あらすじ
幼馴染の翔子と再会した書店店主・大介は、忘れていた小学校時代の出来事を思い出す。同級生四人と忍び込んだ町で一番高いマンションの最上階。そこにいた不思議な男は、世界の終わりを予言した。三十年の時を経て、大介と翔子は謎の男を探し始めるが、男がマンションから飛び降りたという噂を耳にして……。ひび割れた世界のかすかな希望を力強く描く連作短篇集。
感情タグBEST3
Posted by ブクログ
この現実でしかありえなかった5人の現実。それは耐え忍ぶには痛すぎて、忘れるには近すぎた。
どちらも、どれも道なのだ。
最後の一文は、あまりに痛切。
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マンションの最上階での小さな冒険の過去を共有するクラスメート5人の生きざまを、5つの短編の中で、美しい情景描写を交えて、繊細な筆致で色鮮やかに描き出している。
ロスジェネ世代の彼・彼女らの人生は、決して平坦な道のりではなく、今も、離婚、子供との別居、離職、依存症、介護など様々な問題に直面し、自分との折り合いもつかず傷つき続けている。
過去のどこかで道を間違え、その後の小さな積みかさねから、思ってもみなかった今の場所にやってきてしまったとしても、正しい道に戻る術に気づくことができれば、もう傷つかなくて済むのではないか。誰か導いてくれないだろうか。と、登場人物も含めみな思うだろう。しかし、作者は、安易な解決法を与えない。
この話は、連作短編の中にやり直せなかった物語を交え、今を生き続けることで、無力な自分でも世界を捉えなおし、一度、壊れたと思った世界を作り直すこともできると気づかせてくれる。そこにかすかな希望の光が灯されている。悲惨な話が連なるが読後感は爽やかですらあった。
Posted by ブクログ
5人それぞれの人物の思いや考えの描写が鋭い。
5人の子供達はそれぞれが,辛い経験をしながら大人になっていく。その1つ1つが重く,性格もみんな違うのだけど,その5人の経験のどこかしらが自分の経験の断片に重なる部分があり,とても考えさせられた。
誰かにとって最良の人が、他の誰かにとっては最悪の人であることは,世の中に無い事ではないかもしれないが,これは切なすぎた。
どこかでこうしてれば何かが変わったのかもしれないと思うことは誰しもあると思うけど,どうしても変えられない事もある気がする。
情景がしっくりくると思ったら作者の香月さんとは同い年でした。きっと主人公達とも同じ時代を自分も生きてきたから,共感できる事も多いのかも。
他の作品も読んでみたい。
Posted by ブクログ
美しい言葉に綴られた
切なさ、後悔、喜びといった
幾多の感情が心にすっと収まる感覚。
本や小説は登場人物や物語を通して
非日常を体験し、自らとは異なる世界に
連れていってくれる。
一方で、この小説は
これまで表現できなかった
感情の機微を捉え、
「自分の想いを言葉にしてくれている」
という安心感、肯定感を与えてくれた。
もちろん全てが当てはまるわけではない。
それでもこういう小説に出会えたことを
素直に嬉しいと思える作品でした。
Posted by ブクログ
ジャケ買いしたと言っていた夫の積読が妙に気になり、本によばれて読みはじめました。
半歩くらい不思議な雰囲気が漂う世界。
回収されなく、正直残念な部分もありますが、
それをも感じさせない程の
美しい言葉たちが散りばめられています。
【細工箱の奥に隠した宝石を取り出すような】
思いをよせる相手のことを話す時に使われているこの表現が
読み終わった後でも強く心に残っています。
他の作品も読んでみたいと思う作家さんです。
Posted by ブクログ
“世界が壊れる”と言うとなんだかんだ大掛かりなことに聞こえるけど、実際は些細な行動や言動で簡単に自分の世界が壊れてしまったり、元々壊れていたりするんだな……って思ったよ。
ちなみに私は律子が好きですね。
Posted by ブクログ
5名の中学生、園辺大介、仰木翔子、武元律子、小菅稔、皆川恵が、新築のマンションの最上階で痩せこけた男に会った話をベースに各人のその後の人生を描写した物語だが、このような構成の5連作は意外性があり楽しめた.大介と妻の間に微妙な風を送り込んだ翔子の行動、全盲の日渡絵麻をサポートする窃盗症の稔の葛藤、父の破産で苦労の末税理士として生きている律子、貧しい生活の中でうごめく恵に寄り添う美作神父.「春の断崖」で形ばかりの同窓会で恵の"空の青"の話が飛び出した場面がなぜか印象的だった.
Posted by ブクログ
なにか悲しい感じがじんわりとどこかに残る感じの内容。
確かに小さな過ちを犯した登場人物もいたが、「自分が選んだことだろう」と責められるようなことではなく。親が子供に与える影響の大きさを改めて感じた。
あと、善人のような顔をした教会のおばさんたち、結局自分たちと同種の人以外には拒絶反応があって、自分たちが「助けよう」と思っている対象ではないと本当に今切実に困っている子供がいても平気で切り捨てていて。でも、そういう人いるよなぁと思ったり。
最上階で出会った男は、結局何者だったのだろう....
Posted by ブクログ
街の再開発で書店閉店を余儀なくされた書店店主の大介が、幼馴染の翔子と出会うことで、30年前の小学生時代に街の大きなマンションへ同級生4人で忍び込んだ「忘れかけていた記憶」が蘇る。そのマンションの最上階にいた男は「世界の終わり」を予言していた… 読んでいるうちにいろいろと既視感的なものもあり、(少しホラーっぽい要素もあるので)ゾクゾクしながら読めた。幼少時代の記憶が呼び覚まされ、過去に仲の良かった友人に会いたくなる気持ちにさせてくれる作品。
Posted by ブクログ
ずーっとほんのり暗い。
途中で光差しそうな感じもあるけど、なんとなくずっと重い感じでどんよりしてしまった。
最上階の男の人は神様みたいな人やったんやろか。。
しかし、色んな人の心の汚さをまざまざと見せつけてられた気がする本やった。
Posted by ブクログ
初読み作家さん。小学生の時に不思議な体験を共にした5人の連作短編。教会に救いがないうえに、神様みたいな人も情緒不安定。怪しい人は怪しいまま終わったのでもやもやするけれど、この作家さんの雰囲気好きかも。他の作品も読んでみたい。
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小学生4人が、30年前にマンションの最上階で出会った悲しい目をした男性の、不吉な世界の終りの予言。大人になった彼らの世界は少しづつ何かが欠けていて、30年前の予言が妙に気に掛かってしまう。またあの男に会えば何かが分かるのではないか・・・。
登場人物4人の連作集で、誰も彼も人生少しづつ上手くいっていないです。破綻している訳ではないけれど、首の皮一枚で転落していきそうな危うさがあります。
小さな綻びから大事な何かが抜け落ちていく感覚。こんなはずではなかったという悔恨。
そんな中からも何とか自分の人生を良いものにしようと足掻く勇気。それがこの本の中にはあります。
いい年になってしまったかつての子供たちに読んで欲しい本です。
Posted by ブクログ
タイトルに引かれて購入した。現在の世を言い当てているようなタイトルだ…
世界は昨日壊れはじめた。でも、私たちはこの世界で最後まで生き続けなければならない。他に生きる場所はなく、生き抜くことが私たちに与えられた役割だから。
著者の作品は初めて読んだ。
読み始めの数ページは、文章が凝り過ぎているように感じてなかなか入り込めなかったが、その後は話の展開に引き込まれていった。ただ、全体にやや意図的過ぎる展開なので、もう少し自然なもののほうが味わい深くなると思った。
「けれども私の小さな悲しみは、語られることのないまま闇に葬られてしまった。私の痛みは些細なことだから、なるべく黙っていなければならない。それは生きるために必要な知恵だった。」(p.165)
ズンと心に響いた言葉。