わたしの少年時代、人格形成の大事な時期に夢中になって読んでいた『コミックボンボン』。中でもいまだに脳裡に焼き付いて消える事のない圧倒的な作品のひとつがこの、俗に言う『岩村版Vガン』な訳です。
むしろ93年当時はアニメのガンダムは観ていなかったので、のちに結構違うんだな、と知った時は大層驚きました。
まあでも、『Vガンダム』自体が非常に重苦しい展開が連続する作品なので、小学生がまともに読んでいたら色々と支障を来すのではないかとも思うしこのくらいのディフォルメ加減で結果良かったんだろう、と今なら思えます。原作の特にシュラク隊の相次ぐ退場描写や〈カテジナさん〉(※本作では存在そのものがなかった事にされている、ガンダム史全体を見渡してもトップクラスのやばい人)の無茶苦茶具合やネネカ隊のくだりなど、とてもではないが自分の子どもにはまだ見せられない…。
それでも本作中ではかなり人死にの描写がありますが。1巻と比べても序盤のおちゃらけたノリはだいぶ形を潜めており、さすがの岩村版アレンジの熱血キャラでも隠し切れない物騒で殺伐とした雰囲気が圧し包みます。
《第⑨章 勇者 洋上に散る!!》ではV2ガンダムがでかい釣竿でクジラを釣ろうとして、ザンスカールのモビルスーツを釣り上げちゃうという一服の清涼剤のようなギャグ描写が。きっと、届く資料の内容があんまりにも鬱展開続きなのでせめて少年誌らしく…という岩村先生の優しさや配慮が生んだ珍場面だったのではないか。
続く《第⑩章 最終兵器 降臨す!!》は最終話直前ということもあって、信じられないペースで人が亡くなっていきます…。それでも「ひゃっほーっ あれがV2か!さすがだぜ!!」(p89)という名もなき一般兵のお茶目さんだったり「バリアー流星アターック!!」(p107)というウッソ君の叫びなど、岩村版の良さは随所にあります。
そして《最終章 あらたなる出発》は私の心に刻まれたトラウマ…もとい神回な訳であります。
「貴様は電子レンジに入れられたダイナマイトだ メガ粒子の閉鎖空間の中で分解されるがいい」(p167)
このセリフ、日常で使う機会はまず全くないとは思いますが、わたし大好きなんですよね。今ひとつ何のこっちゃというトンデモ科学風な訳のわからなさと、けれどもよくわからない怖さが同居した絶妙な語呂の名セリフだと思います。ダイナマイトをチンしても爆発するだけだよね、きっと…。
焼け爛れたゾンビのようになったドッゴーラ改の異様なまでの描き込み・作画は迫真。
本編でもお腹いっぱいなのに、巻末には岩村俊哉先生のインタビューも収録。対談相手の編集者が若干イジりスタンスなのが既に面白いのだが、なんといっても《第⑥章》のボンボンコミックス単行本未収録の裏話でしょう。「単にコミックスのページ数に収まらないから」(p192)という真相にはびっくり。「一番メインストーリーに関係なかったギンザエフの話」(p193)だからだと。えぇ……。それにやっぱりカプコンも関係してるんじゃん。ウルトラCが過ぎる。
いやぁ、でもこれでいつでもあの『Vガンダム』が手元にあるんだなあ、という幸せでいっぱい。
大満足。
1刷
2025.5.16