでみるべきだ。 -
Posted by ブクログ
現代人は、日常的に生存そのものを脅かされることがおよそなくなった。一方で、自身の生に意味を与えようと「承認欲求」を日々増殖させている。
本作は、この厄介な「承認欲求」を鍵に、信じる側、信じさせる側双方の思いの相乗効果が作り上げた小さな虚構の王国の盛衰記である。
ハウスクリーニング会社から独立をはたした主人公高岡紅は、ある日、汚部屋のクライアントから悩みの相談を受け、掃除と開運を結び付けたアドバイスをする。
それがたまたま功を奏したことから、彼女は、クライアントたちから奉られ、あれよあれよと新興宗教まがいのオンラインサロンの巫女に祭り上げられる。
しかし、嘘を重ねて固められた砂の城は、一部の信者の暴走であえなく崩壊する。廃墟の中から主人公が見つけた「あの光」とは何だったのか。
心に闇を抱える登場人物たちの移ろいゆく心理や、一度、流れができると教祖すら神輿につかまり続け、偽りを演じ続けざるを得ない集団心理の恐ろしさを巧みな描写し、クライマックスに向けて、息もつかせぬドラマ展開を見せる筆致は、まさに見事の一言に尽きる。
300ページを超える大作だが、ページをめくる手を全く止めさせない。
私たちは、スマホと対峙しながら、主体的に情報を取得しているつもりだが、実はいつの間にか秒刻みで与えられる情報の洪水に翻弄され、考えることを放棄させられている。
本作は、誰かが道を示し、手を引いて、心の空白を満たしてくれることを待ち望みながら立ちすくむだけで、自分で歩く力を失いがちな私たちの鏡に映された本当の姿をまざまざと見せてくれると感じた。 -
Posted by ブクログ
初読みの香月さん♬とても良かった〜!
5編の短編集です。
なんとなく柔らかくて優しいイメージを勝手に抱いてたけど、描いてたイメージとはちょっと違ってわりとビターな印象でした。
それぞれの主人公の「悲しみ」を描いた作品。
香月さんの描く文章が凄く好きでした。
直接的に感情に訴えかけてくる様な感じではなく、むしろ穏やかなんだけどじんわり心に残るというか、、。
うまく言えないけれど、静かに余韻が残る感じが絶妙に好きでした!
どの話も良かったけど、私は表題作の「やわらかな足で人魚は」が1番良かったな♡♡
あ〜、また1人好きな作家さんが増えてしまった〜\♡/" -
Posted by ブクログ
マンションの最上階での小さな冒険の過去を共有するクラスメート5人の生きざまを、5つの短編の中で、美しい情景描写を交えて、繊細な筆致で色鮮やかに描き出している。
ロスジェネ世代の彼・彼女らの人生は、決して平坦な道のりではなく、今も、離婚、子供との別居、離職、依存症、介護など様々な問題に直面し、自分との折り合いもつかず傷つき続けている。
過去のどこかで道を間違え、その後の小さな積みかさねから、思ってもみなかった今の場所にやってきてしまったとしても、正しい道に戻る術に気づくことができれば、もう傷つかなくて済むのではないか。誰か導いてくれないだろうか。と、登場人物も含めみな思うだろう。しかし、作者は、安易な解決法を与えない。
この話は、連作短編の中にやり直せなかった物語を交え、今を生き続けることで、無力な自分でも世界を捉えなおし、一度、壊れたと思った世界を作り直すこともできると気づかせてくれる。そこにかすかな希望の光が灯されている。悲惨な話が連なるが読後感は爽やかですらあった。 -
Posted by ブクログ
ネタバレ5人それぞれの人物の思いや考えの描写が鋭い。
5人の子供達はそれぞれが,辛い経験をしながら大人になっていく。その1つ1つが重く,性格もみんな違うのだけど,その5人の経験のどこかしらが自分の経験の断片に重なる部分があり,とても考えさせられた。
誰かにとって最良の人が、他の誰かにとっては最悪の人であることは,世の中に無い事ではないかもしれないが,これは切なすぎた。
どこかでこうしてれば何かが変わったのかもしれないと思うことは誰しもあると思うけど,どうしても変えられない事もある気がする。
情景がしっくりくると思ったら作者の香月さんとは同い年でした。きっと主人公達とも同じ時代を自分も生きてきたから,共感できる事も多いのかも。
他の作品も読んでみたい。
-
Posted by ブクログ
ネタバレ地道にハウスクリーニングの仕事をしていた主人公が、自分の発した言葉をきっかけに、新たなビジネスに巻き込まれていく。
体を使って片付け作業をする仕事から実体のないある種の虚業とも言える開運ビジネス。
虚業だとわかっていても、誰かの言葉を信じたい心の弱さ、藁をもすがりたい辛いことが起きる不条理、誰もが人生で直面するもの。
私自身も心が揺れたときに、街の占いをやってみたくなることもあった。誰かの言葉に背中を押されたい心理がわかるだけに、何かに頼りすぎる怖さが身に染みました。
一方で、自分の言葉を信じ切れない心をごまかしながら、後戻りできなくなっていく主人公が、破綻していく過程の怖さにもぞわぞわし、終盤は自分がその場にいるような気持ちで凍りつきそうに。
言葉が掬い上げられ、良いことも炎上もあっという間に拡大していくSNSの怖さも。
脆くて弱い人の心を様々な角度から見させられ、自分を信じることの難しさ、人生の責任を自分で取ることの重さを感じ。。
母に愛されたかった、見返したかった、自分を愛したかった主人公が最後に自分を信じ光を感じられたことで救われた思いがしました。
-
Posted by ブクログ
ネタバレ風水をベースに掃除をする事により開運を期待するサロンを運営していく物語。
序盤は、自己啓発本の様な感じでストーリーが進む。
この小説では、根拠が無いが掃除すると良い事が訪れる事をネタとして起業する。
でも、少しは根拠となるものがある様な気がしている。
掃除に集中する事でネガティブな思考を抑制し、考え方をポジティブにさせ、小さな良い事に気づける様になる。
掃除→開運はあり得ると思う。
ただ、掃除でなくても、何かに集中できるものがあれば、開運は可能だと思う。
物語はトントン拍子にサロンは拡大していくが、何か事件が起きそうな雰囲気に。
サロンでトラブルが発生し、母譲りの屁理屈上手で相手をコントロールする能力に長けた主人公の紅が謝罪する事になる。
でも謝罪は失敗しサロンも無くなる。
話上手なのに、『私は悪く無い』と言ってしまうところに危機管理の意識の無さを感じた。
それでも日々不安を感じていたのは、紅以外居なかった。
幸村?の様な人が近くに居たら状況は変わっていたはず。
栄枯盛衰。
自分を絶対に裏切らないと思っていた人は離れ、馬鹿正直な対応でサロンを潰す原因となった人が最後には紅の理解者となる大どんでん返し。
振り出しに戻ったが、次へのステップを予感させる。
奥深さを感じる小節でした。